M&A
ミャンマーM&A
I. ミャンマーにおけるM&Aの動向
2026年現在、ミャンマーは依然として後発開発途上国であり、インフラや産業構造の面で近隣諸国に大きく後れを取っている。とはいえ、その人口の多さ、豊富な天然資源、経済成長の潜在力、そして地理的な戦略的重要性から、海外投資家の関心を引き続き集めている。
これを受け、2011年の民主化移行以降、ミャンマー政府は投資法や会社法といった新法を制定し、外国資本も含めた合弁事業や企業買収について、より明確な選択肢を整備してきた。特に、2017年の新会社法の制定は、外国企業がミャンマー企業を買収できなかった状況を大きく改善し、出資比率に関して幅広い選択肢が利用可能となった。
とはいえ、ミャンマーで現実的に実行可能なM&A手法は、事業譲渡、株式譲渡、資産譲渡、及び増資による資本注入に限られる。合併や会社分割といった組織再編に関する制度・規定は存在しない。
さらに、ミャンマーの会社法制では現地子会社の設立や外国企業の支店・代表事務所の設置は比較的容易であるものの、外資規制の対象となる事業については、買収後であっても投資許可を改めて申請する必要がある。
このため、日系企業を含む多くの外国企業は、合弁か独資かを問わず、既存企業を買収するのではなく、新たに法人や支店を設立する形でミャンマー市場に参入してきた。
2021年の政変以降、各国による経済制裁の再開、頻発し予測困難な外国為替管理、そして少数民族に加え民主化勢力が軍に対してゲリラ戦を展開する内戦の影響により、ミャンマー経済は著しく後退している。世界銀行の改定統計によれば、2021年度(2022年3月期)のGDP成長率は、クーデター、内戦、新型コロナウイルスの世界的流行が重なった影響で、マイナス12%前後を記録した。その後経済は一時的にプラス4%前後まで回復したものの、それ以降は低水準にとどまっている。直近では、2024年度(2025年3月期)はマイナス1%程度となり、さらに2025年3月に発生したマグニチュード7.7の大地震の影響も加わって、2025年度はマイナス2%からマイナス2.5%程度へ下方修正されている。回復の見通しは非常に不透明な状況が続いている。
外国企業の撤退発表が相次いでいる。外資主導のM&Aが展開されるどころか、資産の保全とレピュテーションリスクの回避のため、事業をミャンマー人に譲渡するなどして、外国企業が撤退を急ぐ事態となっている。
直近では、自治を求めて蜂起した少数民族と軍との戦闘が激化し、軍側が拠点を失い、国境貿易の支配権を失う可能性も浮上している。ミャンマーは中国との関係を強化し、大規模投資の受け入れに向かっているように見えたが、その先行きは不透明である。
この点に関連して、相当の資金を投じた外国企業が、事業や資産を投げ売り同然の安値で売却する事例も生じており、M&Aを実行できる個人や企業にとっては機会が生まれている。
いずれにせよ、成長を続ける近隣諸国と比較すると、ミャンマーは長期にわたる経済停滞の状態にあり、労働力としても市場としても成熟するにはある程度の時間を要することはほぼ確実である。リスクは大きいものの、長期的な投資を行うことができる企業にとっては、今ミャンマーでM&Aを行うことが大きなリターンをもたらす可能性がある。
ただし、ミャンマー企業を買収したとしても、その事業が外資規制の対象である場合には、外国法人としてその事業を行うための許認可を取得する必要がある。また、ミャンマーが外国人及び外国法人による土地・不動産の利用について厳格な規制を課していることにも留意が必要である。
そのため、M&Aを検討する際には、一般的に以下の順序で調査が進められる。
- 事業に関する外資規制
- 不動産利用に関する外資規制
- 外国投資家が利用可能な税制優遇措置
これらについて、以下の各章で説明する。
II. 投資規制
ミャンマーにおける事業に関する投資規制は、ミャンマー投資委員会通達(第15/2017号)によりネガティブリスト形式で定められている。原則として、会社法に従って事業を行うことができるが、一定の事業については規制が課され、禁止、合弁の組成、又は許認可の取得が求められる。また、経済特区においては外国投資を促すために規制が緩和され、投資がより容易になっている。
■ 事業に関する外資規制
投資法第41条のもとでは、以下の項目が禁止類型として指定され、投資家が内外資いずれであるかを問わず、投資(事業活動)が禁止される。これらは特定の業種を禁止するものではなく、投資活動そのものに制約を課す一般的な事項である。
- 有害又は有毒な廃棄物を発生させる、又は発生させるおそれのある投資活動
- 検査中又は未承認の技術、医薬品、植物、動物又は物品を持ち込むおそれのある投資活動(栽培等を含む)
- ミャンマー国内の民族集団の伝統文化や習慣に影響を及ぼすおそれのある投資活動
- 公衆に影響を及ぼすおそれのある投資活動
- 自然環境又は生態系に重大な影響を及ぼすおそれのある投資活動
- 法令により禁止されている物品の製造又は役務の提供に係る投資活動
これを前提として、投資法第42条は、以下の4類型に区分される制限業種を定めている。さらに第43条は、これらの制限業種(及び奨励業種)の詳細を通達の発出により定めるものとしており、これに基づき、ミャンマー投資委員会通達第15/2017号が2017年4月10日に発出された。
- 政府のみが行うことができる投資活動
- 外国投資家が行うことのできない投資活動
- ミャンマー人又はミャンマー企業との合弁としてのみ行うことができる投資活動
- 関係省庁の承認を要する投資活動
なお、現行投資法は、投資委員会の承認の有無、及び投資家がミャンマー国民であるか外国投資家であるかを問わず適用される。また、経済特区における投資については経済特区法等が適用されるが、投資法は税制優遇に関する規定のみを経済特区における投資への適用から明示的に除外していることから、投資法上の業種規制は経済特区における投資にも適用されると解されている。
上記の投資法第41条及び第42条(ミャンマー投資委員会通達第15/2017号を含む)により包括的な規制がなされていると一般に理解されているが、国家安全保障や政治等に関連しうる業種については、他の現行法令や許認可手続きにおいても外資規制等が存在する場合があるため、注意が必要である。
さらに、投資法の運用に関しては、投資委員会が命令、通達及び指示を発出する権限を有しており、制限業種に関する運用の詳細が公表されることとなっている。例えば、教育事業については、投資委員会の通達によりさらに細分化され、それぞれの外資規制が定められている^1。
また、所管省庁が許認可基準を公表することもある。例えば、小売業及び卸売業については商業省の許認可が必要であり、その基準及び要件は2018年5月9日付商業省通達第25/2018号に定められている(詳細は設立に関する章を参照)。
■ 不動産利用に関する外資規制
不動産移転規制法のもとでは、外国企業(ミャンマー人によって経営又は支配されていない、あるいは株式の過半数をミャンマー人が保有していない企業)は、原則として、ミャンマー国内の不動産を所有することができないだけでなく、1年を超える期間でこれを賃借することもできない。
なお、ミャンマー会社法上ミャンマー企業とされる出資比率(外国資本35%以下)を満たす企業が不動産を所有又は賃借できるかについては解釈が分かれる点である。後述のとおり、不動産移転規制法上の「外国人所有企業」とは実質的な外国出資比率が49%を超える企業を指すとする見解も存在するが、当局の運用実態が必ずしも明確でないため、実務上は、外国資本が関与する場合には規制が及ぶ可能性があるとの保守的な前提に立って進めるのが安全である。
他方、ミャンマー投資法又は経済特区法(SEZ法)に基づき設立された企業の場合は、投資許可又は承認(インドースメント)を取得することにより、優遇措置として1年を超える不動産賃借(50年から70年)が認められる。
とはいえ、賃借は毎年更新する形で継続的に行うことも可能であり、賃料交渉は一般に必要となるものの、他のテナントが優先され追い出されるといった事態は生じない。したがって、その不便さは必ずしも大きいものではなく、すべての外国企業が投資許可又は承認を必要とするわけではない。
■ 外国投資家向け税制優遇措置
投資法に基づく優遇措置
投資法のもとでは、投資許可又は承認を取得することにより、企業は税制優遇措置及び土地使用権(長期土地賃借権)を申請することができる。ただし、税制優遇措置については、最低資本額として30万米ドルが必須要件とされている点に留意が必要である(詳細は設立に関する章を参照)。
III. 会社法とM&Aスキーム
■ 会社法
M&Aに関連する重要な法律として、ミャンマー会社法(2017年会社法)は複数の会社形態の枠組みを定めている。旧会社法(1914年ミャンマー会社法)との主な違いは、会社を大きく公開会社と非公開(プライベート)会社とに区分し、さらに出資比率によりミャンマー企業と外国企業(外国資本が35%を超える企業)とに分類している点である。
また、本法は、例えば(プライベートカンパニーの場合)最低資本金なしでの設立、1株からの、そして単独株主による設立を認め、認可資本制度を廃止するなど、外国企業の参入及び国際的なM&Aの環境を大きく改善した。
同時に、株主及び債権者の保護の観点から減資手続きを定めるなど、柔軟な投資活動を可能とする法的枠組みが整備された。しかし、資本流出への懸念等から、実際にこうした手続きを実行するには実務上の障壁がある。
主な規則について、以下に説明する。
1. 会社の種類
1.1. 公開会社と非公開会社
公開会社 | 非公開会社 | |
|---|---|---|
株主数 | 1名以上 | 1~50名 |
取締役数 | 3名以上(うち1名はミャンマー国籍を有し、かつミャンマーに居住していること) | 1名以上(うち1名は居住者であること) |
株式譲渡の制限 | なし | 定款の定めにより、取締役会決議を要件とすることが可能 |
公開買付け(TOB) | 可能 | 不可 |
株主数や取締役数にも細かな差異はあるが、最大の違いは株式の譲渡に関するものであり、非公開会社の場合に限り、取締役会決議なしに株主が自由に株式を譲渡することを禁止することができる。
1.2. ミャンマー企業と外国企業
ミャンマー企業 | 外国企業 | |
|---|---|---|
定義 | ミャンマー国民の出資比率が65%以上 | 外国人の出資比率が35%を超える |
不動産賃借 | 制限なし | 1年まで |
株式の購入 | 可能 | 可能 |
外国通貨の保有(※) | 不可 | 可能 |
(※)外国企業による外国通貨保有の許容は、資本流出抑制を目的とする強制両替政策(2022年4月CBM通達第12/2022号)の例外措置として、2022年末のFESC決議(2022年12月30日付CBM書簡FE-1/2861号)により、外国資本比率が35%を超える企業が強制両替の対象から除外されたことに由来する。これは軍政下で運用が頻繁に変更されており、この状態が長期的に続くと見込むことは難しい。
とはいえ、2020年以降の状況、例えば2020年3月のヤンゴン証券取引所の外国投資家への開放、及び2022年末から2023年初頭にかけての外国企業による外国通貨保有の許可といった動きを見ると、これらは市場へのより大きな資本参加を促す一方、政治的に不安定な時期であっても最低限の保証を維持することで外国投資の呼び込みを図る政策であるといえる。政府は外資規制によって国内産業を保護しつつも、こうした政策は外国資本への高い期待と依存度の高さを示しているともいえる。
ただし、国内証券市場に上場するためにはミャンマー企業である必要があるという要件は維持されているため、上場するには外国資本比率35%以下の合弁企業である必要がある点に留意が必要である。
1.3. 株式の種類
2017年ミャンマー会社法第62条のもとでは、普通株式に加えて以下の種類の株式を発行することが認められている。
- 種類株式
- 償還株式
- 優先株式/(資本又は利益の分配について)制限のある株式
- 特別又は制限された投票権を有する株式
- 無投票権株式
また、株式オプション取引に関しては、以下の証券の発行が想定されている。
- 株式引受権証書(サブスクリプションライツ)
- 株式に転換可能な証券
- その他の権利が付された証券
1.4. 株主の権利とその保護
会社法上定義される株主総会の決議は、通常決議と特別決議に区分される。前者は出席株主の投票権の過半数の承認を要し、後者は4分の3以上の多数の承認を要する。
会社法及び会社の定款に基づき、株主は株式の保有を通じて株主総会における投票権を与えられ、また、平等に配当を受け取る権利、及び清算等の場合に資産を平等に分配される権利を有する。
■ M&Aスキーム
ミャンマーの現行法令を踏まえると、広く想定されるM&A手法は、事業譲渡、株式譲渡及び増資(第三者割当増資)である。合併や会社分割のような他国で可能な手法は、現行法令に組み込まれておらず、前例もないとされている。
以下、それぞれについて説明する。
1)事業譲渡
ミャンマーにおける事業譲渡は、会社間の資産の移転として扱われる。会社法には包括的な規定が設けられていないため、包括承継の形ではなく、金融資産、事業契約、政府の許認可等が、それぞれ個別に定められた条件のもとで移転される。
・資産
具体的には、動産又は不動産の場合、社内承認が必要であり、譲渡契約書を作成し、登記がある場合には関係当局における所有者変更(オーナーチェンジ)の手続きを行う必要がある。
外国企業の場合、そもそも外国人による不動産所有が制限されているため、賃借権の利用権を移転するといった変更が必要となる。
債権については、税務上の難しさから直接的な移転は困難であるが、譲渡人と譲受人との間の合意により、受領の都度資金を送金するといった取り扱いは可能である。
・契約
契約の移転は、当該契約の内容に整合する形で行わなければならない。原則として、譲受会社を契約の新当事者として加えるため、追補契約(アドエンダム)を締結するか、契約を再締結する形で新たな契約を作成する。
いずれの場合も、契約条件の確認や印紙税の取扱い等が必要となるため、時間を要する傾向がある。
契約の一種である雇用契約についても同様であり、原則として契約を再締結する必要がある。その際、譲受会社が所在する地区の労働局に対し、整理解雇として扱われるか(すなわち退職金が支払われるか)、あるいは勤続年数が継続して引き継がれるか、また労働局(労働基準監督署相当機関)への報告・契約書の提出が必要かどうかを確認する必要がある。
・許認可
事業ごとに取得した許認可の移転については、その大半について規則が不明確である。許認可を発行した各省庁に手続きの詳細を問い合わせ、登記変更等の手続きを進める必要がある。
また、行政機関自体が手続きを整備していないケースも多く、多大な時間と労力を要することが少なくない。
2)株式譲渡
ミャンマーにおける株式譲渡は、会社法第12章(第83条~第88条)により規律されている。株主が保有株式の全部又は一部を譲渡することによって行われる。
譲渡人(売主)又は譲受人(買主)のいずれかが、会社の登記名義の書換えを申請するものであり、両当事者が共同で譲渡証書及び会社における株式保有に関する宣言書を作成し、これを対象会社に提出する。
手続きとしては、株式譲渡の登記を行う必要があり、実務上は、オンラインポータル「MyCO」上で所定の書式を提出する。さらに、2025年1月8日付DICA(投資企業管理局)通知に基づき、即日施行で、会社法第83条(株式譲渡)に関連する添付資料を、所定の書式及び所定の手数料とともに提出することが求められている。具体的には、取締役会の承認決議、及び印紙税の納付の証拠を付した、譲渡人と譲受人双方が署名した譲渡契約書等の書類を、DICAが指定するメールアドレスへ提出する必要があり、書類が不備の場合、DICAは審査を拒否し、又は提出を却下することがある[^2]。
対象会社の取締役会が株式譲渡に異議を述べた場合、取締役会はその譲渡を株主名簿に反映することを拒否することができる。したがって、株式譲渡には、譲渡人及び譲受人双方の合意だけでなく、取締役会の同意も必要となる点に留意が必要である。
なお、2025年9月1日付DICA指令第106/2025号により、株式譲渡や取締役の選任・解任を含む各種登記についてのコンプライアンス確認がさらに強化されており、特に公開会社についてはより厳格な書類審査が行われることが示されている。提出前に必要書類一式を揃えておくことが推奨される。
3)増資(第三者割当増資)
ミャンマーにおける第三者割当増資は、既存株主に加え、他の自然人又は法人から出資を受けることにより行われる。
定款に特別の定めがない限り、会社法は取締役会決議により増資を行うことを認めており、株式引受人の登記をもって法的効力が生じるとみなされる。
株式譲渡と同様、オンラインポータル「MyCO」上で所定の書式を提出し、必要に応じて添付資料を提出する手続きとなる。
配当額は出資比率に応じて変動することから、増資前に株主の同意を得ておくことが望ましい。
IV. M&Aに関連する各種法令
ミャンマーでM&Aを行う際に留意すべき法令には、以下のものが含まれる。
- ミャンマー会社法(2017年)
- ミャンマー投資法(2016年)
- 競争法(2015年)
- 証券取引法(2013年)
- ミャンマー証券取引委員会の通達・指示
- 不動産移転規制法(1987年)
- 破産法(2020年)
それぞれについて以下に説明する。
■ ミャンマー会社法(2017年)
2017年会社法は、1914年のミャンマー会社法以来初めて制定されたものであり、外国投資を呼び込むための参入障壁の撤廃、及び登記手続きの近代化に大きく寄与する構造的な変化を実現した。
前述のとおり、本法は会社をミャンマー企業と外国企業とに分類し、外国資本がミャンマー企業の株式の最大35%まで保有できるようになった点は画期的であるといえる。
■ ミャンマー投資法(2016年)
2016年ミャンマー投資法は、外国投資家が関係省庁から承認を得ることにより制限業種にも参入できるようにし、また、外資規制のない業種であっても、投資計画を策定・提出することにより税制優遇等の恩恵を受けられるようにしたことで、外国企業がミャンマーで事業を行う余地を一挙に大きく拡大した。今日に至るまで、多くの企業がMICパーミット又はエンドースメントと呼ばれる承認を保持して事業を行っている。
投資法のもとでは、合弁における外国投資比率が80%を超える場合、制限業種の大部分が利用可能となることから、本法は会社法とは別の基準で投資比率に意義を与えているといえる^3。
■ 競争法(2015年)
企業結合などを規律する法律として制定されたものの、その運用は現時点ではほぼ存在しないに等しい。企業結合の承認申請手続きや具体的な規制基準が明確化されていないため、今後の詳細規則の発出が待たれる段階にあるといえる。
■ 証券取引法(2013年)
2026年6月現在、ヤンゴン証券取引所には8社(FMI、MTSH、MCB、FPB、TMH、EFR、AMATA、MAEX)が上場しており、本法はこれらの証券取引に関する規則を定める法律である。
本法の制定後、前述の2017年会社法及び後述するミャンマー証券取引委員会の通達・指示により、外国資本が株式市場に参加することが可能となったが、政治的不安定さや経済停滞等の要因により、証券取引は活発化していない。
法的規律としては、他国で一般的な公開買付け(TOB)に関する規制が設けられておらず、公開会社のM&Aを議論する際にも、今後の法改正及び詳細規則の発出に注意を払うべき状況が続いている。
■ ミャンマー証券取引委員会の通達・指示
ミャンマー証券取引委員会(SECM)はほぼ毎年通達・指示を発出している。経済情勢を踏まえた外貨保全を図りつつ、ミャンマーの株式市場を活性化させるために外国資本を呼び込むための規則を数多く展開している。
現行の規則(2026年初頭時点)によれば、ヤンゴン証券取引所で株式を売買するためには、ミャンマー国内の証券会社で証券口座を開設し、かつミャンマー国内の銀行で証券取引専用口座を開設する必要がある。
このうち、自然人1名につき開設可能な証券口座は1つのみとされている。
他方、証券取引そのものは自国通貨であるミャンマー・チャット(MMK)で行うことが義務付けられているため、証券取引専用口座は原則としてMMKでのみ開設される。ただし、非居住者の場合は外国通貨の送金が必要となるため、外国通貨建ての専用口座の開設も必要となる。
これらの規則は、ミャンマーから外国通貨が流出することを厳しく管理したいというミャンマー中央銀行(CBM)の意図を反映しており、同国の外貨不足が深刻化する中、資金移動に対する一定の制限は今後も続くと見込まれる。なお、輸出代金に対する強制両替比率は段階的に引き下げられており、2026年1月7日付CBM通達第2/2026号により、2026年1月1日以降、(CBM基準レートでの強制両替の対象となる部分について)15%まで引き下げられている。運用が頻繁に変更されるため、送金及び両替に関する実務上の取扱いはその都度確認すべきである。
■ 不動産移転規制法(1987年)
前述のとおり、土地を含む不動産の取り扱いは、不動産移転規制法により制限されている。
本法のもとでは、「外国人所有企業」とは、ミャンマー国民が支配(出資を含む)の過半を有していない企業として定義されており、文言上は、実質的な外国資本比率が49%以下である企業は「外国人所有企業」に該当しないと解釈する余地がある。この点については、2017年会社法における「外国資本比率が35%を超える場合に外国企業とする」という定義とは、わずかな相違がある点に留意が必要である。とはいえ、当局の運用実態は明確でないため、実務上は、外国資本が関与する企業については規制の対象となり得るとの保守的な前提で対応するのが安全である。
不動産移転規制法のもとでは、外国人所有企業は、売買、質入れ、交換、譲渡等のさまざまな方法による不動産の取得が禁止されているほか、1年を超える期間での賃借も禁止されている。
経済特区内になく、また投資法上の優遇措置も受けていない通常の企業にとっては、上記の規制により、実質的に不動産の所有は認められず、契約は最長1年間とされ、賃料は少なくとも年1回は再交渉する必要があるということになる。
■ 破産法(2020年)
2020年に施行された破産法は、事業継続が困難となった企業に関し、債権者及び株主の権利保護という点において革新的な法律である。
制定当初は、2017年会社法との整合性や行政機関の整備状況の問題から、破産法の適用による会社の清算は困難であるとされていた。現在では、依然として未整備な部分があるものの、ミャンマー現地子会社の清算業務は原則として破産法に基づき行われるようになっている(破産実務家証明書の発行制度の整備も徐々に進んでおり、例えば2025年1月には連邦最高裁判所が破産実務家証明書発行の標準手続きに関する通達を発出している)^4。
破産実務家として正式に登録された者の中から清算人が選任され、会社の清算を進めるものとされ、最終的に残存する資金を定款等に基づき均等に分配することで株主の権利が保護される。
他方、会社法上不明確な点があった減資手続きについては、破産法において明示的な方法が定められた。しかし実務上は、会社の清算を行う場合と同様に、監査や税務申告を含む決算業務を完了し、タックスクリアランス(納税証明)を取得した後でなければ減資を行うことができないため、本手続きの活用は限定的である。
V. M&Aに関連する税務上の論点
ミャンマーにおけるM&Aは通常、株式譲渡、事業譲渡、又は増資のいずれかの形態をとる。このうち増資については特段の税務上の取り扱いは不要であるが、譲渡手続きにはいくつかの税務上の論点が伴う。
代表的な例として、以下の4点をここでは取り上げる。
- キャピタルゲイン税
- 繰越損失
- 過払税
- 印紙税
1. キャピタルゲイン税
ミャンマーでは、設備、不動産又は株式といった資産を売却した場合、その譲渡益についてキャピタルゲイン税の申告及び納付が必要となる。
キャピタルゲイン税は、税務上、法人所得の総合課税とは別個に計算される。したがって、通常の必要経費と相殺することはできず、キャピタルロスが生じた場合であっても通常の課税所得と相殺することはできない。そのため、法人税の確定申告においては、キャピタルゲイン又はキャピタルロスを調整(加算又は減算)し、総合所得から除外する。
キャピタルゲイン税は、譲渡の日(具体的には譲渡契約が締結された日)から1か月以内に申告及び納付を行う必要がある。これを取引時申告(トランザクショナルフィリング)という。さらに、会計年度終了後一定期間内に、当該会計年度に係るキャピタルゲインを年間で合算して申告する必要があり、これを合算申告(コンソリデイテッドフィリング)という^5。
なお、年間の取引総額(利益額ではない)が1,000万チャットに達しない場合、キャピタルゲイン税の申告及び納付は免除される。
一般的な税率は10%であり、株式譲渡か固定資産の譲渡かにかかわらず一律に適用される。
また、ミャンマーには配当に対する課税が存在しないため、現地子会社の清算時に出資額を超える残余資金が分配される場合であっても、キャピタルゲイン税の対象とはならない。
株式譲渡を行う場合、譲渡株主に譲渡益が生じればキャピタルゲイン税の取り扱いが必要となるが、当該株主が外国法人等の非居住者である場合には、現地子会社がキャピタルゲイン税の取り扱いを行う義務を負う点に留意が必要である。
他方、事業譲渡の一環として固定資産を譲渡する場合、譲渡人は現地子会社であり、譲渡対価が累積減価償却後の帳簿価額を超える場合には、現地子会社がキャピタルゲイン税の取り扱いを行わなければならない。
2. 繰越損失
ミャンマーの税制では、各企業の損失は最長3年間繰り越すことができ、その期間内の課税所得と相殺することができる。
繰越欠損金を有する企業を買収する場合、当該損失も移転可能かという問題が生じる。しかし、ミャンマーでは、株式譲渡であるか事業譲渡であるかを問わず、会社が清算されるまで法人登記自体は存続するため、繰越損失は元の法人にそのまま残る。
逆に言えば、主要株主が変更された場合に繰越損失が消滅するという規定もないため、全株式を取得して完全子会社化した場合であっても、繰越損失はその子会社に残ることとなる。
税務上のメリットを考慮するのであれば、M&Aの計画段階において、可能な限り繰越損失を課税所得と相殺できるように調整することが推奨される。
3. 過払税
ミャンマーの税制では、過払税は翌年度以降に半永久的に繰り越し、納税額と相殺(タックスクレジット)することができる。他方、相殺できずに残った過払税については、税務行政法に基づき返還を受けることができる。
しかし、ミャンマーの税務当局は税の返還に強い抵抗を示すことが知られている。具体的には、返還対象となる税額を有する企業に対する税務調査においては、税務調査の名目で必要経費に係るインボイスの提出を求めるなど、厳しい姿勢をとる。これには相当の時間と労力を要するため、多くの企業清算では、この返還手続きを断念し、過払税の放棄を行うケースが多い。さらに、税の返還は政府予算の執行に当たるため、年度予算に余裕がない限り、そもそも返還の手続きが非常に遅々として進まないという問題もある。
特に、事業譲渡というM&A手法を採った後に残存する法人を清算する場合、税務上資産として計上された過払税の返還には一定の困難が伴うことを念頭に置く必要がある。
4. 印紙税
ミャンマーの印紙税法は、事業上交換されるほぼすべての文書に印紙の貼付を求めている。印紙税が貼付されていない文書はミャンマー国内で法的に無効とされるルールであるため、印紙税の取り扱いは実質的に必須であると理解できる。
印紙税率は文書の種類ごとに定められており、印紙税法末尾の表に詳細に分類されている。株式譲渡契約書は「62.譲渡(Transfer)」に該当するとされ、「動産」に分類される固定資産は「23.コンベヤンス(Conveyance)」に該当し、それぞれ0.1%及び2%の税率が課される^6。
印紙税は、契約当事者の一方の所在地の税務署に当該文書を提示することにより確定される制度となっている。しかし、実際の取引金額ではなく文書に記載された最高額を基準に税額が算定される傾向が強い。そのため、各種M&A関連契約についても、文書に記載された最高額に対して課税される可能性がある点に留意が必要である。
具体的には、M&A取引においては、NDA、LOI、MOU、DAなど様々な契約書がやり取りされる。ミャンマーでこれらの文書を作成する際、各文書に売却価格を記載すると、それぞれの文書ごとに高額な印紙税を支払うことになりかねないため、記載方法を適宜調整しながら文書を作成する必要がある。
【参考資料・ウェブサイト】
- 投資企業管理局(DICA):https://www.dica.gov.mm/
- ヤンゴン証券取引所:https://ysx-mm.com/
- 日本貿易振興機構(JETRO):https://www.jetro.go.jp/world/asia/mm/
- ミャンマー中央銀行(CBM):https://www.cbm.gov.mm/
- 「ミャンマーのビジネス法務」(西村あさひ法律事務所)
