労務
労働環境
労働環境の実態
■ 就業人口
フィリピンでは年少人口(0~14歳)の割合は全体の約34%、生産年齢人口(15~64歳)は約62%、高齢者人口(65歳以上)は約4%となっています。15歳以上人口は、2020年時点で約7,526万人となっており、前年度の2019年から1年間で約160万人増加しています。労働力人口も2020年で約4,039万人と増加傾向にあります。
新型コロナウイルスの対策で厳格な行動制限が設けられていた2019年~2021年頃までは失業率が増加しましたが、その後の措置の緩和からは徐々に雇用状況が回復してきました。
2023年の失業率は、過去最低の4.3%を記録しました。これは前年の2022年の5.4%よりも低く、約20年ぶりの低水準となりました。
一方、2023年12月時点での雇用率は96.9%と過去最高に達し、11月の96.4%および2022年12月の95.7%を上回っています。年間を通じて約152万人の雇用が増加しています。また、不完全就業率は、14.2%から過去最低の12.3%に低下し、潜在的な意味での失業率も減少していると考えられます。
2020年から2023年で就業人口が増加しつつも、不完全就業率が低下していることから、純粋な国力が向上していることが伺えます。
| 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
労働力率(%) | 61.3 | 59.5 | 63.3 | 64.7 | 66.6 |
就業率(%) | 94.9 | 89.7 | 92.2 | 94.6 | 96.9 |
不完全雇用率(%) | 13.8 | 16.2 | 15.9 | 14.2 | 11.9 |
失業率(%) | 5.1 | 10.3 | 7.8 | 5.4 | 3.1 |
■ 産業別就業人口
一般就業者の就業構造を産業別に見ると、サービス部門に従事する労働者が全体の半分以上を占め、中でも卸・小売業等は800万人と全体の約20%を占めています。産業別就業者の割合を見ると、 サービス業がもっとも高く約57%、次いで農業が25%、工業は18%となっています。全体の割合の推移としては、農業部門に従事する労働者人口が減少傾向にある中、サービス部門に従事する労働者は増加しており、サービス産業が労働者の受け皿となっていることがわかります。
【産業別就業者の割合】(単位%)
産業別 | 2023年 | 2024年 |
農業 | 24 | 21 |
農家、狩猟、林業 | 21 | 18 |
漁業 | 3 | 3 |
工業 | 17 | 19 |
鉱業、採石集 | 0.3 | 0.5 |
製造業 | 7 | 8 |
インフラサービス業 | 0.2 | 0.2 |
水道業 | 0.1 | 0.2 |
建設業 | 9 | 10 |
サービス業 | 59 | 60 |
卸売、小売、自動車、オートバイ | 21 | 21 |
輸送、倉庫 | 7 | 8 |
ホテル、レストラン業 | 4 | 5 |
情報通信 | 0.8 | 0.9 |
金融業 | 1 | 1 |
不動産、賃貸、商業 | 0.6 | 0.4 |
専門業 | 0.8 | 0.6 |
管理、支援業務 | 4 | 5 |
行政、防衛、社会保障 | 6 | 6 |
教育 | 3 | 4 |
保険、社会福祉 | 2 | 1 |
芸術、エンターテインメント | 1 | 1 |
その他 | 6 | 6 |
家政婦、家事代行 | 0 | 0 |
総計 | 100 | 100 |
■ 失業率
失業者数は新型コロナウイルスの影響で一時は大幅に上昇しました。2022年で約267万人でしたが、2023年には約219万人で低い記録となりました。毎年一定の割合で増減を繰り返していますが、新型コロナウイルス以降から長期的視点では減少傾向にあることが窺えます。
【失業者数推移】(単位 万人)
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 (5月時点) |
失業者数 | 460 | 316 | 267 | 219 | 210 |
男性 | 270 | 190 | 152 | 117 | 119 |
女性 | 160 | 120 | 110 | 99 | 90 |
傾向としては、15~34歳の若年労働者の失業率が最も高く、全体のおよそ半数を占めています。また、男性の方が女性より失業率が高くなっています。
■ 産業別賃金
2022年の全産業平均の賃金水準は、1カ月当たり14,588ペソとなっており、2020年の1カ月当たりの13,646ペソに比べ上昇傾向にあります。主要産業別で比較すると、電気・ガス・水道が29,928ペソ、情報通信産業が25,988ペソ、専門職が22,463ペソ、金融業が17,155ペソ、保健・社会福祉が15,885ペソと平均を大きく上回っています。全体的に上昇傾向にありますが、2020年から2023年にかけて水道業が低下傾向にあります。
■ 他国との賃金比較
平均の月額賃金を、他のアジア諸国と比較した表です。
[周辺国との比較]
親日的で人口が豊富であるなどの理由により、日本企業にとっての投資先有望国として、「VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)」と言われることがあります。製造業のワーカーレベルでは、セブ(223USドル)が最も優位ですが、マニラ(234USドル)やホーチミン(242USドル)も同程度の優位性を持っています。フィリピンは中間管理職やエンジニアレベルにおいても、ホーチミンやジャカルタにも負けない優位性を持っています。日系企業の進出が多い、インドや中国、タイ、マレーシアなどと比較した場合、VIP3ヵ国は労働コストとして安価な3ヵ国であり、いずれの国も他の地域よりも労働コストについてメリットが多いことを示しています。
上記のように、労働コストだけでいえば、最良の地とは言えませんが、フィリピンのTOEIC平均スコアは750程度だといわれていますし、ホスピタリティ。親日な気質、長時間労働への意識、会社への帰属意識などもフィリピンのいい面として多くあげられています。
[マニラとセブの比較]
フィリピン国内での比較になると、ワーカーレベルではマニラがセブよりも5%程度高くなります。しかしながら、マニラの賃金は年々下がってきています。これにより、賃金のコストを削減でき、よりフィリピンでの事業を行いやすくなっている傾向がございます。インフラや労働人口の充実度から考えると、セブよりもマニラが好ましい環境であることは当然ですが、最近では、安い労働力を狙ってセブに拠点を置く会社もあります。セブには大学や短大もおおくあり、高等教育を受けた若年労働者を雇用することができ、日系製造業も工業団地内に多く進出しています。
最近では、コールセンター業や英語学校の進出も目立ちます。コールセンター業は特別に高い能力を必要としないので安い賃金で雇用でき、かつ英語能力を利用できる点が大きな魅力です。米国企業の中には、アウトソーシング大国と呼ばれるインドから拠点を移すケースもあり、日本企業も進出しています。
英語学校はそれぞれが英語教育以外にプログラミングやタイピング、医療関係の用語学習を行うなどそれぞれ特色をだして、個性的な学校運営を行っています。また、セブにはIT Parkと呼ばれるビジネス街に多くの日系企業がIT事業を始めようと進出しています。市内にも多くの日系企業が進出しており、今後セブの市場はますます拡大されていく事でしょう。
労働組合と労働争議
■ 労働組合の概要
フィリピン労働法(Labor Code of the Philippines)では、労働者の権利として団結権と、団体交渉権を認めています。また、企業ごとに労働条件を規定することを目的として、 労働協約(CBA: Collective Bargaining Agreement)の締結をすることがあります。
労働協約は、雇用者と組合間での契約を指し、組合は所属する企業内 での労働者グループ代表として正当に認められています。雇用者と組合間で合意された 労働協約は、加入する労働組合員全体に適用されます。
しかし、2015年における労働者の総数が約4,166万人であるのに対し、労働組合の構成員が約360万人に過ぎず、労働協約の対象者が少ないことを表しています。依然として、組合の組織化と団体交渉が労使関係の重要な問題となっているといえます。 そのため、フィリピン憲法と労働法は、組合の組織化と団体交渉を民主的な制度として奨励しています。
2007年の労働組合法の改正によって労働組合が容易に設立できる ようになったことにより、労働組合数と労働組合員数が増加の傾向にある一方で、ストライキ・ロックアウトの件数が2009年に大幅に減少しました。
原因としては、2009年9月より中央労使関係委員会(NLRC: National Labor Relations Commission)や中央斡旋調停委員会 (NCMB:National Conciliation and Mediation Board)等の、 労働雇用省(DOLE:Department of Labor and Employment)の関係 機関が円満解決を図る責任を持つようになったことがあげられます。 また、解決手続の迅速化を図るべく、DOLEがSpeED(Speedy and Efficient Delivery of Labor Justice)計画を推進していることもその 一因であるといえます。
これは、労働者、経営者、政府の協力の下で、労働問題を迅速かつ効果的に解決していくためのものであり、今後も安定した状況が続くという見方が大方を占めます。
■ 労働組合等
労働組合はDOLEに登録された時点で合法な労働組合となります。 また、外国人労働者も、労働組合に参加することや、自ら労働組合を設立することが可能です。ただし、事前にDOLEによる就労許可を得ていることや、フィリピン人労働者と同様の権利のある国籍の労働 者として外務省(Department of Foreign Affairs)に認められることが必要となります。
なお、管理職に就いている者は、一般従業員の労働組合に所属することはできませんが、別途管理職による労働組合を設立することが可能です。一方で、経営者やそれに準ずる者は、団体交渉を目的とする労働組合の設立や所属が認められていません。
■ 労働争議の発生状況
前述の通り、2009年以降NLRCやNCMB等による労働問題の円満解決の責任の明確化により、ストライキ・ロックアウトの通告数はそれ以前に比べて低い水準にあり、2015年は194件となっています。 なお、通告された新規ストライキ・ロックアウトの多くは実施されることなく解決しており、2015年の実施数は5件となっています。
■ 労働争議解決の調整手続
労働争議等の労働問題の解決のための一般的な調整の手続は、労働関係法に以下のように規定されています。
・ 団体交渉の際に双方の意見に相違が生じた場合は、双方の当事者 は、要求日から10日以内に、相手方に対して話し合いの場を持つことを要求することができる
・ 話し合いによって解決しない場合には、当事者双方または一方の 要求、またはNCMBの職権により、NCMBによる双方に対する調停会議への招集が直ちに行われる。当事者双方は、NCMBの招聘状に基づき、調停会議に出席しなければならない
・ 当事者双方は、調停手続の間、紛争の早期解決を中断または妨害する可能性のある一切の行為を行うことができない
・ 労使が合意し、任意仲裁が行われることになった場合は、30日以内に任意労働仲裁人による聴聞が行われ、決定が下される。当該決定は、10日以内にNCMBに申立がなされなければ、最終的な決定となる
NCMBに申立がなされた場合には、申立を行った者は相手側に申立書のコピーを送付し、相手側は受領した日から10日以内に回答書を提出しなければなりません。NCMBは、申立がなされた相手側の回答書を受取ってから20日以内に決定を下します。
NCMBによるその決定を、双方が受取ってから10日を経過した場合には、当該決定は最終的なものとなり、更に不服がある場合には、最高裁判所に訴えることになります。
雇用慣行と労務管理
■ フィリピンにおける雇用情勢
フィリピン人の雇用情勢を見る際には、「海外フィリピン労働者 (OFW)」について考慮しなければなりません。
海外フィリピン労働者の人数、海外からの送金額ともに増加傾向にあり、海外からの送金によりフィリピン国内の経済が支えられている といえます。また、多くの労働者が海外に出稼ぎに行くことを希望していることが、失業率の上昇に歯止めをかけているという側面もあります。
一方で、海外フィリピン労働者の多くが高等教育を受け、高い技術を有する専門職であり、国内の貧困による非就学児童が全体の4割に達していることを鑑みると、相対的にフィリピン国内における労働者の技術力は低く、高い能力、技術力を持つ優秀な労働者が国外に流出している傾向にあります。
■ 手当等の支払状況
フィリピンでの現地スタッフの採用の際には、賃金相場の把握の他に、一般的な手当について把握し、採用条件を決定する必要があります。フィリピンにおける、日系企業の現地スタッフに対する一般的な 手当の導入率及び詳細は、以下のようになっています。
[時間外手当]
原則として時間外労働や休日労働に関しては、日本と同様に時間外手当の支給が義務付けられています。
[出張手当]
フィリピン人は家族の絆が強い国民ですので、出張で家庭を離れる必要がある場合のケアを手厚くする傾向があります。
[通勤手当]
通勤手当として、従業員一律に一定金額を支給するという場合が最 も多く、次に会社のバスによる送迎サービスの提供があげられます。 実費支給とするケースはあまり多くなく、一律の金額を支給することによって管理費削減を優先する傾向にあるといえます。
[職務上の経費の支払]
日本における経費の支払とほとんど同様の内容です。特徴としてあげられるのが、語学レッスン、資格取得やセミナー参加で、日本語を学ばせることでコミュニケーションをより円滑にしたいという日系企業の意識が反映されています。
[昼食手当/補助]
一定金額の手当として支払う場合が6割、社員食堂の提供の場合が4割程度という内訳になっています。
[皆勤/精勤手当]
モチベーション向上のために、約半数の日系企業が導入しています。
[役職手当]
一定の役職以上に支給をする手当で、リーダー/主任以上に支給する場合が約40%、ジュニアマネージャー以上の場合が約30%と、一般的になっています。
[資格/語学手当]
支給割合の高い方から順に、専門技術、会計/経理、日本語能力、 英語能力となっています。
[住宅手当/補助/社宅]
住宅手当として一定額や一定割合の金額を支給する場合と、社宅や寮に社員を住まわせる場合がそれぞれ50%程度になっています。
労働法
労働基準関係法令
フィリピンにおける労働法は、フィリピン労働法とフィリピン労働法施行規則によって定められており、その他の労働関連法として、反セクシャルハラスメント法、父親育児休暇法、祝祭日等に関連する法規等があります。
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