会社法
2017年1月31日、それまで適用されていた1965年会社法(Companies Act 1965:旧会社法)に代わり、2016年会社法(Companies Act 2016:(新)会社法)が施行されました。会社法が大幅に改正されたのは実に51年ぶりとなります。
この変更では主に非公開会社に対する規制が緩和されており、公開会社については旧会社法を踏襲した規定が適用されています。
+ .1 .会社法概要
会社の形態
会社法は、法人の設立や運営等に関する基本的な事項を定める法律です。本法において認められている会社の形態は、(現地)法人・外国法人支店・駐在員事務所の3つです。設立の申請を行う場合は、後述する会社秘書役が実際の手続きを行うことになります。
会社法では、下記3種類の法人が定められています。(10条)
■株式有限責任会社
株式有限責任会社は出資者の責任を所有株式の金額を上限とする会社形態です。これはさらに公開会社(Bhd.)と非公開会社(Sdn. Bhd)に区分されます。
非公開会社は、42条で下記のように定義されています。
・株主数50名以下
・株式の譲渡制限
・株式等の一般公募不可
マレーシアにおける非公開会社は、上記の定義がなされている企業であり、厳密には上場していないという意味ではありません。
公開会社は非公開会社以外の株式有限責任会社の形態をとる会社のことを指します。
■保証有限責任会社
保証有限責任会社とは出資者の責任を事前に定めた出資保証額内とする会社形態です。新会社法では当該形態の会社のみ定款の作成が明確に義務付けられています。
■無限責任会社
無限責任会社とは出資者の責任に制限を課さない会社形態です。
■外国法人支店
外国法人が事業を行う場合は新会社法に基づき、CCM(Companies Commission of Malaysia)に外国法人支店としての登録を行うことが義務付けられています。(561条)
マレーシア政府は現地法人を設立することを奨励しているため、支店設立の認可が降りるかどうかは政府の裁量が大きくなっています。通常、小売や卸売等の事業を行うことを目的とした外国法人支店の設立は許可されておりません。
外国法人支店は本店である外国法人の組織の一部であるため、本店との商品や資金の移動、取引が比較的容易です。また、下記の駐在員事務所とは異なり、営業活動が認められているため、事業の種類や想定する拠点規模が小規模である場合は外国法人支店も進出の選択肢の一つとなります。
■駐在員事務所
駐在員事務所とはマレーシアでの事業を行う前の市場調査等を目的とした通常設置期間2年の設立形態であり、営業活動は認められていません。そのため、駐在員事務所の維持費に関する費用以外の支出も基本的に認められないということになります。また、駐在員事務所は本社の一組織とみなされるため、マレーシアにおいて会計監査の義務はなく、法人税の支払いも原則発生しません。
本来、外国法人支店の項目で記載した通り、マレーシア政府は現地法人形態での設立を推奨していますが、マレーシアでの事業の事前調査・準備を目的とした場合、設立が許可されています。ただし、マレーシアでの就労ビザの取得要件を満たすことができない企業が、現地法人の代わりとして、駐在員事務所を設立しようとするケースもみられます。そのため、政府の裁量によるところも大きく、駐在員事務所の設立・更新の際には適切な理由の説明が厳しく求められるケースも多くあります。
有限責任会社の機関体系
これから進出する日本企業は、公開会社として設立するか非公開会社として設立するかによって、株主の数が制限される等の規制があるので、マレーシア会社法が定める会社の機関についても把握する必要があります。また、すでに進出している会社にとっても、会社形態を変更することで見直しが必要となる機関体系もあるため、自らの会社の機関を再度確認する必要があります。マレーシアの会社の機関は、株主(総会)取締役(会)に加えて、会社秘書役で構成されます。日本との大きな違いは、会社秘書役の存在です。会社秘書役は、日本の会社法には存在しない機関です。したがって、その役割や設置義務の有無を十分に知っておく必要があります。以下では、進出形態として最も多く選択されている株式有限責任会社について詳述します。株式有限責任会社の機関体系の全体像は以下のとおりです。
定款
マレーシアにおいて、定款(Constitution)とは会社の業務内容と運営規則をまとめたものを指します。
会社法の規定では、保証有限責任会社を除き、定款を作成するかどうかは任意に選択することができます(31条)。定款の作成・変更に関しては、株主総会の特別決議で採択する必要があります。会社が定款を作成しない場合には、各取締役および株主は新会社法に従って権利・義務を有することになります。
マレーシアでは、会社定款は基本的に2部構成です。社名や設立目的を記載する基本定款(Memorandum of Association)と、株主総会の招集等について言及する附属定款(Article of Association)で構成されます。
附属定款には、株主譲渡に関する制限や取締役の定員・任期、株主総会・取締役会の招集通知の方法等も規定することが可能です。提出先はマレーシア会社登記所(CCM)で申請から3週間ほどで登記が完了します。登記にかかる実費は200~300リンギット程度です。
+ .2 .株式
マレーシアにおける株式の概要
マレーシアにおける株式は定款の定めにより、普通株式だけではなく、種類株式や優先株式を発行することが可能です。
種類株式・優先株式は、配当金、議決権、資本金の払戻し等についての優先権または制限のある株式を定め、発行することができます。なお、新会社法より、額面制度と授権資本制度が廃止されています。(74条、97条)
新株の発行
設立時の新株発行
法人設立の最低資本金は1リンギットであり、会社設立時には最低1株(1リンギット)発行する必要があります。ただし、これは最低の払込資本であり、事業を行うためのライセンスや就労ビザ取得を考慮したものではありません。業種、外資の資本比率、ビザの種類等により、設立時の必要発行株式数が変わってきます。そのため、実際に設立を検討する際は、業種や設立形態等の情報をもとに当局に問い合わせるか、専門家に相談する必要があります
設立後の新株発行
主通常(臨時)株主総会によって発行株式数、種類が採択されます。通常株式を発行する場合は年次株主総会で普通決議を行い、取締役会で決定します。
新会社法では新株発行に関し、以下のことが認められています。
・異なる階級で発行できる
・償還することができる(69条)
増資
会社が解散する場合を除き、増資された資本のいかなる部分も繰上償還することができないという条件のもとで、自己資本の額を増額することができます(84条)。これら一連の業務は会社秘書役が行います。会社は資本金の入金を確認できた段階で、銀行の入金確認書を会社秘書役へ送付します。その後、会社秘書役は増資手続に必要な書類を準備します。増資は株主総会の承認事項ですが、決議を行うことにより、取締役会に権限を委譲することも可能です。その場合、取締役決議書も必要となります(75、76条)。
<必要書類>
株式割当
・所定のフォーム類
・取締役決議書(臨時株主総会招集通知、株式割当など)
・株主決議書(取締役会に株式割当の権限を与える)
・各株主の株式割当承諾書(Allotment Letter)
株式譲渡
・取締役決議書(株式譲渡を承認)
・フォーム32A(作成、署名後、印紙税の納付)
これらの書類の必要箇所への署名・印紙税納付が完了し、SSM(Suruhanjaya Syarikat Malaysia)に届出を行うことで増資額が払込資本金に反映されます。増資の事実がSSMの会社情報(Company Profile)に反映されるまで通常3週間程かかります。所定の費用を支払い、エクスプレスファイリング(Express Filling)と呼ばれる早急なデータ更新をSSMに申請すると、約2~3営業日で反映することも可能です。これは会社設立後、ビザ申請や様々な申請を行うために要する日数を短縮する場合に有効です。
減資
会社法では、減資を行うためには、株主総会の特別決議にて議決権の3/4以上の賛成が必要と定められています。
旧会社法においては、減資を行うには株主総会の特別決議による承認と裁判所の承認が必要とされておりました。しかし、会社法では非公開会社に限っては裁判所の承認を取得する従来の方法による減資に加え、下記の条件を満たす場合、裁判所による承認がなくとも減資を行えるようになりました。(117条)
・株主総会の特別決議による承認
・特別決議の日から7日以内に、内国歳入庁長官(Director General of the Inland Revenue Board)及びマレーシア会社法委員会(Company Commission of Malaysia)に対して通知の送付
・会社の全取締役が減資に関する支払能力宣言(Solvency Statement)を作成
資本金の増資手続では旧会社法からの変更点はありませんでしたが、減資手続においては旧会社法と比較して手続が簡素化されています。
自己株式
公開会社では、定款に記載があれば自己株式の購入が認められています。ただし、自己株式の取得は、以下に該当する場合は行うことができません(127条)。
・取得日において支払能力がない場合。取得した株式に対しての支払義務のある債務によって支払能力がなくなってしまう場合
・有価証券法に関連した法によって取引が行われない場合
・不正があり、自社の利益にならない場合
違反した場合は、懲役5年、もしくは10万リンギット、またはその両方が科されます。
配当
会社は、保有株式数、投資資本金額に応じて配当を行うことができます。配当については、まず取締役会で決議された後に、株主総会で承認・宣言が行われます。配当を行う場合は、債務支払能力に問題がなく、分配可能利益がなければなりません(131条)。
旧会社法では、年次配当については年次株主総会での承認が必要であり、中間配当には取締役会の承認が必要でした。新会社法では年次配当、中間配当ともに取締役会の承認事項となります。ここで、債務支払能力に問題がないとは、利益剰余金を保有し、かつ配当後12か月間における会社債務を返済可能な範囲であることを意味します。
会社は上記範囲内で金額を設定することができますが、取締役はその行為により会社の支払能力に悪影響が生じないことを、確認する必要があります(ソルベンシー・テスト)。ソルベンシー・テストに違反がある場合、取締役は民事上・刑事上の責任を負わなければならない場合があります
+ .3 .株主総会
株主総会
株主総会とは、株主によって構成される必要的常置機関です。マレーシアの会社法上、株主総会は年次株主総会、臨時株主総会、法定株主総会の3つがあります。(340条)
■年次株主総会(340条)
会社法で、年次株主総会の開催が義務付けられているのは公開会社(Bhd.)のみで、非公開会社(Sdn. Bhd.)の開催義務は撤廃されました。旧会社法では年次株主総会を開催しない場合、その日数に応じて罰金が課されましたが、非公開会社は年次株主総会を開催しなくとも、罰金を支払う必要がないということになります。しかし、非公開会社であっても、旧会社法に基づいて定款が作成され、年次株主総会を行う旨記載されている場合は、年次株主総会を開催する必要がある点に注意が必要です(340条)。
年次株主総会は1年に1度、決算から6か月以内、かつ前回の年次株主総会から15か月以内に開催する必要があります。ただし、法人設立後最初の年次株主総会に限り、設立から18か月以内に開催と定められています。
■年次株主総会の決議要件
年次株主総会の決議要件は普通決議と特別決議の2種類があります。
年次株主総会の普通決議
普通決議において決議されるのは下記の項目となります。決議内容を採用するには年次株主総会と同様に株主総会に出席した株主の過半数の議決権が必要です。
・監査済財務諸表及び取締役・監査報告書の確認
・会計監査人の選任
・取締役退任に伴う、選挙
・取締役の報酬の決定
・その他定款に定められた事項
年次株主総会の特別決議
特別決議において議決されるのは、普通決議において議決される項目以外であり、例として取締役の報酬額等が挙げられます。決議を採択するには、出席した株主の75%以上の賛成が必要となります(292条)
■年次株主総会の議決権
年次株主総会の決議方法は、挙手制か署名制のどちらかが取られています。次の場合においては署名制による議決が可能です。(293条)
・議長または3人以上の株主が要求した場合
・1/10以上の株式または投票権を所有している株主が要求した場合
挙手制の場合、出資比率に関係なく1人1議決権を有することになります。ただし、この際代理人への議決権の委譲はできないため注意が必要です。出資比率による決議を行いたい場合は、決議時に投票制を採用するよう要求する必要があります。
■臨時株主総会
臨時株主総会とは、通常年次総会とは別に取締役あるいは10%以上の株式を所有する株主の要求によって開催される株主総会を指します。
■臨時株主総会の決議要件
臨時株主総会の決議要件は年次株主総会と同様に普通決議と特別決議の2種類があります。
臨時株主総会の普通決議
会社法・定款の規定に基づき特別決議が必要とされる場合以外の決議であり、決議内容を採択するには、年次株主総会と同様に、株主総会に出席した株主の過半数の議決権が必要となります。普通決議の決議事項としては、下記の項目が挙げられます(291条)。
・取締役の任命、解任
・株式発行
・取締役に関係のある資産売買
臨時株主総会の特別決議
下記の項目について採用する場合は、特別決議をもって決議すると、新会社法に定められています(292条)。
・会社名の変更(28条)
・定款の採用、変更(32、36条)
・公開会社、非公開会社の会社形態の変更(41条)
・種類株式の発行(69条)
・減資(115条)
・会社清算(439条)
株主総会開催の21日前に開催を通知する必要があり、決議内容を採用するには年次株主総会と同様に出席した株主の75%以上の議決権が必要となります。
法定株主総会
法定株主総会とは、非公開会社から公開会社となる認可が降りた日から計算して、1か月後から3か月後までの2か月間に開催する必要がある株主総会です。実際に法定株主総会を行うのは、公開会社の認可が降りたときの1回のみとなっています。
株主総会の招集
■開催場所
株主総会の開催場所は、招集通知に明記する必要があります。また、年次株主総会に関し、旧会社法では本店登記されている州で開催することが義務付けられていましたが、新会社法では定款に定めることにより、通信技術等を使用して複数の会場を設置し、マレーシア国外からも参加することが可能となりました。日本の会社法には、株主総会の開催場所について特に規制はありませんが、マレーシア会社法では主要会場はマレーシア国内でなければならず、議長はこの主要会場に出席する必要があります(327条)。
■招集権者と招集通知
招集権者は、取締役会または発行済の株式の10%以上を有している者(定款で10%以下に定めることは可能)とされています。(310条)
招集通知に関しても、公開会社・非公開会社で招集時期に関し、下記の通り異なる点があります。
非公開会社の株主総会招集
非公開会社の場合、株主総会の招集通知は、少なくとも開催の14日前、定款で別途定めのある場合はそれ以上前に告知され、招集されなければいけません。(292条)
公開会社の場合、年次株主総会の招集通知は、少なくとも開催の21日前、定款で別途定めのある場合はそれ以上前に告知され、招集されなければいけません。その他の場合は、少なくとも開催の14日前、定款で別途定めのある場合はそれ以上前に告知され、招集されなければいけません。(316条)
ただし、取締役の任命・解任を行う場合には特別に28日間の通知機関が必要となるため、注意が必要です。
通知の方法は、書面または電子通知のどちらか、または書面と電磁的方法の両方が認められています。(319条)
■開催手続
株主総会の開催手続きに関しても、下記の通り、公開会社・非公開会社で異なる点があるため、注意が必要です。
全ての公開会社は年次株主総会を開催する必要があります(340条)。設立完了後の最初の年次株主総会は、設立後、18ヶ月以内で行わなければならず、その後は、開催した月から15ヶ月以内、かつ決算日から6か月以内に行う必要があります。その際、一年に一回開催していれば、当年度で更に開くことは必要ありません。
非公開会社では、書面での決議が許されているため、書面に署名をする方法が一般的です。書面での決議の場合は書面送付から28日以内に、株主の合意の署名が記載された書面に基づいて決議されます。
少数株主の保護
日本では資本多数決のもと取締役や監査役が選出されることから、多数派株主により支配され、会社運営が適切に行われなくなり、個々の株主の利益が害される場合があります。そこで、会社法は個々の株主がそれらを監督し、是正することを認めており、これらの権利が少数派の株主を保護していると言えます。しかし、これらの権利が強力なものであることから、権利の濫用の危険があります。これを防ぐため、一定の所有要件と期間要件が定められています。マレーシアでは、会社法は、いかなる株主も、会社が当該株主の利益に対し抑圧的または不公平に行動した場合、裁判所に申し立てができるとしています。会社法は裁判所に対して以下の権利を付与し、株主保護のために公正に対処するよう会社に対して要求できることを規定しています(93条)
(a) 当該行為を公正に導くもしくは禁止すること、また決議を変更すること
(b) 将来における会社運営を規制すること
(c) 他の株主、当該会社、社債保有者からの株式取得に関し、規定を定めること
(d) 会社による自己株取得の際、減資についての規定を定めること
(e) 会社を解散させること
+ .4 .取締役(取締役会)
取締役(取締役会)
■取締役(取締役会)の概要
日本では業務上の意思決定機能は代表取締役に委譲されますが、マレーシアでは取締役会が意思決定機能を有しております。ただし、定款への記載によって意思決定機能を下記の人物に委譲することが可能です。
・取締役会が代表権を委譲するに値する能力を持つと認めた者
・業務執行役員に値する個人(主にManaging Director等の役職に就いている者等)
また、当該意思決定機能の内容には代表取締役の監督権、代表取締役の選定や退任、報酬(非公開会社のみ)などが含まれます。
ただし、取締役会の特徴として株主総会とは異なり会社法で特段決議事項を定められているということはありません。会社の定款の定めに従い決議事項が決められます。そのため、取締役会は定款の定めによることが多く、定款の作成や改正の際は、弁護士や専門のコンサルタントにアドバイスをもらい慎重に作成する必要があります。
■取締役の人数
日本では、取締役の人数は取締役会設置会社であれば3人以上でなければならず、取締役会非設置会社であれば1人以上であることが求められています。マレーシアの場合、公開会社は2人以上、非公開会社は1人以上のマレーシアに居住性を有する取締役を登記する必要があります。あくまで居住性を有することが条件であり、マレーシア国籍が要件となるわけではないため、就労ビザを取得している外国人もこれに該当します。
■取締役の要件
取締役の要件は以下の通りです。(196条)
・マレーシアに居住性を有する
・なんらかの精神障害を患っていない
・破産者ではないこと
・18歳以上であること
・国籍は問わない
※ここでいう居住性を有するという判断は、以下に詳細を記載します。
・マレーシア国籍を有しているか
・現地に住所を有しているか
※マレーシアにおける居所賃貸契約書等で確認
・現地での就労許可証を取得しているか
居住性を証明する書類をマレーシア会社登記所に提出することで、居住性を有すると判断され、現地取締役に就任する要件を満たすことができます。
実務上では、多くの会社が名義貸しを行っているので、まずは名義を借り、就労許可証の取得が完了した段階で、取締役変更の手続を行うのが通例です。SSMのデータベースに反映されるまで数日程度かかりますので、この間はまだ名義貸しを行う必要があります。
■取締役の選任・解任
取締役の選任に関して、設立時を除き日本と同様に株主総会の普通決議で選任することが可能です。また、取締役の選任は原則、株主総会の決議によって決定されますが、定款の定めにより取締役会で選任することもできます。解任に関しても、日本と同じく株主総会の普通決議で解任することが可能です。公開会社の場合は解任をする取締役への事前通知が必要となります。また、取締役の選任・解任を行う際の株主総会の招集期間は28日間となっています。
■取締役の任期
日本の場合の取締役の任期は、原則として2年以内です。これは取締役としての適否を株主に確認するためと解されています。非公開会社の場合は10年まで伸ばすことが可能となります。株主の変動が少なく、緊密な関係にあることが想定されるためです。
一方、マレーシアでは、公開会社の場合、最初の年次株主総会で全取締役が自動的に退任することになります。ただし、その後再び同じ取締役を選任することが可能です。またその後の年次株主総会では、取締役の1/3(取締役の人数が3の倍数でない場合は1/3に近似するようにする)が退任することになります。解任の順序は在任期間の長い取締役から解任されます。なお、退任した取締役はそのまま再任されることが可能です。非公開会社の場合は、別途定款にて定められた期間までとなります。
■辞任
取締役が辞任を行う場合、辞任書を提出し、取締役会で承認する旨の決議がなされたのちに辞任となります。ただし、会社の取締役が1名のみである場合は、後任の取締役が選任されるまでは辞任は有効となりません。(209条)
■代表取締役
日本の代表取締役の概念と同様に、取締役の中から1名のマネージング・ディレクターを選任する必要があります。また、マネージング・ディレクターとして登記を行うことで任期の制限がなくなり、かつ株主総会で退任する必要もありません(212条)。
■取締役の報酬
日本の場合は取締役の報酬は、お手盛り防止の観点から原則として、定款で定めるか又は株主総会の普通決議で定められます。
マレーシアの公開会社の場合も、取締役の報酬は株主総会にて決議されます。非公開会社の取締役の報酬は定款で定めることにより取締役会での決議が可能ですが、決議から14日以内に株主への通知が必要となります。
■取締役会の開催手続き
取締役会開催の際には、マレーシア国内にいるすべての取締役に対して通知を送付する必要があります。通知には、取締役会の日付、時間、場所と議題が記載されなければいけません。通知方法は電話、 FAX、Eメール、口頭など、簡易的な方法でも構わないとされています。株主総会とは異なり、招集期間は特に設定されていませんが、通知から開催まで、準備や移動に要する時間を考慮し適切な期間を設定する必要があります(317条)。
また、取締役会開催のための定足数に関しては、日本では過半数(定款でこれを上回ることは可能)ですが、マレーシアでは2名もしくは定款の定めによるとされています(328条)。
■取締役会の開催場所・決議
取締役会の開催場所は特に規定されておらず、定款で定めることでインターネットによる通信会議が可能です。また、決議内容に関し、取締役全員が決議内容に賛成の場合は、取締役全員の署名も併せて記載することで書面での決議が可能となっています。また、通常の取締役会では決議内容は出席者による多数決で決定されます。
+ .5 .会社秘書役
会社秘書役
会社秘書役とは、新会社法で規定されている、会社の設立や各種登記書類の作成、実際の政府手続の役割を担う役職であり、企業ごとに会社秘書役を任命し、登記を行う必要があります。会社秘書役は日本にはない概念であるため、新規で現地法人を設立するにあたり、その役割を軽視してしまう傾向があります。しかし、組織のコンプライアンスを担う重要な役割なので、秘書役によって、組織の管理も大きく変わってきます。
■会社秘書役の設置義務
マレーシアのすべての会社には、1人以上の会社秘書役の設置が義務付けられています。(235条)
■会社秘書役の要件
会社秘書役の資格は、マレーシアを主要な居住地とする18歳以上の自然人である必要があります。かつ有資格者であることです。また、会社秘書役協会などの定められた組織の会員か、もしくはマレーシア会社登記局により許可を得ていなければなりません。
■会社秘書役の選任・解任
会計秘書役の選任・解任は、取締役会の決議によって行われます。
+ .6 .会計監査人
会計監査人
■会計監査人の設置義務
日本では監査義務は上場会社、大会社のみに課せられていますが、マレーシアでは、原則として全ての会社に外部会計監査人の監査を受ける義務がありますが、2025年より一定の小規模な非公開会社には監査免除規定が設けられています(詳細は後述)。会計監査人は、年次株主総会に会計書類の監査報告書を提出し、承認を受けたものを、承認後1ヶ月以内にマレーシアの会社登記所(SSM)に届ける必要があります。年次株主総会は、原則、会計年度末から6か月以内に開催する必要があり、監査人は損益計算書、貸借対照表、監査報告書を提出します。ただし、新会社法より、年次株主総会の開催義務自体は公開会社のみに課せられています。
なお、清算期間中と、駐在員事務所は監査の対象とはなりません。
■会計監査人の人数
マレーシアでは1人以上の会計監査人を選任する必要があります。
■会計監査人の要件
会計監査人は、マレーシアの公認会計士としての認定をうけているということが要件となります。また、会社との利害関係を有するもの、取締役、従業員などを選任することはできません。
■会計監査人の選任・解任
マレーシアでは、会計監査人の選任は、会社設立時を除いて年次株主総会の決議で選任する必要がります。解任については、株主総会の特別決議で決められます。
万が一、会計監査人に欠員が出た場合、臨時株主総会を開催し、新しい会計監査人を任命しなければなりません。
設立時の創立総会では、特に会計監査人を選任する必要はありません。初年度の年次株主総会までに、会計監査人を選任する必要があります。
■会計監査人の権限
会計監査人は会社が作成する決算書の監査を行い、監査報告書にて決算書の適正性について意見表明を行います。会計監査人には監査を実施するために会計帳簿・証票類の閲覧や質問をする権限が与えられており、会社は会計監査人の求めに応じて資料の提供や質問への回答をしなければなりません。
8.2024年改正会社法の主要変更点
■実質的所有者(Beneficial Owner:BO)の開示義務化(60A〜60E条)
2024年2月2日に官報掲載された会社法改正法(Companies (Amendment) Act 2024:CA 2024)は、2024年4月1日に施行されました。本改正の最大のポイントは、実質的所有者(ベネフィシャル・オーナー:BO)の特定・登録・CCMへの届出を全ての会社に義務付けたことです。これはFATF(金融活動作業部会)の勧告に対応し、マネーロンダリング・テロ資金供与等の防止を目的とした国際的な透明性基準に合わせるための措置です。
BOとは、「会社を最終的に所有または支配する自然人であり、会社に対して最終的な実効支配を行使する者」と定義されます(60A条)。以下6つの判定基準のいずれかを満たす場合、BOと判定されます。
・① 会社の株式の20%超を直接保有する者
・② 会社の議決権の20%超を直接保有する者
・③ 会社の株式の20%超を間接保有する者
・④ 会社の議決権の20%超を間接保有する者
・⑤ 会社の取締役もしくは経営に対して重要な支配力または影響力を行使する状況が常態化している者
・⑥ 会社の取締役等への指示・要求が義務化されている者
会社はBOを特定した後、以下の3ステップを履行する必要があります。
・① BO情報の調査・特定(会社が能動的に実施)
・② 社内のBO登録簿(Register of Beneficial Owners)の整備・維持・更新(60B条)
・③ e-BOSシステム(SSM4Uポータル経由)を通じてCCMに届出(施行後3ヶ月以内に初回届出義務)
【実質的所有者(BO)の判定基準と届出フロー(2024年改正会社法)】
BO判定基準(いずれか1つを満たす自然人) | 判定内容 |
① | 会社株式の20%超を直接保有 |
② | 会社議決権の20%超を直接保有 |
③ | 会社株式の20%超を間接保有 |
④ | 会社議決権の20%超を間接保有 |
⑤ | 取締役または経営に対し重要な支配力・影響力を行使する状況が常態化 |
⑥ | 会社の取締役等への指示・要求が義務化されている |
届出フロー | ①BO特定(会社が調査) → ②社内BO登録簿の整備(60B条) → ③CCMへe-BOS届出(施行後3ヶ月以内) |
(出所:CCM「Guideline for the Reporting Framework for Beneficial Ownership of Companies」(2025年1月改訂版)・ジェトロ「2024年改正会社法を4月に施行」(2024年4月)をもとにTCG作成(2026年6月時点))
BO情報の開示を怠った場合、2万リンギ以下の罰金が科され、継続違反の場合は1日あたり500リンギの追加罰金が課されます(60B条6項)。名義株主(Nominee Shareholder)・名義取締役(Nominee Director)の開示規制についても追加改正が進行中であり、最新動向の継続的な確認が必要です。
■企業再生・倒産制度の強化(CA 2024)
CA 2024では、スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement)手続における自動差止命令(Automatic Restraining Order)が申請日から2ヶ月間自動発動される仕組みが導入されました(368条1A項)。倒産手続における債務申告手続も明確化され(369B条)、債権者保護が強化されています。
■監査免除要件の大幅緩和(2025年1月1日施行)
2024年12月16日、CCMは実務指針第10/2024号(Practice Directive No.10/2024)を発行し、非公開会社に対する監査免除要件を大幅に緩和しました。2025年1月1日以降に開始する財務報告期間から適用されます。
新要件では、以下3条件のうち「いずれか2条件以上」を満たす非公開会社について監査が免除されます。
・① 当会計年度および直近過去2会計年度の売上高が300万リンギ(RM3,000,000)を超えないこと
・② 当会計年度および直近過去2会計年度の総資産が300万リンギを超えないこと
・③ 当会計年度末および直近過去2会計年度末の従業員数が30人を超えないこと
なお、外国法人(支店含む)・公開会社・公開会社を親会社とする非公開会社は免除対象外です。また、設立時から休眠状態にある企業も免除対象となります。
【会計監査人制度・監査免除要件の新旧比較(2025年1月改正後)】
マレーシア(旧) | マレーシア(新・2025年〜) | 日本 | |
設置義務 | 全ての会社 (休眠中も含む) | 全ての会社 (免除要件充足の場合を除く) | 上場会社 または大会社 |
被選資格者 | 公認会計士 または監査法人 | 公認会計士 または監査法人 | 公認会計士 または監査法人 |
選任方法 | 株主総会 | 株主総会 | 株主総会 |
任期 | 1年 | 1年 | 1年 |
監査免除 (非公開会社) | 休眠会社のみ (実質ほぼ免除なし) | 3条件のうち2条件以上充足: ①売上高300万RM以下 ②総資産300万RM以下 ③従業員30名以下 | 中小企業等 (非上場小会社) |
(出所:CCM「Practice Directive No.10/2024」・EY Japan「2025年マレーシアの会計・監査・税務ガイド」をもとにTCG作成(2026年6月時点))
新基準の適用により、マレーシア全企業の約4割が監査免除の対象となるとも言われています。監査コスト削減が期待される一方、財務情報の信頼性への影響に注意が必要です。特にM&Aの場面では、対象企業が監査未実施の場合、財務・税務デュー・デリジェンスの重要性が一層高まります。
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参考文献
CCM「Companies (Amendment) Act 2024(Act A1701)」(https://www.ssm.com.my/Pages/Legal_Framework/Companies-Act-2024.aspx)
CCM「Practice Directive No.10/2024 - Qualifying Criteria For Audit Exemption For Certain Private Companies In Malaysia」(2024年12月16日)
ジェトロ「2024年改正会社法を4月に施行、実質的所有者の届け出義務化(マレーシア)」(2024年4月)
EY Japan「2025年マレーシアの会計・監査・税務ガイド」(2025年)
