税務
フィリピンにおける税務
フィリピンに居住している個人、フィリピン企業と取引を開始する場合、またはフィリピン国内においてビジネスを行う場合は、そのビジネスに付随して必ずと言っていいほど税金の問題が発生します。その認識がない状態で取引を行えば、後で思わぬ税負担が発生することも珍しくありません。
この章においては、フィリピンにおける税制の全体像、個別の税目の解説から、進出にかかわる国際間での税務問題まで含め解説します。
■ フィリピン租税法
フィリピンの国税は内国歳入法(The National Internal Revenue Code)に規定されており、国税のうち関税だけは関税法(Tariff and Custom Code)を基準法規としています。フィリピンの租税法の特徴として、以下の2つがあげられます。
まず、税務執行官の裁量が法規制の解釈及び施行に与える影響が大きいということです。フィリピンの所得税法は全62条と条文数が少ないため、その解釈に当たって個人の解釈が介入する余地が大いにあるといえます。次に、大統領命令(EO:Executive Order)により、本法とは異なる対応が規定される場合があるため、注意が必要となります。
■ 税目の種類
フィリピンにおける税金の種類は、大きく国税、地方税、市・自治区税に区分され、更に負担方法により直接税と間接税の2つに区分されます。
租税の種類 | 直接税 | 間接税 |
国税 | ・所得税 ・相続、贈与税 ・キャピタルゲイン税 | ・源泉徴収税 ・付加価値税 ・パーセンテージ税 ・印紙税 ・関税 |
地方税 | ・不動産取引税 ・出版事業税 ・フランチャイズ税 ・専門職業税 ・遊興税 | - |
市・自治区税 | ・事業税 ・固定資産税 | - |
[国税]
フィリピンの国税は内国歳入法と関税法を基準法規としています。 税目としては所得税、関税、付加価値税、印紙税などがこれに該当します。
[地方税]
地方税は地方自治体法を基準法規としています。税目としては、収税として不動産取引税、フランチャイズ税などがあります。
[市・自治区税]
地方税と同様に地方自治体法を基準法規としています。税目としては、事業税、固定資産税などがあります。
また、これらの税金は納付・負担の方法により、直接税と間接税との2種類に区分することができます。
[直接税]
直接税とは、税金を納める「納税義務者」と、税金を実際に負担する者が同じである税金をいいます。フィリピンにおいては所得税、相続・贈与税などがこれに該当します。
[間接税]
間接税とは、直接税と異なり、税金を納める人と実際に負担する人が異なる税金をいいます。税金の負担者が直接納付するのではなく、 他の納税義務者を通じて間接的に国に税金を納付するため、間接税と呼ばれます。付加価値税、拡大源泉徴収税などがこれに該当します。
進出形態と税務
進出形態
企業が海外でビジネスを行う場合、その活動に付随してさまざまな 税金の問題が発生します。今後、想定される問題を事前に予測し、対策を練っておくことで、事業をスムーズに運ぶことができます。
フィリピンでビジネスを開始する場合に、いくつかの形態が考えられます。
① 駐在員事務所を設置する形態(ビジネス開始前)
② 事業拠点を設置せずビジネスを行う形態
③ 事業拠点を設置してビジネスを行う形態
ビジネスの規模等に応じて、それぞれについてメリット、デメリットがありますが、いずれにおいてもフィリピン国内の税務問題だけでなく、国際間での税務問題もかかわってきます。
以下、各ケースについて関連する税務問題を検証していきます。
■ 駐在員事務所を設置する形態 … ①
フィリピン進出を検討する際に、現地の市場調査等の目的で、まずは駐在員事務所を設置して活動を開始するケースが想定されます。
駐在員事務所を設置した場合、一切の営業活動が禁止されているため、現地では駐在員事務所での活動費用(駐在員の人件費、事務所家賃など)が発生するのみで、収益については預金による利息収入くらいになります。税務申告上は赤字での申告となるため、フィリピンにおいて法人所得税の納税は発生せず、税務リスクも非常に少ない形態といえます。
ただし、納税が発生しない場合でも、毎決算期ごとに税務申告書を作成し、法定期限までに申告書の提出を行う必要があるので注意が必要です。
また、日本側においては、 駐在員事務所で発生したすべての収益・ 費用については、日本側の損益に取り込まれることになります。よっ て、初期調査段階における経費をすべて日本側で吸収することがで き、赤字リスクを回避することができる形態といえます。
注意しなければいけない点は、仮に駐在員事務所において営業活動を行っている場合に、当該 駐在員事務所がフィリピン税務当局より 「営業拠点」として認定された場合、フィリピンの駐在員事務所は日本法人の支店とみなされ、所得認定が行われフィリピンにおいて納税が必要となることです。税務当局によるこのような課税を「 PE認定 課税(P. 354 参照)」と呼びます。
■ 事業拠点を設置せずビジネスを行う形態 … ②
フィリピン国内に活動拠点を設けず、日本からの輸出販売、サービス提供やフィリピン国内の代理店等を通じてビジネスを行う場合、基本的に現地にPEが存在しないため、現地で所得課税が行われることはありません。そのため、取引に付随して生じる税務問題は多くはありません。しかし、仮にフィリピン国内にPEが存在しない場合であっても、たとえば自社の社員が長期間フィリピンに滞在し、実質的に 拠点を設けて営業活動をしているものとフィリピンの税務当局に認定された場合には、前述のPE認定課税が行われるケースも想定されるため、注意が必要です。
■ 事業拠点を設置してビジネスを行う形態 … ③
進出当初は拠点を設けずにビジネスを行っており、取引拡大等の理由から、現地でのビジネス展開を進めていく場合に、通常は現地での活動拠点が必要となってきます。現地に設立する活動拠点の形態の選択に当たっては、ビジネス内容、期間、投資額などのさまざまな要素を考慮して検討する必要があります。
一般的に、拠点を設置する形態としては、以下のパターンが考えられます。
❶ 支店形態での進出
❷ 現地法人形態での進出
以下、それぞれの進出形態ごとに関連する税務規定を検証していきます。
[支店形態での進出の場合] … ❶
支店の形態でフィリピンに進出する場合、フィリピンでの営業活動から生じた所得に対して、フィリピンにおいて法人所得税を納付する必要があります。
外国企業のフィリピン支店については、課税上「外国法人」として取扱われ、フィリピンでの法人所得税率は最高25%となります。
また、支店で発生した損益については、 駐在員事務所と同様に日本側において日本本店の所得と合算のうえ、日本での法人税の計算が行われます。
この場合において、支店側が赤字で納税が発生していなければ、特に問題はありません。しかし、もし支店側で所得が発生し、その所得に対してフィリピンで納税を行っている場合には、日本においても支店の所得が課税対象となるため、フィリピンと日本の両国において、二重で法人所得税が課税されることになります。
このような場合には、日本において「外国税額控除(P. 356 参照)」 の規定により、フィリピンでの所得を含めた日本側の所得に対する法人所得税額から、既にフィリピンで課税され支払った税額を控除する形で二重課税の調整を行います。
また、この二重課税を排除する規定は、日本とフィリピンの租税条約においても規定されています。
[現地法人形態により進出する場合] … ❷
フィリピンに現地法人形態で進出する場合、いくつか進出パターンが想定されますが、ケースによって課税形態も変わってきます。
以下、それぞれのパターンについて関連する税務規定を検証していきます。
❶ 直接日本から投資する場合
❷ 複数社との合弁により現地法人を設立する場合
❸ M&Aにより既存の会社を買収(出資)する場合
直接日本から投資する場合 … ❶
通常、海外進出の際に最初に検討するのが、自社単独による進出のケースになります。現地法人の設立ということで、フィリピン側では 「内国法人」となるため、内国法人についてはフィリピンの国内源泉所得のみでなく、フィリピン以外のその他すべての国で発生した所得 に対して、フィリピンにおいて税金が課されることとなります(全世界所得課税)。その際の法人所得税率は、❶の支店形態と同じ25%の税率になります。
現地法人を設立した際に、国際間でのグループ会社間取引が発生した場合、それらの取引は「移転価格税制」の対象取引となるため注意が必要です。
複数社との合弁により現地法人を設立する場合 … ❷
現地企業のノウハウ享受などの目的から、他社と共同で事業運営を行う場合、合弁によるフィリピン法人を設立するケースがあります。 設立後は、通常の現地法人形態となるので、上記❶と同様の税務上の扱いとなります。
M&Aにより既存の会社に出資する場合… ❸
近年、海外投資についてスピードが重要視されている中、外資企業によるフィリピン法人への株式買収等のM&Aによる投資も進んでいます。
投資後の扱いについては、上記❶、❷と同様に通常のフィリピン内国法人としての課税となります。詳細については、P.211を参照ください。
第三国を経由した投資
近年のアジア圏の経済成長は目を見張るものがあり、日系企業の進出件数も年々増加しています。広くアジア圏に拠点展開している日系企業の中には、日本からの直接投資ではなく、他の海外拠点からの投資の形態により、フィリピンに進出するケースも出ています。
具体的には、アジア圏に複数国にわたって拠点展開している企業などは、その各国の海外子会社を統括するため、シンガポールや香港に 「地域統括会社(RHQ)」を設置し、これらの国から更にアジア各国に投資をするケースも増えてきています。
シンガポール、香港を中心とするこのような形態を取るメリットは、さまざまな要素が考えられますが、特に大きなメリットとしては、シンガポールや香港は、タックス・ヘイブン(軽課税国)と呼ばれ、所得に対する税負担が他の近隣諸国に比べ低く、これらの国に利益を集約させることにより、グループ全体の租税負担を大きく引下げることができる点です。
日本の法定実効税率は約3割と、諸外国に比べても税負担が重くなるため、多くの日系企業がこのような投資スキームを採用しています。
しかし、そのような利益集約により得をするのは企業側だけであって、国側としては利益の海外流出による税収の減少という、深刻な問題が発生しました。この問題に対処するため、課税逃れを目的にシンガポール、香港といった軽課税国に子会社を設立し、利益を不当に海外に留保した場合に、日本側においてその留保利益を課税するという制度ができました。これが、いわゆる「 タックス・ヘイブン対策税制」と呼ばれる制度です。
タックス・ヘイブン対策税制の概要
日本の法人税法に規定されているタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、内国法人等が特定外国子会社等(軽課税国に所在する外国関係会社)を有する場合に、その特定外国子会社等が留保した利益のうち、その内国法人が保有する当該子会社株式の所有割合に対応する部分の金額をその内国法人等の収益とみなして、日本で合算課税する制度です。日本では会計上「収益」が認識されていないにもかかわらず、税務上「益金」を認識することにより、海外の留保所得について日本で課税する税制です。
従前は、租税負担割合が20%以上であった場合には適用対象外になっていましたが、租税負担割合に関わらずその海外子会社がペーパーカンパニー、キャッシュボックス又はブラックリスト国に所在する法人である場合には、一定の場合を除き、全ての所得に対して合算課税が行われることになります。
また、合算課税を行うことにより、企業の正常な海外投資事業活動が阻害されることを回避するため、租税負担割合が20%以上で下記の要件を満たす場合には適用が除外となります。
特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められるなど一定の場合には、租税回避が目的ではないものとして同税制は適用されません。
よって税務当局から指摘をされる前に、地域統括会社において現地での活動実体を整備する必要があります。
国内税法の個別論点
個人所得税
フィリピンに居住する個人や日本からの現地駐在員について、個人所得税を計算する場合、まずその対象となる人が「居住者」であるか「非居住者」であるか、つまりその対象者の居住性が重要となります。この居住性により、課税される所得の範囲が異なってきます。それぞれの定義については、以下の通りとなります。
■ 居住者の定義
フィリピンにおける居住性の区分は、以下の要件のいずれかを満たす場合に居住者として区分されます。
・ フィリピン国籍を有する個人(居住性は問わない)
・ フィリピンに定常的な住居を有する者
・ 12カ月以内に180日以上フィリピンに滞在している者
上記の区分により、それぞれ「居住者・非居住者」が決定されますが、 その区分により、課税される所得の範囲は以下のように異なります。
■ 課税される所得の範囲
フィリピンでは、「フィリピン国籍の居住者(Resident Citizens)」 の場合は、フィリピン国内の所得だけでなく、どこで受取ったかにかかわらず、その他の国において発生した所得のすべてがフィリピンにおいて課税されることになります(いわゆる、全世界所得の申告が必要になります)。
日本からの駐在員の場合、通常、「外国籍の居住者(Resident Aliens)」に該当すると考えられます。外国籍の居住者については、 国内源泉所得のみがフィリピン国内で課税されます。従って、日本において不動産などを有していて、そこから賃貸収入などが発生している場合には、フィリピンでの課税は行われないことになります。
前述のように、フィリピンの税法では、居住者を180日以上フィリピン国内に滞在またはフィリピン国内に住居を有するものと定義しています。
一方、日本の所得税法では「国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」を居住者と定義していることから、一定の場合は、日本とフィリピンの双方で居住者の認定を受け、所得税が両国で二重に課税されることになります。
設立間もない製造子会社の立ち上げ支援などで、フィリピンの子会社等に派遣される場合、あるいは業務のために頻繁に出張する必要があり、結果としてその滞在日数の累計が180日に達する場合、この二重課税に該当するケースもあります。仮に、両国で居住者に該当する場合には、両国間で締結されている租税条約に基づき、いずれかの国でのみ居住者となります。
また、日本からの短期の出張や現地視察の場合などで、租税条約に定められる短期滞在者免税(日比租税条約15条)の要件を満たす場合には、フィリピン側において所得税を申告納付する義務が免除されます。
短期滞在者に対する人的役務所得(日比租税条約15条) 租税条約においては、給与収入について、実際の勤務が行われている国でのみ課税されると記載されています。つまり、給与の発生源泉である勤務が行われていない場合には、給与収入に対してその国で課税が行われることはなく、実際の勤務地において課税されることになります。
日本からフィリピンに出張する場合、以下の3要件を満たす場合には、支払われる報酬または給与に対してフィリピン側で課税がされません。
① 滞在日数基準
課税年度における滞在日数が183日を超えないこと
② 給与支払地基準
報酬または給与が日本側で支払われていること
③ 給与負担基準
報酬または給与がフィリピン国内におけるPE等において負担されていないこと
ただし、この短期滞在者免税の規定については、通常の雇用契約に基づく従業員にのみ適用される規定で、法人の取締役など委任契約に基づく者に対しては適用されないため、注意が必要です。
役員報酬に係る課税(日比租税条約16条)
給料等に関しては、原則としてその国において勤務が行われていない場合には、税金は課税されないこととされています。つまり、日本からフィリピンへ従業員が出向した場合、日本で勤務が行われない限り、日本側で課税問題が生じることはありません。
しかし、日本側の法人の役員がフィリピンに居住者として駐在する場合、もし日本の会社から役員としての報酬を得ている場合には、仮に日本側で非居住者であり、かつ、国内勤務がない場合であっても、日本側において課税がされるため注意が必要です。
個人事業主(Sole proprietorship)としての所得がある場合、つまり個人事業を経営している、または、従業員としての給与だけでなく個人事業での所得もある納税者についてはBIR Form No. 1701(年次申告書)を使用します。その際、BIRのオンラインシステムであるeFPS(Electronic Filing and Payment System)にて当該フォームが有効となっています。
■ 課税期間
フィリピンにおける個人所得税の課税期間は、暦年(その年の1月 1日~12月31日まで)とされています。
■ フィリピンにおける所得税額の計算
フィリピンにおける所得税計算については、次の図の手順により計算します。
まず、その年におけるすべての収入から、課税される収入(所得)と非課税とされる収入(所得)とを区分する必要があります。
以下において、課税される収入及び非課税収入、経費控除、分離課税の収入について記載していきます。
■ 課税対象となる所得の範囲
所得税額の計算上、課税対象となる所得は以下の区分に分類され ます。このうち、 配当や利息、資産の売却益(キャピタル・ゲイン) は、源泉分離課税が行われます。
・ 給与所得
・ 資産の売却益(キャピタル・ゲイン)
・ 利息
・ 家賃収入
・ 使用料
・ 配当金
・ その他の収入
また、収入であっても、所得税法上課税されないと規定されている主な「非課税所得」「非課税手当」については、以下の通りです。
■ 経費として控除できる費用
所得税が課税される所得金額については、収入金額から、その収入を得るために支出した金額を控除して算出します。ただし、給与所得のみの納税者に対しては、2018年TRAIN法より必要経費が不要とみなされたことにより、この経費控除は廃止されています。
事業所得を得ている人(自営業者や専門職など)には、以下の経費控除が引き続き認められています:
・ 利息
・ 税金
・ 天災等の損害による損失
・ 慈善寄付金
・ 年金信託
自営業者や専門職の人が給与所得と事業所得の両方を持っている場合、250,000ペソの控除は1回だけしか適用できません。
また年間総収入が300万ペソ以下の自営業者や専門職の人は、
は総売上高または総収入の40%を超えない額を経費とみなして控除する、選択制定額控除制度(OSD:Optional Standard Deduction)、または8%の総収入課税(gross income tax)を選ぶことで、通常の所得税+3%パーセンテージ税を免除することができます。当該制度を選択する場合は、最初の四半期確定申告の際に当該制度を選択する旨を申告書に記載する必要があります。
■ 税率
税務上の個人の居住者及びフィリピン国籍の非居住者は、上記から算出された総収入金額から各種控除額を差引いた課税所得の額に応じて、累進税率が適用されます。
以下、2023年1月から適用開始の新レートです。
個人所得税率(居住者及びフィリピン国籍の非居住者の場合) | |
年間課税所得(ペソ) | 税率 |
250,000ペソ以下 | 0% |
250,001ペソ以上800,000ペソ以下 | 250,000ペソを超過している所得に対して15% |
400,001ペソ以上800,000ペソ以下 | 22,500+400,000ペソを超過している所得に対して20% |
800,001ペソ以上2,000,000ペソ以下 | 102,500+800,000ペソを超過している所得に対して25% |
2,000,001ペソ以上8,000,000ペソ以下 | 402,500+2,000,000ペソを超過している所得に対して30% |
8,000,000以上 | 2,202,000+8,000,000ペソを超過している所得に対して35% |
外国籍の非居住事業主に対する給与以外の所得には、一律25%の 税率が適用されます。
一方、多国籍企業の 地域統括会社(RHQ)や地域経営統括会社 (ROHQ)、オフショア銀行(OBU)、石油開発関連企業等の外国人従業員については、一律15%の優遇税率(フラットレート)が適用されていましたが、新税法により2018年からは、これらの従業員についても、通常の個人所得税率が適用されることになりました。
■ 申告・納付手続
[確定申告]
個人所得税額の算定を行った後、個人所得税の申告、納付手続を行います。
個人の課税対象期間は暦年(1月1日~12月31日)とされており、申告・納付期限は、翌年の4月15日までとなります。非上場会社の株式売却益、不動産の売却益による所得がある者は、所定の様式の申告書を別途提出する必要があるため注意が必要です。
納付手続については、申告書提出の際に算定された個人所得税額と源泉徴収税額との差額を納付します。
また、上位5,000名の個人納税者は電子申告及び電子納税制度(eFPS:Electronic Filing and Payment System)による申告納税を行うことが義務付けられています。
eFPS制度の適用が義務付けられている納税者が納税をしていない場合は、税務署から徴収通知書が発行され、罰則を科されます。徴収通知に記載された期限内に納税をしなければ、略式法的措置または債権差押えが適用されます。
更に、継続的に電子申告を行っていないeFPS納税者は、期限後納税に対して50%の超過税率が適用されるため注意が必要です。
[源泉徴収]
雇用主は、毎月の給与の支払時に個人所得税額を源泉徴収して、翌月10日までにフォーム1601Cを用いて申告納付を行います。ただし、電子申告を行っている会社はこの期限が5日間延長されます。また、年度末である12月分については、翌月の15日が納付期限となります。
また、雇用主は、課税年度終了後の1月31日までに、源泉徴収票を従業員に対して交付するとともに、源泉徴収の総括表(フォーム1604C)を税務署に提出しなければなりません。
付加給付税
会社が、管理的な立場にある従業員(Managerial or Supervisory Position)に対して物品や役務を提供した場合には、上記の個人所得税とは別に、付加給付税(FBT:Fringe Benefit Tax)が課されます。管理的な立場にある者とは、経営方針の策定にかかわる者、従業員の採用・解雇の権限を有する者、事業活動に対して経営者に助言する立場にある者と定義されています。これに該当しない一般の従業員 (rank and file employee)は、この付加給付税の対象外とされています。
付加給付とは、雇用主から一般社員以外の従業員に対して提供される物品やサービスなどをいい、金銭であるかどうかを問わず、経済的利益を供与するものです。
なお、付加給付税は事業主によって源泉徴収されて、課税関係が終了するFinal Tax課税であるため、個人所得税の対象となる課税所得には含まれません。
■ 付加給付税の源泉徴収額の決定までの流れ
付加給付税の源泉徴収税額を決めるには、まず、評価額を算定します。次に、評価額を一定の割合で除し、課税標準を求めます。そして課税標準に税率をかけたものが付加給付税の金額となります。
■ 付加給付税の対象となる評価額の算定
付加給付税の対象となるものには、車の提供や、私的な経費、メイドや運転手等の提供、生命保険及び損害保険等に対する現金支給額や現物支給があげられます。
現金で支給された場合には、その支給額が評価額となります。一方、現物で支給された場合の評価額は次ページの表のように規定されています。
なお、私用の経費を事業主が負担している場合にはその総額が付加給付税の対象となりますが、毎月の給与に含まれる渡切の交際費や交通費は対象とはなりません。その場合は、給与所得として個人所得税の課税対象として取扱います。
■ 課税標準
原則として、上記の方法で求めた評価額を65%で除した額を課税標準とします。ただし、非居住者であり、かつフィリピン国内で業務に従事していない者に対する現物給与の場合および外国の石油サービス業者や下請会社、オフショア銀行、地域統括会社の従業員に対する現物給与の場合は75%で除した額を課税標準とします。
■ 税率
税率は原則35%ですが、特別経済区(Special Economic Zones, including Subic Special Economic Zone)内で事業が行われている 場合は、15~25%の軽減税率が適用されます。また、非居住者であり、かつフィリピン国内で業務に従事していない者の場合は25%、外国の石油サービス業者や下請会社、オフショア銀行、地域統括会社の従業員に対する現物給与の場合は15%が適用されます。
※2017年12月の税制改正に伴い、2018年1月より税率が35%に変更(変更前:32%)されました。
また、今後はFBTを給与所得の一部とみなして、個人所得税の税目とする動きもあります。仮に個人所得税目となった場合、個人所得税がBIRの税務調査対象となる可能性が高まります。
■ 申告納付
付加給付税は、 四半期に一度、会社が源泉徴収して申告納付を行います。原則として、四半期末の翌月末までに申告納付を行い、電子申告(E-filing)も同様となります。
法人所得税
■ 課税年度
フィリピンにおける 法人所得税の課税年度については、原則として 「暦年基準」となりますが、12カ月からなる事業年度を任意で選択することができます。課税年度を変更する場合には、 確定申告書の提出日より60日以前に申請書を所轄税務署に提出する必要があります。
■ 納税義務者
フィリピンにおける法人所得税については、所得税法に規定されています。法人所得税の対象となる納税義務者は、内国法人と外国法人に分けられ、それぞれの区分に応じて課税される所得の範囲が異なります。
内国法人(Resident Corporation)はフィリピンの法律に基づき設立または登録された法人をいい、外国法人はフィリピン国内で事業を営んでいるか否かにより、外国居住法人(Resident Foreign Corporation)と 外国非居住法人(Non-Resident Foreign Corporation)に区分されます。
国内・国外の判定基準には「法人設立の場所(the place of incorporation)」が採用されています。
■ 課税所得の範囲
フィリピンにおける内国法人は、課税年度中に獲得した国内及び、 国外源泉のすべての所得が課税対象となります。
一方、外国居住法人は課税年度中に獲得した国内源泉所得のみが課税対象となり、国外源泉所得は課税対象とはなりません。
また、外国非居住法人は課税年度中に獲得した国内源泉所得のうち、利息、 配当、賃借料、使用料、技術料等のみが課税対象となります。
■ 課税所得の計算
内国法人及び外国居住法人は課税所得(net taxable income)に対して課税されますが、外国非居住法人は総所得(gross income)に対して課税されます。課税所得は総所得から経費等を控除して算出されます。
源泉分離課税の対象となる所得及び株式売却益等の別途申告が必要な所得は、ここでいう課税所得から除外されているため注意が必要です。
■ 損金に算入できる経費
課税年度中に生じた費用で、事業を行うために必要とされる費用は損金の額に算入することが認められています。
必要とされる費用とは、事業遂行の過程で発生、あるいは事業遂行に直接起因し、課税年度内に発生するあるいは支払う、通常の費用または必要とされる費用のことをいいます。
以前までは源泉徴収が義務付けられている一定の支出については、源泉徴収を適切に行い、納付済でなければ、損金の額に算入することができないというルールがありましたが、2024年のEOPTA(Ease of Paying Taxes Act)の法改正で所得税の損金対策としての源泉はEOPTにより無効になりました。特定の源泉が必要な項目については引き続きその義務が発生します。
■ 損金計算
課税所得の計算に当たっては、会計上で計上した個々の費用につき、税務上も所得から控除できる(損金算入)か、できない(損金不算入)かの判断が非常に重要な点となります。
一般的に法律を遵守し、正当な企業活動を行った場合に生じた費用・損失は、課税所得の計算にあたり、損金として認められます。
ただし、所得税法上、別途損金算入に関して個別に規定されている項目については、それぞれの規定に従って、損金算入額を計算する必要があります。
[租税公課]
法人が支払う税金のうち、以下に該当する税金以外については、損金の額に算入されます。また、延滞利息については、損金に算入することが認められます。
・ 所得を標準課税とする税
・ 相続税または贈与税
・ 外国で課された所得に対する税
※ 外国税額控除を選択しない場合に限る
[減価償却費の計算]
法人は固定資産の減価償却方法を、自己の裁量により選択することができますが、法人の事業形態にあわせ、合理性があり妥当であることが求められます。一般的には、定額法、定率法、級数逓減法等が利用されています。
経済的減価が著しいと認められる固定資産については、耐用年数が経過する前に評価損を計上することも認められています。 また、油田、鉱山等については、減耗償却が認められています。
1997年租税改正法上においては、法定耐用年数表は存在せず、納税者が合理的と認められる耐用年数を自ら設定する必要があります。 一般的にフィリピン国内で使われている耐用年数であれば問題はありませんが、事前に国税当局と協議をして設定した耐用年数が有効かどうかを確認することも可能です。
[利息]
支払利息は以下の要件を満たすものに限り、損金算入が認められています。
・ 対応する債務が存在すること
・ 当該債務が事業に関連したものであること
・ 課税年度中に発生または支払われていること
事業用資産の取得する際に発生した利息は、当該資産の取得原価として処理することも認められています。
[貸倒損失]
貸倒損失を損金の額に算入するためには以下の要件を満たす必要があります。
また、回収不能と認められた課税年度において償却した金額に限り損金の額に算入することができます。
・ 法的に有効な債権であること
・ 回収不能であることが確実であること
・ 事業に伴って発生した債権であること
・ 関連当事者に対する債権ではないこと
[損失]
課税年度に発生した事業用資産に対する損失で、保険や損害賠償により補償されない火災、風水害、盗難、横領などによる損害等は損金算入が認められています。
なお、損金として認められるためには、損失の発生日より30日以上90日未満の指定される日までに税務署長へ届出書を提出しなければなりません。
[寄付金]
以下の団体への寄付金は、課税所得の5%を上限として損金算入が認められています。
・ 政府関係機関
・ 科学技術団体
・ 研究機関
・ 教育団体
・ 青少年スポーツ振興
・ 社会福祉団体
・ 文化団体
また、次に該当する団体への寄付金は、支出した額の全額が損金に算入されます。
・ 政府関係機関(国家経済開発庁による国家優先計画に従って行われるもの)
・ 特定の外国機関及び国際組織
・ 特定の非政府機関
[研究開発費]
研究開発費は発生または支出時に損金の額に算入されます。ただし、以下の費用は含まれません。
・ 研究開発に使用される減価償却性資産の取得費用
・ 土地の取得費用
・ 研究開発用資産の改良費
特定の研究開発費は繰延資産として60カ月以上の期間で償却する ことも認められています。
[年金信託]
年金信託への掛金は損金算入することが認められています。また、年間10%を上限として、当該年金への資金移動額も損金算入が認められています。
[繰越欠損金]
欠損金(NOLCO:Net Operating Loss Carry-Over)については、 翌事業年度以降、最長で3年間の繰越が認められています。また、石油及び天然資源事業(ガスを除く)に関しては、事業開始から10年間に生じた欠損金に限り、5年間の繰越が認められています。
ただし、上記の規定は75%の発行済株式または、75%の払込み株式を保有する株主に変更が無い場合に限られます。つまり、株主に25%を超えた変更がある場合には適用されない点に注意が必要です。
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