労務
+ .1 .労働環境
労働環境
■ 最近のバングラデシュの労働環境
バングラデシュの国土面積は日本の約40%ですが、人口は日本よりも多い約1億7,100万人(出展:国連経済社会事務局、2024年1月時点World population view) となっており、増加傾向にあります。産業構造をみてみると、第1次産業から第2次産業、第3次産業へと高度化が進んでいます。
特にサービス業が今後の発展を支えるといわれており、それに伴い、今後の大規模な内需の拡大が予想されます。特に20代の若年層が今後、住宅や自動車、家電製品などの消費を拡大し、経済発展を牽引していくと考えられています。
■ 労働力人口
人口約1億7,200万人のうち労働人口は 約7,450万人(2022年 ILOデータベース)となっています。
人口構成はピラミッド型から釣り鐘型に変化してきており、緩やかな少子化傾向にあります。若年層の教育水準の向上に伴い、生活水準も改善傾向にあります。人口増加は年間約1.22%で、2050年頃には2億人を突破すると見込まれています。
バングラデシュは「余剰労働」経済の国といわれており、外資企業にとって熟練・非熟練を問わず幅広い人材が比較的低い労働賃金で調達可能な環境にあります。
そのため、政府は、特に外国からの投資によって生産的かつ適正な就業の機会を創出し、多様なスキルレベルの労働者の就業の促進を図っています。
■ 産業別就業人口
労働人口を産業別に分析してみると、製造業や商業・ホテル・レストラン、運輸・倉庫・通信、金融・ビジネスサービスなどが増加の傾向にあり、個人サービスは減少傾向にあります。
全人口に対する就業者割合は58.75%と、176か国中111位となっています。男性の就業率は80.61%、女性の就業率は37.69%となっています。男性の就業率は18位と他国と比較しても高いとわかりますが、女性の就業率は今後も課題となっています。(2022年The World Bank)
■ 失業率
世界銀行の統計によると、バングラデシュの失業率はCOVID-19以前は4.3%台で推移していましたが、2020年COVID-19の影響を受けて、5.2%まで上昇しました。2022年には、4.7%まで減少しています。
近年の景気の動向について、2009年に入ってから世界同時不況の影響が現れていました。その影響で、2009年3月にはニット製造会社の閉鎖に伴い、労働者1,600人が解雇された事態も報告されていました。また2014年の国政選挙に伴い、政治情勢が不安定になったことから縫製、ニット製品部門では海外からの注文が減少し、採算が取れずに契約労働者の契約打ち切りや雇い止め、賃金引き下げ、不払い等を行う企業も出ていました。また工場が所在する地方では一部のバングラデシュ人労働者の識字率は低く、グローバル化と自由市場経済により、雇用の維持が困難な場合があるのも特徴的です。一方で、EF English Proficiency Indexという英語の習熟度を表すランキングによると、バングラデシュは113ヵ国中60位という中央値に近い数値となっています。日本は、同ランキングでは87位となっており、バングラデシュは日本よりも英語の習熟度が高いと言えます。大学を卒業した若年層は比較的英語を話せる人材が多いです。
■ 賃金水準と賃金上昇率
バングラデシュの給与、賃金水準は総じて低いものの上昇の傾向にあります。統計局公表の賃金率指数によると、2013年度の最低賃金上昇率は40%増で5,300BDTとなりました。2018年度は最低賃金上昇率は50%増で8,000BDTとなりました。2023年の賃金上昇率は56%増で12,500BDTとなりました。村部でも都市部でも賃金上昇率が消費者物価上昇率を上回りました。消費者物価上昇率の上昇(約7~8%)を考慮し毎年賃上げが行われています。
産業別にみると、縫製業が7つのグレードに格付けされており、それぞれで最低賃金が定められています。グレード7が初級縫製工でグレード3~5が中堅縫製工となっています。
表(出所)JETRO投資関連コスト
主要産業である衣料産業の賃金に関して、2006年の見直しで最低賃金が1,662タカ(約2,160円)に改定されて以降変更がありませんでしたが、2010年に入って賃上げを求めるデモが頻発しました。デモはダッカ全域に拡大し、最大5万人が治安部隊に投石したり、幹線道路を封鎖したりする事態に発展しました。それを受けて、2010年7月29日、縫製工場(輸出加工区を除く)の労働者に対する最低賃金を3,000タカ(約3,900円)に引き上げました。引き上げ幅は80.5%と大きいですが、バングラデシュ開発経済研究所の調査によると、経済成長率、物価上昇率を勘案した実施値で44.4%の引き上げ幅にとどまっており、4年ぶりの改定にしては十分なレベルではないという声が挙がりました。さらに、
後述する2013年4月のラナプラザ縫製工場ビルの倒壊をきっかけに労働条件・労働環境の改善を求める機運が強まりました。
これに対して政府は、2013年12月から、最低賃金を5,300タカ(約6,890円)に引き上げることを決定しました。また
2023年には選挙前に労働者が賃金の引き上げを求め、最低賃金は8,000タカ(約10,400円)となりました。労働者の要求していた最低賃金額15,000タカに比べると約2倍近くの開きがあり、この改定以降も家賃や物価上昇が続く中で賃金が十分ではないという声があがっていました。2023年も選挙前に労働者が政府に対して賃上げの交渉に入り、11月現在新たな最低賃金が発表され12,500BDT(約16,000円)へ引き上げられました。物価上昇率も2024年1月時点の直近12ヵ月の月平均では9%を超えており、今後の賃金上昇の動向にも注意が必要です。
■現地人の雇用義務
製造分野では外国人1人につき20人以上(操業前は10人以上)、商業分野では外国人1人につき10人以上(通常営業前までは5人以上)のバングラデシュ人を雇用するという基準があります。
■バングラデシュ人労働者の特徴
バングラデシュ人の性格はおだやかで、開放的であると言われています。人口の約9割がイスラム教、その他1割程をヒンドゥー教、キリスト教等が占めていますが、国民の祝日としてイスラム教だけでなく、ヒンドゥー教、キリスト教の祝日も設定されており、他宗教にも寛容な文化であると言えます。
縫製業が主要産業であり、労働集約型の分業体制で生産を行ってきた背景から、職務分掌による仕事の仕方が一般的です。ルール設定されていないもの、担当以外の仕事を協力し合いながら行うという慣習がないため、細かくルール化していく必要があります。
労働組合と労働争議
■ 労働組合の概要
1979年、産業別の労働組合が統合され、民族主義労組連合(BJSD:Bangladesh Jatiyatabadi Sramik Dal)が発足しました。BJSDは現在、バングラデシュ最大のナショナルセンターとして、国内すべての産業分野を組織する労働組合となっています。
1983年後半には、SKOP(Sramik Karmachary Oikkya Parishad)が17のナショナルセンターの統一協議会として設立されました。BJSDはSKOP設立当初から参画していて、SKOP最大の構成組織となっています。
近年、労働市場の変化により、労働組合の活動も変化しています。女性労働者、在宅労働者、インフォーマル部門、小規模の商業・サービス部門の増大は、労働組合の組織戦略にも影響を与えており、近年では建設、人力車、ポーター、精米所といったインフォーマル部門における組合結成もみられます。労働局の管理しているWeb Portalでは、活動を行っている労働組合として、バングラデシュ全土に約8,700もの組合が存在していると確認できます。
■ 代表的な労働組合
2022年には、全国レベルの労働組合連合会(ナショナルセンター)が30組織存在し、そこに加盟する組織は1,522組織あり、加盟数は約174万人います。全国的なものを含めない全体的な労働組合の組合員数は約300万人となっています。各組合を統括する上位機関として国際労働組合総連合・バングラデシュ協議会(ITUC―BC:ITUC-Bangladesh Council)があります。
2023年現在、労働組合連合会の主な例としては、BJSD(Bangladesh Jatiotabadi Sromik Dol、約24.5万人)、バングラデシュ自由労組連盟(BMSF:Bangladesh Mukto Sramik Federation、約16.2万人)、バングラデシュ自由労組会議(BFTUC、約9.7万人)、ジェティオ・スラミク・リーグ(JSL、Jatio Sromik League、約53.4万人)、バングラデシュ労働連連合(BLF:Bangladesh Labour Federation、約18万人)、バングラデシュ・ションジュクト・スラミク連合(BSSF:Bangladeh Songjokto Sromik Federation、約11.9万人)があります。
■ 労働争議の概要
政府は労働裁判所を様々な地域に設置しており、民間企業において使用者と労働者の間で労働争議が発生した場合、政府から任命された調停者を通じての調停や労働裁判所を通じて解決することになります。使用者または労働者の団体交渉代表権者は、バングラデシュの労働法により、保証されている権利を行使するため、労働裁判所に申請することができます。
労働裁判所の判決に不服の場合には、使用者または労働者の団体交渉代表権者は、労働上訴裁判所(Labour Appellate Tribunal)に異議申し立てをすることができ、この労働上訴裁判所による判決が最終判決となります。
労働者が労働組合結成前に、使用者の干渉を受けずに組合活動を行うことは、法的に認められていません。そのため、民間企業では、組合の結成に関わる活動をする労働者を異動させたり、解雇したりするケースもみられます。
労働組合の結成のためには、事業所に所属する全従業員の30%以上が加入に同意しなければならず、他国と比較すると比較的厳しい結成要件といえます。労働者による団体交渉は、合法的に登録をしている労働組合による場合に限り、認められています。また、登録をするためには少なくとも30%以上の従業員の参加が必要となります。
団体交渉は、医薬品、ジュート(繊維)、織物といった業種の大企業で行われることがありますが、団体交渉を実施することで雇用が不安定になることを危惧して、団体交渉に消極的な労働者もみられます。民間の中小企業では、団体交渉が行われることは一般的にはありません。
1969年に制定された産業関係条例により、労働争議が解決されない場合に、労働者はストライキを行使することが認められています。これに対し、ストライキが30日以上続いた場合には、政府はストライキを禁止して、解決のために労働争議の解決を労働裁判所に委ねることがありますが、近年はあまりみられません。労働争議において、調停が失敗に終わった場合にはストライキや工場閉鎖を行うことが認められています。ただし、バングラデシュの労働法において操業3年未満の外国人がオーナーである組織及び外国人との合弁会社である組織に関しては、ストライキが禁じられています。
■ 労働争議発生状況
2013年4月のアパレル工場ビル・ラナプラザ倒壊事故が発生しました。ラナプラザ倒壊事故は、法令に基づいた建設許可手続きなしに違法に建設されたアパレル工場ビルが倒壊し死者1,100人以上、負傷者2,500人以上を出した事故です。この事故を受けて、バングラデシュに蔓延している労働環境に焦点が当てられました。繊維産業の最低賃金は、2006年に月1,662タカ(約2,160円)に見直されて以来、4年間は変わっておらず、デモが全国的に広がりました。デモの影響により、生産を停止した工場の中には、納期に間に合わなかったり、資金繰りに行き詰まったりするところもあり、夏のボーナスの支払が出来ず、さらに労働者が暴徒化するという悪循環に陥りました。
このデモを受けて、政府は最低賃金を2013年12月から、5,300タカ(約6,890円)に引き上げる妥協案を示しました。この事故以降、アメリカ及び欧州連合が労働者権利保障のためのアクションプランをバングラデシュ政府に提示するなど、労働環境改善のための活動が行われています。最近の労働争議の発生の事例としては、最低賃金の引き上げを訴える2023年10月の600にも上るダッカの工場でのストライキが挙げられます。首都ダッカ西部のアシュリア地区で約10,000人の労働者が賃上げを求め警察と衝突しました。労働者は、警察や工場に対し投石を行い抗議し、1,500人もの警察が出動する事態となりました。その結果、2023年12月より最低賃金が12,500タカ(約16,000円)に引き上げられています。
■ 労働争議の争点
労働争議の争点は、臨時雇用者の正規雇用化、適正賃金、労働組合権等が多くなっています。バングラデシュでは、タバコ、茶、衣類、電気通信、飲食料品などの有名な多国籍企業が活動していますが、多国籍企業の全体的な条件は非多国籍企業よりも良いとされています。しかし、その安い労働力を活用して、多国籍企業が企業成長する一方で、労働者の賃金水準の伸びが十分でないという現状があります。
また、バングラデシュでは労働組合がある縫製工場は全体の10%以下とも言われており、低い水準にとどまっています。このような状況から、労働者の立場が弱く、それが労働災害の増加につながっているとの見方もあります。
2013年ラナプラザ倒壊時には、ビルの亀裂を理由に就労を拒否した労働者がいましたが工場経営者はそれを受け入れず就業を続けさせ、その結果1,100人の死者を出す大惨事となりました。また、2012年のタズリーン縫製工場で起きた火災事故では、火災警報作動後も工場経営者が避難を禁止したことから死傷者の出る事故につながりました。
バングラデシュ政府は、2013年以降労働法一部改正により労働組合登録手続きが簡素化を進めるなど改善に向けた取り組みを行っていますが、まだまだ低い水準にとどまっています。こういった労働災害により工場経営者だけでなく、バイヤー側の責任が追求されるケースもあることに留意が必要です。また、賃金及びその他の給付は、管理者と事務職・労働者の間の格差が広がっており、労働条件の適正化や向上を争点とした労働争議が依然として行われています。
+ .2 .労働法
労働基準関係法令
■ 労働法体系の概要
バングラデシュの労働法はイギリス植民地時代の1881年に初めて制定されました。労働時間、児童の雇用、産時休暇、労働組合の活動、賃金などに係る法律が徐々に整備されていきました。例としては、工場法(The Factories Act (1881))、労働者補償法(Workmen's Compensation Act (1923))、 労働組合法(Trade Unions Act (1926))、労働紛争法(Trade Disputes Act (1929))、賃金支払法(Payment of Wages Act (1936))、産時休暇法Maternity Benefit Act (1939)、児童雇用法( Employment of Children Act (1938))が挙げられます。バングラデシュがパキスタンに統治されていた時代、パキスタン政府によって同法律は一部修正が加えられましたが、1971年のパキスタンからの独立後統治、同法律は、大統領令によって保持され、施行されていました。2006年には、これまで25に分かれていた労働関連の法規まとめた2006年労働法 (Bangladesh Labour Act,2006)が制定されました。労働者と雇用主の関係、最低賃金の決定、労働者への給与及び損害賠償の支払、労働組合の設立、労使紛争の解決、健康、安全、福祉、労働条件、見習い実習期間等の幅広い内容が統合されました。
この労働法は、2013年と2018年に一部改正されています。また、労働法についての詳細規則を盛り込んだ労働規則が2015年に制定されました(Bangladesh Labour Rules, 2015)。この労働規則は、2022年に一部改正されています。近年の改定で特筆すべき点は、2022年の労働規則に改定で、産時休暇・ベネフィット取得の詳細なルールが設定されたこと、セクシュアルハラスメントについての規定も整備され、女性のための職場環境についての動きがあったという事です。
同法及び規則は、バングラデシュで活動する企業、事業所、組織、団体について適用とされますが、
ただし、以下の事業所等については適用除外となります。
・政府管轄の事務所や工場
・病気、身体が弱い、高齢、貧困状態、精神障害、孤児、捨て子等の治療や介護のための福祉施設、もしくは利益や利得を目的としない施設
・展示会や展覧会を目的としたもの
・宗教関連もしくは慈善目的のバザール
・教育、研修、研究関連の施設
・船上での労働環境
・10人以下の労働者を雇用する農園
・家事奉公人・使用人
・家族(同族)のみで運営している組織
■ 児童の就労制限
バングラデシュの労働法第3章では、未成年者の労働に対する保護が規定されています。バングラデシュでは、全ての会社において14歳以下の小児を雇用することはできません。また、14歳~18歳までの青年(adolescent)を雇用する場合には、登録医療関係者により本人に発行した規程書式としての「適合証書」を雇用主が保管する必要があります。ただし、見習生、研修生としての雇用であれば、「適合証書」がなくても雇用することができます。
■女性の就業制限
バングラデシュの労働法の第4章では、女性に対する保護などの「労働者の健康、衛生、安全を守る義務」に関する規定がされています。
女性の労働者は本人の同意なしに、夜10時から朝6時までの間に就業することが禁止されています。本人が同意する場合は、労働法上、所定のフォーマットに従って管理する必要があります。2022年9月には労働規則が改定され、夜10時から朝6時までの間に就業する場合には会社が交通手段を用意することが義務付けられました。さらに、初めてセクシャルハラスメントより女性を守る法律が追加されました。
■ 安全衛生に関する規定
労働法では、従業員の安全と衛生について以下のように詳細に規定しています。使用者は、これらの条件を整えなければなりません。
+ .3 .雇用契約書と就業規則
雇用契約書と就業規則
雇用主は労働者を雇用する際、労働条件等を記載した雇用契約書を発行しなければならず、雇用された労働者は入社の際に身分証明書と写真、その他会社ごとに定められている提出物を提出しなければなりません。雇用契約については労働法の第二章の”Conditions of Employment and Service”に規定されています。
バングラデシュにおける就業規則は、労働者の職場全体のルールを規定するものとして存在します。
作成義務はありませんが、作成する場合は労働基準監督署へ登録しなければなりません。就業規則は、社内でのルールを制定してトラブルを避けるためにも、進出直後に人数が少ない場合でも作成しておくことが望ましいといえます。すべての産業の雇用主は労働法の遵守義務がありますので、就業規則を作成する際にも労働法の規定に準じて作成する必要があります。
また、バングラデシュでは、実習生、日雇い、臨時雇い労働者を除くすべての労働者についてはサービスブック(会社ルール・ポリシーブック)、登録簿、チケットカード等の制度に対応しなければなりません。
登録簿は、労働者の氏名・生年月日、入社日、仕事内容、就業時間等を記載して、会社に保管しておく必要があります。
チケットカードは、常勤労働者、非常勤労働者ごとに区分したカードを会社が配布します。雇用契約の期間中は、労働者はチケットカードを所持し、雇用契約満了の際に会社に返却します。
■ アポイントメントレターの概要
バングラデシュでは、雇用契約時にアポイントメントレターを作成する義務があります。アポイントメントレターは日本の雇用契約書と採用通知書の要素を1つにまとめたものです。アポイントメントレターは通常ベンガル語もしくは英語で書面により作成されますが、多くの日系企業では英語で作成されることが一般的です。アポイントメントレターは、労働法に準じた内容で作成する必要があり、基本的には会社と個人との個別の内容、例えば入社日、役職名、仕事内容、給与、賞与、休暇、退職を含みます。
■ 試用期間
バングラデシュの労働法上、一定の試用期間が設けられており、職種等によって試用期間の取扱いが異なっています。事務職労働者の試用期間は最長6カ月、その他の労働者の試用期間は最長3カ月まで規定することができます。
また、熟練労働者の場合、最初の試用期間3カ月中に労働者の資質を判断しかねる場合には試用期間をさらに3カ月延長することもできます。延長した試用期間も含めた試用期間中に、正式な雇用契約に至らず、雇用契約の打ち切りとなった労働者が、3年以内に同じ雇用主に再度採用された場合、常勤採用の場合を除いて、実習生として見なされ、以前の試用期間についてもその労働者の試用期間として含めて扱われます。
■ 雇用契約の終了(解雇)
「無条件解雇(Termination Simplicater)」といわれる、解雇形態が存在します。労働者は絶対的な理由もなく一方的に解雇されます。そして正式な解雇通知を受け取った場合もしくは、相当額の金額を受け取った場合、被解雇者は異議を唱えることができなくなっています。
無期雇用者(Permanent Employee)が解雇通知を受け取る場合として、対象者が月額給与受領者の場合は120日前までに書面での解雇通知が必要で、その他の対象者は60日前までに書面が必要です。
有期雇用者(Temporary Employee)が解雇通知を受け取る場合として、対象者が月額給与受領者の場合は30日前までに書面での解雇通知が必要で、その他の対象者は14日前までに書面で通知が必要です。
上記に定められる解雇の事前通知を行えない場合は、通知を行えない日数分の給与を支払うことで、通知を行わないこともできます。
また、無期雇用者で6カ月以上勤務していた労働者が退職する際には、使用者は勤続年数に応じて以下の退職給付金を支給しなければなりません。
さらに、余剰人員を理由に解雇する場合、解雇理由を示して1 年以上勤務した者に対して、人員整理の理由とともに 1 カ月前に書面で通知を行うことが義務づけられています。同手順を怠った場合は、労働者に対し、通知期間相当の賃金を支払う義務が生じます。
事前予告の代わりに解雇予告手当の支払を行うことで即日解雇も可能です。退職金として就業期間1年につき30日分の基本給を補償金として支払わなければなりません。ただし、勤続6カ月以上12カ月未満の場合は1年勤続したこととみなし、退職金を支払う必要があります。
ただし、労働者の不正行為による解雇の場合は、解雇予告及び解雇予告手当の支払は不要です。不正行為とは、以下のような行為をいいます。
・ 上司による合法的、妥当な命令に対して従わない行為、業務命令違反
・ 使用者の業務もしくは資産に関連した窃盗、詐欺、不正行為
・ 労働者もしくは他の労働者に関連した賄賂取引
・ 常習的な遅刻や早退
・ 法律、規則、もしくは組織に適用される規定に対する常習的な違反
・ 組織内での暴動や乱暴な行為、もしくは規律に反する行為
・ 業務の常習的な不履行
・ 就業規則、雇用契約書その他雇用関連規則に定める事項に関する常習的な違反
・ 使用者の公式な記録の偽造、買収、損傷、紛失の原因となる行為
一方、労働者が自己の都合により雇用契約を解除する場合には、労働者は使用者に対して60日前までに書面により通知するか、通知期間の代わりにその期間分の賃金を放棄しなければなりません。
バングラデシュでは、労働法上の労働者の定年は60歳です。労働者の年齢の計算は本人のサービスブックに記録される生年月日で行います。また、労働者の能力や健康状態等を考慮して、定年退職後に再雇用することもあります。
■ 日本とバングラデシュの労働条件比較
雇用契約書や就業規則に労働条件を記載する場合には、バングラデシュの労働法に基づいて作成する必要があります。主な労働条件は、以下の通りです。
項目 | 日本 | バングラデシュ |
労働時間 | 1日8時間 1週間40時間 | 1日8時間 1週間48時間 |
休憩時間 | 連続して6時間を超えて労働する場合は45分以上、8時間を超える場合には1時間以上 | 1日5時間以上働く場合は30分の休憩、6時間以上の場合は1時間の休憩ならびに食事時間取得、8時間以上の場合は1時間の休憩時間か30分を2回取得可能(第101項、(改正案)2013) |
休日 | 4週間に4日以上の休み | 商業用施設、その他の各産業では1週間に1.5日の休みが与えられる。工場、道路交通サービス関係の事業の場合は1週間に1日の休みが与えられる |
割増賃金 | 時間外労働:1.25倍 深夜労働:1.25倍 休日労働:1.35倍 | 基本給の2倍 残業は1日2時間まで (1日の総労働時間は10時間まで) 1週間に12時間まで (1週間の総労働時間は60時間まで。1週間の総労働時間の年平均は、56時間まで。) |
年次有給休暇 | 6カ月以上:10日以上 1年6カ月以上:11日以上 2年6カ月以上:12日以上 3年6カ月以上:14日以上 4年6カ月以上:16日以上 5年6カ月以上:18日以上 6年6カ月以上:20日以上 | 成人労働者が、18 日分の就労日数ごとに 1 日分の有給休暇が翌年から与えられる。未成年者の労働者の場合は、15 日分の就労日数ごとに 1 日分の有給休暇(Annual Leave)が翌年から与えられる。翌年への繰り越し可能。繰越上限は、 それぞれ 40 日(工場、道路サービス関係)と 60 日(商業用施設、一般的な会社(工場以外))。未成年は、60日(工場、茶園)と 80日(商業用施設、一般的な会社(工場以外))。 |
その他 | 臨時休暇(Casual Leave): 入社と同時に1年ごとに10日与えられる休暇。翌年への繰り越しは不可能 傷病休暇(Sick Leave): 入社と同時に1年ごとに14日与えられる休暇。医師からの診断書等の証明書を提示したときのみ使用可能。翌年への繰り越しは不可能 出産休暇: 産前産後それぞれで8週間与えられる休暇 |
■ 各種手当
一般的な給与体系は総支給給与の60%を基本給、基本給の50%を家賃手当、基本給の10%医療手当、残りが通勤費手当となっています。この背景は、2023年7月以前では、これらの手当に非課税枠が設定されていたため、手当を設定すると個人所得税が低く抑えられるという事がありました。2023年7月の税法の改定では、手当に対しての非課税枠が撤廃されたため、少しずつ給与構成が変化してきています。その他に、通信手当、ランチ手当、出張手当、各企業で推奨する資格試験の手当などが任意で支給されています。なお労働法では、基本給は総支給給与の50%以下とならないこと、と定められています。基本給は、残業代、有給の買取、退職金、積立基金等のベースとなるため、給与構成は、働き方、各種ベネフィットへの関係も考慮しながら決定する必要があります。
■ 3種類の有給休暇
バングラデシュには、①臨時休暇(Casual Leave)②傷病休暇(Sick Leave)③有給休暇(Annual Leave)の有給休暇が3種類あります。
対象者 | 日数 | 繰越の可否 | |
①臨時休暇 (Casual Leave) 労働法第115条 | 全ての労働者 | 10日 | × |
②傷病休暇 (Sick Leave) 労働法第116条 | 全ての労働者 | 14日 | × |
③有給休暇 (Annual Leave) 労働法第117条 | 勤続1年以上の労働者 | 就労日数18日に1日 | ○ |
有給休暇(Annual Leave)の対象者については、勤続1年以上の労働者とされていますが、勤続1年未満の労働者に有給休暇を付与しても問題はありません。
有給休暇の日数は、「年間就労日数18日あたり1日」とされています。ただし工場の場合は6日(週休1日)、工場以外は5.5日(週休1.5日)営業することが可能であるため、会社の営業日数によって有給休暇の日数計算が異なります。多くの会社は14~16日と設定されています。
■有給休暇の繰り越しと買取り
バングラデシュでは有給休暇(Annual Leave)の翌年への繰り越し及び買取りが可能です。労働法上、従業員より買取りの要求があった場合は、雇用者側は有給休暇の買取りを行う必要があります。1日分の有給休暇の買取りは、以下の計算式で算出されます。
1日分の有給休暇の買取り=1か月分のグロス給与÷30
有給の繰り越しは年に1回までで、工場の場合は40日まで、工場以外の場合は60日までと定められています。この上限以上の繰り越しは行えません。
有給休暇の買取りは1年に一度とされています。有給休暇の買取りの上限は有給休暇の残日数の半分までで買取金額は1日分の基本給となっています。バングラデシュでは、従業員を雇用する際に有給休暇について質問されるケースがほとんどで従業員の関心度が非常に高いため、有給休暇の取り扱いについてしっかりと説明しておく必要があります。
■有給休暇の管理
バングラデシュには、前述の通り3種類の有給休暇があります。労働法上、会社は従業員ごとに毎年Leave Registerを発行し、フォーマットに従って有給休暇の日数や買取日数等を記録し保管しておく必要があります。
【Leave Registerへの主な記載項目】
・従業員名
・従業員番号
・従業員の入社日
・前年度繰り越し有給休暇日数
・有給休暇の買取日数と有給休暇の残日数
・今年度分の臨時休暇日数、傷病休暇日数、有給休暇日数
(労働法上、臨時休暇は年間10日、傷病休暇は年間14日与える事となっています)
・従業員の署名
・雇用主もしくはマネージャーの署名
■産休休暇
バングラデシュでは、労働法上、入社6カ月を超えた女性従業員に対して産前産後8週間ずつの産休休暇(Maternity Leave)と出産給付金を得る権利が認められています。なお、既に2人以上の子供を持つ場合は出産休暇が与えられるものの、給付金の支給はありません。
労働法上、女性従業員に産休休暇を与える場合、労働規則で定められた所定のフォーマットに従ってRegister of the Beneficiary of Maternity Benefitという書類の発行と保管が義務付けられています。
~主な記載内容~
・従業員名/従業員番号
・年齢
・入社日
・産休休暇中の手当の金額(4カ月分の基本給)
・1回目の手当支給日(8週間分の手当)
・2回目の手当支給日(8週間分の手当)
・出産予定日
産休休暇の手当の金額は16週分の基本給で、この基本給というのは直近3カ月の基本給の平均がベースとなります。手当の支給は2回に分けて行われますが、1回目の支給日は、産前8週間であるという医師から証明を受けてから3営業日以内、2回目の支給日は医師からの出産証明から3営業日以内に支払う必要があります。
■代休と振替休日
出勤日以外に会社の都合により出勤した場合、従業員に代休や振替休日を与える必要があります。バングラデシュには〔祭日(Festival Holiday)の出勤の際の代休〕と〔祭日以外の際の振替休日〕の2パターンがあります。
〔祭日の出勤の際の代休〕
バングラデシュの労働法では、雇用者は年間11日の祭日を定めることができると規定されており、この祭日は、従業員は休暇を与えられることになっています。年間の11日の祭日は有給休暇となります。なお、会社の都合で祭日の出勤が必要な場合は従業員の了承を得れば出勤することができます。その際の代休は1日+2日の休暇=3日となります(給与の控除無し)。
※この祭日(Festival Holiday)は国民の祝日とは異なっています。国民の祝日には、祭日も含まれているため、祭日は、祝日の中から設定される場合が大半です。
〔祭日以外の際の振替休日〕
祭日以外の休暇の際に会社の都合で出勤が必要な場合も従業員の了承を得れば出勤させることことができます。その際の振替休日は1日となります。なお、3営業日以内に代休を与える必要があります。
上記のいずれの場合においても、労働法上、10日を超えての連続勤務は認められていません。
■ 賞与
バングラデシュでは、勤続1年以上の労働者につきフェスティバル(祝祭)賞与の支払義務の規定があります。民間企業では祝祭ボーナスを「イド・アル=フィトル(Eid-ul-Fitr)」という断食明けと「イド・アル=アドハー(Eid-ul-Azha)」という犠牲祭の時の年2回支給します。金額はそれぞれ給与の1カ月の基本給程度が一般的です。また、祝祭ボーナスに加え、会社ごとに定めた基準に従って業績手当が支給されるケースもあります。
■ 賃金の支払
使用者は労働法に従い、労働者へ賃金を支払う責任を負っています。労働法上、給与計算期間後7営業日までに支払う必要があります。請負業者によって雇用されている場合を除き、最高経営責任者、経営者もしくは労働者の管理や組織運営の責任者が支払の責任を負うこととなります。
請負業者に雇用される労働者が請負業者から支払を受けられない場合は、業務委託元の使用者が立て替えて支払い、業務委託元の使用者と請負業者の間で調整します。
使用者は、1カ月を超えない期間を給与計算期間として設定します。また、退職した労働者に対しては、退職日から30日以内に賃金及びその他の支払い(退職金・積立金等)を支払わなければなりません。賃金は、小切手やオンライン送金等の銀行チャネルで支払わなければなりません。
原則として、賃金からの控除は全額払いの原則から禁止されていますが、下記のような一定の項目に限り、控除が認められています。
・ 本人にかかる罰金
※ただし、一賃金計算期間において賃金の10分の1を超えないものに限る
・ 欠勤相当額
・ 労働者本人の不注意、もしくは不履行に直接の原因のある損害や金品の紛失がある場合の損害相当額
・ 雇用主が供給した住居費
・ 借入金などの融資もしくは賃金の過剰支払にかかる調整分
・ 個人所得税負担分
・ 拠出準備金 (CPF)
・ 政府の承認により、労働者もしくはその家族の福利厚生として使用者により構成される協同組合や基金/プログラムへの支払分
■個人所得税
バングラデシュの税法上、年間課税所得税350,000BDT以上の従業員(女性の場合は年間課税所得税400,000BDT以上)について個人所得税の納付義務が発生しますが、バングラデシュでは2018年頃まで、個人所得税の納付や申告が行われているケースは稀で事実上、形骸化していました。
2018年7月の税法改定を受けて、個人所得税の源泉及び納付が会社のコンプライアンスとして扱われる形に変わっています。個人所得税を納付することが念頭にない社員も存在するため、従業員と雇用契約を締結する際には予め個人所得税について説明する必要があります。
■個人所得税の控除枠
日本と同様に個人所得税の控除枠が法律上定められています。控除枠上限及び控除対象は下記の通りです。
<控除枠上限>
何らかの投資を行っている場合にはいずれか低い金額が控除されます。
・課税所得額の3%
・投資額の15%
・1,000,000タカ
<控除対象>
保険、積立基金(Provident Fund)など
■従業員が死亡した際の補償金
労働法上、従業員が死亡した場合は、補償金を遺族に支払うことになっています。従業員が死亡した場合には下記の①もしくは②を支払わなければなりません。
ケース | 補償金額 |
①勤続2年以上の従業員が就業中に死亡した場合 | 30日分の基本給×勤続年数目分 |
②勤続6カ月以上の従業員が職場で事故により死亡した場合 | 45日分の基本給の勤続年数目分 |
従業員が死亡した場合は上記とは別に、200,000BDTの補償金を支払わなければなりません。
■ 最低賃金(Labour Act, 2006 Chapter ⅩI Wages Boards)
民間企業における労働者の最低賃金は、政府管轄の「最低賃金委員会」の勧告により決定されています。最低賃金は産業に応じて、通常5年ごとに改訂されます。最低賃金は、すべての労働者に適用され、最低賃金以下の賃金を支払うことは違法となります。最低賃金委員会は生活費、生活水準、生産原価、生産性、物価、ビジネスの将来性、国内経済や社会情勢、その他関連要素を考慮に入れて決定します。2023年11月13日バングラデシュ縫製業の最低賃金委員会において以下のように定められました。
月額12,500タカ(約1万6,000円)で内訳は、基本給が6,700タカ、住宅手当が3,350タカ、医療手当が750タカ、通勤手当が450タカ、食事手当が1,250タカとなっています。こちらの賃金は2023年12月から適用されています。
+ .4 .社会保険法
社会保険法
■社会保険の適用範囲
バングラデシュでは国民皆保険という概念がなく、公的年金と年金関連の諸手当は、公務員のみに適用されています。従って、民間企業に従事する労働者は、年金等を受給する権利がありません。
公務員にのみ適用されるため、社会保険というよりは、日本でいう共済年金のような制度で、政府職員約120万人に対して、60歳の定年退職と同時に年金が支給されています(公務員法、1974年)。
【適用対象】
国家公務員
(ただし、地方自治体等などから給与を受けているものは年金の受給はない。また、不行跡による解雇等本人の責めに帰する場合は年金の支給は停止される)
【退職証明】
サービスブック
(労働者の年齢を計算するため、本人のサービスブックに記録される生年月日を用いる)
【適用対象外】
上記国家公務員以外
(バングラデシュの雇用の多くを占める、農業従事者や移民、民間の労働者は適用対象外となります)
■社会保険料
保険料は、月々雇用者が労働者に支払う給与の15.704%を折半して支払います。
保険料:15.704%
<内訳>雇用者:7.852%労働者:7.852%
■社会保険給付
バングラデシュの社会保険の給付には、失業手当、障害年金、老齢年金、退職年金、付加年金、遺族年金の6種類があります。
【失業手当】
政府による事業規模の縮小や人員削減によって離職した公務員には、失業手当が支給されます。ただし、解雇された場合には、失業手当は支給されません。また離職した公務員は、新しい役職を充てられるか、他の機関に転属されるのが一般的です。
【障害年金】
従業員に永久に残る障害が発生した場合には、政府は該当者に障害年金を支給します。従業員が57歳に達する前に障害年金の受給を申請する場合は、申請用紙、医師の証明書(労務提供の継続ができないことの証明)などを提出して、障害年金の受給の許可の手続をします。なお、以下の場合には、障害年金の申請が認められません。
障害年金が認められない場合
・従業員が他の理由で解雇された場合
・従業員の不行跡によって障害が発生した場合
【老齢年金】
老齢年金は、定年退職になった公務員に支給されます。定年の年齢は、通常の公務員は57歳、裁判官・大学教授は65歳です。
【退職年金】
退職年金の受給に当たっては、25年以上の勤務が必要となります。
【付加年金】
付加年金は、老齢年金がもらえない人が受給する年金です。
【遺族年金】
年金受給者が死亡した場合は年金受給者の家族は遺族年金の受給が出来ます。
受給できる遺族
1)死亡した従業員の配偶者(夫もしくは妻)
2)死亡した従業員の子供
3)死亡した従業員の死亡した息子の未亡人とその子供
上記の相続者がいない場合は以下の者が受給します。
1)18歳以下の男の兄弟
2)未婚の未亡人の姉妹
3)父親
4)母親
上記の相続人のうち、死亡した従業員の妻は再婚しない限り遺族年金の受給者としての資格がありますが、再婚した場合にはその資格を失います。
上記の給付、年金の他遺族補償として以下の給付制度があります。
共済基金
老齢年金受給者が受給から5年以内に死亡した場合は、遺族に対して共済基金が支給されます。
公務員向け団体保険
公務員が勤務中に死亡した場合には、遺族が基金から経済的援助を受けられます。補助金の額は、死亡した公務員の直近24カ月分の給与相当額です。
■年金制度の問題点
上記の年金及び手当が受給できるのは、現状公務員のみとなっています。さらに、全ての公的機関に年金制度が適用されるわけではありません。地方自治体の公務員や信託基金、国の機関で働く公務員は年金受給対象の公務員とみなされません。
また、政府から支給される年金、手当、共済基金、団体保険等の制度上の矛盾など複雑なルールであることも問題となっています。例えば、公務員退職法(1974年)が施行されたにも関わらず、年金や他の規則は依然として非常に古い規定が適用されているケースもあります。また、東パキスタン時代の年金規則、割合、退職手当等の制度も残っています。そのため、一般の受給者は様々な規則や制限について理解することが非常に困難になっています。
民間企業における社会保険制度
■公務員(国家公務員)以外の年金
前述のとおり、政府の国家公務員と第3セクター、地方自治体の公務員のみが年金と退職手当の受給の対象となっています。農業従事者、民間の各産業に従事する労働者、海外への出稼ぎ労働者には年金が適用されません。特に農業部門に従事する労働者は、退職という概念がなく、農業に従事しなくなった後の補償がないのが実態となっています。
■年金以外の取り組み~積立基金(Provident Fund)~
前述のとおり、民間部門の労働者は、政府の規定する年金制度の適用とならないため、積立基金法の規定のもと、保険料を納め退職時に積立基金(Provident Fund)を受け取れる制度があります。雇用者は、全従業員の4分の3以上が書面でその通知を望んだ場合に、積立基金を設置する義務があります。積立基金の設置要求を受けた場合に、雇用者は6カ月以内に規定を定めて運用を開始しなければなりません。勤続1年以上の労働者がこの積立基金に参加することができます。(勤続1年に満たない従業員に導入しても問題ありません。) 積立基金にかかる規定は、以下のようになっています。
a.民間企業は、労働者の利点のため政府の積立基金法の規定事項に基づいて準備基金を設置することができる
b.準備基金は評議委員会によって運営、管理される
c.評議委員会は同数の雇用主と組織に雇用される労働者の代表者によって構成され、政府に指名された者が議長となる
d.全ての常勤労働者は、積立基金を設置している企業で正社員である者または勤続1年以上の労働者には、毎月基本給の7~8%以上を納付し、雇用主もそれと同じ金額を納付するものとする
e.労働者は退職する際に、積立基金の積立金を全額引き出すことができるものとする
(運用上は12カ月で100%の基本給となる形で、毎月8.33%積み立てるケースが一般的です。)
なお、定年退職、解雇、免職、契約満了等により労働者の雇用が終了した場合には、労働者に支払うべき積立基金の全額が30就業日以内に支払われます。 積立基金を運用する会社は、積立基金運用ルール(Provident Fund Rules)や信託証書を作成し備え置く必要があります。積立基金は福利厚生として導入する企業が増えていますが、その多くは労働者数50人以上の企業や工場です。
+ .5 .経済特区(EPZ:Economic Proceeding Zone)での労働法
BEPZA法
バングラデシュには、計8か所のEPZ(Export Processing Zone)があり、輸出産業の労働環境を守るために、特別にEPZ専用のBEPZA法(Guideline of EPZ)が設けられています。EPZ内は、BEPZAの統括となります。BEPZA(Bangladesh Export Processing Zone Authority)法は基本的に、バングラデシュの労働法に基づいて定められているため労働法から大きく逸脱することはありませんが、労働者保護の観点からBEPZA法には、雇用主の立場から見ると厳しい規定が少なくありません。
■正規雇用の定義
正規雇用(Permanent Employee)か契約社員(Temporary Employee)は、従業員を雇用形態によって異なります。経済特区外では、Appointment Letterに雇用契約期限の記載がない場合には正規雇用(Permanent Employee)であるケースが一般的です。BEPZAにおける労働法では、正規雇用者として採用され、且つ試用期間を満了した社員が正規雇用となると規定されています。
■賞与
EPZ内でも年に2回のFestival Bonusを支払う必要がありますが、勤続6カ月を超える社員を意味する正規雇用者(Permanent Employee)の場合、1カ月の基本給(Basic Salary)と同額を支給しなければなりません。
■残業時間
EPZ内の場合、1日最大2時間までの残業が認められています。なお、総労働時間は週平均で60時間、年平均で56時間を超えてはならないとされています。
■休暇手当
バングラデシュ労働法とBEPZA法のどちらにおいても入社と同時に臨時休暇(Casual Leave)と傷病休暇(Sick Leave)の2つの有給休暇が与えられることとされています。どちらもそれぞれ年間10日、14日と定められており、この日数を超えての休暇は有給休暇という形もしくは欠勤扱いとされます。
■有給休暇の繰り越し日数
昨年度分の有給休暇以外の繰越はできないとされています。未使用分の有給は、会社が買取を行うことになります。
■出産休暇(Maternity Leave)
バングラデシュでは、出産休暇(Maternity Leave)が産前8週間・産後8週間認められております(男性の育児休暇等については労働法の記載はありません)。BEPZA以外の企業と同様、勤続6カ月以上の女性に認められます。さらに、EPZ内での出産休暇(Maternity Leave)は1人につき2回までと制限が設けられています。
■退職金(Gratuity)
EPZ内企業は、以下の条件で退職金を計算し、支給する必要があります。
・勤続5年未満の社員には、支払いなし
・勤続5年以上10年未満の社員には、勤続1年に対して0.5ヵ月分の基本給の支給
・勤続10年以上25年未満の社員には、勤続1年に対して1ヵ月分の基本給の支給
・勤続25年以上の社員には、勤続1年に対して1.5ヵ月分の基本給の支給
給与・手当の計算方法
■労働者が欠勤した際の控除の計算方法
社員が欠勤した際は、入社時に与えられる、傷病休暇(Sick leave)や臨時休暇(Casual Leave)、もしくは勤続1年以上の社員であれば 有給休暇(Annual Leave)として扱うのが一般的ですが、それらを超えて欠勤する場合は、欠勤日数分の給与を控除することができます。グロス給与とは、基本給とその他の手当を含めた、実際に労働者に支払われる金額を指します。
1日当たりの欠勤控除額計算方法は、以下の通りです。
1日当たりの欠勤控除額=グロス給与÷30(日)
当月日数が、29日もしくは31日の場合でも30(日)で計算します。
労働法上、欠勤日数分の給与額を超える控除は認められていません。
■残業手当(Overtime Allowance)の計算方法
1日の労働時間は、8時間と定められていますが、労働法では、1日最大2時間の残業(合計10時間の労働)が認められています。労働者に残業させる場合には、予め労働者に残業の許可を取った上で、残業手当(Overtime allowance)を支払うこととなっています。また、労働者は、雇用者の許可なく、残業することもできません。
1時間当たりの残業手当の計算方法は、下記の通りです。
1カ月分の基本給(Basic Salary)÷208(時間)×2=残業手当(1時間分)
■月の途中入社、もしくは途中退社の場合の給与計算方法
バングラデシュでは、ジョブホッピングが盛んで社員の入れ替わりが少なくありません。転職の際は、給与期間の途中で入社もしくは退社するケースがあります。
1日当たりの給与額の計算方法は、下記のとおりです。
1日当たりの給与額=グロス給与÷当月日数
給与額=1日当たりの給与額×労働日数(休日も含めた日数)
■昇給
2022年の労働法の改定で、年次昇給を最低5%行わなければならないと労働法に規定されました。2024年2月時点の直近12ヵ月の物価上昇率は10%程になっているため、物価上昇率の推移も見ながら昇給率を検討する必要があります。
■昇格
労働法上、昇格に関する規定はありません。役職に関する定義が曖昧なことが多く、個人が会社に昇格の交渉を持ち掛けてくることも珍しくありません。役職の責務と条件を明確に規定し、従業員個人から交渉を持ち掛けられるリスクを軽減しておくことが良いと言えます。なお、マネージャークラスでは、社用車を自由に使える権限を付与している会社も多く存在します。
青年(Adolescent)雇用の注意点
バングラデシュでは、労働法上、満14歳~18歳未満の青年の労働が認められています。
14歳~18歳未満の労働者は、労働法上、「青年(Adolescent)」として扱われ、成人労働者(満18歳以上の労働者を指す)よりも保護されるべき対象として、別途規定が設けられています。
18歳未満の人口の多いバングラデシュでは、特に工場や農村部において、青年が貴重な労働力となっています。しかし、一般的に青年(Adolescent)の労働規定に関しての認知度が低いために、労働法に遵守した形で雇用管理がなされていない場合や労働者の中には14歳未満でも年齢を偽って就業しているケースが少なくありません。
■労働時間
成人労働者の場合、1日8時間、週48時間の労働が認められているのに対し、工場勤務の青年の場合は1日5時間、週30時間に制限されています。その他の職種では、青年は1日7時間、週に42時間と制限されています。
残業については、工場の場合は労働法で定められている週の総労働時間36時間を超えない範囲内で可能です。その他の職種の場合は週の総労働時間が48時間が、予め残業開始の2時間前までに従業員からの同意を得る必要があります。
・19:00~翌7:00の時間帯の労働は労働法上認められていません
・青年の副業は認められていません
■有給休暇
入社時に、すべての労働者に与えられる臨時休暇(Casual Leave)と傷病休暇(Sick Leave)とは別に、勤続1年以上の青年労働者には成人労働者と同様に有給休暇(Annual Leave)が与えられます(勤続1年未満で与えても問題ありません)。
成人労働者は、18日に1日与えられるのに対して工場勤務の青年は、15日に1日と定められています。
(例)週6日勤務の青年の場合の有給休暇は、年間約21日となります。
有給休暇(Annual Leave)は、翌年に繰り越しすることが可能です。工場勤務の青年労働者の場合は年間60日まで、工場以外の場合は年間80日までの繰り越しが認められており、成人労働者のそれよりも20日多くなっています。
+ .6 .参考文献
参考文献
・バングラデシュILO
https://www.ilo.org/global/lang--en/index.htm
http://http/www.jetro.go.jp/jfile/country/bd/invest_05/pdfs/30f330e930b730e552b450cd6cd52006.pdf%E3%80%89
・りそな銀行
https://www.resonabank.co.jp/
・国際協力銀行
https://www.jbic.go.jp/ja/
・財団法人 海外職業訓練協会
http://www.ovta.or.jp/
・バングラデシュ政府HP
https://bangladesh.gov.bd/index.php
・JAPAN INTERNATIONAL FOUNDATION
https://www.jpf.go.jp/
・The Department of Printing and Publications「Labor act 2006」2015
http://www.dpp.gov.bd/upload_file/gazettes/14212_75510.pdf
・Labor rule 2015
https://resource.ogrlegal.com/bangladesh-labour-rules-2015-published/#:~:text=Misconduct%20and%20punishment%3A%20The%20Rules,more%20than%20a%20basic%20salary.
・ジェトロ『バングラ労務管理マニュアル』
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2019/02/d06fe8058ef255cc.html
・BEPZA法
・BEPZA労働規則
