海外勤務者の税務・社会保険
第13章 海外勤務者をめぐる税務、社会保険
1.海外勤務者をめぐる税務、社会保険 総論
日本人社員が海外現地で業務を行う場合、日本側と現地側の双方で、税務・社会保険・労務・ビザ等に関する準備が必要となります。出向の形態、滞在期間、給与の支給方法、居住者・非居住者の判定により、必要となる手続や税務上の取扱いは異なります。
適切な手続を行わない場合、海外勤務者本人に追加納税、社会保険上の不利益、ビザ・滞在許可上の問題が生じる可能性があります。本章では、ミャンマーに日本人駐在員を派遣するケースを前提として、赴任前、赴任期間中、帰任時に必要となる主な手続を整理します。
2.赴任前に確認・決定すべき事項
(1)現地での給与設計
海外駐在員に給与を支払う場合、日本と赴任国では、個人所得税、社会保険料、各種手当の取扱いが異なります。そのため、日本勤務時と同じ給与設計をそのまま適用できるとは限りません。
赴任前に、少なくとも以下の点を確認・決定しておく必要があります。
・日本側給与とミャンマー側給与の支給割合
・現地個人所得税を本人負担とするか、会社負担とするか
・社会保険料を本人負担とするか、会社負担とするか
・住宅手当、教育手当、危険地手当、一時帰国費用等の支給範囲
・税金会社負担の場合のグロスアップ計算の有無
・日本側給与を維持する場合の日本社会保険料、将来年金額への影響
(2)現地の労働条件等の確認、周知
海外現地に赴任する場合、原則として赴任国の就労条件や労務実務の影響を受けます。就労日、就労時間、休日、休暇、時間外労働、社会保険加入、各種届出等について、ミャンマーの制度を確認したうえで、赴任者へ事前に説明する必要があります。
詳細は第11章「労務」を参照してください。
(3)海外赴任の形態
日本人社員が海外現地で業務を行う形態には、短期出張、派遣、駐在、出向等があります。出向には大きく分けて「在籍出向」と「転籍出向」があります。
在籍出向
出向元である日本法人との雇用契約を継続したまま、出向先であるミャンマー現地法人または駐在員事務所の指揮命令下で業務を行う形態です。
転籍出向
出向元である日本法人との雇用契約を終了し、出向先であるミャンマー現地法人等との間で新たに雇用契約を締結する形態です。
実務上、多くの日本企業では、日本勤務時の処遇や社会保険上の取扱いを一定程度維持するため、在籍出向の形で海外勤務者を派遣するケースが一般的です。
(4)各種規程・書類
社員を海外へ赴任させる場合、主に以下の書類を整備します。
・海外赴任規程
・出向契約書
・出向辞令
・出向通知書
・現地雇用契約書またはアサインメントレター
・給与・税金・社会保険負担に関する確認書
海外赴任規程
海外赴任規程とは、海外赴任者の労働条件、給与、税金、社会保険、福利厚生、住宅、医療保険、一時帰国、危険地手当等の取扱いを定める社内規程です。
海外赴任規程がない場合、個別案件ごとに取扱いを決めることになり、同様のケースでも処遇に差が生じる可能性があります。そのため、複数名の海外赴任者がいる会社では、規程整備が望まれます。
出向契約書
出向契約書は、出向元、出向先、出向者の関係を明確にする書類です。出向期間、業務内容、指揮命令関係、給与負担、社会保険、労災、費用負担、帰任条件等を定めます。
出向辞令
出向辞令は、会社が当該社員に対して出向を命じる社内文書です。出向先、出向期間、役職、赴任日等を記載します。
出向通知書
出向通知書は、出向先での具体的な労働条件、給与、勤務場所、勤務時間、手当等を本人へ通知する書類です。
3.居住者・非居住者の基本整理
日本でもミャンマーでも、個人を「居住者」と「非居住者」に区分し、課税対象となる所得の範囲を定めています。
海外駐在の場合、日本とミャンマーの双方で居住者と判定される可能性があります。このような場合、日本と赴任国との間に租税条約があれば、条約上の判定規定により、どちらの国の居住者として扱うかを整理します。
しかし、日本とミャンマーの間には、現時点で租税条約はありません。そのため、ミャンマーで勤務する日本人駐在員については、日本側・ミャンマー側のそれぞれの国内法に基づき、課税関係を確認する必要があります。
(1)日本における居住者・非居住者
日本では、国内に住所を有する個人、または現在まで引き続き1年以上居所を有する個人は、原則として居住者とされます。
海外勤務については、1年以上海外に勤務する予定で出国する場合、一般的には出国の翌日から日本の非居住者として扱われます。一方、海外勤務期間が1年未満の予定である場合は、原則として日本の居住者として扱われます。
なお、日本では単純な滞在日数のみで判断するのではなく、生活の本拠がどこにあるかも考慮されます。
(2)ミャンマーにおける居住者・非居住者
ミャンマーでは、外国人について、課税年度内に183日以上ミャンマーに滞在する場合、原則としてミャンマーの居住者として扱われます。183日未満の場合は、原則として非居住者として扱われます。
ミャンマーの課税年度は、4月1日から翌年3月31日までです。
区分 | 判定基準 |
|---|---|
居住者 | 課税年度内にミャンマーに183日以上滞在する外国人 |
非居住者 | 課税年度内のミャンマー滞在が183日未満の外国人 |
居住者である外国人は、原則として全世界所得が課税対象となります。一方、非居住外国人は、原則としてミャンマー源泉所得が課税対象となります。ただし、実際の課税範囲、控除、税率、外国税額控除の取扱いについては、年度ごとのUnion Tax Lawや税務当局の運用確認が必要です。
4.社会保障協定
社会保障協定とは、海外勤務に伴う社会保険料の二重負担や年金加入期間の通算問題を解決するために、国と国との間で締結される協定です。
日本は、2025年12月時点で24か国との間で社会保障協定を発効しています。英国、韓国、中国およびイタリアとの協定については、年金加入期間の通算は含まず、保険料の二重負担防止のみを内容とする協定です。
協定発効済国
ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア
署名済未発効の国
2025年12月時点で、署名済で未発効の国は該当なしとされています。なお、ポーランド、トルコ、ベトナム等とは協定交渉中とされています。
日本・ミャンマー間の取扱い
日本とミャンマーの間には、現時点で社会保障協定はありません。そのため、日本で社会保険に加入したままミャンマーへ在籍出向する場合であっても、ミャンマー側の社会保険加入義務を免除する協定上の仕組みはありません。
ミャンマーでは、従業員が5名以上の事業所について社会保障制度への加入義務があり、外国人従業員も対象となります。そのため、在籍出向者であっても、日本側の社会保険とミャンマー側の社会保険の双方に加入する可能性があります。
5.赴任時の取扱い
(1)日本側における税務
海外勤務者の所得税
海外勤務者の給与課税では、海外勤務期間が1年以上の予定か、1年未満の予定かが重要です。
1年以上海外に勤務する予定で出国する場合、一般的には出国の翌日から日本の非居住者となります。当初1年以上の予定で出国したものの、結果として1年以内に帰国した場合でも、海外勤務中は非居住者として扱われます。
一方、当初1年未満の予定で海外勤務していたものの、途中で1年以上の滞在が必要となった場合には、延長が決まった日以後、非居住者として扱われます。
出国前の年末調整
1年以上の予定で海外勤務することになった場合、日本法人は、出国時点までに支払うことが確定している給与について、出国時に年末調整を行う必要があります。ただし、給与収入が2,000万円を超える者等、通常の年末調整の対象外となる場合は除きます。
社会保険料控除、生命保険料控除等は、出国時までに支払った金額が控除対象となります。
出国後に支給される給与
非居住者となった使用人に対して、海外勤務に対応する給与を日本国内で支給する場合、当該給与は原則として日本の国内源泉所得に該当しないため、日本での源泉徴収は不要です。
ただし、役員報酬については取扱いが異なります。非居住者となった者が内国法人の役員として受ける報酬は、海外勤務に対するものであっても、原則として国内源泉所得に該当し、20.42%の源泉徴収が必要となります。ただし、海外支店長等、使用人として常時海外で勤務している場合には、源泉徴収不要となる場合があります。
出国後に支給される賞与
出国後に支給される賞与については、賞与の計算対象期間のうち、日本国内勤務に対応する部分について20.42%の源泉徴収が必要となります。海外勤務に対応する部分については、原則として日本では課税されません。
住民税
住民税は、前年の所得に対して翌年6月から翌々年5月まで納付する後払い方式の税金です。
1月1日時点で日本に住所がある場合、その年の住民税が課されます。そのため、年末年始に出国する場合、12月31日出国か1月1日以後出国かにより、住民税の負担が大きく異なる可能性があります。
納税管理人
非居住者となった後も、日本国内に不動産所得等があり確定申告が必要な場合には、納税管理人を選任することができます。納税管理人を定める場合は、所轄税務署へ届出を行います。
住宅借入金等特別控除
住宅借入金等特別控除は、原則として居住者に適用される制度です。そのため、海外勤務により非居住者となる期間については、原則として適用できません。
ただし、転勤命令等により居住しないこととなる場合には、事前の届出および帰国後の確定申告により、未経過年分について再適用を受けられる場合があります。実際の適用可否は、税理士または所轄税務署へ確認する必要があります。
(2)日本側における社会保険
社会保険・労働保険の基本整理
日本から海外に出向する場合、日本国内企業との雇用関係が継続するかどうかにより、日本側社会保険の取扱いが異なります。
制度 | 在籍出向で日本法人から給与の一部または全部が支払われる場合 | 転籍出向・現地直接雇用の場合 |
|---|---|---|
健康保険 | 原則継続。海外療養費の請求対象 | 原則継続不可。任意継続または国民健康保険を検討 |
介護保険 | 住民票を除票し、適用除外届を提出することで保険料不要となる場合あり | 原則として適用対象外 |
厚生年金保険 | 原則継続。日本側給与等を基礎に保険料算定 | 原則継続不可。国民年金任意加入を検討 |
雇用保険 | 雇用関係が継続する場合は原則継続 | 原則継続不可 |
労災保険 | 海外派遣は通常の労災対象外。海外派遣者特別加入を検討 | 原則継続不可 |
健康保険の海外勤務者への適用
在籍出向により日本の健康保険資格が継続している場合、海外で医療を受けたときは、海外療養費として請求できる場合があります。
ただし、海外では日本の健康保険証による現物給付は受けられません。いったん医療費を全額支払い、診療内容証明書、領収明細書、日本語訳等を添付して、加入している健康保険組合等へ請求します。
払い戻される金額は、日本国内で同様の保険診療を受けた場合の金額を基準に計算されるため、海外で実際に支払った医療費の7割が必ず戻るわけではありません。
厚生年金保険
在籍出向の場合、日本法人との雇用関係が継続していれば、原則として厚生年金保険の被保険者資格も継続します。
ただし、日本側給与が赴任後に低下する場合、標準報酬月額が低下し、将来の年金額に影響する可能性があります。
介護保険
40歳以上65歳未満の健康保険加入者は、原則として介護保険第2号被保険者となります。ただし、海外勤務により日本の住民票を除票する場合、「介護保険適用除外該当届」を提出することで、介護保険料の負担が不要となる場合があります。
海外勤務中に40歳に到達する場合も、必要に応じて適用除外届の提出を検討します。
雇用保険
在籍出向で日本法人との雇用関係が継続する場合、雇用保険の被保険者資格は原則として継続します。
雇用保険料の対象となる賃金には、国内給与および一定の外地給与が含まれる場合があります。ただし、海外勤務に伴う実費弁償的な手当等については、賃金に含まれない場合があります。
労災保険の海外派遣者特別加入制度
労災保険は本来、日本国内の事業場で就労する労働者を対象とする制度であり、海外の事業場で勤務する者は、通常の労災保険の対象外です。
ただし、日本国内の事業場から海外の事業場へ派遣される者については、「海外派遣者特別加入制度」を利用することで、労災保険の保険給付を受けられる場合があります。
海外出張の場合は、原則として国内所属事業場の労災保険の対象となります。一方、海外派遣の場合は、特別加入の手続きを行っていなければ、労災保険による給付を受けられない可能性があります。
特別加入の年間保険料は、給付基礎日額×365日×保険料率により算定されます。海外派遣者の給付基礎日額は3,500円から25,000円の範囲で選択され、保険料率3/1000の場合、年間保険料は3,831円から27,375円となります。
転籍出向の場合の国民年金任意加入
転籍出向の場合、日本法人との雇用関係が終了するため、厚生年金保険の被保険者資格は原則として喪失します。
1年以上の海外勤務により日本の非居住者となる場合、日本の国民年金への加入義務は原則としてありません。ただし、日本国籍を有し、20歳以上65歳未満で、日本国内で保険料の納付が可能な場合には、国民年金に任意加入できる場合があります。
転籍出向の場合の健康保険
転籍出向や現地直接雇用により日本の健康保険資格を喪失する場合、健康保険の任意継続被保険者制度または国民健康保険への加入を検討します。
健康保険の任意継続は、資格喪失後20日以内に手続が必要です。国民健康保険は、原則として資格喪失後14日以内に手続が必要です。
海外旅行傷害保険
海外療養費制度では、医療費の全額が補償されるわけではありません。ミャンマーで高額な医療費が発生する可能性や、近隣国への緊急搬送が必要となる可能性もあるため、海外旅行傷害保険または海外駐在員保険への加入を検討することが望ましいです。
海外旅行傷害保険は、原則として出国後に新規加入できない場合があるため、赴任前に加入手続きを完了しておく必要があります。
(3)ミャンマー側における税務
ミャンマーにおける居住者判定
ミャンマーでは、外国人が課税年度内に183日以上ミャンマーに滞在する場合、原則として居住外国人とされます。183日未満の場合は、原則として非居住外国人とされます。
ミャンマーの課税年度は4月1日から翌年3月31日までです。
日本・ミャンマー間の租税条約
日本とミャンマーの間には、現時点で租税条約はありません。そのため、短期滞在者免税のような租税条約上の免税規定は利用できません。
日本側・ミャンマー側の双方で課税関係が生じる場合には、日本側で外国税額控除等を検討する必要があります。具体的な取扱いは、日本側税理士およびミャンマー側税務アドバイザーへ確認する必要があります。
ミャンマーの租税条約締結国
ミャンマーが租税条約を締結している国は、以下の10か国です。
イギリス、シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インド、バングラデシュ、インドネシア、韓国、ラオス
このうち、発効済とされる国は、以下の8か国です。
イギリス、シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インド、韓国、ラオス
バングラデシュおよびインドネシアとの租税条約は、締結済であるものの未発効とされています。ただし、租税条約の発効状況は変更される可能性があるため、実務上の適用時には最新状況を確認してください。
個人所得税の申告・納税
ミャンマーに入国した後、海外勤務者に関係する主な税務は、給与所得に対する個人所得税です。キャピタルゲイン税は、株式、不動産、その他資産の譲渡がある場合に問題となる税目であり、通常の給与税の月次納付とは別に検討します。
ミャンマーでは、雇用主が給与支払時に個人所得税を源泉徴収し、原則として翌月15日までに納付します。月次では、年間の見込課税所得を基に税額を計算し、賞与や手当等の支給に応じて調整します。
課税年度終了後、雇用主は年次給与明細・年次給与申告に関する手続きを行います。ミャンマーの課税年度は4月1日から翌年3月31日までであり、年次申告期限は原則として期末後3か月以内、実務上は6月30日までと整理されます。
なお、個人本人による申告が必要となるケースや、退職・帰任時の取扱いは、所得内容や税務署の運用により異なる可能性があるため、現地での確認が必要です。
(4)ミャンマー側における社会保険
ミャンマーで現地法人、支店、駐在員事務所等を有している場合、一定の要件を満たす事業者は、社会保険庁(SSB:Social Security Board)への登録が必要となります。
従業員が5名以上の事業所は、SSBへの加入義務があります。外国人従業員も加入対象となります。
SSB保険料率
種類 | 雇用主負担 | 労働者負担 |
|---|---|---|
医療保険等 | 月給の2% | 月給の2% |
労災保険 | 月給の1% | なし |
合計 | 月給の3% | 月給の2% |
保険料の算定基礎となる月給には、上限300,000チャットが設定されています。そのため、月給が300,000チャット以上の場合、保険料は300,000チャットを上限として計算します。
労働者負担分の上限は、300,000チャット×2%=6,000チャットです。雇用主負担分の上限は、300,000チャット×3%=9,000チャットです。
雇用主は、労働者負担分を給与から控除し、雇用主負担分と合わせて、原則として翌月15日までに納付します。
入国後に必要な手続
ミャンマーで就労を開始する海外勤務者については、SSBへの登録および毎月の保険料納付が必要となります。登録方法、必要書類、オンライン申請の可否等については、第11章「労務」を参照してください。
6.赴任期間中の取扱い
(1)日本側における税務
赴任期間中、日本の居住者か非居住者かにより、日本で課税される所得の範囲が異なります。
1年以上の予定でミャンマーへ赴任し、日本の非居住者となった使用人については、ミャンマーでの勤務に対応する給与を日本で支給していても、原則として日本の所得税は課されません。
ただし、日本国内勤務に対応する賞与、役員報酬、日本国内不動産所得、その他国内源泉所得がある場合には、日本で源泉徴収または確定申告が必要となる場合があります。
(2)日本側における社会保険
在籍出向の形態で海外赴任している場合、日本の健康保険、厚生年金保険、雇用保険の資格が継続していることがあります。この場合、日本法人は、日本側給与等を基に社会保険料を計算し、毎月納付します。
健康保険については、海外で医療を受けた場合、海外療養費として請求できる場合があります。ただし、請求には診療内容証明書、領収明細書、日本語訳等が必要となります。
(3)ミャンマー側における税務
ミャンマーでは、雇用主が給与税を源泉徴収し、給与支払月の翌月15日までに納付する実務が一般的です。
また、課税年度終了後、毎年4月から6月の期間に、前課税年度分の年次申告・年次給与関係の手続きを行います。課税年度は4月1日から翌年3月31日まで、年次申告期限は原則として6月30日までです。
給与以外に、ミャンマー国内で不動産所得、事業所得、資産譲渡益等が発生する場合には、別途申告・納税が必要となる可能性があります。
(4)ミャンマー側における社会保険
ミャンマーのSSB保険料は、雇用主が労働者負担分を給与から控除し、雇用主負担分と合わせて、毎月納付します。納付期限は原則として翌月15日までです。
料率、算定上限、加入対象、オンライン申請の運用については、変更される可能性があるため、現地で最新情報を確認してください。
(5)ミャンマー側におけるビザ・滞在関連手続
ビザ
ミャンマーのビジネスビザは、シングルビザの場合、滞在可能期間が70日です。ビジネスビザは、規則に従い滞在延長申請が可能です。
ビジネスビザのマルチプルビザには、3か月、6か月、1年の有効期間があります。マルチプルビザの場合、複数回の入国・滞在が認められ、70日経過ごとに出国する必要はないとされています。
ただし、初回申請時にマルチプルビザを取得できるかどうか、延長申請の要件、オンライン申請の可否、必要書類は実務運用により変わる可能性があります。詳細は第12章「ビザ」を参照してください。
ステイパーミット
ミャンマーに90日以上滞在する予定の外国人については、滞在許可に関する手続が必要となる場合があります。ステイパーミットは、長期滞在を行う外国人が、ビザの期間に応じてミャンマー国内に滞在するための許可として利用されます。
ステイパーミットの取得要否、申請時期、必要書類、延長方法については、最新の入国管理当局の運用を確認してください。
Re-entry Visa
外国人がステイパーミット期間中にミャンマー国外へ出国し、再入国する場合、Re-entry Visaが必要となる場合があります。出張や一時帰国を予定する場合には、出国前に取得要否を確認する必要があります。
FRC
ミャンマーに90日以上滞在する外国人は、外国人登録証(FRC:Foreigner Registration Certificate)の取得が必要となる場合があります。
FRCは、ビザ延長、ステイパーミット、その他滞在関連手続で必要となることがあります。また、更新管理が必要となるため、会社側で有効期限を管理することが望ましいです。
Form C
Form Cは、ミャンマーに滞在する外国人の居住情報等を届け出る手続です。一般的には、滞在先のコンドミニアム、サービスアパート、ホテル等のオーナーまたは管理者が手続を行います。
ミャンマー到着後24時間以内に、居住地の区役所または市役所へ居住情報を通知する取扱いとされています。実務上、オーナーが申請していない、申請済みでも本人へコピーが渡されていないケースがあるため、赴任者本人または会社側で確認する必要があります。
7.帰任時の取扱い
ミャンマーから日本へ帰国する際には、日本出国時と逆の手続を行うことになります。ただし、各国で必要な手続や実務運用が異なるため、帰任前に日本側・ミャンマー側の双方で確認が必要です。
(1)日本側における税務
駐在員が日本へ帰任し、日本の居住者となった場合、その年の年末調整の対象となります。年末調整の対象となる給与は、原則として居住者となった日以後に支払われる給与です。
給与以外に一定額以上の所得がある場合、または非居住者期間中に日本国内源泉所得がある場合には、年末調整とは別に確定申告が必要となる場合があります。
(2)日本側における社会保険
在籍出向の場合
在籍出向として海外赴任していた場合、赴任中も日本の社会保険資格が継続しているため、帰任時に健康保険・厚生年金保険・雇用保険について大きな資格取得手続は不要となることが一般的です。
ただし、赴任時に「介護保険適用除外該当届」を提出していた場合、帰任時に「介護保険適用除外等非該当届」を提出する必要があります。
転籍出向の場合
転籍出向として海外赴任していた場合、赴任中は日本の社会保険資格を喪失しているため、帰任時に以下の手続が必要となります。
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
・雇用保険 被保険者資格取得届
・国民年金任意加入をしていた場合の資格整理
・国民健康保険または任意継続を利用していた場合の資格喪失手続
労災保険 海外派遣者特別加入の変更
赴任時に海外派遣者特別加入の手続きを行っていた場合、帰任に伴い、特別加入に関する変更届を提出する必要があります。提出先や手続方法は、所轄の労働基準監督署または労働局に確認してください。
(3)ミャンマー側における税務
ミャンマーから帰任する場合、ミャンマー側で給与税の精算が必要となる場合があります。
海外勤務者がミャンマーを離れる場合、雇用主は該当者の給与支給、源泉徴収、最終給与、賞与、手当等を確認し、帰任時点までの税額を精算します。課税年度途中で帰任する場合、年次申告時に最終的な税額調整が必要となる場合があります。
帰任によりミャンマー非居住者となる旨を税務署へ説明するレターや、給与税納付停止に関する手続が求められる場合があります。実務運用は税務署により異なる可能性があるため、帰任前に現地税務担当者へ確認してください。
(4)ミャンマー側における社会保険
海外勤務者がミャンマーを離れる場合、SSBへの登録解除または資格変更手続が必要となります。必要書類や手続方法は、ミャンマー人従業員の退職時手続と同様の部分がありますが、外国人について追加確認が必要となる場合があります。
詳細は第11章「労務」を参照してください。
(5)ミャンマー側におけるその他の手続
ミャンマーでは、ビザやステイパーミットについて、更新を行わなければ有効期限満了により失効する取扱いとなる場合があります。一方で、会社側の内部管理、税務・社会保険の停止、FRC、居住届、銀行口座、賃貸契約等については、帰任前に整理が必要です。
帰任前に確認すべき事項は以下のとおりです。
・ミャンマー給与の最終支給月
・個人所得税の最終精算
・SSB登録解除
・FRC、ステイパーミット、Re-entry Visa等の有効期限管理
・銀行口座の閉鎖または残高整理
・賃貸契約の解約
・Form C等の居住情報に関する整理
・会社貸与物、携帯電話、社用車、住居備品等の返却
8.海外年金受給
海外勤務を行った場合、赴任国の社会保障制度へ加入することがあります。国によっては、一定の加入期間を満たすことで、将来その国の年金を受給できる場合があります。
ただし、ミャンマーでは、現時点で年金制度は本格的には運用されていないと整理されます。社会保障制度上、将来的に年金制度が開始される可能性はありますが、現時点では、日本人駐在員がミャンマー年金を受給するための具体的な手続は通常想定されません。
なお、将来的にミャンマーで年金制度が開始された場合、会社負担分を本人の追加ベネフィットとするのか、給与設計上どのように扱うのかを、海外赴任規程等で定めておくことが望ましいです。
9.実務上の確認チェックリスト
確認項目 | 本文上の整理 | 現地確認が必要な事項 |
|---|---|---|
ミャンマーの課税年度・年次申告時期 | 課税年度は4月1日~3月31日。年次申告は原則として期末後3か月以内、実務上6月30日まで。 | 会計年度・課税年度の運用変更がないか、年次申告期限が現行どおりか確認。 |
日本の社会保障協定 | 2025年12月時点で24か国と発効。日本・ミャンマー間は協定なし。 | 新たな発効国、交渉中の国の進捗を必要に応じ確認。 |
日本・ミャンマー租税条約 | 日本とミャンマーの租税条約はなし。 | 変更がないか念のため確認。 |
ミャンマー租税条約 | 締結済10か国、発効済8か国。 | バングラデシュ・インドネシアを含む発効状況の最新確認。 |
SSB料率・上限・加入義務 | 雇用主3%、労働者2%、上限月給300,000チャット、従業員5名以上で加入義務。 | 料率、上限額、対象者、年金制度開始の有無を確認。 |
給与税・SSB月次納付期限 | 原則として翌月15日まで。 | 税務署・SSBの最新運用を確認。 |
労災海外派遣者特別加入 | 給付基礎日額3,500~25,000円、保険料率3/1000の場合、年間3,831~27,375円。 | 最新パンフレット・料率変更の有無を確認。 |
ビザ・ステイパーミット・FRC | ビジネスシングル70日、マルチ3か月・6か月・1年。90日以上滞在時はステイパーミット/FRC確認。 | 第12章ビザの最新内容、オンライン申請、到着時観光ビザ等と整合確認。 |
参考文献
・国税庁「海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」
・国税庁「非居住者等に対する源泉徴収のしくみ」
・日本年金機構「社会保障協定」
・厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」
・Myanmar Ministry of Foreign Affairs「Types of Visa, Fees and Duration」
・Myanmar Internal Revenue Department e-Filing
・PwC Worldwide Tax Summaries「Myanmar Individual Tax」
・DFDL「Myanmar Annual Tax Compliance Reminder」
・VDB Loi「Myanmar Double Taxation Agreement」
・JETRO
・『国境なき人事―クロスボーダーの税務・社会保険・労務入門―』グラントソントン太陽ASG税理法人
・『海外勤務者の労務〔改訂版〕-給与・社会保険・労働保険―』CSアカウンティング株式会社
・『三訂版 タイ・シンガポール・インドネシア・ベトナム駐在員の選任・赴任から帰任まで完全ガイド』藤井恵
