労務
第11章 労務
本章は、ミャンマーの労働環境、労働法、社会保障、投資法上の労働規制、日本人駐在員に関する留意点をまとめたものである。今回の改訂では、最低賃金、人口統計(2024年国勢調査)、個人所得税、課税年度、労働組合の現状について最新情報を反映した。
1.労働環境
労働環境(人口、労働力、失業率、賃金水準)
■就業人口
ミャンマーの人口、就業人口、産業別就業人口、失業率に関する公式データは限られている。政府は2014年に31年ぶりに国勢調査を実施し、直近では2024年10月(10月1〜15日)に実施した。
2024年国勢調査の暫定結果によれば、ミャンマーの総人口は約5,140万人(51,316,756人。データ収集が困難であった地域の推計値を含む)であり、2014年の約5,150万人からわずかに減少している。2025年10月に公表された連邦報告書でも同様に約5,140万人とされている。一方、国際機関(国連、世界銀行)の推計では5,400万人台とされており、出所により数値が異なる。
人口構造は新興国に典型的な若年層の厚い構成であり、今後の労働力の増加が見込まれる。ただし、合計特殊出生率は人口置換水準(2.1)を下回っており(都市部1.6、農村部2.0と報告)、長期的には少子化傾向も指摘されている。
人口構成(参考:CIA『The World Factbook』2020年版)
区分 | 割合 |
|---|---|
年少人口(0〜14歳) | 25.97% |
生産年齢人口(15〜24歳) | 17.00% |
生産年齢人口(25〜54歳) | 42.76% |
生産年齢人口(55〜64歳) | 8.22% |
高齢者人口(65歳以上) | 6.04% |
■産業別就業人口と労働者の海外流出
第一次産業については、基幹作物であるコメに加え、ゴマ・落花生・豆類の栽培が特徴である。第二次・第三次産業の成長に伴い第一次産業の就業者割合は低下しているものの、国民の約半数が農村に居住するため、産業構造の比率は今後も大きくは変化しないと考えられる。
第二次産業では、ヤンゴンとマンダレーの工業団地が、鉄鋼業、石油・天然ガスを中心に産業従事者を増やしてきた。
ミャンマーの労働市場の特徴は、いずれの業種でも管理職・専門職の割合が小さいことである。その一因は、優秀な人材がシンガポール、欧州、米国へ流出していることにあると考えられる。多くのミャンマー人技術者・ITエンジニア・看護師・大学教授・国連機関職員などがシンガポールにおり、知識層の流出が生じている。こうした人々はさらに専門性を高め、米国・豪州・カナダ等への移住を志向する者も多い。このような流出により、国内での高度人材・熟練技術者の確保は困難になりがちである。
加えて、多くの人々がタイ、シンガポール等で出稼ぎ労働者として働いている。2024年国勢調査では、海外居住のミャンマー国民は約112万人とされ、うち約69%がタイ、12%がマレーシア、5%がシンガポールである。タイの縫製業その他の製造工場では、多くのミャンマー人が比較的安価な労働力として働いている。
■失業率
世界銀行・ILOの推計によれば、2024年の失業率は約3.0%である。ILO推計では、就業者数はパンデミック・政変前に比べ大幅に減少したとされ、実際の不完全就業・潜在失業はこれより高いと考えられる。UNDPによる不完全就業率の定義は「15歳以上の労働力のうち、7日間の総労働時間が44時間に満たない者の割合」である。UNDPは報告書『A regional perspective on poverty in Myanmar』において、貧困との相関は高い不完全就業率よりも低賃金の方が強いと結論づけている。
■産業別・職業別賃金
現地採用時およびその後の昇給時には、職業別の賃金統計を把握しておく必要がある。
1949年の最低賃金法は2013年に改正され、新たな最低賃金法が制定された。これにより最低賃金の決定方法が定められ、2015年6月29日にミャンマー初の最低賃金設定通達が発出され、同年9月1日に日額3,600チャットの最低賃金が施行された。
その後、2018年5月に基本賃金として日額4,800チャット(時給600チャット)が設定され、2023年10月・2024年8月・2025年10月にそれぞれ日額1,000チャットの追加手当が加算された。その結果、2025年10月(10月1日に遡及適用)以降、労働者10人以上の事業の最低賃金は合計で日額7,800チャットとなった。ただし、これは労働者10人未満の小規模事業や家族経営事業には適用されない。
最低賃金の設定にあたっては、労働者とその家族のニーズ、社会保障給付、実際の賃金額、生活費・生活水準、GDP、消費者物価指数、インフレ率、地域の産業調査、賃金支払状況、国の経済状況が考慮される(最低賃金法7条、施行規則23条)。
この最低賃金は、基本賃金+残業手当+賞与の合計を指し、年金、社会保障給付、通勤手当、医療手当その他の手当は含まない(最低賃金法2条)。
所定の最低賃金を支払わない場合、6か月以下の拘禁、30万チャット以下の罰金、またはその両方が科される(最低賃金法第25条)。
最低賃金は国家委員会の通達により決定される。同委員会は、関係政府機関、労働組織、労働者代表、雇用者組織または雇用者代表、専門家から構成される(最低賃金法3条)。連邦領・地域・州・経済特区の委員会が調査を行い、各district委員会が最低賃金案を提出し、国家委員会が少なくとも60日前に官報および新聞に公示する。異議がなければ、政府の承認を得て決定される(8〜10条)。決定に不服がある場合、最高裁判所に上訴できる(11条)。
例外として、施行規則43条(l)は試用期間中に最低賃金の75%を下回らない支払いを認め、技能研修者(Training Worker)として雇用される場合は3か月を上限に最低賃金の50%を下回らない支払いを認める。また、雇用者は法律で認められる場合を除き賃金を控除できず、罰として賃金を減額できない(最低賃金法12条(c)、賃金支払法8条)。
ミャンマーの賃金および社会保険料率
項目 | 内容 |
|---|---|
最低賃金(基本+手当) | 基本4,800+手当3,000=合計7,800チャット/日(10人以上の事業、2025年10月〜)/時給ベース600チャット |
賞与(固定+変動) | 基本賃金の約1.16か月分(平均)※JETRO 2018-2019年調査 |
社会保険料率(医療・労災のみ) | 雇用者3%、労働者2%(合計5%) |
ミャンマーの職業別平均月額賃金(JETRO 2018-2019年調査、参考)
産業 | 職位 | 月額賃金 |
|---|---|---|
製造業 | ワーカー(一般工) | 162 USD |
製造業 | エンジニア(中堅技術者) | 349 USD |
製造業 | マネージャー(中間管理職) | 1,016 USD |
非製造業 | スタッフ(一般職) | 415 USD |
非製造業 | マネージャー(課長クラス) | 1,028 USD |
非製造業 | アパレル店舗スタッフ | 98 USD |
非製造業 | 飲食店スタッフ | 65〜98 USD |
新興アジア諸国に見られるようなジョブホッピングはミャンマーでも一般的であり、経済発展に伴い賃金はさらに上昇する見込みである。
■現地人雇用の義務
ミャンマーには、雇用する外国人の数に応じて一定数の現地人雇用を義務づける一般的な規定はない。ただし、経済特区法およびミャンマー投資法には「非熟練労働はすべてミャンマー人を雇用しなければならない」旨の規定があるため、いずれかの法律に基づく投資許可を得て設立された企業は、熟練技能を要しない業務についてはミャンマー人のみを雇用しなければならない。
採用に特段の制限はない。原則として郡労働事務所を通じて採用することとされているが、現在は新聞広告や人材紹介会社を通じた独自採用、知人の紹介による採用も広く行われている。
現地人の特徴として、ミャンマー人は比較的温和で控えめな性格とされる。国民の多くが仏教徒であり、親日的であることも特徴とされる。
郡労働事務所を通じた採用手続き
- 募集条件(応募要件、職務内容、雇用条件、募集人数等)を所定様式により郡労働事務所へ通知する。
- 郡労働事務所が、条件に合致する登録求職者の推薦リストを送付する。
- リストの中から最適な候補者を選び、選定した候補者を郡労働事務所へ通知する。
- 選定された候補者は、雇用者による正式採用の通知として、郡労働事務所から書類(Form-7)を受領する。
労働組合と労働争議
■労働組合等
【重要/要追記】 以下は、労働組織法(2011年)など制度上存在する仕組みを説明するものである。しかし2021年2月の政変後、軍政(国家行政評議会)は2021年2月26日に16の主要労働組合・労働団体を違法と宣言し、独立系の組合は事実上禁止された。指導者の逮捕・国外退避が相次ぎ、結社の自由は著しく制限されている。2023年にはILO調査委員会が結社の自由・強制労働条約違反を認定し、2025年6月に国際労働総会はミャンマー軍政に対しILO憲章第33条を発動した。したがって以下の制度説明は「法令上の枠組み」であり、現状では正規の組合活動・ストライキは実質的に機能していない。
歴史的には、労働組合運動とストライキは1991年以降禁止され、ミャンマーにおける組合活動は事実上不可能であった。法的には1927年制定の労働組合法(Trade Union Act)が存在し、組合の定義・登録、登録証の発行、権利義務、規則、罰則、手続を定めていたが、実際には機能していなかった。
民主化の一環として、2011年10月に労働組織法が公布され、労働者の権利保護と良好な労使関係維持のため、一定の条件下で労働組織の結成とストライキが認められた。2012年以降、工業団地や工場でストライキが発生したが、その多くは法定手続を経ない違法なものであり、政治活動家が関与する事例も見られた。
労働組織法上、「労働者」とは、経済活動に従事し、生計のために労働を行う者と定義され、外国企業の従業員、日雇い労働者、軍・警察以外の政府職員を含む(2条)。基幹労働組織を結成するには、関連事業の労働者30人以上が参加し、関連事業の全労働者の10%の推薦を得る必要がある。労働者30人未満の事業では、類似事業の労働者の参加も認められる(4条)。これらの組織は、提訴権や過半数の承認を得た組合規約について、別途登録を要する。
ストライキおよびロックアウトについて
労働組織がストライキを行う場合、関係する労働連盟(labour federation)の指示に従い、日時、場所、参加人数、方法、期間を事前に雇用者および仲裁機関へ通知しなければならない。公益事業を含む場合は少なくとも14日前、含まない場合は少なくとも3日前の通知が必要である(労働組織法38条、39条)。
公益事業を含む場合、労働組織はストライキ権の行使にあたり、公共の基本的ニーズを満たす最低限の業務について交渉・決定し、ストライキ中も就労を要する職位・種類・対象従業員を雇用者と合意しなければならない。合意できない場合、最低限業務の範囲は管轄裁判所が決定する(38条(b))。
また、労働紛争解決法40条により、仲裁機関による交渉・調停・仲裁の機会を経ずにストライキ・ロックアウトを行うことは禁止される。関係する労働連盟は、ストライキを認めるか関与しないかを期限内に通知することを要する(労働組織法40条)。
公益事業を含まないロックアウトを雇用者が行う場合、休止開始日と期間を少なくとも14日前に労働組織および仲裁機関へ通知しなければならない(37条)。ロックアウトとは、労使紛争に起因する一時的な事業所閉鎖、業務停止、または従業員の就労継続拒否と定義される(2条(f))。紛争解決手続が係属中であることを理由とするロックアウトは禁止される(44条(a))。
さらに、人々の生活に関わる分野――(1)水道、(2)電気、(3)消防、(4)公衆衛生医療、(5)電気通信――は、法律上ロックアウト・ストライキが禁止される(41条)。
■労働争議等
労働争議については、2014年に労働紛争解決法が制定された(1929年労働争議法を改正した2012年法をさらに改正したもの)。対象労働者には、日雇い・臨時労働者、農業労働者、家事使用人、公務員、徒弟のほか、労働争議中に解雇された者を含む。例外として、国防に関わるミャンマー国軍には適用されない(2条)。
本法は、雇用者(または雇用者組織)と一名以上の従業員(または労働組織)との間の紛争解決を目的とし、特に職場における労働組織の承認や労使関係に関する団体紛争に焦点を当てる。これに対し、既存の法・規則・合意に関する雇用者・従業員間の権利紛争を個別紛争と定義する。
紛争が生じた場合、雇用者または労働者はまず調停機関に申し立て、同機関が個別紛争か団体紛争かを分類する。個別紛争と分類され、調停機関の和解案に不服がある場合、本人またはその法定代理人は管轄裁判官に提訴できる(23条)。
本法上、紛争解決のため次の4機関が存在し、団体労働紛争はこれらを通じて解決される。
・職場調整委員会
労働者30人以上の職場では、雇用者は職場調整委員会を設置しなければならない(3条)。同委員会は良好な労使関係の促進、職場環境・福利厚生の改善を目的とする。労働者、労働組織または雇用者から苦情が申し立てられた場合、受理から(公休日を除く)5日以内に交渉・解決を要し、解決時は記録を保持し関係調停機関に提出する(6条)。
委員会の構成は、労働組織の有無により次のとおり異なる。欠員は関係者の要請により補充される。
労働組織あり | 労働組織なし | |
|---|---|---|
従業員代表 | 各組織から2名 | 2名(労働者が選出) |
雇用者代表 | 上記と同数 | 2名 |
労働者30人未満の職場には委員会は設置されないが、苦情が生じた場合、雇用者が委員会に代わり、受理から(公休日を除く)5日以内に交渉・解決し、記録を保持して調停機関に提出する(7条)。未解決の場合、労使は関係調停機関に申し立てることができる。
・調停機関
調停機関は、地域・州政府によりdistrict内のタウンシップレベルに設置され、次の構成による(10条)。
概要 | 人数 | |
|---|---|---|
(a) | 関係地域・州が任命する委員長 | 1名 |
(b) | 雇用者または雇用者組織が選出する代表 | 3名 |
(c) | 従業員または労働組織が選出する代表 | 3名 |
(d) | タウンシップレベルの部門代表 | 1名 |
(e) | 雇用者・労働組織が認める有識者 | 2名 |
(f) | 省が指名する書記 | 1名 |
計 | 11名 |
・紛争解決仲裁機関
紛争解決仲裁機関は、連邦政府の許可を得て、労働省により地域・州、および政府承認の自治区域に設置され、次の構成による(16条)。任期は2年(17条)。
概要 | 人数 | |
|---|---|---|
(i) | 関係地域・州政府が任命する委員長 | 1名 |
(ii) | 雇用者組織提出の候補者名簿から選出される者 | 3名 |
(iii) | 労働者組織提出の候補者名簿から選出される者 | 3名 |
(iv) | 関係地域・州が選出する部門代表 | 1名 |
(v) | 雇用者(組織)・労働組織が認める有識者 | 2名 |
(vi) | 省が指名する書記 | 1名 |
計 | 11名 |
・紛争解決仲裁評議会
紛争解決仲裁評議会は、連邦政府の許可を得て労働省により設置され、法律・労働問題に精通した次の15名の有識者で構成される。
概要 | 人数 | |
|---|---|---|
(a) | 労働省が選出する者 | 5名 |
(b) | 雇用者組織提出の候補者名簿から選出される者 | 5名 |
(c) | 労働組織提出の候補者名簿から選出される者 | 5名 |
計 | 15名 |
【団体紛争の解決手続】
いずれかの当事者が苦情を申し立てた場合、職場調整委員会は受理から(公休日を除く)5日以内に交渉・解決しなければならない(6条)。未解決の場合、労使は関係調停機関に申し立てできる。
申立てを受けた調停機関は、紛争を個別/団体に分類する。団体紛争の場合、大臣または地域・州政府に通知し、認定・受理から(公休日を除く)3日以内に調停し、和解・合意を図る(24条)。未解決の場合、管轄の紛争解決仲裁機関に移送する(25条)。移送は、未解決の事実と要約報告を添え、(公休日を除く)2日以内に行う(26条)。
移送を受けた仲裁機関は、移送から(公休日を除く)7日以内に裁定し、裁定から(公休日を除く)2日以内に当事者へ送付しなければならない。社会的に不可欠な業務・公共業務に関する裁定の場合、労働省および管轄地域・州政府へ写しを送付する(27条)。
仲裁機関の裁定に不服がある場合、不可欠業務に関する裁定を除き、当事者は次のいずれかを選択できる(28条)。
- 裁定受領から(公休日を除く)7日以内に、両当事者が紛争解決仲裁評議会に申し立てる。
- 関連法に基づきロックアウトまたはストライキを行う。
不可欠業務に関する裁定への不服は、一方当事者のみでも、受領から(公休日を除く)7日以内に評議会へ申し立てできる(29条)。
評議会は、申立ての根拠(28条=非不可欠業務/29条=不可欠業務)に応じ、次のとおり対応する。
- 非不可欠業務の当事者による申立て:受理から(公休日を除く)14日以内に裁定し、裁定から(公休日を除く)2日以内に送付(31条)。
- 不可欠業務の当事者による申立て:受理から(公休日を除く)7日以内に裁定し、裁定から(公休日を除く)2日以内に送付。労働省および関係地域・州政府へ写しを送付(32条)。
労使双方が仲裁機関の裁定に合意した場合、仲裁機関の裁定は裁定日から、評議会の裁定はそれがなされた日から効力を生じる(34条、35条)。裁定の効力発生から3か月以上経過し、双方が合意すれば、裁定内容を修正できる(36条)。裁定の効力は、紛争当事者、雇用者の法定相続人、紛争中または紛争後に当該事業で就労する全労働者に及ぶ(37条)。
【紛争前から解決後までの禁止行為(労働紛争解決法38〜45条)】
- 特段の理由なく紛争に関する交渉・調整を回避すること(38条)。
- 紛争前または紛争中に、関係労働者の労働条件について労働者の利益に影響しうる変更を行うこと(39条)。
- 仲裁機関による法に基づく交渉・調停・仲裁を受け入れずにロックアウト・ストライキを行うこと(40条)。
- 仲裁機関・評議会の裁定または有効な労働協約の存続期間中に、これを修正するためストライキ・ロックアウトを行うこと(41条)。
- ストライキに参加しない、または妨害しない労働者から、自発的に就労する権利を奪うこと(42条)。
- 調停機関で締結された合意の条件を遵守・履行しないこと(43条)。
- 事前通知後の調査、または機関が求める文書準備・証人召喚を妨害すること(44条)。
- 調査通知の受領後、正当な理由なく所定期間内に本人または法定代理人が出頭しないこと(45条)。
【その他の規定】
- 51条:雇用者が紛争解決過程で正当な理由なく従業員に不利益な行為を行った場合、機関・評議会が決定した全額を土地収入の滞納金として支払う義務を負う。
- 52条:紛争が審理中でも、当事者は刑事・民事の提訴を妨げられない。
- 54条:ストライキは雇用契約の一時停止とみなされるため、雇用者はストライキ中の賃金を支払う義務を負わない。
- 55条:交渉・調停・仲裁の各段階で、当事者は費用負担を求められない。
- 57条:当事者が文書を提出する際、関係機関はその秘密を保持する義務を負う。
雇用慣行と労務管理
■福利厚生
賞与、通勤手当、食事手当、家賃手当に法的制限はないが、これらを設ける場合は就業規則または雇用契約に盛り込まなければならない。特に工場では、労働者確保のため専用の通勤バスを用意する企業もある。
賞与支払の法的義務はないが、会社の業績と個人の成果を踏まえ、月給1〜数か月分を賞与として支払うのが一般的である。多くの企業は、4月の正月前、10月のタディンジュ前、または12月の年末頃に支払う。
その他の労務管理上の留意点として、ミャンマー人は情に厚いため、親族・友人の結婚式に給与の3分の1〜4分の1相当の祝儀を渡すことがあり、金銭の貸借も頻繁である。そのため、従業員から相互の貸借や給与前借りを求められることがあり、トラブル防止のため、従業員間の貸借・給与前借りの禁止または上限、貸付制度を就業規則に明記することが重要である。
2.労働法
労働基準関係法
■労働基準に関する法律
ミャンマーには、日本の労働基準法に相当する、労働基準を定める法律として、工場法(1951年)、油田(労働・福祉)法(1951年)、店舗・施設法(Shops and Establishments Law、2016年)がある。労働者を雇用する企業は、これらのいずれかに従って労働基準を規律しなければならない。
ミャンマーの労働関係法
- 雇用・技能開発法(2013年)
- 雇用制限法(1959年)
- 雇用統計法(1948年)
- 工場法(1951年)
- 休暇・休日法(1951年)
- 最低賃金法(2013年)
- 油田(労働・福祉)法(1951年)
- 賃金支払法(2016年)
- 社会保障法(2012年)
- 店舗・施設法(2016年)
- 労働組織法(2011年)
- 労働紛争解決法(2012年)
- 労働者災害補償法(1923年)
- 海外雇用関連法(1999年)
- 職場安全衛生法(2019年)
遵守すべき法律は、業種と雇用労働者数により次のように区分される。
労働者数 | 事業要件 | |
|---|---|---|
工場法 | 原則5人以上 | 「工場」の定義に該当するもの等(後述)。動力を使用しない施設は10人以上。 |
油田法 | 1人以上 | 油田施設 |
店舗・施設法 | 1人以上 | 店舗・商業施設・公共娯楽施設に関連して雇用される労働者、および産業施設(工場法の対象外の全事業) |
[工場法]
工場法は、工場の労働者の安全、保険、福祉、労働時間等を規律する。「工場」は次のように定義される(2条(m))。
- 5人以上の従業員が就労し、動力を用いて稼働する(または動力の一部を製造工程として用いる、もしくは通常そう稼働していた)区域を含む建物。
- 10人以上の従業員が就労し、動力を用いない製造工程が稼働する区域を含む建物。
これらに該当する工場・労働者に加え、次も対象となる。
- 20人以上が就労する倉庫・貯蔵所。
- 動力を用いる港湾・桟橋・埠頭、またはこれらに関連して使用される倉庫。
- 港湾・桟橋・埠頭での荷役・給油作業。
- 自動車の修理・塗装工場、プレス工場、油脂工場。
「労働者」とは、賃金の有無にかかわらず、製造工程に付随・関連する業務、または製造に用いる機械・建物の清掃のために雇用される者をいう。製造工程が稼働していない区域の監督者、警備員、運転手、清掃員、調理人、郵便配達員、庭師その他の一般労働者も含む(2条(l)、改正法3条(f))。
工場法は、労働基準のほか、職場の清潔、照明、換気、飲料水、衛生施設、廃棄物処理、有害粉じん・臭気の除去、危険機械からの保護、作業区域の表示、昇降機の安全、爆発・火災の防止に関する規定を含む。福利厚生としては、清掃、シャワー設備、食事・休憩スペース、育児中の女性従業員のための保育所確保等の規定があり、女性・児童・年少労働者の保護規定もある。14歳未満の児童の工場就労は禁止され、14歳以上16歳未満の労働者は一定条件下で1日4時間まで就労できる(75条、79条)。妊娠中の女性は夜間労働を禁じられ、賃金を変えずに軽易な業務に就かせる(36条)。保育所の設置も定められる(50条)。
すべての工場は、救急箱等の応急処置用品を設置し、就業時間中は常時利用可能としなければならず、従業員が100人増えるごとに1セット増やす。250人以上を雇用する場合は救急室または薬局を設け、医師または看護師の監督下に置かなければならない。雇用者は、労働・雇用・社会保障省が認める職場安全衛生研修への参加義務も負う(改正法43条(a))。
18歳以上の工場労働者の労働時間は週44時間以内でなければならない。ただし連続工程産業等の技術的理由がある場合は48時間まで認められる(59条)。1日の労働時間は8時間以内(62条)。労働時間と休憩時間の合計は10時間を超えてはならず、5時間を超えて休憩なく就労させることはできず、30分の休憩が必要である(63条、64条)。残業は、平日1日3時間以内、土曜1日5時間以内、合計週20時間以内とする通達がある。
工場の法定休日は日曜であり、日曜出勤を求めるには前後3日以内に代休を付与し、労働者の同意を得て3日以内に当局へ通知しなければならない。休日なしで10日以上連続就労させることは認められない(60条)。代休を付与しない場合、休日出勤の月、または2か月後の月までに代休を付与しなければならない(61条)。
[店舗・施設法]
店舗・施設法は1951年に制定され、2016年に改正された。店舗・事業所の労働者の労働時間・休暇の適正化を目的とする。外国企業の現地法人、駐在員事務所、外国企業の支店は通常この法律の対象となる。
「店舗(Shop)」とは、現金・分割・信用により物品を卸売・小売するために全部または一部が用いられる事業所と定義され、理容店・美容室等の美容関連サービス、鍛冶屋、テレビ・携帯電話修理、製本、印刷、質屋、洗濯店、靴修理、写真店、梱包、仕立て、電子機器修理を含む(2条(a))。ただし取引業、公共娯楽施設、工場・産業施設、手工業は除く。
「商業施設(Commercial establishment)」とは、広告業・委託代理業・販売業を営む施設と定義され、工場の管理部門、保険会社、株式会社、民間銀行、ブローカー、広告業、民間人材紹介所、民間教育機関、民間医療サービス、ホテル等宿泊施設、旅行代理店、料金徴収業を含む(2条(b))。店舗・公共娯楽施設は除く。さらに「施設(Establishment)」には、商業施設・公共娯楽施設のほか、労働・雇用・社会保障省が通達で認めるその他の施設を含む。一般に、工場法の対象外の全企業がこの法律の対象となる。
営業時間について、店舗は原則として午後11時から午前5時まで閉店する。顧客が購入中またはサービス待ちの場合は30分延長し午後11時30分まで営業できる(7条(a))。商業施設を含む施設は、映画・娯楽・無料公演を含む公共娯楽施設を除き、午後1時(原文ママ)から午前5時の間は閉店しなければならない(8条(a))。ただし、空港、港湾、高速道路、バスターミナル、ホテル等宿泊施設、病院・薬局等の医療施設、電気・水道等の公共サービス事業所、および大統領通達で免除された店舗・施設は、管轄当局の事前許可を得て24時間営業できる(9条、10条)。
労働時間について、雇用者は週1日以上の休日を与える義務があり、その休日について賃金を控除してはならない(15条)。1日の労働時間については、本人の意思によらず1日8時間・週48時間を超えて就労させてはならない(11条(a))。残業は週12時間を超えてはならないが、特別な事情がある場合は週16時間まで認められる。深夜0時を超える残業を課すことは禁止される(11条)。休憩は、1日4時間以上就労する場合に最低30分を付与する(12条(a))。ただし、管理人・警備員として雇用された者には休憩を設ける必要はない。残業を含む労働時間と休憩時間の合計は1日11時間以内とする(12条)。
14歳未満の児童の就労は禁止され、14歳以上16歳未満の労働者は、医師の推薦により一定条件下で1日4時間(休憩を含め5時間)まで就労できる(13条、14条)。条件には、残業をさせないこと、午後6時から午前6時の間に就労させないこと、他の店舗・施設で同時に就労させないことが含まれる。14条には、危険な業務・職場の制限や、職業訓練を修了した16歳以上18歳未満の者に関する例外規定もある。
賃金は、店舗・施設のいずれも翌月7日までに支払う(16条)。
[油田法]
油田(労働・福祉)法は油田施設にのみ適用される。油田施設の労働者の健康、安全、福祉、労働時間、休日を規律するが、内容は工場法とほぼ同一である。
工場法および店舗・施設法に基づく労働基準
工場法 | 店舗・施設法 | |
|---|---|---|
労働時間 | 1日最大8時間、週44時間(連続工程産業は最大48時間) | 1日8時間、週48時間 |
残業 | 平日:1日3時間以内/土曜:1日5時間以内 | 週12時間以内(特別な場合は週16時間以内)/深夜0時超の残業は禁止 |
賃金支払 | 100人以下:当月/100人超:締切後5日以内 | 翌月7日まで |
休憩 | 連続5時間後に30分(労働+休憩で1日10時間以内) | 連続4時間後に30分(労働+休憩で1日11時間以内) |
就労日 | 週6日 | 週6日 |
週休 | 日曜 | 週のいずれか1日 |
閉店時間 | ― | 午後11時〜午前5時(接客中は午後11時30分まで営業可) |
■労務管理に関する法律
採用にあたり、企業は郡労働事務所を通じるほか、民間人材紹介会社や新聞広告を用いて独自に採用できる。採用した従業員については、雇用契約を採用から30日以内に郡労働事務所へ提出・登録しなければならない。
休暇は、休暇・休日法(1951年)および同規則(休暇・休日規則、2018年)に定められる。同法は労働者を雇用する全事業所に適用され、臨時・日雇い労働者も含む。一部の祝日は毎年政府の発表で定まり、有給扱いとされるため注意を要する。
2020年1月から、祝日が土曜または日曜に重なる場合は振替休日制度が適用される。ミャンマーの振替休日の特徴は、祝日が土曜に重なる場合にも適用される点、および振替日が祝日の前後いずれにもなりうる点である。2019年には本格導入に先立ち、10月の連休に振替が適用され、祝日前の金曜と祝日後の火曜が振替休日となり、合計5連休となった。
ミャンマーの休暇
項目 | 労働基準 |
|---|---|
臨時休暇 | 個人的な急用(冠婚葬祭等)に対し年6日まで、基本給支給。連続使用は原則3日まで、翌年への繰越や他休暇との併用不可。勤務開始から2か月経過後に取得可(2か月ごとに1日前倒し可)。正当な理由があれば2か月以内でも取得可。退職時の買取義務なし。 |
年次有給休暇 | 月20日以上勤務しつつ12か月勤務した後、12か月目から年10日付与。連続使用は10日まで。賃金は休暇開始前の連続実労働30日分から算定し前払い。病気・事故(通算90日以内)、本法に基づく休暇、合法的ストライキ・ロックアウトによる欠勤も12か月勤務として算入。繰越は労使合意により最長3年(なければ原則失効)。退職時に未消化分を買い取る。 |
傷病休暇 | 6か月以上勤務した労働者は年30日まで、賃金を請求可(最初の3日は半額)。繰越不可。6か月未満は無給。献血日・献血後にも取得可。傷病以外の理由での申請がありうるため、医師の診断書の提示を求めるのが望ましい。 |
産前産後休暇 | 社会保障加入の妊婦は、認定医の推薦により、産前6週・産後8週を基本給付きで取得可(傷病休暇との併用可)。勤続要件なし。勤続1年以上かつ6か月以上の保険料納付がある労働者は、平均賃金の70%を出産給付として受給。単胎:平均賃金の50%(双胎75%、品胎100%)。未加入者の流産(人工妊娠中絶を除く)の場合、医師の推薦により流産日から最長6週間。 |
祝日 | 全事務労働者は有給の祝日を享受する。祝日労働には平均賃金の2倍に手当を加えた支払いを要する。 |
休暇日数の計算について、規則22条は、(1)休暇の翌日が祝日の場合、その祝日は休暇日数に算入しない、(2)祝日の前日と翌日に休暇を取得した場合、その祝日は休暇日数に算入する(算入された祝日を別日に振り替えることはできない)と定める。
[賃金支払法]
賃金支払法は、1936年法の改正として2016年1月に制定された。支払方法のほか、控除と支払日を定める。支払日は、従業員100人未満は締切日、100人以上は締切後5日以内(4条)。退職時は退職後2日以内の支払いが必要で、退職届を受理した場合は締切日に賃金を支払う(4条)。店舗・施設法の対象企業は同法の支払日(翌月7日まで)に従う。
賃金は、ミャンマーチャットまたは中央銀行が承認する外貨で、現金・小切手・銀行振込により支払える(3条)。控除は、休暇を用いない欠勤、または法律で定める場合にのみ適用される。家賃補助、通勤手当、食事手当、飲料水、電気、税金、過失による控除は認められる(7条)。労働者が必要な職務遂行を示さなかった場合を除き、控除総額は賃金の5%を超えてはならず、16歳以下の労働者への控除は原則認められない。控除は書面によらなければならない(9条、10条)。故意・過失を問わず会社資産に損害を与えた場合、または契約・規則に事前に定めた場合、雇用者は罰金を科すことができる(11条)。
雇用契約と就業規則
■雇用契約
かつては「人民労働者の基本的権利義務を定める法律」14条に雇用契約の規定が置かれ、労働省の標準契約に基づき契約が作成されていた。現在は、雇用・訓練法(1950年)の後継として2013年に制定された雇用・技能開発法が、雇用契約締結義務と必須記載事項を定める。
労使間で雇用条件を確認するため、雇用開始から30日以内に双方が署名する雇用契約を書面で作成しなければならない。署名済み契約の写しは郡労働事務所へ提出する。契約は5条の記載事項を満たせば自由に作成できるが、実務上は郡労働事務所がひな形を公表しており、ひな形以外の使用や追記は受理されないため、提出される契約はほぼすべてひな形に基づく。ひな形がビルマ語のため、提出契約もビルマ語、または英語・ビルマ語併記でなければならない。このため、就業規則を別途独自に作成する企業が増えており、法律に反しない限り自由に定められる。
雇用契約を締結しない場合、6か月以下の拘禁、罰金、またはその両方が科される(雇用・技能開発法38条)。
【雇用契約の内容】
5条は記載事項を定め、記載しない場合は3か月以下の拘禁、罰金、またはその両方が科される(39条)。郡労働事務所のひな形は次の事項を定める。
必須事項(前半) | 必須事項(後半) |
|---|---|
① 職位 | ⑫ 通勤・出張用車両の手配 |
② 試用期間 | ⑬ 就業規則 |
③ 給与 | ⑭ 研修参加者の最低勤続期間 |
④ 勤務地 | ⑮ 退職・休職 |
⑤ 契約期間(*) | ⑯ 契約期間満了時の取扱い |
⑥ 労働時間 | ⑰ 義務 |
⑦ 休暇・休日日数 | ⑱ 合意退職 |
⑧ 残業 | ⑲ その他 |
⑨ 食事手当 | ⑳ 規則の修正・追加の権利 |
⑩ 住宅手当 | ㉑ 雑則 |
⑪ 医療手当 |
(*)契約期間に法定の定めはないが、実務上は2年が上限であり、より長期の設定は契約提出が却下されることがある。
解雇に関する規定と補償
■解雇要件
2015年7月4日、労働・雇用・社会保障省は解雇時の退職金に関する通達を発出した。それまで退職金は正式に公表されておらず、同省の見本があるのみであった。公表された退職金は勤続年数と給与に基づき算定される。
ミャンマーでは、就業規則に無断欠勤等を懲戒事由として定めても、無断退職・無断転職が一般的である。無断退職後に再雇用を求める例や、次の雇用主に提出する推薦状を求める例もある。昇進・懲戒を明確にした就業規則を作成し、従業員の権利義務と解雇要件を明確にした雇用契約を締結し、採用時だけでなく日常的に周知徹底することが重要である。
ひな形は、職場規則違反(通常の非行)について、雇用者が口頭警告(1回目)、書面警告(2回目)、再発防止の誓約書への署名命令(3回目)を行い、3回目の警告から12か月以内に再違反した場合は退職金なしで解雇できると定める。ただし、通常違反または3回目の違反から12か月間さらなる違反がなければ、過去の違反記録は無効となる(ひな形15条(b)(ii))。
■労働基準の比較
雇用契約・就業規則の作成にあたっては労働各法を遵守しなければならない。日本の労働基準との比較は次のとおり。
日本 | ミャンマー | |
|---|---|---|
労働時間 | 1日8時間、週40時間 | 店舗・施設:1日8時間、週48時間(娯楽施設を除き休憩込み1日11時間超不可)/工場:1日8時間、週44時間(休憩込み1日10時間超不可)/工場(連続工程):1日8時間、週48時間/鉱山(地下):1日8時間、週40時間 |
休憩 | 6時間超で45分以上、8時間超で60分以上 | 連続5時間ごとに30分 |
休日 | 週1日以上 | 店舗・施設:週1日(曜日自由)/工場:週1日(日曜) |
割増賃金 | 残業1.25倍(月60時間超は1.5倍)/深夜1.25倍/休日1.35倍 | 店舗・施設:残業2倍(週上限)/工場:残業2倍(週16時間以内)/工場(連続工程):残業2倍(週12時間以内) |
年次有給休暇 | 6か月で10日〜最大20日(出勤要件あり、2年繰越) | 12か月連続雇用後に年10日。ほか臨時休暇6日/年、傷病休暇(6か月以上勤続で年30日まで)、産前産後休暇(産前6週・産後8週、女性のみ) |
■残業代の計算
残業代は通常賃金(手当を除く)の2倍である。平日残業、深夜労働、休日労働とも計算方法は同じである。残業計算の基礎となる賃金は、当局の見解により、基本賃金相当の4,800チャット(時給600チャット)で計算する。
【週48時間超を残業とする場合】(基本賃金×12か月)÷(52週×48時間)×2=時間あたり残業手当
【週44時間超を残業とする場合】(基本賃金×12か月)÷(52週×44時間)×2=時間あたり残業手当
上記により時間あたり残業手当を算定し、これを基に残業代を計算する。契約が週44時間か48時間かにより、単価と残業時間の集計が変わる。例えば土曜に8時間就労した場合、44時間基準では4時間が残業だが、48時間基準では土曜の8時間は残業とならない。
工場法上、日曜労働の場合、前後3日のうち1日を代休とする(60条)。ただし賃金は契約どおりであり2倍にはならない。祝日労働の場合、代休取得は義務ではないが2倍の賃金を要する(休暇・休日法32条)。
【工場法】 連続工程に従事しない労働者の残業は週20時間を超えてはならない(月〜金15時間=1日3時間×5日、土曜5時間)。残業は1日8時間または週44時間を超える労働者に適用される。連続工程に従事する工場労働者は週48時間を超える労働が残業となる。
【店舗・施設法】 残業は週16時間を超えてはならず、深夜0時を超えてはならない。
※技能開発基金について
雇用・技能開発法は技能開発基金を定める(26条)。政府・雇用者・労働者からなる技能開発基金委員会が基金を設立し、(1)労働技能の向上・開発のための研修、(2)失業・転職する労働者の再研修、(3)これらの研修に要する補助金・貸付に充てる。産業・サービス企業は、監督者を含む全職位の賃金総額の0.5%以上を毎月支払わなければならない(30条)。不払いは6か月以下の拘禁、罰金、またはその両方が科される(38条)。ただし現時点では企業はこの基金に未加入であり、支払義務は実務上発生していない。
3.社会保障制度
社会保険法
■適用範囲
ミャンマーの社会保障制度は、かつて1954年社会保障法と1923年労働者災害補償法から成っていた。2011年の民主化後、社会保障法(2012年)が制定され2014年に施行され、失業保険等の新たな仕組みが追加された。
社会保障法に基づき、社会保障庁(SSB)は社会保障スキームに従い、被保険者の傷病、妊娠、業務上の障害、死亡等による経済的・社会的困難から労働者を保護するため、補助金・医療等の給付を行う。年金制度の追加導入が発表されているが、一部未施行の区分が残る。
社会保障の内容と料率
給付 | 料率 | 施行 |
|---|---|---|
医療保険 | 加入時60歳以下:雇用者2%/労働者2%、加入時60歳超:雇用者2.5%/労働者2.5% | 済 |
労災保険 | 雇用者1% | 済 |
障害・年金・遺族年金 | 雇用者3%/労働者3% | ― |
失業給付基金 | 雇用者1%/労働者1% | ― |
住宅基金 | 労働者25%以上 | ― |
社会保障法は、外国人を含む5人以上の労働者を雇用する事業所に適用される。対象労働者は、常用のほか臨時労働者、無給の徒弟、研修生を含む。給付は一般保険給付と業務災害保険給付から成る。従業員5人以下の企業はSSB加入が任意だが、実務上は加入申請が受理されないことがある。一般保険給付は傷病・妊娠・死亡を、業務災害給付は業務上の障害・職業病を対象とし、日本の健康保険と労災保険の双方の役割を果たす。社会保障法の対象外の労働者は労働者災害補償法の対象となり、業務災害に関する給付のみを受ける。
■保険料
現行の保険料は、医療保険が雇用者2%/被用者2%、労災保険が雇用者のみ1%で、合計5%である。雇用者は被用者負担分を賃金から控除する。月額賃金30万チャット以上の場合、保険料は30万チャットに料率を乗じる(被用者2%=上限6,000チャット/月、雇用者3%=上限9,000チャット/月)。この「月額賃金」には、基本賃金、各種特別手当、残業手当その他の毎月の支払いを含む。
■受給資格と給付内容
一般保険給付では、指定病院で無料の医療サービスを受けられ、傷病1件につき最長26週間、継続的疾患等で必要と認められる場合は最長52週間まで無料治療を受けられる(22条、施行規則71条)。妊娠中も無料の医療サービスを受けられる。
給付には、傷病給付、低所得者の子の教育給付、自然災害支援、扶養者支援のほか、障害給付、老齢退職年金、遺族年金がある。傷病給付は、疾病により就労不能となった場合に賃金の約60%を最長26週間支給する(直前6か月以上の勤続と4か月以上の保険料納付が条件)。
出産給付は産休期間中(産前最長6週・産後最長8週、計14週)に日額賃金の70%を支給する(前年に6か月以上の保険料納付が条件)。妻が出産した男性も育児休暇15日を取得でき、妻が加入者であれば平均賃金の70%、未加入であれば半額を受給する。葬祭費は被保険者の死亡時に扶養者へ支給され、条件・上限はない。家族支援として、36か月以上の保険料納付がある低所得者は子の教育給付を受けられ、自然災害時の支援もある。
労災保険は、業務上の労働災害による負傷について次のとおり給付する。
- 一時的就労不能:無料治療と、賃金(負傷前4か月の平均賃金)の70%を最長12か月。
- 生涯にわたる身体障害:平均賃金の70%(障害の程度により変動)。
- 被保険者の死亡:遺族給付(保険料納付期間により変動)。
障害給付・退職年金の受給者で180か月以上の保険料納付がある者は治療を受けられる。障害給付、退職金(60歳で受給可)、遺族給付は、当該分野への納付額の25%に年2%の利息を加えて受給できる。
失業保険は、36か月以上の保険料納付がある加入者が受給でき、解雇前1年間の平均賃金の2か月分を基本とする。36か月を超える者は12か月ごとに半月分が加算され、最長6か月分まで受給できる。受給には、健康で就労可能・就労意思があること、関係する郡労働事務所への失業届と毎月の報告が必要である。自己都合退職や規則違反による解雇では受給できない。住宅基金は、一定期間保険料を納付した被保険者が社会保障住宅を賃借・購入できる仕組みである。
労災・障害給付
障害 | 給付内容 |
|---|---|
死亡 | 納付60か月未満:平均賃金の30倍/60〜120か月未満:50倍/120〜240か月未満:60倍/240か月以上:80倍を遺族へ支給(平均賃金は負傷前4か月の平均) |
永久全部障害 | 平均賃金の70%の9年分を、一時金または分割で生涯支給 |
永久一部障害 | 程度に応じ平均賃金の70%を一定期間(5〜9年)支給 |
一時的障害 | 無料治療と、負傷前4か月の平均賃金の70%を最長12か月 |
常時介護を要する場合 | 上記に加え10%を補助として支給 |
■加入について
加入には所定様式と医師の診断書を要する。採用時は就業開始から10日以内に従業員登録を行い、退職時は10日以内に届け出る。
提出様式・書類
番号 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
Form 1 | 会社情報様式 | 会社のSSB登録時 |
Form 1(A) | 被保険者となる従業員名簿 | 会社のSSB登録時 |
Form 2 | 従業員登録様式 | 従業員のSSB登録時 |
Form 5 | 会社設立情報 | 会社のSSB登録時 |
Form 13 | 月次SSB提出様式 | 毎月の納付時 |
従業員登録時に要する書類:申請書、パスポートサイズ写真2枚、登録する全従業員の診断書(関係タウンシップの病院発行)、会社登録証、会社情報。登録により写真付きのSSB仮カードが交付される。
■社会保障費の納付
登録後は、合計5%(被用者2%/会社3%。月額賃金30万チャット以上は30万チャットの5%)を毎月15日までにSSBへ納付する。納付時にForm 13を所定事項とともに提出する。Form 13には、会社名、SSB登録番号、給与期間、被保険者名、SSB番号、賃金額、各従業員の医療保険負担分(雇用者2%/被用者2%)、労災負担分(雇用者1%)、合計保険料(雇用者3%/被用者2%)、全従業員合計保険料(手書き)を記載する。記入後、現金とForm 13原本をSSB事務所に提出して納付する。
■社会保障の利用について
一般保険給付による無料診療は、SSB指定病院で保険証を提示して受ける。現金給付を受けるには、診療医の推薦書(Form SA-1)を取得しSSBへ提出する。請求期間は、退職金・障害給付・遺族給付・労災死亡の遺族給付は事案から1年以内、その他は事象発生から3か月以内である。
■社会保障からの脱退
従業員の退職時は、退職後10日以内に、従業員名、職位、FRC番号(またはパスポート番号)、退職日、SSB番号を記載した申請をSSBへ提出する。これにより当該従業員に係る会社の保険料義務は終了する。
労働者災害補償法
■概要
日本の労災保険法と同様、労働者災害補償(改正)法(1957年)は、業務上の事故に対する補償を労働者に提供する。社会保障加入者は社会保障内の労災保険で補償されるため、社会保障法の対象外の労働者が業務上の事故により一時的・恒久的な障害または死亡を被った場合、雇用者は本法に基づき補償を支払う義務を負う。従業員5人未満の事業所の労働者、アルバイト等が対象となる。補償は、(1)従業員の死亡、(2)全部障害、(3)永久一部障害、(4)一時的障害、(5)常時介護を要する場合に行われる。
ただし、次に起因する負傷には補償が適用されない。
- 負傷時に飲酒・薬物使用により精神喪失状態にあった場合。
- 安全管理のため明示的に与えられた命令・規則に被災者が故意に違反した場合。
- 安全管理のため明確に設けられた予防措置を被災者が故意に怠った・無視した場合。
また、特定産業に6か月以上雇用され、その職業に固有の職業病に罹患した場合も適用されない。労働災害により死亡、48時間以上の休業を要する障害、または特定産業のかかる職業病が生じた場合、雇用者は所定様式で労働監督事務所に報告しなければならない。
■保険料と給付
請求は被災者本人のみが行え、権利の譲渡・委任はできない。補償はタウンシップ労働者補償委員会(TWCC)が決定し、決定から60日以内に同委員会を通じて支払う。不服がある場合、当事者は60日以内に最高裁判所(Chief Court)へ提訴できる(4条)。
職場安全衛生法
■職場安全衛生法について
2019年、職場の安全衛生に関する規定を定める職場安全衛生法が施行された。同法は工場法・店舗・施設法を補完し、職業病・労働災害の予防に関する義務を成文化する。政府・雇用者・労働者代表からなる国家職場安全衛生委員会の設置、工場・労働法監督部への登録義務、建物の建設・拡張の際の同部への報告義務を定める。
雇用者の義務には、適切な個人用保護具の支給、医師の任命や薬等の応急処置用品の準備、従業員の健康診断、職場で用いる危険物・機械・設備の製造業者・輸入業者・組立業者・建設業者・解体業者の関係部門が発行する安全証明書の取得が含まれる。同委員会の義務には、職場安全衛生に影響する状況の定期的な調査・評価、災害予防のための教育に関する助言が含まれる。一部の義務は工場法・店舗・施設法と重複するが、登録等の新たな義務は詳細が未公表のまま残っている。
4.新投資法・経済特区法上の労働関連の留意点
投資法
投資法上、雇用する外国人の割合に関する一般的制限はないが、非熟練労働はすべてミャンマー人を雇用しなければならない(ミャンマー投資法51条)。さらに、ミャンマー人を管理職や技術・専門職として雇用する機会を創出するため、能力開発プログラムを計画するよう求められる。
経済特区法
経済特区法に基づき設立された企業の雇用規則として、ミャンマー人労働者の技能向上のための研修が求められ、専門・熟練労働者については、事業開始から2年以内に25%、4年以内に50%、6年以内に75%のミャンマー人を雇用する義務がある。投資法と同様、非熟練労働はすべてミャンマー人を雇用しなければならない(経済特区法73〜75条)。経済特区では、管理委員会が区域内労働者の最低賃金を設定する権限を持ち、最低賃金法とは別に最低賃金が設定される場合がある(70条)。労働紛争については、管理委員会が交渉・仲裁を行う義務を負い、未解決の場合は労働紛争法に基づき裁定される。
5.日本人駐在員を配置する際の留意点
就労許可とビザ
■就労許可・ビザ取得の義務
ミャンマーへの入国は1947年ミャンマー入国管理(緊急規定)法に規律され、入国にはビザを要する。入国時にビザを取得した後、ミャンマー国内で数次ビザと滞在許可(Stay Permit)を取得できる。数次ビザは有効期間内であれば無制限に出入国できる。入国後90日以上滞在する場合は外国人登録を要し、90日以内なら手数料9USドル、90日超なら18USドルである。
ビザ取得方法は、(1)オンラインのE-Visa(シングルのみ)、(2)大使館、(3)アライバルビザの3つで、初回入国ではいずれもシングルビザのみとなる。大使館取得のみ、2回目以降に同一大使館で申請する場合に数次ビザを取得できる。
■許可期間
シングルビザ(有効3か月)または3・6か月の数次ビザでは、70日間の滞在が可能である。その後、ミャンマー国内で滞在許可の手続を行うと長期ビザを取得できる。初回申請では3か月または6か月、2回目では1年の滞在許可が付与される傾向にある。
■就労目的のビザ手続
日本人は、滞在許可と再入国ビザを申請するため所定書類を準備する。従来ビザ延長に必要であった日本大使館での在留届提出は不要となった。ミャンマーにはタイのような就労許可(ワークパーミット)はなく、海外で取得したビジネス・就労ビザで就労でき、就労目的のビザ延長手続を行うことで就労が可能となる。
■ビジネス数次ビザ・滞在許可の手続
滞在許可は通常、ミャンマー国内でのビザ更新時に取得し、長期滞在には取得が必要である。ビジネス数次ビザと滞在許可の申請には、次をDICAへ提出する。
- DICA発行のビザ申請書
- 直近月の個人所得税納付証
- 法人税納付証(会社が納税していない場合は不要)
- 役員を含む全従業員名簿(氏名、職位、国籍、パスポート番号またはNRC番号)
- パスポートの写真ページ、初回入国の入国スタンプ(*)、直近入国の入国スタンプ、最新ビザページの写し
- 申請会社との雇用契約(登録上のDirector、Secretary、Authorised Officerは不要)
- 会社登録証
- 会社情報一覧(Company Extract、またはMyCOの全タブの画面コピー)
- 現在の会社の活動内容(対外的な事業説明ではなく実際の活動の英語要約)
- 大学卒業証明書または技術証明書(英訳。登録上のDirector、Secretary、Authorised Officerは不要)
- 出生証明書(英語。申請者が8歳未満の場合)
- 写真データ(青または白背景/1.5×2インチ)
DICAへの申請後、推薦状が発行され、入国管理・人口省入国管理局に、DICA発行の推薦状、パスポート原本、外国人登録証(FRC)、入国管理様式を提出することでビザが発行される。
(*)パスポート更新等により初回入国スタンプのページが存在しない場合、写しの提出は不要である。
提出先は主にDICA(投資・会社管理局)だが、MIC認可企業や経済特区設立企業の場合は投資委員会または商業省となることがある。取得した推薦状を添え、入国管理・人口省入国管理・人口局に滞在許可と数次ビザを申請する。90日以上の滞在にはFRC(外国人登録証)を取得する。18歳未満の子は申請不要で、親のFRCに記載される。FRCは毎年11月末まで1年間有効で、更新は12月初めから30日以内に行う。
■更新要件
滞在許可の更新手数料は6か月100USドル、1年200USドルである。再入国ビザは、初回・2回目以降ともシングル100USドル、マルチ200USドルを要する。処理の遅延や、MIC認可企業・経済特区内企業か否かにより、スケジュールは変動する。
■就労許可について
前述のとおり、ミャンマーには一般にタイのような就労許可はなく、ビジネスビザでの入国により就労が可能と理解される。滞在許可は滞在延長手続であり、就労目的のビザ延長として位置づけられる。ただし、経済特区で就労する外国人の就労許可は、ワンストップサービスセンターで発行される。
駐在員の給与設計
ミャンマー駐在員に給与を支払う際、日本とミャンマーでは計算方法・適用税率が異なるため、給与額と支給形態を事前に検討する必要がある。日本と同額の給与を支払うと、手取りが減る場合も増える場合もある。
ミャンマーの所得税は所得税法(1974年)に定められ、納税者は「居住者」と「非居住者」に区分される。居住者は当該課税年度に183日以上滞在した者、183日未満は非居住者である。居住者は全世界所得、非居住外国人はミャンマー源泉所得が課税される(MIL/MFIL企業に勤務する外国人は、滞在期間にかかわらず税制優遇により居住者税率が適用される場合がある)。駐在員がいずれの区分に該当するか慎重に確認する必要がある。
【重要/要更新】 累進個人所得税のブラケットは2022年改正で大幅に拡大された。原文の税率表(25%が3,000万チャット超)は旧税率であり、現行(2022年1月8日以降適用、FY2025-2026まで有効)に差し替えた。
累進個人所得税率(現行、単位:チャット)
給与額(課税所得) | 税率 |
|---|---|
1 〜 2,000,000 | 0% |
2,000,001 〜 10,000,000 | 5% |
10,000,001 〜 30,000,000 | 10% |
30,000,001 〜 50,000,000 | 15% |
50,000,001 〜 70,000,000 | 20% |
70,000,001 〜 | 25% |
上記の累進税率(0〜25%)は、原則として居住者・非居住者の双方に適用される。年間課税給与4,800,000チャットまでは非課税である。非居住外国人は控除なしで累進税率により課税される(取扱いは出所により異なるため、実務適用は要確認)。
課税対象となる所得には、給与、賃金、賞与、各種手当(通勤、食事、残業等)、福利厚生費、祝儀、手数料、割増金その他の臨時収入が雇用所得として含まれるほか、財産所得、事業所得、その他源泉の所得も含まれる。明確な規定がない項目は、他社の状況や指摘事例を参考に決定されることが多い。ただし、会社が賃借して無償(または低額)で提供する社宅は非課税とする通達がある。
雇用所得からの控除
対象 | 区分 | 控除額 |
|---|---|---|
基礎控除 | 本人 | 課税所得総額の20%(上限1,000万チャット) |
配偶者 | 100万チャット | |
子 | 1人につき50万チャット(*) | |
保険料控除 | ― | ミャンマー国内で支払った生命保険料/SSB |
父母控除 | ― | 1人につき100万チャット(外国人には不適用) |
(*)配偶者・子の控除は外国人にも適用されるが、2016年6月申告分から、婚姻証明書または家族証明書の提出が必要となった。一部の税務署は戸籍の英訳や家族のビザの提出も求める。18歳以下、または扶養を要する18歳超の子1人につき50万チャットを控除する。18歳超の子については在学証明書等の書類が必要である。
雇用所得に対する所得税は、毎月の給与から税額を控除し翌月までに管轄税務署へ納付するのが雇用者の義務であり、一般にこの方法が用いられる。所得税法上、源泉から15日以内の前払いが求められる。
■日本とミャンマーの所得税計算例(現行税率で再計算)
[前提]40歳男性、日本での年収648万円、扶養なし、赴任予定3年(居住者)、1チャット=0.09円。
【重要/要再確認】 原文の例はミャンマー側を旧税率で計算し、税額1,050万チャット、手取りが約9万円低い(グロスアップが必要)としていた。現行ブラケットで再計算すると、ミャンマーの税額は約780万チャットに低下し、結論は「ミャンマーの手取りが高い」に逆転する。また前提の為替(1チャット=0.09円)は現在の市場から乖離しているため、実際の手取り比較とグロスアップの要否は最新の為替・税法で再計算する必要がある。
日本の所得税計算(参考)
記号 | 項目 | 金額(円) |
|---|---|---|
A | 基本給与 | 6,480,000 |
B | 給与所得控除 | 1,836,000 |
C(A−B) | 総所得 | 4,644,000 |
D | 所得控除 | 380,000 |
E(C−D) | 課税所得 | 4,264,000 |
F | 所得税 | 425,300 |
G | 住民税 | 431,400 |
H(F+G) | 税額合計 | 856,700 |
I(A−H) | 手取り | 5,623,300 |
ミャンマーの所得税計算(現行税率で再計算)
記号 | 項目 | 円 | チャット |
|---|---|---|---|
A | 基本給与 | 6,480,000 | 72,000,000 |
B | 総所得 | 6,480,000 | 72,000,000 |
C | 基礎控除(20%、上限) | 900,000 | 10,000,000 |
D(B−C) | 課税所得 | 5,580,000 | 62,000,000 |
E | 所得税(現行累進) | 702,000 | 7,800,000 |
H(A−E) | 手取り | 5,778,000 | 64,200,000 |
税額の内訳(課税所得6,200万チャット):2,000,001〜10,000,000=8,000,000×5%=400,000/10,000,001〜30,000,000=20,000,000×10%=2,000,000/30,000,001〜50,000,000=20,000,000×15%=3,000,000/50,000,001〜62,000,000=12,000,000×20%=2,400,000/合計7,800,000チャット(≒702,000円)。
その結果、現行税率では、ミャンマーの手取り(約577.8万円)が日本(約562.3万円)を上回り、原文の「手取りが低くグロスアップが必要」という結論は逆転する。実際の判断は、その時点の為替、控除(SSB、配偶者、子等)の有無、最新の税法に基づき再計算しなければならない。
■手取りを一致させるグロスアップ計算(考え方)
日本とミャンマーで税負担が異なる場合、手取りを一致させるためグロスアップ計算を行う。原文の例(旧税率)では、従前の手取り5,623,300円を維持するために約659万円の支給(約11万円の上乗せ)が必要とされていた。現行税率ではミャンマーの税負担が相対的に低いため、上乗せが不要または減少する可能性があり、支給額は最新の税率・為替で個別に試算する必要がある。
参考資料
[参考資料①]雇用契約ひな形の英訳例
以下は、郡労働事務所が公表する雇用契約ひな形の英訳例である(実務上、提出はビルマ語、または英語・ビルマ語併記でなければならない)。
雇用契約
契約番号 -------------------
本雇用契約は、(年)(月)(日)に、(雇用者名)、(NRCまたはパスポート番号)、所在地(番地)(道路)(区)(タウンシップ)(市)(地域/州)ミャンマー(雇用者とする。これには個人事業、組合/合弁、私企業/死亡した雇用者、およびその承継人・法定代理人を含む)と、従業員名(---)、NRCまたはパスポート番号(---)(「従業員」「スタッフ」「労働者」には、賃金の有無を問わず徒弟・研修生を含むが、雇用者に扶養される同居の家族は含まない)との間で相互に締結される。
1.事業の種類 ― (a)事業活動/(b)勤務地/(c)職位・等級/(d)部門/(e)職務概要。職務概要は附属書に記載できる。
2.試用期間・雇用開始日 ― (a)任命日から3か月。(b)(年)(月)(日)に入社。注:試用期間が不要と判断する場合、雇用者は直ちに正規スタッフとして任命できる。
3.給与 ― (a)日給、(b)出来高、(c)月給(チャット/外貨)。(d)当初合意に従い支払い、相互合意により成果に基づき改定できる(最低賃金規則に反しないこと)。(e)双方は既存の労働法を遵守する。
4.事業所所在地 ― 登録所在地(番地)(道路)(区/村/工業団地)(タウンシップ)(地域/州)ミャンマー。
5.契約期間 ― (a)()年()か月()日。(b)従業員が条件に違反しない限り延長でき、雇用者は正当な理由なく延長を拒否しない。(c)正規雇用された場合、相互合意によりさらに延長できる。(d)勤続期間は現在の工場・事業所・部門・会社・事業での雇用開始日から起算する。
6.労働時間 ― 労働時間(---〜---)、休憩(---〜---)、昼食(---〜---)。事業の性質と適用労働法に従い相互合意で変更でき、変更は関係当局へ承認申請する。
7.休憩日・休日・休暇 ― (a)休憩日:原則日曜、交渉により定めうる。賃金は既存法により享受。(b)休日:連邦政府の通達で毎年定める祝日は全額支給。祝日が週末休日に重なる場合は祝日として扱う。(c)休暇:臨時休暇(12か月内に6日、基本給、未消化なら失効、連続3日まで、併用不可)、年次有給休暇(12か月勤続かつ月20日以上勤務後、基本給付きで年10日連続)、傷病休暇(6か月勤続後、基本給付きで年30日。未満は無給。2012年法加入なら同法による)、産前産後休暇(6か月勤続後、産前6週・産後8週、基本給付き)、葬祭休暇(家族・両親の死亡時、1951年法に基づき最低賃金から控除なし。消化済みなら相互合意で無給休暇)。
8.残業 ― 業務の性質に応じ、適用労働法に従い相互合意。残業代は所定の算式で計算する。
9.就業時間中の食事提供/10.宿泊/12.送迎・出張 ― 有/無(必要なら別途記載)。
11.医療 ― 2012年法非加入の従業員には、(1)職場での負傷、(2)業務関連疾病、(3)職場での発病について雇用者が治療を負担する。加入者は同法による。非加入者の職場での負傷には1923年労働者災害補償法が適用される。
13.従業員が守る規律 ― 非行の種類と懲戒段階を定める就業規則を附属書として添付する:附属書(A)通常の非行、附属書(B)重大な非行。規則は会社の性質に応じ相互合意で定めうる。
14.研修・研修後の拘束期間 ― 2013年法に従い相互合意で研修を実施し、適用法に従い別途合意を締結する。
15.退職・解雇 ― (a)退職:1か月以上前に通知。給与カード、社員証、業務用器具・備品を返却し、口座・現金・財産を引き継ぐ。雇用者は退職を認め、未払賃金と未消化の年次有給を退職金なしで支払う。雇用者負担の研修を受けた者は2013年法に従う。(b)解雇:雇用者は正式書面に署名・交付し、理由を記録する。通常の非行には書面警告(1回目・2回目)・誓約書(3回目)を行い、3回目から12か月以内の再違反は無補償で解雇できる。12か月以内に違反がなければ過去の違反は抹消する。それ以外は1か月以上前の通知により適用法に基づく補償付きで解雇できる。従業員を法に反して解雇してはならない。労働組織がない場合は労働交渉委員会と整理解雇等を調整し、ある場合は代表者間で交渉する。
16.契約の終了 ― 事業の解散、不測の事態による事業停止、従業員の死亡により終了しうる。
17.契約上の責任 ― 雇用者:組合員資格・人種・宗教・性別・年齢による差別禁止、外国人雇用者・監督者・専門家とその家族はミャンマーの法・慣習を尊重、適用法を遵守、提訴・被提訴の権利、従業員への権利・利益の周知、職場安全衛生の優先。従業員:安全衛生の指示の遵守、保護具の着用、薬物使用・同僚への嫌がらせ・危害の禁止、秘密保持、相互合意で定めた規則の遵守、税・手数料の支払い、適用法の遵守、提訴・被提訴の権利。
18.〜21. ― 18.相互合意により解約可。19.紛争は調停で解決し、未解決なら2012年労働紛争解決法その他の法による。20.署名済み契約は関係する郡求職・労働募集事務所へ送付し、変更は調整のうえ送付する。21.従業員は適用法上の利益・権利・保護を享受。法に反しない会社規則は本契約の一部とみなす。工場・事業所・会社・事業の従業員の過半数と雇用者の相互合意により契約を追加・変更できる。
署名:従業員/雇用者(または管理者・管理担当者)/立会人 ― 氏名、職位・等級、NRCまたはパスポート番号、部門、日付を付す。
参考文献・出典
本章の作成・改訂にあたり、以下を参照した(今回の改訂で更新した最新情報の出典を含む)。
- 労働省/入国管理・人口省(MOL/MIP)
- 人口局、2024年人口・住宅国勢調査 暫定結果/連邦報告書(2024-2025年)
- JETRO(ミャンマー投資コスト比較、投資コスト調査)
- CIA『The World Factbook』
- 国際労働機関(ILO)
- IMF『World Economic Outlook Database』
- UNDP(『A regional perspective on poverty in Myanmar』等)
- 国税庁(源泉所得税)
- DFDL/Tilleke & Gibbins/VDB Loi/PwC/Paul Hastings等の法務・税務アップデート(最低賃金、課税年度、個人所得税率、罰則等の最新情報)
- ITUC/IndustriALL Global Union/ILO(2021年政変後の労働組合の状況、ILO憲章第33条の発動)
【注記】 本章の数値・制度は2026年時点で確認可能な公開情報に基づく。2021年の政変以降、統計の信頼性と行政運用に不確実性があるため、実務適用にあたっては現地の専門家・当局による最新確認を推奨する。
