移転価格
V 移転価格
【この章のポイント】
- メキシコの移転価格税制はLISR第179・180条を根拠とし、OECD移転価格ガイドラインに強く準拠。ただしベストメソッドルールは採用せず、基本三法(CUP・RP・CP)が優先される
- 2022年改正によりLISR第76-A条が新設。ローカルファイル・マスターファイル・CbCRの三層文書化義務が日本の制度と同様に義務化された
- SAT(税務行政庁)の2026年調査選定基準では、継続赤字子会社・無形資産取引・ロイヤルティ支払いが最高リスク類型として明示された
- 事前確認制度(APA)の申請手数料はMXN310,246.79(CFF第53-G条)。制度の認知度は高まっているものの実績は限定的であり、独自の文書整備が基本戦略となる
- 日墨租税条約(1996年)の適用により、配当(25%超保有)の源泉税率は国内法10%から5%(上場要件等で0%)に軽減される
- 過少資本税制(LISR第28条XVII)により、国外関連者からの借入金が純資産の3倍を超える場合、超過部分の支払利息は損金不算入となる
1. 国際税務の概要と移転価格の位置づけ
世界各国では、国際的な取引に係る税制をそれぞれの国ごとに設けており、各国が自国の課税権を確保するために定めている。国際間の取引が各国の税制に従って処理されることで、国際的な二重課税の問題等が発生する。そのため、この二重課税や国際間の租税問題を回避するために、二国間で租税条約が締結されており、このような国際間での取引にかかる税務を総称して「国際税務」という。
1-1. 国際税務が必要とされる理由
国際税務が必要とされる主な理由は、以下の2点である。
- ①国際間での二重課税の排除:同一の所得について複数の国が課税することを防止する
- ②各国における課税権の確保(租税回避行為の防止):移転価格操作、タックスヘイブン利用等を規制する
メキシコはOECDの加盟国(1994年加盟)であり、BEPSプロジェクト(税源浸食と利益移転防止)の「包括的フレームワーク」への参加も表明している。これにより、メキシコの移転価格制度はOECD移転価格ガイドラインに強く準拠した形で整備されており、他の中南米諸国と比較しても成熟度は高い。
1-2. 外国税額控除
外国税額控除とは、国外で得た所得に対して納付した税額を居住地国の税額から控除することにより、国際的な所得の二重課税を調整するために定められた制度である(LISR第5条)。この場合に発生する外国税額は、国内法人の駐在員事務所などが納付した外国法人税や、取引先との間のロイヤルティや受取利息、配当などの支払時に源泉徴収される所得税などが該当する。
メキシコが居住地国で二重課税となる場合は、外国税額控除の規定により二重部分の税額を、メキシコにおいて納付すべき法人所得税額として調整することになる。控除限度額は、外国所得に係るメキシコ税額相当額とされており、外国でより高い税率が課された場合でも、その超過部分はメキシコでは還付されない。
控除対象税目 | 主な発生源 | 控除限度額 | 申告書類 |
|---|---|---|---|
外国法人税 | 海外支店・PE | メキシコ税相当額 | LISR確定申告 |
源泉所得税(配当) | 海外子会社からの受取配当 | LISR第5条計算額 | 年次申告書Anexo |
源泉所得税(利息) | 海外法人からの受取利息 | LISR第5条計算額 | Anexo2 |
源泉所得税(ロイヤルティ) | 海外へのIP使用許諾 | LISR第5条計算額 | Anexo2 |
(出所:LISR第5条・SAT申告実務(2026年5月))
2. 移転価格税制の基礎
移転価格税制とは、関連会社間での取引における取引価格を通じて、その利益を国外に移転することを防止するために定められている税制である。企業が海外の関係会社への、資産の売買・役務の提供などの取引価格(移転価格)を第三者に対する価格と異なる金額に設定すれば、国際間での利益移動を自由に行うことが可能となる。
移転価格税制は、このような利益の移転を防止するために、その取引の移転価格を第三者が行う取引価格(独立企業間価格:ALP)に計算し直すことで、適正な国際課税を図ることを目的とするものである。実務上は納税者に租税回避の意図があったかどうかは問われず、SAT(税務行政庁)の判断に基づき更正処分等が行われるため、移転価格の指摘に対する事前準備やリスク対策をあらかじめ検討・実施しておくことが非常に重要となる。
(出所:日本―メキシコ間の移転価格取引フロー(著者作成))
2-1. 根拠法令
メキシコの移転価格税制は、主として以下の法令に基づいて運用されている。
法令 | 条文 | 主な内容 |
|---|---|---|
所得税法(LISR) | 第76条IX・X | 国外関連者との取引に関する文書化・申告義務。年間収益1,300万ペソ以上の法人に適用 |
所得税法(LISR) | 第76-A条 | 三層文書化(ローカルファイル・マスターファイル・CbCR)の提出義務(2022年改正導入) |
所得税法(LISR) | 第179条 | 独立企業間価格(ALP)の原則。累積所得・認容控除はALPに基づき計算。OECD GLを補完適用 |
所得税法(LISR) | 第180条 | ALP算定6方法の規定(CUP・RP・CP・PS・TNM・その他) |
所得税法(LISR) | 第28条XVII | 過少資本税制(純資産3倍超の国外関連者借入利息の損金不算入) |
連邦税法(CFF) | 第34-A条 | 事前確認制度(APA)の根拠規定 |
連邦税法(CFF) | 第76・81・82・83・84条 | ペナルティ規定 |
(出所:LISR・CFF(2026年5月現在))
2-2. 対象となる国外関連者
メキシコにおいて移転価格税制が適用される国外関連者の範囲については、LISR第179条に規定されており、以下のとおりである。
- 直接または間接にマネジメントおよびコントロールしている(されている)企業
- 直接または間接に株式の持ち合い関係にある企業
- 実質的に支配・被支配関係にある企業(経済的実態に基づく判定)
⚠ メキシコでは国外関連者に関する規定上、持株割合については具体的な数値が規定されていない。日本のように「50%超保有」などの明確な閾値はなく、持株割合が低くても移転価格税制の適用対象法人となる可能性があるため注意が必要である。
実務上は、取締役・役員の兼務関係、融資関係、技術供与関係なども含めて総合的に「関連性」が判断されるため、持株割合だけに依拠した判断は禁物である。疑義がある場合はSATに照会するか、専門家に確認することが望ましい。
関連者類型 | 具体例 | リスクレベル | 文書化優先度 |
|---|---|---|---|
直接的な株式保有関係 | 日本親会社100%出資のメキシコ子会社 | 高 | 最優先 |
間接的な株式保有関係 | ホールディング会社を介した間接出資 | 高 | 最優先 |
経営管理支配 | 役員の過半数が同一グループから派遣 | 中〜高 | 優先 |
技術供与関係 | 独占的技術ライセンス供与で実質支配 | 中 | 要確認 |
資金提供関係 | 事業継続に不可欠な融資のみ | 低〜中 | 状況次第 |
(出所:LISR第179条・実務慣行(著者作成、2026年5月))
3. 独立企業間価格(ALP)の算定方法
メキシコでは、独立企業間価格(ALP:Arm's Length Price)の算定についてOECD移転価格ガイドライン(TPG)のBEPS Action13に沿った形で対応しており、他の中南米諸国と比べても制度の成熟度は極めて高い。
ただし、OECD移転価格ガイドラインに準拠しながらも、ベストメソッドルールは採用していない。現状はいわゆる基本三法(独立価格比準法・再販売価格基準法・原価基準法)が優先適用される点がOECD基準との主な相違点である(LISR第180条)。
(出所:LISR第180条・OECD移転価格ガイドライン(著者作成))
3-1. 基本三法(優先適用)
① 独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price Method)
対象となる国外関連取引とほぼ同様の条件の下、非関連者間で行われた取引(第三者間取引)の対価の額を、その国外関連取引のALPとする方法。比較対象となる取引が物品などの場合、取引条件が事業戦略や市況などの影響により変わるため、比較可能性の担保が困難になる場合がある。CUP法では他のALP算定に比べ、より高い同一性が求められるため、通常は取引条件の変動が少ない金利取引や相場のある商品取引に多く利用され、一般的な物品取引にはあまり採用されていない。
② 再販売価格基準法(RP法:Resale Price Method)
第三者への再販売価格から、その取引から通常得られるであろう利益の額を控除した金額を国外関連取引のALPとする方法。国外関連取引が輸入取引である場合に多く使用されており(比較対象となるデータが公開データから入手できる場合が多い)、独立価格比準法ほどの厳密な類似性は必要とされていない点で実務上活用しやすい。
③ 原価基準法(CP法:Cost Plus Method)
対象となる国外関連取引によって発生した原価の額に、その取引から通常得られるであろう利益の額を加算した金額を、その国外関連取引のALPとする方法。製造業やサービス業の場合、原材料の加工・輸出や役務提供取引などに採用されることが多い。なお原材料を関連者から購入している場合には、原材料の購入価格は第三者から購入した場合の価格に置き換えて製造原価を算定することになる。
3-2. その他の方法(補完適用)
上記の基本三法を利用できない場合は、利益分割法(PS法)・取引単位営業利益法(TNM法)などの利益法を採用することもできる(LISR第180条)。ただしこれらの利益法は基本三法が適用できない場合の補完的位置づけであることから、基本三法が適用できない合理的な理由の説明が文書中に必要となる。
方法 | 略称 | 主な適用場面 | データ入手難易度 | 採用頻度 |
|---|---|---|---|---|
独立価格比準法 | CUP法 | 金利・相場商品 | 高(類似データ要) | ◯(金融取引) |
再販売価格基準法 | RP法 | 輸入品の流通 | 中(公開データ可) | ◎(流通業) |
原価基準法 | CP法 | 製造・役務提供 | 中 | ◎(製造業) |
利益分割法 | PS法 | IP共有・独自技術 | 高 | △(特殊取引) |
取引単位営業利益法 | TNM法 | 一般的な取引全般 | 低(DB活用) | ◎(汎用) |
その他の方法 | — | 上記適用不可時 | 個別判断 | 低 |
(出所:LISR第180条・OECD移転価格ガイドライン(著者作成、2026年5月))
3-3. 実務上のALP算定ポイント
ALP算定における実務上の留意点を以下に整理する。
- 比較可能性分析(FAR分析):機能(Functions)・資産(Assets)・リスク(Risks)の分析を通じて、関連者取引と第三者取引の類似性を評価する
- 価格レンジの活用:単一価格ではなく「独立企業間価格レンジ」(四分位間範囲が一般的)を設定し、その範囲内であることを示す手法が広く採用されている
- データベース活用:Bureau van Dijk社のOrbisDatabaseやThomson Oneなどの商用データベースを用いて比較対象企業を抽出する
- 為替レートの取扱い:国際間取引における為替変動は合理的な理由のある価格差として認められる場合があるが、為替リスクの負担者が誰かによって結論が異なるため慎重な検討が必要
実務Tips:メキシコのSATは、TNM法(取引単位営業利益法)を用いたTP調査が最も多い。製造子会社であれば営業利益率(ROS)、流通子会社であれば売上総利益率(GM)を指標として比較することが一般的である。
4. 移転価格文書化制度(三層構造)
2022年の税制改正によりLISR第76-A条が新設され、OECDのBEPS Action13に準拠した「三層文書化体制」がメキシコにも正式に導入された。この改正は、多国籍グループによる利益移転を防止し、税務の透明性を高めることを目的としており、日本の文書化義務(特定多国籍企業グループの国別報告事項等)とほぼ同一の枠組みである。
(出所:LISR第76-A条・BEPS Action13(著者作成))
4-1. ローカルファイル(Local File)
ローカルファイルは、メキシコ法人が行う国外関連者との各取引について、その移転価格が独立企業間原則に適合していることを文書化するものである。TP調査において最も実務的な重要性が高く、SATの調査官が最初に精査する文書である。
記載事項 | 内容 | 重要度 |
|---|---|---|
法人の概要 | 組織構造・事業内容・競合環境・経済的状況 | 高 |
国外関連者との取引概要 | 取引の種類・金額・条件・当事者の機能・リスク | 高 |
比較可能性分析(FAR分析) | 機能・資産・リスクの分析と比較対象取引との類似性評価 | 最高 |
ALP算定方法の選定理由 | 選択した方法の説明と他の方法を採用しなかった理由 | 高 |
独立企業間価格の算定結果 | 具体的な価格・レンジ・実際取引価格との比較 | 最高 |
財務情報 | 損益計算書・バランスシートの関連セクション | 中 |
関連者間契約書の写し | 適用取引に関する主要契約 | 中〜高 |
(出所:LISR第76-A条・OECDローカルファイルガイドライン(著者作成))
- 申告期限:2025年事業年度分→2026年5月15日まで(SATへ電子提出)
- 適用対象:年間収益1,300万ペソ以上で国外関連者取引がある法人(LISR第76条IX・X)
- 言語:スペイン語が原則。英語書類は翻訳の添付が必要
4-2. マスターファイル(Master File)
マスターファイルは、多国籍グループ全体の事業・組織・財務状況に関する概括的な情報を提供するものである。メキシコ子会社の視点からは、日本親会社(または持株会社)が作成したグループ全体のマスターファイルを入手・翻訳して提出することが一般的である。
- 申告期限:2025年事業年度分→2026年12月31日まで
- 適用対象:CbCRと同一(多国籍グループの連結収益1,200億ペソ(約6億USD相当)以上)
- 主な記載事項:グループの組織図・事業戦略・無形資産の移転・グループ内財務取引・財務・税務状況
4-3. 国別報告書(CbCR:Country-by-Country Report)
CbCRは、多国籍グループが各国における収益・利益・納税額・従業員数・保有資産等の情報を国別に開示する報告書である。税務当局間の情報交換を通じ、国際的な利益移転の監視強化を目的としている。
- 申告期限:各会計年度末から12カ月以内(原則として翌年12月31日まで)
- 対象:前年度の多国籍グループの連結収益がMXN1,200億ペソ(約6億USD)以上の最終親会社
- 申告主体:原則として最終親会社が居住地国(日本等)で申告し、相互協定に基づきメキシコSATと情報交換される。ただしメキシコが情報交換先として登録されていない場合はメキシコ子会社が直接提出義務を負う場合がある
実務Tips:多くの日系企業では、日本本社がCbCRを国税庁に提出し、日墨租税条約に基づく自動的情報交換を通じてSATへ共有される。ただし日本側の申告期限と情報交換の完了タイミングに時差がある場合があるため、メキシコ子会社側でもCbCR提出状況を把握しておく必要がある。
(出所:LISR第76-A条・RMF2026(著者作成))
4-4. Anexo 9(DIM付属資料)
Anexo9(DIM:Declaración Informativa Multiple の付属資料)は、国外関連者との取引が発生している全法人が申告すべき電子申告情報であり、法人所得税(ISR)の年次確定申告書に添付して提出する。これはローカルファイルとは別の申告義務として独立して存在する。
- 申告期限:毎年3月31日(前年度分)
- 対象:国外関連者との取引があり、年間収益が1,300万ペソ以上の全法人
- 記載内容:国外関連者の名称・居住国・取引種別・金額・適用したALP算定方法
申告書類 | 申告期限 | 対象条件 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
Anexo 9(DIM) | 翌年3月31日 | 収益1,300万P以上・国外RP取引あり | 取引先・金額・ALP方法 |
ローカルファイル(LF) | 翌年5月15日 | 同上 | 詳細TP分析・比較分析 |
マスターファイル(MF) | 翌年12月31日 | CbCR対象グループ | グループ全体情報 |
CbCR | 翌年12月31日 | 連結収益1,200億P以上 | 国別収益・税額等 |
ISSIF附属TP開示 | 翌年5月15日 | 収益9,747百万P以上 | TP取引要約 |
(出所:LISR第76条・第76-A条・RMF2026(著者作成、2026年5月))
(出所:各種文書化・申告義務の適用閾値(著者作成、LISR・CFF2026年))
5. 移転価格調査リスクとペナルティ
SATは2026年から大口納税者に対する調査選定基準を公表しており、移転価格に関連する複数の要素が明示的にリスク指標として挙げられている。この基準は直接的な移転価格規制ではないが、SATが2026年以降に最も注目する類型が示されており、日系企業にとっても重大な示唆を含む。
5-1. 更正リスクが高い取引類型
移転価格税制は、関係会社を通じた価格調整による租税回避を防止するための税制であるため、以下のような事項に該当する企業は、他の企業に比べて移転価格調査を受けて所得に対して更正処分が行われるリスクが高い。
(出所:SATの2026年調査選定基準・実務統計より(著者作成))
リスク類型 | 内容 | リスクレベル | 主要対応策 |
|---|---|---|---|
継続的赤字子会社 | リミテッドリスク子会社(製造・販売)が継続して損失を計上。SATは「リスクシールドがあるはずなのになぜ赤字か」と問う | 最高 | TP政策の整合性確認・損失根拠の文書化 |
無形資産取引 | 知的財産(特許・商標・ノウハウ)の関連者間使用料(ロイヤルティ)設定 | 最高 | バリュエーション報告書の整備 |
ロイヤルティ支払い | 日本親会社へのロイヤルティが収益に対して過大と判断されるリスク | 高 | 同業他社比較・機能分析の精緻化 |
役務提供(親会社向け) | メキシコ子会社が日本親会社のために行う役務の対価設定 | 高 | 役務提供契約書・コスト按分根拠 |
タックスヘイブン取引 | OCDE定義のタックスヘイブン居住者への支払 | 高 | TP文書によるサポートが必須(損金不算入リスク) |
資金貸付(利息) | 親子会社間の資金貸付利率の適正性 | 中 | CUP法(市場金利基準)での検証 |
コーポレートリストラ | 関連者間のリストラにより製造・販売モデルが変更された場合 | 高 | 機能・リスクの変化に関する経済分析 |
(出所:SAT2026年調査選定基準・Chambers Transfer Pricing 2025(著者作成))
5-2. ペナルティ規定
移転価格義務の違反に対するペナルティは、CFF(連邦税法)に規定されている。2022年税制改正以降、ペナルティ金額は引き上げられており、特にBEPS報告書の未提出・虚偽申告に対しては厳しい制裁が設けられている。
(出所:CFF第76・81・82・83・84条(2025年度基準))
違反類型 | 根拠法令 | ペナルティ金額(MXN) | 備考 |
|---|---|---|---|
関連者情報申告の未提出(Art.76) | CFF Art.81-XL / 82-XXXVII | 99,590〜199,190 | Anexo9等の未提出 |
BEPS報告書の未提出・虚偽(Art.76-A) | CFF Art.81-XL / 82-XXXVII | 199,630〜284,220 | LF・MF・CbCRの不備 |
関連者取引の会計記録不記載(1件) | CFF Art.83-XV / 84-XIII | 2,260〜6,780 | 1取引ごとに加算 |
移転価格更正による追加課税 | LISR Art.179 | 本税+加算税(20%〜) | ISR30%+追加税 |
TP文書の保存義務違反 | CFF Art.83-XI | 7,010〜70,090 | 5年保存義務 |
意図的申告漏れ(悪質) | CFF Art.108(脱税) | 本税の55〜75% | 刑事訴追の可能性 |
(出所:CFF2025年度規定・SAT実務ガイダンス(著者作成))
5-3. 2026年のSAT動向:First Majestic事案
2025年末のメキシコ最高裁判所(SCJN)による「First Majestic(Primera Empresa Minera)事案」の判決は、移転価格の防衛実務に大きな影響を与えた。当該事案では、MXN28億6,800万超の税務処分について、最高裁が実体的な技術的論拠の審査なしにSATの処分を支持した。従来、企業がアンパロ(違憲訴訟)で実体審査を求めることができたが、この判決以降、司法による実体審査への期待は大幅に低下している。
この判決の実務的含意は「訴訟による事後対応には限界がある」ということであり、予防的・構造的な対策(TP文書の事前整備・構造設計・APA活用)が従来にも増して重要となっている。
(出所:移転価格コンプライアンス要件別リスクマトリックス(著者作成、2026年5月))
6. 過少資本税制
過少資本税制(Thin Capitalization Rules)は、本来資本として計上すべきものを負債とすることにより、その負債から発生する利息等を費用として損金の額に算入させ、租税負担を軽減する行為を規制するための税制である(LISR第28条XVII)。メキシコでは2005年に導入された。
6-1. 適用要件
過少資本税制が適用される場合の具体的な要件は以下のとおりである。
- 負債総額が純資産額の3倍を超過する場合に、国外の関連者に対する支払利息の損金算入額に制限が課される
- 過少資本税制の対象となる場合には、金利だけでなく為替差損についても損金算入に制限が課される
6-2. 適用除外
以下の場合は過少資本税制の適用対象外となる。
- インフラストラクチャーの戦略的発展の建造・運営・維持に係る債務の場合
- 金融機関の場合
- SATとの間で事前に価格の合意(APA)があった場合
6-3. 損金不算入額の計算
(出所:LISR第28条XVII・計算例(著者作成))
損金不算入額の計算方法は以下の通りである。
計算要素 | 説明 | 計算例 |
|---|---|---|
年間平均純資産額 | (期首純資産額+期末純資産額)÷2 | (100+300)÷2=200 |
負債限度額 | 年間平均純資産額×3 | 200×3=600 |
月次平均負債額 | 月次平均の国外関連者借入金総額 | 例:1,000 |
負債限度超過額 | 月次平均負債額-負債限度額 | 1,000-600=400 |
超過割合 | 超過額÷国外関連者借入総額 | 400÷500=80% |
損金不算入支払利息 | 国外関連者への支払利息×超過割合 | 100×80%=80 |
(出所:LISR第28条XVII(著者作成、2026年5月))
なお、純資産額については会計上の純資産額または税務上の純資産額(CUFIN+CUCA+CUFINRE)のいずれかを選択適用することができ、一度選択した場合は最低5年間継続適用が義務付けられている。
7. PE(恒久的施設)認定課税
通常、海外に恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を設けて事業活動を行う場合には、現地国において納税義務が発生する。いいかえれば、現地国にPEが存在しなければ、現地国における納税義務が発生しないというのが国際課税の原則となっている。
このPEの範囲については各国の国内税法および租税条約等で例示がされているが、法的にPEを有していない場合であっても、実態として現地国において所得が発生しているとみなされる場合には、非居住者に対しても課税権が発生する。これをPE認定課税という。
7-1. PEとして認定されるケース(日墨租税条約)
PEの定義については、それぞれの国の国内税法のみならず、日本とメキシコの間で締結されている租税条約において定められており、事業の管理の事務所、支店、事務所などのほか以下のようなものもPEとして規定されている。
PE類型 | 具体的要件 | 実務上のリスク事例 |
|---|---|---|
支店・事務所型PE | 継続的に使用している固定の場所 | 駐在員事務所での営業活動 |
工事現場型PE | 建設・据付工事で6カ月超 | 長期工場建設プロジェクト |
代理人PE | メキシコで習慣的に契約締結権限を行使する代理人 | 子会社が実質的に親会社の代理として契約 |
役務提供PE | 同一プロジェクトで12カ月内に6カ月超の役務提供 | 技術専門家の長期派遣 |
みなしPE | 経済的実態でPEが存在するとSATが認定 | 実質的営業活動の実施 |
(出所:日墨租税条約第5条・LISR第2条(著者作成))
7-2. PE認定回避のための実務対策
- 駐在員事務所の業務範囲を補助的・準備的活動(情報収集・市場調査・広報等)に限定し、営業活動を行わないよう徹底する
- 営業担当者の現地常駐期間を管理し、メキシコ国内での継続的な業務が12カ月以内に6カ月を超えないよう注意する
- 子会社は独立した事業体として機能させ、親会社の名義・指示による契約締結行為を避ける
- 疑義がある場合は、SATへの事前照会(Consulta Fiscal)を活用する
8. 租税条約と源泉税率
租税条約とは、二重課税の排除と脱税の防止の大きく2点を目的として締結される、成文による国家間の合意(条約)である。国家間での約束事となるため、その適用に当たっては、それぞれの国が定めている国内法に優先して適用される。メキシコと日本との租税条約は1996年に公布(発効)された。
なお、租税条約を適用することにより国内法より不利になってしまう場合には、国内法の規定を優先適用することが可能であり、これを「プリザベーション・クローズ(Preservation Clause)」という。メキシコの実務では、有利な方(条約か国内法か)を納税者が選択できる構造になっている。
8-1. 日墨租税条約の主要源泉税率
(出所:日墨租税条約・LISR(著者作成、2026年5月))
所得類型 | メキシコ国内法 | 日墨租税条約 | 適用条件・備考 |
|---|---|---|---|
配当(25%超保有) | 10% | 5%(または0%) | 上場企業で一定条件充足時に0%適用可 |
配当(その他) | 10% | 15% | 国内法10%が有利のため国内法適用が一般的 |
利息(銀行・保険) | 30% | 10% | 受益者が銀行または保険会社の場合 |
利息(その他) | 30% | 15% | 一般法人間の貸付利息 |
ロイヤルティ(著作権) | 25% | 10% | 文学・芸術・科学的著作物 |
ロイヤルティ(工業所有権) | 25% | 15% | 特許・商標・ノウハウ等 |
技術支援料 | 25% | 15% | 条約11条2項適用 |
(出所:日墨租税条約(1996年)・LISR国内法(著者作成))
8-2. 配当に係る0%適用要件
株式保有比率25%以上の日本法人がメキシコ子会社から配当を受領する場合、一定の条件を満たすことで源泉税率を0%とすることが可能である(日墨租税条約第10条)。
その主要要件は、配当受領法人(日本親会社)の発行済株式の50%超が以下のいずれかによって所有されていることである。
- 日本の政府・地方政府・地方公共団体またはこれらが所有する機関
- 日本の居住者である個人
- 日本の居住者である法人であって、その法人の発行済株式が日本の公認の証券取引所(東証等)に通常取引されているもの
- 上記A〜Cの組み合わせ
8-3. メキシコの租税条約ネットワーク
メキシコは2026年5月現在、60以上の国・地域と租税条約を締結しており、中南米諸国の中では最も広範な条約ネットワークを有している。主要国との条約ステータスは以下のとおりである。
相手国・地域 | 条約発効年 | 配当源泉税率(条約) | 利息源泉税率(条約) | MAP・APA対応 |
|---|---|---|---|---|
日本 | 1996年 | 5%/15%(0%要件有) | 10%/15% | 対応(日本NTA) |
米国 | 1994年 | 5%/10% | 10%/15% | 対応(IRS) |
カナダ | 2007年 | 5%/15% | 10% | 対応 |
ドイツ | 2009年 | 5%/15% | 10% | 対応 |
スペイン | 1994年 | 5%/15% | 10% | 対応 |
オランダ | 1993年 | 5%/15% | 10% | 対応 |
英国 | 1995年 | 5%/15% | 10% | 対応 |
フランス | 1992年 | 5%/15% | 10%/15% | 対応 |
中国 | 2006年 | 5%/10% | 10% | 対応 |
韓国 | 1995年 | 0%/15% | 10%/15% | 対応 |
(出所:SAT租税条約一覧・外務省(2026年5月))
9. 事前確認制度(APA)と相互協議(MAP)
事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)とは、国外関連者との取引に係る移転価格やその算定方法の妥当性を、SATから事前に確認を受けるものである。SATとの間でTP算定方法について合意しておくことで、高コストになるリスクがある移転価格課税を未然に防ぐ効果がある。
(出所:CFF第34-A条・RMF2024(著者作成))
9-1. APA申請の概要
区分 | 単独APA | 二国間APA | 多国間APA |
|---|---|---|---|
当事者 | 納税者+SAT | 納税者+SAT+相手国当局 | 納税者+SAT+複数国当局 |
二重課税回避 | ×(保証なし) | ◯ | ◯ |
手続き期間 | 6カ月〜1年 | 1〜3年 | 2〜4年以上 |
費用(申請手数料) | MXN 310,246.79 | MXN 310,246.79+相手国費用 | 同左×各国 |
適用期間(通常) | 3〜5年 | 3〜5年 | 3〜5年 |
推奨度(日系企業) | △(限定的) | ◯(日本税務当局との連携) | △(複雑) |
(出所:CFF第34-A条・連邦権利法第53-G条(著者作成))
申請期限はAPA適用を希望する最初の事業年度の翌事業年度の6月30日まで(CFF第34-A条第6項、RMF2024 Regla 3.9.1.4)。例えば2023〜2025年度について申請する場合、2024年6月30日までに申請書を提出する必要がある。
9-2. メキシコにおけるAPA活用の実態
OECDの2024年APA統計(2025年10月公表)によると、メキシコのAPA制度は近年認知度が高まっており、SATの技術力向上が国際的に評価されている。ただし実績件数はまだ限定的であり、二国間APAの審査には実質1年以上かかることが多い。
日本の国税庁とメキシコSATとの間では、日墨租税条約の相互協議条項に基づくMAP(相互協議)の実績があり、両国の協調関係は強化されている。しかし、APAの申請から合意までに時間がかかることを考慮すると、並行して独自の文書化整備を進めておくことが最善の実務アプローチといえる。
9-3. 相互協議(MAP)
相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)とは、一方の国で移転価格税制が適用され独立企業間価格と実際の取引価格との差額分について課税が行われることになった場合、条約締結国の税務当局間で解決を図る協議のことである。二重課税を排除することを目的とする。
- 特徴:取引当事国の税務当局間による直接協議であり、非公開協議
- 納税者の立場:協議に必要な資料を提供するに留まり、直接協議に参加することはできない
- 合意義務:相互協議は税務当局間同士の「合意努力義務」であり、必ずしも合意する義務はない
- 申請期限:一般的に更正処分が行われた日から3年以内(日墨租税条約の規定による)
(出所:移転価格制度の国際比較(著者作成・OECD統計2025年))
10. タックスヘイブン対策税制(CFC合算課税)
タックスヘイブン対策税制(日本名:外国子会社合算税制)は、日本の法人または個人が、低税率国等一定の要件に該当する関係会社を有する場合に、そこに一定額以上留保された所得に対して日本側で課税を行うという制度である(日本・法人税法第66条の6以下)。
メキシコの実効法人税率は原則として30%であり、日本のOECDの一般的基準(20%以下をタックスヘイブンとする)には該当しない。したがってメキシコ子会社の留保利益が日本でタックスヘイブン課税の対象となることは通常ない。ただし、第三国経由の投資スキームや、メキシコ内に実体のないペーパーカンパニーを介した取引については注意が必要である。
(出所:日本法人税法第66条の6以下・CFC規定(著者作成))
10-1. 日本のタックスヘイブン対策税制の概要
日本のCFC(Controlled Foreign Corporation)税制の対象は、次の要件を満たす特定外国子会社等に対して、その株式を直接または間接に10%以上保有する内国法人または居住者である。
判定要件 | 内容 | メキシコへの影響 |
|---|---|---|
税率要件 | 事業年度の所得に対する租税負担割合が20%以下 | メキシコ(30%)は非該当が原則 |
実質支配要件 | 日本居住者等が50%超の株式を保有 | 持株比率により判定 |
ペーパーカンパニー | 実体のない会社(キャッシュボックス・ブラックリスト国所在) | 全所得合算(税率不問) |
受動的所得 | 利子・配当・一定の資産譲渡益等が主な所得 | CFC所得に合算の可能性 |
(出所:日本法人税法CFC規定(著者作成))
10-2. メキシコのタックスヘイブン対策規定
メキシコ側においては、LISR上の「タックスヘイブン」に居住する者に対する支払は、移転価格文書によってサポートされる必要がある。サポートされていない場合は、メキシコにおいて損金算入が認められなくなる。これは2022年税制改正において明確化されており、租税回避地経由の費用支払に対して厳格な文書化義務が課せられている。
- メキシコが指定するタックスヘイブン(低課税国)への支払は、TP文書によるサポートが必須
- サポートなしの支払は損金不算入(LISR第28条XXIII)
- TP文書には当該支払の独立企業間価格への適合性を示す分析が必要
10-3. 第三国経由スキームの注意点
日本からの直接投資ではなく、他の海外拠点からの投資の形態によりメキシコに進出するケースがある。例えば、ラテンアメリカ地域の統括会社(RHQ)を経由してメキシコに投資する場合、各国の税制・条約との相互関係を総合的に検討する必要がある。
- チリ・シンガポール・オランダなどのプラットフォーム国経由の投資は、移転価格・タックスヘイブン課税の両面から検討が必要
- 実体のある地域統括機能(TP・グループファイナンス)は、日本CFC課税の適用除外となる可能性がある
- スキームの設計段階で日本側・メキシコ側双方の専門家への相談が不可欠
11. 関連者間取引のケーススタディ
以下に、日系企業がメキシコに子会社を設立した際によく直面する移転価格実務上の課題を、具体的なケースとして整理する。
11-1. ケース1:日本親会社からメキシコ子会社への資金貸付
日本にある親会社からメキシコ子会社へ貸付を行って、その利子を支払う場合に最も注意すべきことは、貸付利率が適正に設定されているか(ALP)という点である。
- 日本親会社側では「利率が低い」、メキシコ子会社側では「利率が高い」と指摘を受ける可能性がある
- 一般的に、貸出側(資金の提供元)の国における適正貸出利率をベースに移転価格を検証する(CUP法)
- 利息に対する源泉税:メキシコ国内法では30%、日墨租税条約では10%(適用条件あり)
- 債務保証についても移転価格税制の対象取引となるため、保証料率の設定と対価の収受が必要
ポイント | 内容 | リスク・対応策 |
|---|---|---|
利率設定 | CUP法:貸出側(日本)の市場金利を基準に設定 | 低利率→日本でTP指摘、高利率→メキシコでTP指摘 |
源泉税 | 日墨租税条約で10%(国内法30%→条約適用で軽減) | 条約特典申請(Form制限)の手続き漏れに注意 |
過少資本 | 純資産3倍超の借入は損金算入制限を受ける | 資本・負債のバランス設計が重要 |
債務保証料 | 保証に対しても独立企業間価格で対価設定が必要 | 無償保証は日本で子会社への経済的利益供与と認定リスク |
(出所:日墨租税条約第11条・LISR第179条(著者作成))
11-2. ケース2:日本本社からの技術支援・ロイヤルティ
日本本社が特許・ノウハウ・商標などの知的財産をメキシコ子会社に供与し、ロイヤルティを受領するケースは日系製造業に非常に多い。SATは近年、このロイヤルティ取引を重点調査対象としており、特に移転価格の適正性を厳しく審査している。
- ロイヤルティ率は比較可能な独立企業間取引に基づくべきであり、通常は「業界標準レート+個別価値調整」の手法で算定する
- 無形資産の帰属(DEMPE機能分析):開発(Development)・強化(Enhancement)・維持(Maintenance)・保護(Protection)・活用(Exploitation)の各機能を誰が担っているかを分析する
- 日墨租税条約でロイヤルティ源泉税は10〜15%(工業所有権の場合15%)
- コスト分担契約(CCA)を用いる場合は、参加者間の貢献度と利益期待の整合性が重要
11-3. ケース3:日本本社・メキシコ子会社間のマネジメントフィー
日本本社がメキシコ子会社に対して経営管理・人材派遣・シェアードサービス等の役務を提供し、費用を請求するケースがある。このマネジメントフィーについても移転価格税制の対象である。
役務類型 | 算定方法(例) | 文書化のポイント |
|---|---|---|
IT・会計システム利用料 | コストプラス法:原価×マークアップ率(5〜10%) | システム利用状況・按分基準の記録 |
経営管理サービス | 時間按分法またはコスト按分法 | 提供内容・時間記録・コスト明細 |
人材派遣・出向 | 実際給与+雇用主負担コスト+マークアップ(0〜5%) | 出向契約書・業務内容・コスト負担根拠 |
市場調査・情報提供 | コストプラス法 | 提供情報の価値・類似市場調査の価格 |
保険・リスク管理 | 独立企業間保険料に基づく案分 | 保険条件の比較分析 |
(出所:LISR第179条・OECD移転価格ガイドライン第7章(著者作成))
11-4. ケース4:駐在員の給与費用負担問題
日本からメキシコへ出向する場合、給与の支払いをどのように行うかも事前に決定すべき重要事項である。メキシコと日本での給与格差等の理由から全額をメキシコで負担することが難しいケースがあるが、日本側での過大な給与負担は子会社への寄附金扱いとなるリスクがある。
- 出向者に関しては、「現地で同水準の人材採用を行った場合の相当額」が独立企業間対価の基準となる
- 日本側で負担した金額が「現地相当額」を超過する部分は、日本において子会社への寄附金(全額損金不算入)として取扱われるリスクがある
- 出向期間中の渡航費・住居費・子女教育費等の滞在コストは、原則としてメキシコ側で負担する費用
- 出向者の日本・メキシコ双方での二重課税リスクにも注意(租税条約による所得源泉の判定が重要)
12. よくある失敗事例と対応策
実務において日系企業が移転価格分野で陥りやすい失敗事例を以下に整理する。事前の準備と正確な実務知識が、移転価格リスクの大幅な軽減につながる。
No. | 失敗事例 | 発生リスク | 対応策 |
|---|---|---|---|
1 | TP文書(ローカルファイル)を作成しているが内容が形式的で比較分析が薄く、SAT調査で実質的な議論ができない | 更正・ペナルティ | FAR分析・比較対象企業の選定基準・価格レンジの計算を詳細に記述する |
2 | Anexo9の申告を忘れた、または記載内容が実際の取引と不一致 | MXN99,590〜199,190の罰則 | 年間スケジュール管理・申告前に経理と実取引の突合確認を実施する |
3 | ロイヤルティ率を「業界慣行」と称して根拠なく設定。DEMPE分析を実施していない | ロイヤルティ全額を否認される可能性 | バリュエーション専門家によるロイヤルティ分析報告書を作成する |
4 | 日本親会社への返済利率を「ゼロ」に設定(無利息貸付)。移転価格問題だと認識していない | 利息相当額の益金算入(日本)・損金否認(メキシコ) | CUP法(市場金利)に基づく利率を設定し貸付契約書を締結する |
5 | メキシコ子会社が継続赤字でも「設立期は仕方ない」として移転価格の見直しをしない | SAT2026年調査最優先リスク | 損失の経済的根拠(市況悪化・投資回収期間中等)を文書化し、毎年TP分析を更新する |
6 | 過少資本の計算をせず、親会社からの借入金が純資産の3倍を超えている | 支払利息の一部損金不算入・追加ISR | 毎期末に過少資本計算を行い、超過部分の利息は損金不算入で確定申告する |
7 | CbCRを日本本社が提出したと思い込み、メキシコSATへの通知手続きが漏れた | ペナルティ(MXN199,630〜284,220) | SATへの通知申告(LISR第76-A条Frac.III)の要否を毎年確認する |
8 | マネジメントフィーを課金しているが役務提供の実態記録(議事録・業務報告書等)がない | 費用否認・寄附金認定 | サービスごとに業務記録・メール記録・報告書を保存し、OECD TPG第7章の基準を満たす文書を整備する |
(出所:SAT調査事例・実務コンサルティング経験より(著者作成、2026年5月))
13. 主要機関・一次ソース一覧
本章で参照した主要機関および一次ソースを以下にまとめる。移転価格に関する法令・ガイドライン等の最新情報は、以下の公式ソースを定期的に確認することが重要である。
機関名 | 略称 | 主な役割・リソース | 公式URL |
|---|---|---|---|
税務行政庁 | SAT | 移転価格ガイドライン・Miscellaneous Tax Resolution・調査基準 | sat.gob.mx |
法令官報 | DOF | 法律改正・RMF公表 | dof.gob.mx |
経済協力開発機構 | OECD | BEPS Action計画・移転価格ガイドライン・APA/MAP統計 | oecd.org |
日本国税庁 | NTA | 日本TP文書ガイドライン・APA申請窓口・MAP窓口 | nta.go.jp |
日本貿易振興機構 | JETRO | メキシコ進出実務情報・税務制度情報 | jetro.go.jp |
メキシコ国立統計地理情報院 | INEGI | 統計データ・UMA公示 | inegi.org.mx |
会計基準委員会 | CINIF | NIF(メキシコ会計基準) | cinif.org.mx |
(出所:各機関公式情報(2026年5月))
【参考文献・一次情報源】
● 所得税法(Ley del Impuesto sobre la Renta:LISR)第76条・第76-A条・第179条・第180条・第28条XVII - SAT
● 連邦税法(Código Fiscal de la Federación:CFF)第34-A条・第76条・第81条・第82条・第83条・第84条 - SAT
● Resolución Miscelánea Fiscal 2026(RMF2026)Reglas 3.9.1〜3.9.15 - SAT/DOF
● OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations 2022 - OECD
● BEPS Action 13: Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting - OECD
● Mexico Transfer Pricing Country Profile(2025年7月改訂)- OECD
● Transfer Pricing 2025 - Mexico(Chambers & Partners Global Practice Guides)
● CMS Expert Guide to Transfer Pricing Documentation in Mexico(2024年11月)
● SAT 2026: Transfer Pricing Tax Risks for Multinationals in Mexico - QCG Transfer Pricing(2025年11月)
● 日本・メキシコ間の租税条約(1996年)- 財務省
● Ley Federal de Derechos(連邦権利法)第53-G条 - SAT/DOF
