投資環境
+ .1 .投資規制
投資規制
マレーシアはマレー系、中華系、インド系の人々が住む多民族国家となっており、民族間の経済格差が問題となっていました。
連邦憲法に定義されている、マレーシア系の個人及び先住民の事をブミプトラといいます。ブミプトラに対して優遇・保護するための政策全般が「ブミプトラ政策」と呼ばれ、マレー人の経済格差の是正だけでなく外資規制としても機能してきました。ブミプトラ政策の目的は、ブミプトラ企業への支援や、ブミプトラの教育環境の向上及び就労の支援とされてきました。
しかし、ブミプトラ政策に基づく外国資本の企業設立に対する規制は大幅に緩和されており、製造業などほとんどの業種で100%外国資本による出資が認められています。ただし、サービス業、とりわけコンビニエンスストアなどの卸・小売業分野では規制が残っています。
禁止業種
2010年に公表された「マレーシア流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン」で、流通業・小売・卸業について、外資参入の禁止業種が以下のとおり定められています。
・スーパーマーケット、ミニマーケット(販売床面積3,000㎡未満)
・食料品店、一般販売店
・コンビニエンスストア(24時間営業)
・新聞販売店、雑貨店
・薬局(伝統的なハーブや漢方薬を販売する薬局)
・ガソリンスタンド(コンビニエンスストア併設店を含む)
・常設市場(ウェットマーケット)
・常設歩道店舗
・国家の戦略的利益に関連する事業
・布屋、レストラン(非高級店)、ビストロ、宝石店等
出資比率・資本金規制
禁止業種の他、出資比率規制や、最低払込資本金についての規制が業種ごとに設けられています。
- 国家権益に関わる事業
国家権益に関わる事業(水、エネルギー・電力供給、放送、防衛、保安等の国益に関わる分野)では、外資参入が30%または49%に制限されています。
- 製造業
製造業では、ほとんどの業種で100%外資参入が認められており、資本金条件も課されていません。ただ、製造業を営む場合には、投資貿易産業省(MITI:Ministry of Investment, Trade and Industry)により発行されるライセンスが必要となり、マレーシア投資開発庁(MIDA :Malaysia Investment Development Authority)に申請を行います。このライセンスの取得は、株主資本が250万リンギット、または従業員が75名以上いる製造業の株式会社に対して義務付けられています。
- サービス業
物流業、卸・小売業、その他別途法律で規定されている商品及びサービス(石油製品、医薬品、有害物質など)を取扱う会社を除く、その他の様々な販売形態のサービス業についての最低資本金はありません。そのため1RMから設立は可能です。実務上はライセンスやEP取得において払込資本金が必要になります。
サービス業についての管轄は国内取引・協同組合・消費者省(KPDN)です。
以下、各業種について詳しく述べます。
(③.1)物流業
物流業は規制が特に厳しく、業種によって資本規制が以下のとおり定められています。
(③.2)卸・小売業
卸・小売業については、以下の様に資本要件が販売形態ごとに異なります。
なお、 ハイパーマーケットとは販売床面積が5,000㎡以上の販売店、スーパーマーケットとは3,000㎡以上4,999㎡未満の販売店のことをさします。
その他の規制
- 為替
為替に関する規制は、2013年金融サービス法(Financial Service Act 2013)および2013年イスラム金融サービス法(Islamic Financial Service Act 2013)で以下のように定められていました。
なお、輸出業者による外貨保有規制については、2021年4月15日をもって廃止されており、輸出事業者は輸出収益を外貨のまま保有することが可能となっています。また、2025年7月1日以降、国内法人を対象とした適格居住者投資家(QRI)プログラムが導入されており、海外事業で獲得した外貨をリンギットに両替した企業が再び海外で再投資を実施する場合、マレーシア中央銀行(BNM)の事前承認を要しません。同プログラムは2028年6月30日までの実施が予定されています。
- 土地所有規制
下記分類に該当する条件で不動産を取得する場合には、「不動産取得に関するガイドライン」(Guideline on the Acquisition of Properties)に基づき首相府経済企画庁に対して申請を行う必要があります。
③外国人駐在員の雇用制限
外資企業は、訓練されたマレーシア人が不足している分野では、外国人を雇用することが認められています。ただし、マレーシア国民の雇用を保護し、マレーシア国民が様々な職で訓練をされ、技能・技術を向上させるためにも、外資企業が派遣できる外国人駐在員の人数、期間などに制限が設けられています。
派遣できる外国人駐在員の枠は職種により、キーポスト、タイムポストなどの区分がなされており、各ポストで認められる人数は、事業内容によって異なります。なお、政府が育成に注力したい分野・業務などでは、認可が下りやすくなっています(下表参照)。
さらに、2年以上滞在する駐在員は雇用パス(Employment Pass)という管理職及び専門職向けの就労ビザを取得する必要があります。
雇用パスの取得には、月額の最低給与が10,000リンギット以上、年間300,000リンギット以上の運営費、雇用契約期間は最低2年間、最低資本金(下表参照)などの条件があります。
⚠ 【2026年6月1日施行】雇用パス(EP)最低給与基準の大幅引き上げ
マレーシア内務省(MOHA)は2026年1月14日、雇用パス(EP)制度創設以来となる大幅な改定を発表し、2026年6月1日以降に提出される新規・更新申請から適用されています。月額基本給(手当・賞与・住宅手当等は算入されません)に基づく最低給与基準がカテゴリーごとにほぼ倍増したほか、これまで存在しなかった通算の最長就労期間の上限が導入され、カテゴリーII・IIIではマレーシア人への技能承継を目的とする「サクセッションプラン」の策定が義務化されました。日本からの駐在員の多くが該当するカテゴリーIIでは、最低月額給与が5,000リンギットから10,000リンギットへと引き上げられており、既に就労中の駐在員も更新時には新基準が適用される点に注意が必要です。
【雇用パス(EP)最低給与基準の新旧比較(2026年6月1日施行)】
カテゴリー | 旧基準(~2026年5月) | 新基準(2026年6月1日~) | 最長就労期間 | 承継計画 |
|---|---|---|---|---|
カテゴリーI(経営幹部) | 月額10,000リンギット以上 | 月額20,000リンギット以上 | 最大10年 | 不要 |
カテゴリーII(管理・専門職) | 月額5,000~9,999リンギット | 月額10,000~19,999リンギット | 最大10年 | 必須 |
カテゴリーIII(技術職) | 月額3,000~4,999リンギット | 月額5,000~9,999リンギット(製造関連サービス:7,000~9,999リンギット) | 最大5年 | 必須 |
(出所:マレーシア内務省(MOHA)2026年1月14日発表・入国管理局Expatriate Services Division(ESD)告知(Announcement 264/266)をもとにTCG作成(2026年6月時点))
このほか、カテゴリーIIIのパス保有者についても新たに家族帯同(配偶者、21歳未満の子、親)が認められるようになるなど、待遇面の拡充も図られています。一方で、就労期間の通算上限は雇用主・職位・カテゴリーの変更がない限りリセットされない設計となっており、長期にわたりマレーシアで就労してきた駐在員にとっても影響が及ぶ可能性があります。本制度の詳細な運用(既存パス保有者への経過措置の有無等)については、引き続きMOHA・ESDから追加のガイドラインが発出される見込みであるため、更新時期が近い駐在員を雇用する企業は、早めにESD(Expatriate Services Division)やMIDA等を通じて最新の運用状況を確認することが推奨されます。
④現地人の雇用について
また、マレーシア雇用法(Employment Act 1955)では、外国人の雇用を優先するために現地人を解雇することを禁止しており、その他人員削減の必要がある場合には、現地人と同等の能力を有する外国人から解雇する必要があります(同法60N条)。
+ .2 .投資インセンティブ
インセンティブの概要
■概要
マレーシアには外国投資を奨励するために、多種多様な投資インセンティブが用意されています。産業別優遇策、税制上の優遇措置、保税優遇措置、資本財輸入時の関税減免等の優遇措置があります。投資優遇措置の柱としては、パイオニア・ステータスと投資税額控除が挙げられます。いずれも製造業、農業、ホテル業および観光業、研究開発事業、ヘルスケア事業、その他の事業といった、マレーシア政府の定める「促進事業」に該当する事業を行う会社、及び「促進製品」を製造する会社に与えられる投資優遇措置です。
⚠ 【2026年最新】投資優遇制度の抜本改正:新インセンティブ・フレームワーク(NIF:New Incentive Framework)への移行
マレーシア投資貿易産業省(MITI)およびマレーシア投資開発庁(MIDA)は、2026年度予算で示された方針に基づき、従来のタックスホリデー型(パイオニア・ステータス/投資税額控除中心)の投資インセンティブ制度を抜本的に見直し、「新インセンティブ・フレームワーク(NIF:New Incentive Framework)」を導入しました。製造業については2026年3月1日からNIFへの申請受付が開始されており(従来制度の新規申請受付は2026年2月末で終了)、サービス業についても2026年第2四半期から導入されています。これにより、本節で後述する従来型のパイオニア・ステータス/投資税額控除(ITA)の枠組みは、新規案件については原則として適用されなくなりました。
NIFの最大の特徴は、従来の「奨励業種・奨励製品に該当すれば一律の税制優遇を付与する」という方式から、「投資の質と地域経済への貢献度をKPI(重要業績評価指標)で評価し、評価結果(ティア)に応じて優遇度を決定する」という成果連動型・段階制(ティアリング)の方式へ転換した点にあります。具体的な仕組みは以下のとおりです。
・対象業種:製造業ではNIA(National Investment Aspirations)が定める15分野が対象(半導体・先端機械・EV関連部品・ハラル産業等の高付加価値分野を含む)
・優遇措置の選択:承認を受けた会社は、法人税率を軽減する特別税率(STR:Special Tax Rate)と、資本的支出を法人税の課税所得から控除する投資控除(ITA)のいずれかを選択可能
・ティア判定:MIDAが「NIAスコアカード」(高付加価値雇用の創出、人材育成・技術移転、研究開発投資、地場企業との連携、開発が遅れた地域への投資、グリーン・持続可能性への貢献等の項目で構成)を用いて投資内容を評価し、最低限の指標を満たせばTier2、より高い貢献度が認められればTier1(より優遇度の高い税率・控除)が付与される
・経過措置:NIF施行前にパイオニア・ステータスやITA等の優遇措置の承認を既に得ている会社は、当該優遇措置の有効期間が満了するまでは従来どおり優遇を継続して受けることができる
NIFの詳細な審査基準(NIAスコアカードの配点や業種ごとの最低基準)は、MIDAが個社ごとの審査の中で提示する運用となっており、本書執筆時点(2026年6月)では公開情報が限定的です。以下に記載するパイオニア・ステータスおよび投資税額控除(ITA)の内容は、1986年投資促進法(Promotion of Investments Act 1986)に基づく従来制度の枠組みであり、既存の承認案件・経過措置の理解や、NIFの審査において参照される基本的な優遇措置の考え方を把握する上で引き続き有用ですが、新規の優遇措置申請にあたっては、必ずMIDAを通じてNIFの最新の適用条件を確認してください。
■パイオニア・ステータス(PIONEER STATUS)
パイオニア・ステータスは、1986年投資促進法およびその他の法律で定めた制度です。認可されるかどうかは、付加価値のレベル、使用される技術の高さ、産業間連携強化への寄与等を考慮して判断されます。
認可を受けた企業は「生産開始日」(ここで言う生産開始日は生産レベルが生産能力の30%に達したと認められた日を指す)から5年間の法定所得(総収益から収益的支出と資本控除を差し引いた後に算出される所得)の30%のみが課税対象となります。また、免税となった所得から分配される配当金についても本措置は適用されます。
パイオニア・ステータス期間中に発生する未控除の資本控除および繰越欠損金は、繰り越すことができ、パイオニア・ステータス期間後に発生した所得からも控除することができます。
パイオニア・ステータスの申請先は、マレーシア投資開発庁(Malaysian Investment Development Authority(MIDA))です。
■投資税額控除(Investment Tax Allowance (ITA))
パイオニア・ステータスに代わる手段として、企業は投資控除(Investment Tax Allowance (ITA))を申請することができます。ITAが認められた企業は、最初に適格資本的支出(認可プロジェクトで使用される工場、プラント、機械、その他の設備に対する支出)が発生した日から5年以内に発生した適格資本的支出に対して、60%の税額控除が得られます。この控除額で各年度の法定所得の70%を相殺することができ、未利用の控除額は、全額が利用されるまで、翌年以降に繰越すことができます。
■パイオニア・ステータスと投資税額控除の選択
上記のとおり、主要な優遇措置には、パイオニア・ステータスと投資税額控除(ITA)がありますが、どちらの優遇措置を受けるかは、進出企業が現地法人設立許可の申請のため、最初にマレーシア投資開発庁(MIDA)に提出する「製造ライセンス」認可申請書の冒頭で選択することになります。
パイオニア・ステータスを認められる企業の中心は製造業ですが、農業、観光業(ホテルも含む)、認可サービス業、研究開発、研修、環境保護活動などに対する投資企業も認められます。製造業において初期投資額が大きく、操業開始後の数年間は設備償却費等がかさみ、赤字が続く場合、パイオニア・ステータスの「当初5年間の所得税の一部免除」の恩恵は、事実上ほとんど享受出来ません。このような工場設備に多額の資金を投資する企業は、パイオニア・ステータスでなく、頭記の「投資税額控除(ITA)」を選んだ方が賢明です。「投資税額控除」を認められた一般製造企業は、「適格資本的支出」(認可プロジェクトで使用される工場、プラント、機械、その他の設備への支出)が最初に発生した日から5年以内に発生した「適格資本的支出」の総額の60%に相当する控除枠が与えられ、この控除枠を毎年の法定所得の70%と相殺できます。未利用の控除枠は、全額利用されるまで、翌年以降に繰越して使用することができ、企業はその間、控除枠で相殺された残りに対してだけ、法人税を払えばよいのです。
パイオニア・ステータス期間内に発生した未控除の資本控除は、累積損失とともに繰り越すことができ、さらにはパイオニア・ステータス期間後の収益から控除することができます。
以下、業種別にパイオニア・ステータスと投資税額控除の適用について解説します。
製造業部門におけるインセンティブ
製造業部門における奨励業種は、以下のように区分されます。
①ハイテク産業
②戦略的プロジェクト
③中小企業(製造業)
④特定の機械機器製造産業
⑤高付加価値の自動車部品製造産業・ハイブリッド車製造産業
⑥パーム油バイオマスを活用して製造を行なう産業
⑦造船・船舶修理業を行う産業
①ハイテク産業
ハイテク産業の業種は下記のとおり定義されます。
・コンピュータ産業の開発及びデザイン
・医療機器、化学機器の開発及びデザイン
・バイオテクノロジー
・先端材料(ポリマー、生体高分子、ナノ粒子)
・代替エネルギー技術
・鉄鋼
さらに、優遇措置を受けるためには、①マレーシア国内における総売上のうち、研究開発費の割合が少なくとも年間1%以上あること(この条件を満たすまで事業開始から3年間の猶予がある)、②全従業員数の内、大学卒業資格あるいはディプロマ(短大・専門学校卒)を取得し、かつ関連分野で5年以上の経験を有する化学・技術系のスタッフが、少なくとも全従業員数の15%以上在籍している事が条件となっています。
これらの条件を満たす場合、下記の内容のパイオニア・ステータスか、投資税額免除を受けることが出来ます。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
②戦略的プロジェクト
戦略的なプロジェクトとは、「一般的には、長期の投資計画と多額の資本支出、高度な技術を伴い、総合的で広範囲な産業が連携し、経済に重要な影響を与えるプロジェクトのことで国家全体にとって重要な活動のこと」、と定義されています。
戦略的プロジェクトに該当する場合、以下のパイオニア・ステータスか投資税額免除を選択して受けることが出来ます。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
③中小企業
中小企業は、マレーシアの資本が60%以上の払込資本金が50万リンギット以下の企業、またはマレーシア資本100%で払込資本金が50万リンギット超で250万リンギット以下の企業と定義されています。
製造業部門の場合、以下の業種に従事し製造に関わっている必要があります。
MIDAのインセンティブ対象となる中小企業業種
製造業部門における中小企業に該当する場合、以下のパイオニア・ステータスか投資税額免除を選択して受けることが出来ます。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
この優遇措置は、個人企業やパートナーシップの場合であっても新規に非公開有限会社または有限会社を設立することにより、引き継いで受ける事が出来ます。その際に、(a)付加価値が少なくとも25%ある事、(b)経営、技術、管理に従事する者の全従業員に占める割合が少なくとも20%である事が条件となります。
中小企業であれば、上記表記載の優遇措置に加えて、課税対象の所得の内50万リンギットについて20%の軽減法人税率で、残りの所得については25%の法人税率が適用されます。
④特定の機械機器製造産業
機械機器製造産業については、優遇措置を受けられる業種が特定されています。
対象となる業種は(a)機械装置(工作機械、マテハン機器など)、(b)特定の器具及び備品(梱包用機械など)(c)パーム油バイオマス装置(d)再生可能エネルギー機器(e)省エネルギー機器の製造です。
上記の条件を満たす機械機器製造産業は、以下のパイオニア・ステータスか投資税額免除を選択して受けることが出来ます。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
⑤高付加価値の自動車部品製造産業・ハイブリッド車製造産業
特定の重要かつ付加価値の高い自動車部品及びコンポーネントを製造する企業は、優遇措置を受けることができます。
優遇措置の対象となる自動車部品は(a)トランスミッション・システム(b)ブレーキ・システム(c)エアバック・システム(d)ステアリング・システムであり、優遇措置の対象となるハイブリッド車および電気自動車部品は、(a)電気モーター(b)電気バッテリー(c)バッテリー・マネジメント・システム(d)インパータ(e)電気エアコン(f)エア・コンプレッサーです。
対象の部品を製造する企業は、以下のパイオニア・ステータスか投資税額免除を選択して受けることが出来ます。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
この優遇措置は、ハイブリッド車や電気自動車の組立や製造を行なう企業でも同様に受けることが可能であることに加え、マレーシア国内で組立てや製造がされた車両や産業調整基金の支給に課される物品税が50%免除されます。
⑥パーム油バイオマスを活用して製造を行なう産業
パーム油バイオマスを活用して、パーチクル・ボード、MDFボード、合板、パルプや紙などの付加価値のある製品を製造する企業の場合、以下の優遇措置を選択可能です。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
⑦造船・船舶修理業を行う産業
法定所得の70%が免税となるパイオニア・ステータス、または最初に発生日から5年以内に発生した適格資本的支出に対して60%の控除が得られるITA(投資控除)を受ける事が可能です。
既存の会社でもITAが受けられます。
■追加的優遇措置(製造業)
パイオニア・ステータスや投資税額控除の適用期間終了後も、以下のように一定の条件を満たす場合には追加的優遇措置を受けることが出来ます。
・再投資控除(Reinvestment Allowance)
既存のビジネスについての自動化、近代化、多角化を目的とした追加投資を行う場合には、再投資控除(Reinvestment Allowance (RA))を受けることが出来ます。国税庁に対して申請を提出し、資本的支出の60%の投資税額が免除されます。
再投資控除の対象として36ヶ月以上の操業が条件とされており、再投資の日から15年間に渡り認められています。
また、再投資控除の対象となった資産は再投資から5年以内は処分出来ません。
・加速減価償却
再投資控除の対象期間経過後でも、奨励製品製造企業は、更に税制度上の加速減価償却を受けることが可能です。国税局に対して申請を行うことで、資本的支出について、申請初年度は40%の控除、それ以降の年次20%の控除の3年以内償却が認められます。
同様に、(a)電力安定化機器や(b)セキュリティーシステム機器、(c)工業用ビルシステム機器を設置している場合には、それぞれ(a)2年以内、(b)1年以内、(c)3年年以内の加速減価償却の適用が認められています。
・グループ控除
マレーシアで設立された全ての居住会社に対してグループ控除が適用されます。同一グループ内の所得について、グループの他の企業から発生した当年度の未控除損失を50%から70%まで相殺可能です。
本グループ控除を受けるためには以下の基準を満たす必要があります。
・受給企業と引渡し企業が、それぞれRM250万以上の普通株の払込資本金を保持して いること
・受給企業と引き渡し企業が、同じ会計期間であること
・グループによる受給企業と引き渡し企業の直接または間接的な株式保有が、70%を下回らないこと
・70%の株式保有は、前年度と当該年度を通じて継続的なものであること
・所有権や外国企業の買収による損失は、グループ控除の対象にならない
ただし、下記の優遇措置の適用を受けている企業は、グループ控除が適用されません。
・パイオニア・ステータス
・投資税額控除/投資控除
・再投資控除
・船積み利益に対する免除
・1967年所得税法の第127条に基づく所得税免除
・投資優遇企業
農業生産部門への主な投資優遇措置
農業に関連する企業とは、農業協同組合及び農業関連組合、農業に従事する個人及びパートナーシップのことで、ここでも、奨励品目を生産する企業に限り、優遇措置を受けることが可能です。
農業生産部門における奨励業種の、うち主要な4産業は以下のとおりです。
①農業生産業
農業生産業についは、LIST OF PROMOTED ACTIVITIES & PRODUCTS(APPENDIX IA)で示されている品目を生産する企業が優遇措置の対象となります。この中で農業生産に関連する品目は、農業生産物(草木の栽培)や、農業生産加工物(青果、野菜、カカオ、畜産物、水産加工物、薬品や化粧品、サプリメントの生成に必要な草花の栽培など)が示されています。
農業生産業に関しても製造業と同様に優遇措置を受けることが出来ます。
②食品生産業
食品生産業とは、①の農業生産業で生産されたものを加工する活動のことです。食品関連業について2段階で優遇措置を設けることで、原材料の輸入に依存する比率を抑えることが意図されています。
食品生産業では、加工生産に従事する子会社と投資する親会社がある場合、双方に優遇措置が設けられています。当該優遇措置を受けるには、(a)親会社は投資比率が70%以上であること(b)財務省に認可された生産活動(ケナフ、野菜、果物、ハーブ、スパイスの栽培、水産養殖、牛やヤギや羊の飼育、深海漁業)であること(c)優遇措置認可の日から1年以内に生産事業を開始すること、という条件を満たす必要があります。
③ハラル食品製造業(Appendix IV)
ハラル食品製造については、国際的に適合した品質のハラル食品を製造するため、ハラル食品の輸出商品を生産する企業に対し、近代的な設備を使用出来る様、優遇措置を設けています。マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)によるハラル認証を取得している企業は、MIDA に申請し、5年間発生した資本的支出の100%に対して投資税額控除を受けることが可能です。
また、以下の事業に該当すれば別途優遇措置を受けることが可能です。
・特殊加工食品
・製薬、化粧品、パーソナルケア製品
・家畜食品、食肉製品
・ハラル原料
・運輸業
・倉庫業
・輸送業
④食品用コールドチェーン設備やサービスを提供する産業
食品用のコールドチェーン設備とは生鮮食品用の冷凍倉庫や冷凍車両設備をいい、これに関連するサービスを提供している企業に対して優遇措置を設けています。
優遇措置の内容は下表のとおりです。
なお、 パイオニアステータスについては未控除の資本控除と累積損失は繰り越しが可能であり、投資税額控除については未利用の控除を全額利用されるまで翌年以降に繰り越しが可能です。
■追加的優遇措置(農業)
農業生産部門については以下のような追加的優遇措置が設けられています。
(再投資控除)
創業から36ヶ月以上経過し主な食料(米、とうもろこし、野菜、根菜類、家畜、水産物)を生産している会社であれば、再投資を実施した初年度から15年間に渡り資本的支出60%の再投資控除が受けられます。この控除により、法定所得の70%が相殺可能となっております。
(資本的支出に対する投資税額控除の対象)
農業生産部門における資本的支出に対する投資税額控除の対象は以下のとおりです。
・土地の開墾と整地
・作物の植え付け
・養殖用の原原種
・家畜の原原種
・作物の栽培、牧畜、養殖、内陸漁業、深海漁業、その他農業・牧畜業のためにマレーシアで使用されるプラントや機械設備の導入
・橋架を含む建設、土地、建物、構築物の購入や構造的改良(作物栽培、動物飼育、養殖、内陸漁業、その他の農牧畜業事業の目的で使用される土地の一部に限る)
また、再投資控除の対象期間の15年以降には、加速減価償却を行なうことが認められており、税制上の申告初年度の20%年次控除、40%の資本的支出控除が可能です。
(財務省認可農業事業)
さらに、財務省に認められた認可農業事業を営む会社であれば、資本的支出に対して100%の控除を受けることが出来ます。対象となる事業は以下のとおりで、資本的支出は、再投資控除の対象と同様です。
・野菜・果物(パパイヤ、バナナ、パッション・フルーツ、スターフルーツ、グアバ、マンゴスティン)の耕作
・イモ類・根菜類の耕作
・ハーブ・スパイスの耕作
・飼料用穀物・水耕作物の耕作
・観賞魚の養殖
・魚と海老の養殖(池養殖、水槽養殖、海洋ケージ養殖、沖合海洋ケージ養殖)
・トリガイ・蛎・ムール貝・海苔の養殖
・小海老・海老・魚の孵化場
・森林植林事業の特定の品種
(資源利用型産業、食品加工業への再投資)
農業生産部門に関連する、資源利用型産業、食品加工業及び食品用のコールドチェーン設備産業に対して再投資する場合は優遇措置の対象となります。再投資が奨励されている業種はLIST OF PROMOTED ACTIVITIES & PRODUCTS(APPENDIX IE)で示されており、資源利用型産業とは、パーム油やゴムなどを利用した産業で、マレーシア資本が50%を超える企業に対して優遇措置が設けられています。
同様に、食品加工業においては、マレーシア資本が60%以上の企業を対象としています。また、食品用のコールドチェーン設備産業に関しては、新規投資の場合にも優遇措置がありますが、腐敗しやすい農産物向けの関連サービスに限定されます。
サービス業部門への主な投資優遇措置
サービス業に対しても各種投資優遇措置が設けられています。MIDAで優遇措置を配備している主要な業種は以下の4つです。
①観光業
観光業にはエコ・ツーリズムやアグロ・ツーリズムなどが含まれ、奨励業種には、ホテル業、ホリデーキャンプ場の建設、屋内外のテーマパーク、レクリエーション事業、コンベンションセンターの建設および運用(3,000名の参加者を収容出来るもの)が含まれています。
それぞれ申請書はビジネスを開始する前にMIDAに申請する必要がありますが、投資税額控除の場合は4つ星、5つ星ホテルは2016年12月31日まで投資税額控除を受けることができました。
②環境マネジメント
MIDAでは、環境マネジメント事業として、(a)森林プランテーション事業、(b)危険廃棄物の貯蔵・処理・処分事業、(c)エネルギー保存サービス産業、(d)廃棄物リサイクル事業の4つの業種に対して奨励し優遇措置を設けています。
それぞれ、(a)森林プランテーション事業は戦略的プロジェクトとしての位置づけであるため、(b)危険廃棄物の貯蔵・処理・処分事業は関連施設の設立を促進するため、(c)エネルギー保存サービス産業および(d)廃棄物リサイクル事業は環境保護の促進に繋がるため、奨励されています。
なお、(d)廃棄物リサイクル事業では農業廃棄物や農業副産物、化学物質のリサイクル、再生木材製造が含まれます。
主な優遇措置は以下のとおりです。
なお、(c)エネルギー保存サービス産業では、自社内でエネルギー保存事業を実施している会社に対しても優遇措置を与えています。
③研究開発
研究開発とは、科学技術分野における体系的な調査で、成果として、材料・装置・製品・生産物・加工品の生産や改善を目的とする活動のことを指します。
主な優遇措置は以下のとおりです。
優遇措置を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
・実施される研究が経済的に国益をもたらすものである
・収益の70%以上がこの研究活動によってもたらされるものである
・製造業関連である場合には全従業員の50%以上が技術職として適切な資格を保有していること
・農業関連である場合には全従業員の5%以上が技術職として適切な資格を保有していること
ただし、以下の活動は含まれません。
・製品の品質管理、材料、装置、製品、生産物の定期的に行なう検査
・人文科学や社会科学系の調査
・定期的な資料収集
・効率性の調査及び経営研究
・マーケティング調査及び販促活動
研究開発については、財務省から認可を受けた事業について、研究開発に要した収益的支出を二重控除することが可能です。
この対象となるのは、以下の費用です。
・承認研究機関に対する支払
・請負研究開発会社から提供されたサービスに対する支払
・マレーシア人のトレーニング費用
また、価値創造を集中的に行う研究を請け負った研究者は、5年の間研究結果による商業的収入の50%にあたる税額控除を受けることができます。
④研修
人材開発機関で、優遇措置を受けられる対象の科目は以下のとおりです。
会社の機能に着目した優遇措置
- 労働集約型産業のオートメーション化促進に対する資本控除
労働集約率の高い産業(特に天然ゴム製品、プラスチック、木材、家具、繊維などの産業)に対して、早期のオートメーション化促進が奨励されています。これらの産業に対しては2015年から2017年以降4百万リンギットについて200%の税額控除を受けることができます。
- グローバルサービス・ハブ(GS-Hub)の設立に対する優遇措置
Principal Hub(PH)とは、2015年5月1日から、マレーシアで新しく始められた地域統括会社のスキームの一つのことです。以前から、マレーシアでは、国際調達センター(IPC:International Procurement Centres / RDC:Regional Distribution Centres)、地域統括会社(OHQ:Operational Headquarters)、財務管理センター(TMC:Treasury Management Centre)のスキームがありましたが、本スキームは、別々であった国際調達センター、地域統括会社の両方の機能を兼ね備える新しいスキームであり、流通統括機能を有する会社、地域統括会社のスキームは廃止が決まりました。TMCに関しては、まだ継続されております。なお、旧プリンシパル・ハブ(PH)インセンティブは2022年12月31日をもって申請受付を終了しており、2024年度予算案により、これに代わる新たなスキームとして「グローバルサービス・ハブ・インセンティブ(Global Services Hub tax incentive:GS-Hub)」が導入されました。アウトカムベースのアプローチに基づき適格性が判断される点が従来のPHと大きく異なります。申請先はMIDAで、申請受付は2027年12月31日まで予定されています。法人税率は3段階のティアに分かれており、Tier1(最も貢献度の高い企業)は5年間(延長申請により最大10年間)0%、Tier2は同じく5年間(延長可)5%、Tier3は10%の優遇税率が適格所得に対して適用されます(最低払込資本金250万リンギット等の要件あり)。PH
このPHは、シンガポールやタイに対抗するため、かなり税率を下げています。その分、申請条件が今までの統括会社の申請条件よりもかなり厳格化しているという面もありますが、このPHの設置を促すことにより、マレーシアのビジネスセンターとしての地位が確立されることが期待されています。
【Principal Hubのインセンティブと要件】
※インセンティブの延長については、申請時よりも20%人員(月給5,000RM以上)が増加していること、年間事業費が30%増加を要件に、5年間の延長が認められています。
最低払込資本金として250万RMが必要です。月額5,000RM以上は、技術あるいは専門性のあるスキル等を有する高度知的専門職の要件とされており、月額25,000RM以上は経営や戦略立案などを担う経営職の人材の要件となっています。また、ステータス取得3年経過後には、月額5,000RM以上の人材の半分をマレー人とすることが要件とされていますが、今後の実務上の扱いについては今のところ不透明です。外資規制もこのPHが認可された会社は適用外とされておりますが、これも実務面でどうなるのかは現状不透明です。
なお、この軽減税率については、マレーシア国内から上がる所得が全体の30%を上回ると適用対象外となるため注意が必要です。
マレーシア | 地域統括本部 | 財務管理センター | 国際調達センター | 地域調達センター |
事業所得(収入、利息、ロイヤルティ)10年間免除 | 5年間法定所得の70%免税 | ①10年間法定所得免税 | ①10年間法定所得免税 |
参考:MIDA資料より作成(2012年度時点での制度利用状況)
- 財務管理センター(TMC:Treasury Management Centre)の設立に対する優遇措置
地域の金融管理を行う企業である財務管理センター(TMC:Treasury Management Centre)について優遇措置があり、下記の事項を行うことができます。
・非居住者からの外貨の借入れ
・居住・非居住を問わず、関連会社への外貨の貸付け
・マレーシアの銀行口座において、グループ企業の外貨資金を統合管理すること
・マレーシアにある関連会社への、またはマレーシアにある関連会社からの、外貨・での支払いもしくは受取り
・グループ企業の事業運営に関わって海外から得た物品・サービスの対価を、マレ
ーシア居住のサプライヤーに対し外貨で支払うこと
・グループ会社の代理として、国内銀行と先物予約を行うこと
・自社または関連会社の非居住者からの輸出代金の受取りを相殺すること
優遇内容としては、役務料・経営指導料、受取利息、保証料等の適格所得(金融サービス)ついて、70%免税(5年)され、利息源泉税や印紙税も免除となります。勤務する駐在員の個人所得税は、マレーシア滞在日数分のみ課税となります。
設立の要件としては、資本金50万RM、国内年間経費RM1.5百万以上(支払利息、減価償却費除く)、国外3社以上の関連会社に金融サービスを提供、専門スタッフ3名以上雇用となっています。
地域に着目した投資優遇措置
①Malaysia Digital(MD)ステータスに対する投資優遇措置
マレーシア政府は、デジタル経済の振興拠点として、かつてマルチメディア・スーパー・コリドー(Multimedia Super Corridor:MSC)構想を推進していましたが、現在はその後継となる全国的な制度「Malaysia Digital(MD)」へと移行しています。
Malaysia Digital(MD)ステータスは、デジタル分野(情報通信技術等)の事業に従事する企業に対して、マレーシア・デジタル経済公社(Malaysia Digital Economy Corporation:MDEC)を通じてマレーシア政府から与えられるステータスです。従来のMSCステータスは新規申請の受付を終了しており、現在はこのMDステータスが後継制度となっています。MDステータスを取得すると、下記のような優遇措置の対象となります。
②イスカンダル・マレーシア及び大型長期開発計画(コリドー計画)
マレーシア政府は、上記の他に地域格差是正等を目的として、大型長期開発計画を進めています(イスカンダル・マレーシア、北部回廊経済地域、東海岸経済地域、サバ開発回廊、サラワク再生可能エネルギー回廊)。
インセンティブとしては認定事業に対しての法人税を一定期間免税する等の内容がありますが、地域ごとに詳細は異なります。
③低開発地域に関する優遇措置
低開発地域については、具体的な指定がなく投資促進機関との間で検討することになります。
適格とみなされると、事業の拡大または新規事業を行なう際に、10年間の法人税の100%免除や、設備投資に係る所得税の免除および印紙税の免除などを受けることが可能です。
④工業地域に関する優遇措置
工業地域に関する優遇措置は、工業地域のインフラを拡充し、維持管理を徹底させ工業地域及びその付近の地域の成長と発展を促進する事を目的にしています。
適格とみなされた場合、事業開始から5年間の法人税の100%免除を受けることが可能です。
