M&A
Ⅰ.マレーシアにおけるM&Aの動向
マレーシアにおいて1981年に誕生したマハティール政権は、戦後続けてきたマレー系と先住民を優遇するブミプトラ政策を踏襲しつつ、ルック・イースト政策や積極的な外資誘致を行うことで、経済発展を実現してきました。その後のアブドラ政権、ナジブ政権は、ブミプトラ政策を踏襲してきましたが、最近は外資誘致の障壁となり得る同政策の見直しを図る動きが生まれています。
マレーシアの経済は、新型コロナ関連の混乱で成長率が2020年はマイナス5.6%と大きく下振れするも2022年には8.7%と回復しました。2023年は3.6%に減速しましたが、2024年は5.1%、2025年は5.2%と堅調な回復基調を維持しています。2020年の世界銀行「ビジネス環境のしやすさ(Ease of Doing Business)」最終版において、マレーシアは世界で第12位であり、2018年の24位より大幅に上昇しており、ASEAN諸国中ではシンガポールに続いて2位となっていました。なお、同ランキングは2021年に廃止されており、後継指標の世界知的財産機関(WIPO)グローバル・イノベーション指数(GII)2024年版では133カ国中33位と高水準を維持しています。また、UNCTADの統計によると、2023年末時点でのマレーシアへの外国投資インワード・ストックは約2,017億USドルに達しており、2010年の約527億USドルから大幅に拡大しています。さらにMIDA(マレーシア投資開発庁)によると、2025年の承認投資額はRM4,267億と過去最高を更新(前年比11%増)しており、近年マレーシアへの投資拡大が加速しています。
マレーシア証券取引所の発表によれば、2024年1月現在での上場企業約980社のうち外資企業の数は約300社であり、約40%を占めています。外資企業の中でも半数は中華系企業が占めており、その他インドや東南アジア資本の企業もあります。こういった上場企業の中に占める外資企業の割合は年々増加傾向にあります。
次のグラフは、2017~2024年の間にマレーシアで行われたM&Aのうち、公表されているM&Aの件数と金額の推移を表したものです。
【In-Out件数・取引額】
【近年マレーシアクロスボーダー事例】
日本 | マレーシア | 年度 | 出資比率 | 業種 |
日本紙 パルプ商事 | Spicers Paper (Malaysia) Sdn Bhd | 2018 | 100% | 製紙業 |
朝日印刷 株式会社 | Kinta Press & Packaging(M)Sdn.Bhd. | 2023 | 65% | 印刷業 |
ブリッジインターナショナル株式会社 | TK International Sdn. Bhd. | 2023 | 100% | マーケティング業 |
岩谷産業 株式会社 | Westech Chemicals | 2023 | 100% | 冷媒事業 |
岩谷産業 株式会社 | ISO Kimia | 2023 | 100% | 冷媒事業 |
TOWA 株式会社 | K-Tool Engineering Sdn. Bhd. | 2023 | 事業譲渡 | 金型製造 |
ニチレイロジグループ | Litt Tatt Enterprise Sdn.Bhd. | 2022 | 出資 | 物流業 |
ニチレイロジグループ | Litt Tatt Distribution Sdn.Bhd. | 2022 | 出資 | 物流業 |
Ⅱ.投資規制
マレーシアでM&Aを行う場合には、マレーシア国内の法律や規制が関係してくるため、日本国内のM&Aとは異なる部分があります。国内で行うM&Aと比べると、以下のような点に注意しなければなりません。
[法制度、税制度、会計基準の違い]
日本とは異なる法制度、税制度、会計基準に基づいているため、手続を行う際、さまざまな留意点があります。このことが、買収ストラクチャーや契約締結の制約になるとともに、買収後の事業活動などに影響を与えます。
M&A
[外資資本規制]
マレーシアでは、以前は外国資本のサービス業などへの出資には規制が数多くありましたが、2009年よりその多くの規制が撤廃され、企業活動の自由度がますます高くなっています。
[外国資本の出資規制]
外国資本によるマレーシア企業の株式保有率については、内外国M&Aガイドライン(2009年)において、製造業の許認可当局である国際産業貿易省などの政府機関と並行して規制されていました。しかし、本ガイドラインは廃止され、マレーシア企業買収における株式保有に関する一般的な外資規制は存在しなくなりました。ただし、業種によっては外国資本の規制対象となる場合があります。たとえば金融業であればマレーシア中央銀行が外資規制をするように、産業により異なる機関が規定を制定しています。
マレーシアにおいてはM&Aに限らず、外国投資の規制業種に該当している場合、当該業種への参入が規制されます。具体的には、マレー系住民を優遇するブミプトラ政策に関連して、外国資本の出資比率に対する外資規制が存在します。近年は外国資本を積極的に誘致する動きにより規制は大幅に緩和されてきていますが、M&Aを検討するにあたっても、まずは外資規制の概要を把握しておく必要があります。
[WRTライセンス]
WRTライセンス(Whole Retail Trading License)は卸・小売業、サービス業(飲食・コンサルティング業)を行う企業かつ、外資資本が51%を超える際に取得が必要なライセンスです。WRTライセンスの取得のための資本金要件は100万リンギット(約3,000万円)になります。
■禁止業種
「マレーシア流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン(Guidelines on Foreign Participation in the Distributive Trade Services Malaysia)」において、流通業・小売・卸業について、外資参入の禁止業種が以下のとおり定められています。
・スーパーマーケット、ミニマーケット(販売床面積3,000 ㎡未満)
・食料品店、一般販売店
・コンビニエンスストア(24時間営業)
・新聞販売店、雑貨店
・薬局(伝統的なハーブや漢方薬を販売する薬局)
・ガソリンスタンド(コンビニエンスストア併設店を含む)
・常設の生鮮市場
・国家の戦略的利益に関連する事業
・布屋、レストラン(非高級店)、ビストロ、宝石店等
■出資比率・資本金規制
禁止業種のほか、出資比率規制や最低払込資本金についての規制が、業種ごとに設けられています。
[国家権益に関わる事業]
国家権益に関わる事業(水、エネルギー・電力供給、放送、防衛、保安等の国益に関わる分野)では、外資参入が30%または49%に制限されています。
[製造業]
製造業では、ほとんどの業種で100%外資参入が認められており、資本金要件もありません。ただし、製造業を営む場合には、投資貿易産業省(MITI:Ministry of Investment, Trade and Industry)が発行するライセンスが必要となり、マレーシア投資開発庁(MIDA:Malaysian Investment Development Authority)に申請を行います。このライセンスの取得は、株主資本が250万リンギット以上、または従業員が75名以上いる製造業の株式会社に対して義務付けられています。
[サービス業]
物流業、卸・小売業、その他別途法律で規定されている商品およびサービス(石油製品、医薬品、有害物質など)を取扱う会社を除く、その他のさまざまな販売形態のサービス業については、最低払込資本金が100万リンギットと定められています。
サービス業についての管轄は国内取引・生活費省(Ministry of Domestic Trade and Cost of Living:KPDN)です。
Ⅲ.会社法及びM&Aスキーム
マレーシアにおけるM&Aは、会社法(Companies Act 2016の「M&A手法の手続・規制」)、資本市場・サービス法(CMSA:Capital Markets and Services Act 2007)、買収コード(Malaysian Code on Take-overs and Mergers 2016)、買収ルール(Rules on Take-Overs, Mergers and Compulsory Acquisitions)によって規制されています。また、対象会社が上場会社である場合は、マレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)の上場基準(Listing Requirements)による規制も受けます。なおM&Aの主な規制当局は、CMSAを規定するマレーシア証券委員会(SC:Securities Commission)、上場企業に対してはブルサ・マレーシア、金融業を行う会社の買収時にはマレーシア中央銀行となっています。
また、CMSAの第6章の2部および2016年買収コードに従い、証券委員会(SC)に対して正しく申請書類を提出するための買収コードの内容補足およびガイドラインとしての2016年買収ルールが発効されています。
2016年買収ルールは、CMSAの第6章2部および2016年買収コードと合わせて確認する必要があります。
■外資企業の形態
会社法上、外資企業の進出形態は法人、外国法人支店、駐在事務所の3つです。また、法人の場合、以下3種類の法人形態があります。
株式有限責任会社
出資者の責任を所有株式の金額を上限とする会社形態です。これはさらに、公開会社(Bhd.)と非公開会社(Sdn.Bhd.)に区分されます。
非公開会社は、42条で下記のように定義されています。
・株主数50名以下
・株式譲渡制限
・株式等の一般公募不可
マレーシアにおける非公開会社は上記の定義がなされている企業であり、厳密には上場していないという意味ではありません。
公開会社は非公開会社以外の株式有限責任会社の形態を取る会社を指します。
保証有限責任会社
保証有限責任会社とは、出資者の責任を事前に定めた出資保証額内とする会社形態です。新会社法では、当該形態の会社のみ定款の作成が明確に義務付けられています。
無限責任会社
無限責任会社とは、出資者の責任に制限を課さない会社形態です。
■公開会社と非公開会社の登記内容の比較
【非公開会社株式会社と公開株式会社の比較】
[マレーシアの会社法]
2017年1月31日より、新会社法(Companies Act 2016:2016年会社法)が施行されました。会社法が大幅に改正されたのは実に51年ぶりとなります。
この法改正では主に非公開会社に対する規制が緩和されており、公開会社について旧会社法を踏襲した規定は適応されます。
[M&Aスキーム]
マレーシアにおけるM&A取引としては、以下のような方法が考えられます。
【買収の手法】
- 第三者割当による買収
マレーシアにおいては、発行済株式の取得に加え、第三者割当増資で発行した新規株式の取得による買収も可能です。新株を発行するにあたり、株主総会の普通決議が必要となります。
■株式譲渡
マレーシアにおいて株式譲渡は代表的なM&A手法です。上述の公開買付に当てはまらない場合に適用され、その方法や手続は主に会社法や関連法により規定されています。
[株式売渡請求]
株式売渡請求権(資本市場・サービス法222条)により、買付者は、少数株主が保有している株式の売渡請求をすることができます。この制度は、買付者が公開買付の実施後4ヵ月以内に、90%以上の株主により株式買付の承認を得ていた場合において、それから2ヵ月以内に、買付に応じない少数株主に対して通知をすることが適用要件となります。少数の反対株主の株式を強制的に取得することにより、買付者は対象会社の株式の100%を取得することが可能となります。なお、株式売渡請求権を行使する場合、買付者は、原則としてすでに取得した株式と同様の条件(価格を含む)で、反対株主の株式を取得しなければなりません。一方、反対株主は売渡請求に対し、裁判所において異議を申立てることができ、請求権行使の可否は裁判所が判断します。
[スキーム・オブ・アレンジメント]
スキーム・オブ・アレンジメントとは、対象会社の株主総会による承認や裁判所の認可など、一定の条件を満たした場合に、買収者が対象会社の株式を取得できる制度です。日本法にはない制度ですが、英国法の影響を受けたマレーシアやシンガポールなど多くのアジア諸国で、同様の制度が見られます。ほかの買収方法と異なり、対象会社が主導権を有し、株式譲渡に限らず株式消却や企業分割等、具体的な内容を柔軟に定めることができます。会社の資本再編や債権者・出資者との利害調整、グループ会社の合併または再編など、さまざまな目的および用途に用いられる組織再編の手法であり、会社法により規制されています。
スキーム・オブ・アレンジメントにより、対象会社の株式を100%取得し、完全子会社とすることが可能です。流れは以下のとおりです。
事業譲渡
事業譲渡とは、一定の事業目的のために組織化され、有機体一体としての機能を有する資産および負債の移転を指します。事業を譲渡する譲渡会社(対象会社)と事業を譲渡される譲受会社(買付者)との間で、契約を締結することにより行われます。株主総会における普通決議により株主の承認を得た後に、事業譲渡手続を行います。上場会社の事業を譲渡する際に、出席株主の株式の75%以上の賛成による承認が必要となります。
申請書類の提出
買収・合併・強制買付に関する申請書類は、SCにより以下のように定められています。・・・❶
[申請カバーレターのフォーマット]
・申請概要の記載
・背景の説明
・詳細および妥当性
・M&A案に関わる取得済/ 未取得許認可
・ターゲットにより公開され申請未完了のM&A案
・M&A実施のタイムテーブル
・申請者が定められた期間において倒産、提訴、証券基準への不履行、政府による尋問の対象となっていないことに対する確証
・独立アドバイザー(IA:Independent Adviser)による利害の不一致の宣言書(利害の不一致が実在する場合には、独立アドバイザーはその性質および対処方法を開示する)
・すべての申請情報/ 書類が、CMSA221条および買収コード3条につき慎重に考慮された旨を申請者が宣言する供述
・すべての申請情報/書類が、CMSA221条および買収コード3条につき慎重に考慮された旨を独立アドバイザーが宣言する供述
・SCへの支払
・申請者の窓口の氏名および電話番号
・アドバイザー会社の授権者の氏名、所在地および署名
[申請書類の提出]
独立アドバイザーは申請者に代わり、マレーシア証券委員長宛てに申請書類2部を提出します。…❷
[買収コードによる手続]表
M&Aに関わる通常の契約書のほかに、以下①~⑥に挙げた文書および手続きが必要となります。
買収オファー通知の公表 … ①
買付者は、主要全国紙のうち最低3紙(公用語で最低1紙、英語で最低1紙)を通じて公表するとともに、対象会社の取締役会およびSC、対象会社が上場している場合にはマレーシア証券取引所に対して、書面で買収意思を速やかに通知します。買収オファー通知の公表は、以下の情報を含んでいる必要があります。
・買付者および関係者の情報
・オファー金額
・現金以外の検討事項
・買収後の対象会社の議決権付株式および議決権の種類および合計数
・買収に関して合意される詳細事項
・買収オファーの条件
通知受領の公表 … ②
対象会社の取締役会は買付オファーの受領を主要全国紙の紙面で公表するほか、対象会社が上場している場合は、マレーシア証券取引所に対して通知しなければなりません。この発表には、対象会社の取締役会で公表されたすべての情報と、ほかのオファーを募集しているか否かの情報を含んでいる必要があります。
公開買付公示文書(Offer Document)… ③
SCの承認を得るため、公開買付公示文書をSCに提出します。公開買付公示文書において買付者は、対象会社の株主および独立アドバイザーがオファーの承諾・拒否を判断するためのメリットやリスク評価を目的として、合理的に必要とされる情報を公表します。公開買付公示文書には、買収ルールのSchedule 1において定められる以下の情報が必要とされます。
・最終的な買付者の情報
・買収オファーの条件
・対象会社事業の継続性に関する意図、事業への重大な変更に関する意図の表明
・提案金額、および買付がキャッシュにおいて行われる場合、十分な買収財源を有しているかの確認
・買付者が強制買収の権利を行使するか否か
受理および譲渡の申請用紙 … ④
対象会社の取締役回覧には、買収提案に関するコメントと転換証券の株主と保有者が十分な情報に基づいた決定を下せるようにするための情報を記載し、独立アドバイザーは取締役回覧を基に提案について十分な評価を行います。
独立したアドバイスの回覧(IAC:Independent Advice Circular) には、買収ルールのSchedule 2に記載されている情報が含まれ、対象会社の取締役会によって任命された独立アドバイザーによって作成されます。アドバイザーは、買収オファーの公平性と妥当性に基づいて買収提案の受諾または拒否をすることができ、買付者より提案された対象会社の事業計画を含む買収提案についてコメントします。
対象会社の取締役会による株主への通知 … ⑤
対象会社の取締役会から全株主に通知を行います。株主への通知には、取締役会からの買収オファーに対するコメント、意見、情報を記載します。また、買収オファーの承諾や拒否を判断するためのメリットやリスクの評価のために必要とされる情報が記載されます。
独立アドバイザーによる報告書 … ⑥
独立アドバイザーは、買収オファーに関して、対象会社の取締役会、株主、転換証券の保有者に対し、意見や情報を提供します。特に、買収ルールのSchedule 2に規定される情報を記載し、報告書を作成する必要があります。
Ⅳ.関連する各種規制・法律
[強制的公開買付(買収ルール4条)]
SCから承認を得た場合を除き、以下の場合は買付者に強制的公開買付が義務付けられます。
買付側が支配権を獲得した場合
33%を超える会社の議決権付株式を取得した場合、支配権を獲得したものと認識されます。
買付によって Creeping threshold となった場合(Creeping threshold の引き金となった場合)
Creeping thresholdとは、すでに33%超55%以下の議決権付株式を取得している状態で、6ヵ月の間2%超の議決権付株式を追加で取得することを言います。
新株式の発行により希釈化された場合
議決権付株式が新株式の発行により希釈化された際に、次のいずれかの条件を満たす場合、議決権付株式を保有する株主には強制的公開買付を義務付けられます。
株式保有が33%以下に減少した後、新たに追加で購入し、保有率が33%を超えた場合
株式保有が33%以上50%以下まで減少した後、6ヵ月の間に2%超の株式を取得した場合(Creeping thresholdとなった場合)
また、次の状況において強制的公開買付が義務付けられる場合があります。
Upstream entity を通じて買収する場合
次のいずれかの状況にある場合、Upstream entityが間接的ないし直接的に支配しているDownstream entity、もしくはUpstream entityないしUpstream entityの関係会社における議決権の集約によって支配権を確保されているDownstream entityのいずれかを支配しているUpstream entityの株式50%超を取得する買付者に対して強制的公開買付が起きる可能性があります。
・Downstream entityがUpstream entityと重要な関係にある場合
(Downstream entityの資産、純資産、純固定資産、そして売上の50%以上が、Upstream entityによって構成されている場合)
・Downstream entityの支配権を持つことが、Upstream entityの法的な支配権を取得のための重要な目的であると合理的にみなされる場合
※Upstream entityとは、買収コードおよび買収ルールの適用外である会社、Downstream entityとは、買収コードおよび買収ルールが適用される会社を指す。
[任意的公開買付]
買収コードにおいて、任意的公開買付とは、強制的公開買付以外の公開買付と定義されています。任意的公開買付は、上述の強制的公開買付の条件が適用されない場合においても、買付者が対象会社の発行済株式を100%取得するために用いられます。
[部分的公開買付(買収ルール5条)]
任意公開買付のうち、対象会社の発行済株式の100%未満を取得する場合を部分的公開買付と言います。SCの事前の承認を得ない限り、部分的買付はできません。
通常、部分的公開買付によって保有される議決権が33%を超えない場合であれば、承認を得ることができます。
[公開買付規制]
公開買付規制とは、主に上場会社の株式取得に際して、CMSAや買収コードに従い、買付の価格、数量、期間を公表した上で株式の買付を行うことを義務付けるものであり、特定株主の優遇や不透明な取引を防ぎ、取引の公平性を維持するための規制です。
[競争法]
競争法(Competition Act 2010)および競争委員会法
(Competition Commission Act 2010)において、非競争的合意や独占的地位の濫用を禁じており、M&Aに際しては注意が必要です。それらに関するガイドラインや違反時の手続に関するガイドラインが、2012年に公表されています。
[大量保有報告規制]
特定の株式を大量に保有すると、経営権への影響や株価の変動要因となり、会社の利害関係者へ影響を及ぼす可能性があります。そのような事態から一般投資家を保護する目的で、証券業規制(Securities Industry Regulations 2003)に大量保有報告規制を定めています。具体的には、株主が公開会社(株式譲渡時に会社の承認を要することを定款に定めている会社)の議決権付株式の5%超を取得した場合、および保有株式に変動がある場合は、7日以内に対象会社およびSCに対して、書面による株式の大量保有報告を行う必要があります。
[インサイダー取引]
CMSA 188条における、投資家保護を目的としたインサイダー取引に関する規定で、会社の株式発行に関わる内部情報を有している者の株式売買は禁止されています。また、内部情報を有するインサイダーが内部情報を他人に提供して、株式の売買を誘導する行為も禁じられています。同条項において内部情報とは、有価証券の価格に影響力を有する一般に入手できない情報とされています。これらの違反行為が発覚した場合、CMSA 209条の定めのとおり、10年以下の懲役および100万リンギット以上の罰金が科されます。
[株主の権利]
株主は、以下のような場合には会社法に基づき、集団的な合意権を有する場合があります。
・重要な価値を有する会社の事業や資産の取得や消却
・会社およびそのホールディング会社の役員や主要株主、あるいは役員と関係のある人物が会社の株式や非現金資本を買収・売却する取引
上場企業の場合、株主が取引に合意する権利は、上場基準における公式によって算出される取引割合に起因します。
Ⅴ.M&Aに関する税務
[譲渡所得(キャピタル・ゲイン)税]
マレーシアにおいては、従来、不動産収益税(RPGT:Real Property Gains Tax)以外に譲渡所得税はありませんでしたが、2024年3月1日より、マレーシア企業の非上場株式の売却益に対するキャピタル・ゲイン課税(CGT)が導入され、現在適用されています。
RPGTは、不動産会社の所有する資産や株式の売却によるキャピタル・ゲインに課される税金と定義され土地に付随する建物や建造物も含まれます。不動産売却によるキャピタル・ゲインや、5年以上保有された不動産会社の株式は不動産収益税の対象外となっています。
買い手は売り手に支払う譲渡対価の3%を源泉徴収し、譲渡日から60日以内に税務当局へ納付します。売り手がPR(永住権)を持たない外国人または外国法人の場合、源泉徴収率は7%になります。また、マレーシアの内国法人、信託、社団が不動産の取得日より3年以内に譲渡する場合は、5%となります。
2024年3月1日に導入されたキャピタル・ゲイン課税(CGT)の税率は以下の通りです。2024年3月1日以前に取得した非上場株式については、売却・譲渡時に売却益の10%または売却総額の2%のいずれかを選択して納付します。2024年3月1日以降に取得した株式については、売却益の10%が課税されます。
なお、以下の株式の処分については、CGTの免税対象となります。
・マレーシア証券取引所が承認した新規公開株式(IPO)
・同一グループ内における株式移転
[税務上の欠損金および減価償却]
税務上の欠損金および未処理の減価償却は会社に累積し、未使用の欠損金や未処理の減価償却は、会社の清算時に失われます。
従来は、株主の過半数に変化があった場合の未使用の税務上の欠損金や未処理の減価償却は、翌年に繰越せないとされていました。しかし、現在、財務省は直接株主の半数以上に変化があった休眠会社にのみ当該規制が適用されることを明確にしています。
[所得税]
税務当局は、賦課年度末から過去5年遡って所得税を課すことができます。なお、当局が納税者による虚偽申告、意図的な不履行、過失等があったと主張する場合、無制限に遡ることが可能となります。
[印紙税・取引税]
印紙税は法的文書に課される税であり、移転や譲渡の契約書等に対し、取引価格に応じて課税されます。
主な印紙税は以下の通りです。
資産買収における不動産譲渡に課される印紙税
・10万リンギット未満 … 1%
・10万~50万未満リンギット … 2%
・50万リンギット以上100万リンギット … 3%
・100万リンギット以上…4%
2024年1月1日より外資系企業及び外国人(マレーシア永住者を除く)がマレーシアの不動産売買契約を行う際の不動産譲渡証書等に一律4%の印紙税が課されることとなりました。
株式買収時の印紙税
・非上場株式
支払金額または市場価格のうち、高い方の金額に0.3%
・上場株式
支払い金額の0.15%
建設請負契約のサービス契約
・契約額の0.1%
ローン契約書
・教育ローン
一律10リンギット
・教育ローン以外
ローン金額の0.5%
その他一般契約書及び覚書
・一律10リンギット
