会計
会計
1 マレーシアの会計制度
■ 会計制度の概要
マレーシアの企業情報開示に関する主要法規・ガイドラインとして、①会社法(Companies Act 2016:CA2016)、②マレーシア会計基準(MFRS・MPERS)および財務報告法1997(Financial Reporting Act 1997)、③ブルサマレーシア証券取引所(Bursa Malaysia Securities Berhad)上場基準の3つがあります。
【関連法規・ガイドライン一覧(2026年6月現在)】
(出所:SSM・MASB・Bursa Malaysia各公式資料をもとにTCG作成(2026年6月時点))
■ 会計関連法規
マレーシアで事業を行う法人は会社法(CA2016)の規定に従わなければなりません。会計については、CA2016第166〜169条において年次報告書に含まれる財務諸表の内容・手続等を規定しており、さらにマレーシア会計基準委員会(MASB:Malaysian Accounting Standards Board)が定めた会計基準への準拠が要求されています。
公開会社・上場会社については、ブルサマレーシア証券取引所等が定める内容によって、多数の利害関係者保護のため適時開示が求められています。
■ 会計制度の基本事項
【マレーシア会計制度の基本事項(2026年6月現在)】
(出所:Companies Act 2016・MASB・SSM各公式資料をもとにTCG作成(2026年6月時点))
■ 会計帳簿
事業を営む個人納税者および法人納税者は会計帳簿を備えなければなりません。取締役は会計帳簿を作成し、会社の本籍地(登録住所)に保管する義務を負います。
・帳簿・証票類の保存期間:最低7年間(CA2016第245条3項)
・記帳言語:マレー語または英語
・記帳通貨:原則マレーシア・リンギット(RM)
■ 言語・通貨
SSMが発行する指針では、開示書類の言語は原則としてマレー語または英語でなければなりません。通貨については原則としてマレーシア・リンギットを使用します(CA2016第259条1項(c))。
2 マレーシア会計基準
■ 会計基準の体系
マレーシアで登記されているすべての会社は、MASBが定める会計基準に従います。マレーシアには以下の2つの主要な会計基準フレームワークが存在します。
【会社の種別と適用会計基準(2026年現在)】
(出所:MASB・SSM公式資料をもとにTCG作成(2026年6月時点))
■ MFRS(Malaysian Financial Reporting Standards)
MFRSは、国際財務報告基準(IFRS)とほぼ完全に準拠したマレーシアの財務報告基準です。2012年1月1日以降に開始する会計年度から、上場会社・金融機関・証券会社等のパブリック・インタレスト・エンティティ(PIE)に強制適用されています。
・MFRSはIFRSと実質的に同一であり、国際的な比較可能性を確保しています
・MFRSの基準は「MFRS Bound Volume」として毎年発行されます(MASB BV2025最新版)
・証券取引所に上場している外国企業はIFRSに基づいて財務諸表を作成することも認められます
⚠ 上場会社の子会社・関連会社・持分法適用会社は、親会社がMFRS適用義務を負う場合、子会社もMFRS適用が必要となり、MPERSを適用できません(Private Entity非該当)。
■ MPERS(Malaysian Private Entities Reporting Standard)
MPERSはMASBが2014年2月に発行した、非公開会社(Private Entity)向けの会計基準です。国際会計基準審議会(IASB)が発行するIFRS for SMEs(中小企業向けIFRS)を実質的にベースとしています。
・現行のMPERS(2016年):2016年1月1日以降の事業年度から適用
・改訂版MPERS(2025年10月発行):2027年1月1日以降の事業年度から強制適用(早期適用可)
・改訂MPERS(2025)はIFRS for SMEs第3版(2025年2月IASB発行)に完全準拠
・収益認識規定をIFRS 15ベースに大幅改訂。不動産開発活動に関する規定(第34号)は削除
⚠ 2025年10月のMPERS改訂版発行により、2027年以降は現行MPERS(2016)が廃止されます。日系企業を含むマレーシアの非上場子会社は、改訂MPERSへの移行計画と親会社への影響を事前に確認することが重要です。
■ 会計基準の設定主体
マレーシアの会計基準はMASBによって設定・改廃されます。MASBは財務報告法1997(FRA1997)により設立された独立機関であり、政府機関に所属しません。委員会はマレーシア中央銀行(BNM)関係者、証券機関関係者、会計事務所等のメンバーで構成されています。
3 IFRS
■ 世界的なIFRS適用の流れ
企業活動のグローバル化に伴い、国際間のM&Aや金融市場取引が増加するなか、会計処理の全世界的統一化の動きが進んでいます。その中心が国際財務報告基準(IFRS)であり、現在では世界160か国以上が導入しています(2026年6月現在)。
■ マレーシアにおけるIFRSの導入経緯
マレーシアはアジア諸国の中でも早くから国際基準を積極的に取り入れてきた国の一つです。2008年8月にMASBがIFRS導入声明を発表し、2011年11月からIFRSを取り込んだMFRS(マレーシア財務報告基準)が導入されました。
2016年1月1日からは非公開会社向けに新会計制度MPERSが適用開始され、中小企業にも国際会計の基準が適用されるよう整備されています。さらに2025年10月には改訂MPERS(2025)が発行され、2027年からの強制適用が決定されました。
4 マレーシアの開示制度
■ 開示制度の概要
マレーシアの企業情報開示に関する法規及びガイドラインとして、①会社法(CA2016)、②マレーシア会計基準(MFRS・MPERS)および財務報告法、③ブルサマレーシア証券取引所上場基準(Listing Requirements)の3つがあります。
◆ 全企業共通
CA2016によれば、マレーシア国内で登記されているすべての会社は年次報告書を作成しなければなりません。年次報告書は会計年度終了から6か月以内に開催される年次総会(AGM)に提出され、開催日の14日前には全株主に送付する必要があります。
年次総会で承認された後、CA2016第169条に定める形式の年次申告書を株主総会から1か月以内にSSMに提出します。提出は原則としてMBRS 2.0ポータルを通じてXBRL形式で行います。
◆ 上場企業
ブルサマレーシア証券取引所に上場している企業は、会計年度終了から4か月以内に年次報告書を取引所に提出しなければなりません。また、四半期報告書を各四半期終了から2か月以内に作成・提出します(四半期報告書の監査は不要)。
■ 開示内容
年次報告書には通常、①監査済財務諸表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書・株主持分変動計算書・注記)、②取締役報告書、③取締役陳述書、④内部統制報告書、⑤監査報告書が含まれます。
財務諸表はマレー語または英語で記され、通貨はマレーシア・リンギットで表示されます。また、会計帳簿作成の基礎となった請求書・証票類は原則7年間の保存が義務付けられています。
■ 開示スケジュール
開示種類 | 対象企業 | 期限 |
年次報告書(Annual Report) | 全企業(SSMへのXBRL提出) | AGM終了後1か月以内(年度末から原則7か月以内) |
年次報告書 | 上場企業(Bursa提出) | 会計年度終了後4か月以内 |
四半期報告書 | 上場企業(Bursa提出) | 各四半期終了後2か月以内 |
財務諸表の作成・株主回覧 | 全企業 | 会計年度終了後6か月以内 |
(出所:Companies Act 2016・Bursa Malaysia Listing Requirements・SSM MBRS 2.0をもとにTCG作成(2026年6月時点))
5 マレーシアの監査制度
■ 監査の基本義務
CA2016は、駐在員事務所と清算中の会社および監査免除会社を除くすべての会社(支店含む)が原則として年次の会計監査を受けることを定めています。取締役は会計帳簿を作成・保管し、監査済財務諸表および取締役会報告書を作成の上、年次株主総会(AGM)で報告することが義務付けられています。
■ 監査免除制度(Practice Directive No.10/2024)
2024年12月16日、SSM(Companies Commission of Malaysia)は新たな「監査免除適格基準(Practice Directive No.10/2024:PD10/2024)」を発行しました。2025年1月1日以降に開始する事業年度から適用されます(旧PD3/2017は失効)。
対象は一定規模以下の非公開会社(Private Company)であり、以下の3条件のうちいずれか2条件を「当事業年度および直近2事業年度」継続して満たす必要があります。段階的閾値は以下の通りです。
【監査免除(PD10/2024)段階的閾値】
(出所:SSM「Practice Directive No.10/2024」・Grant Thornton・Crowe Malaysia各資料をもとにTCG作成(2026年6月時点))
⚠ 監査が免除される場合でも、会社は①財務諸表の作成義務(CA2016第244条)、②取締役会による承認(第248条)、③MBRS 2.0経由でXBRL形式の非監査財務諸表のSSM提出義務(第258・259条)、④7年間の会計帳簿保存義務(第245条)を引き続き負います。また、株主の要求またはSSM登録官の指示により監査を求められた場合は免除が適用されません。
■ MBRS 2.0(Malaysian Business Reporting System 2.0)
SSMは2024年11月26日にMBRS 2.0の義務化を発表し、以下の3段階で全法人への完全義務化が完了しました。
・Phase 1(2024年12月1日〜):CA2016に基づく未監査財務諸表のXBRL形式デジタル提出義務化
・Phase 2(2025年3月1日〜):旧CA1965対象企業に拡大
・Phase 3(2025年6月1日〜):マレーシア登記の全法人(外国法人支店・BNM規制金融機関含む)の監査済財務諸表もXBRL形式提出対象となり、完全義務化完了
XBRLは財務情報を国際的に標準化するデータ形式であり、比較可能性・正確性・透明性の向上が期待されます。提出はSSMのMBRS 2.0ポータル(またはMBRS認定ソフトウェア)を通じて行います。
⚠ MBRS 2.0への対応準備が不十分な場合、SSMによる制裁が課されることがあります。監査免除会社も非監査財務諸表のXBRL提出が必須であることに留意が必要です。
■ 電子インボイス(e-Invoice)制度
税務コンプライアンスの向上を目的として、マレーシア内国歳入庁(LHDN/IRB)の管轄のもと、電子インボイス(e-Invoice)制度が段階的に導入されています。企業はMyInvoisポータルまたはAPIを通じて取引データをリアルタイムで政府に送信します。
フェーズ | 適用開始日 | 対象企業 |
Phase 1 | 2024年8月1日〜 | 年間売上高RM1億超の企業 |
Phase 2 | 2025年1月1日〜 | 年間売上高RM2,500万超RM1億以下の企業 |
Phase 3 | 2025年7月1日〜 | 全ての事業者(中小企業含む) |
(出所:LHDN「e-Invoice Guidelines Version 3.3」をもとにTCG作成(2026年6月時点))
⚠ 中小企業向けには猶予措置・免除規定がある場合があるため、最新のLHDNガイドライン(e-Invoice Guidelines最新版)の確認が随時推奨されます。
■ 会計監査人の資格
マレーシアで監査を行うには、勅許会計士としてマレーシア会計士協会(MIA:Malaysian Institute of Accountants)に登録されていなければなりません。資格取得方法は以下の3通りです。
・① MIAが実施する会計士試験に合格した者
・② マレーシア国内の大学学部で会計学の博士号を取得後、実務経験3年以上を有した者
・③ 英連邦諸国等の職業会計士団体において資格取得後、マレーシアの勅許会計士として登録した者(※日本公認会計士協会は含まれていないため注意)
6 MPERS(改訂版2025)セクション一覧
MASBが2025年10月に発行した改訂版MPERS(2025)は、IASBによるIFRS for SMEs第3版(2025年2月発行)に基づいています。2027年1月1日以降の事業年度から強制適用(早期適用可)。
【MPERS(2025年改訂版)セクション一覧(主要)】
(出所:MASB「MPERS (2025)」(2025年10月発行)をもとにTCG作成(2026年6月時点))
【参考文献・一次情報源】
● SSM(Companies Commission of Malaysia)「Companies Act 2016(Act 777)」https://www.ssm.com.my
● SSM「Practice Directive No.10/2024 - Qualifying Criteria for Audit Exemption」(2024年12月16日)
● SSM「MBRS 2.0 Mandatory Implementation」(2024年11月26日発表)
● MASB(Malaysian Accounting Standards Board)「MFRS Bound Volume 2025」https://www.masb.org.my
● MASB「MPERS (2025) - Malaysian Private Entities Reporting Standard(改訂版)」(2025年10月10日発行)
● LHDN「e-Invoice Guidelines Version 3.3」https://www.hasil.gov.my
● Bursa Malaysia「Listing Requirements」https://www.bursamalaysia.com
● IFRS Foundation「Use of IFRS Standards - Malaysia」https://www.ifrs.org
● ジェトロ「マレーシア投資・税務・会計情報」https://www.jetro.go.jp/world/asia/my/
● Grant Thornton Malaysia「Audit Exemption Malaysia: What PD 10/2024 Means for You」(2025年)
