会計
VII 会計
【本章のポイント】
・メキシコの会計基準(NIF)は2012年より上場企業にIFRS全面適用を義務化。中小企業はNIF準拠。会計期間は暦年(1/1〜12/31)のみで、日本の3月決算企業は期ズレへの対応が必要。
・外部監査は「会計監査」と「税務監査(Dictamen Fiscal)」の二本立て。Dictamen Fiscalは前年収益2,013,710,870ペソ以上の法人に義務(RMF 2026)。閾値はインフレ調整で毎年変動する。
・PTU(労働者利益分配金)はメキシコ固有制度で、税務課税所得の10%を毎年5月31日までに全従業員に支払う義務がある。繰延PTU(NIF D-3)の貸借対照表計上がIFRSと異なる最大の差異の一つ。
・CFDI(電子インボイス)4.0は2023年4月より完全義務化。受領者のRFC・住所コード・税制レジームの完全一致バリデーションが必須で、不備があると自動拒否される。給与支払時のCFDI de Nóminaも全従業員分の発行義務あり。
・電子会計(Contabilidad Electrónica)が義務化。月次試算表・勘定科目表を翌々月3日までSATへXML提出。SATはCFDI・電子会計・ISR/IVA申告の3データをAIでリアルタイムにクロスチェックしている。
・2025年1月よりNIS A-1・NIS B-1(サステナビリティ情報基準)施行。2026年(2025年事業年度)が初回開示年度。GHG排出量(Scope 1・2)を含む30項目のIBSO開示が義務。NIF準拠の非上場企業も対象。
・インフレ会計(NIF B-10)は3年累積26%超でハイパーインフレとして適用必須。2023-2025の3年累積は約12.6%で未到達。毎年INEGIのINPCデータを確認し閾値判定を実施すること。
・日本親会社との関連者間取引(移転価格)は毎年ローカルファイル作成・DIM Anexo 9申告(5月15日)が義務。SATは移転価格調査を強化中。根拠のない関連者間取引は全額損金不算入リスクあり。
・SAT担当者による判断のばらつき・会計事務所の品質差が大きいのがメキシコ特有のリスク。進出時は複数の会計事務所を比較・CPI登録確認必須。セカンドオピニオンの活用も有効。
1 会計制度
■ 会計関係の法規
メキシコ会計制度の骨子となる法律は、商事会社一般法(LGSM:Ley General de Sociedades Mercantiles)と所得税法(LISR:Ley del Impuesto sobre la Renta)です。さらに、証券市場法(LMV:Ley de Mercado de Valores)などのいくつかの法律が会計制度について定めています。
メキシコ会計制度の特徴は長年、米国会計基準に依拠するものであったため、近年まで国際財務報告基準(IFRS)の適用を推奨しつつも、米国会計基準を踏襲するものでした。2012年度のIFRS適用によって、上場企業についてはIFRSを順守することが求められるようになりましたが、中小企業についてはIFRSの順守は求められておらず、メキシコ特有の基準(NIF)は現在も残っています。
また、メキシコでは会計監査のみならず、税務監査(Dictamen Fiscal)も行われる場合があるため、他の国に比べて監査期間が長期に渡ることがあります。日系企業の実務においては、会計監査・税務監査の双方に対応できる会計事務所の選定が進出当初の重要課題となります。
【主要関連法令一覧(2026年現在)】
法令名(略称) | スペイン語正式名称 | 主な規定内容 |
商事会社一般法 (LGSM) | Ley General de Sociedades Mercantiles | 会社の設立・機関・決算・監査役(Comisario)等 |
所得税法 (LISR) | Ley del Impuesto sobre la Renta | 法人所得税(ISR)・PTU(利益分配金)・減価償却等 |
付加価値税法 (LIVA) | Ley del Impuesto al Valor Agregado | IVA(付加価値税)の課税・免税・申告等 |
連邦税法 (CFF) | Código Fiscal de la Federación | 申告手続・Dictamen・ISSIF・電子会計・ペナルティ等 |
証券市場法 (LMV) | Ley del Mercado de Valores | 上場企業のIFRS適用義務・開示義務等 |
移転価格規則 (LISR第76条他) | LISR Art.76, 76-A, 179-180 | 関連者間取引の文書化・Anexo 9(DIM)等 |
(出所:DOF(dof.gob.mx)・SAT(sat.gob.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
■ NIF(メキシコ会計基準)の体系
メキシコの会計基準はNIF(Normas de Información Financiera)として体系化されており、CINIFが制定・管理しています。NIFはA〜Eの系列に分類されており、IFRSと概念上の共通点が多い一方、メキシコ固有の規定も多く含まれています。
【NIF(メキシコ会計基準)体系図】
(出所:CINIF(cinif.org.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
NIF A系列は概念フレームワーク(財務諸表の目的・質的特性・認識・測定の原則等)を定め、すべてのNIFの基礎となります。NIF B系列は財務諸表の表示方法・比較情報・誤謬修正等の全般基準を定めます。NIF C系列は棚卸資産・有形固定資産・金融商品等の特定の資産負債に関する基準、NIF D系列はPTU(労働者利益分配金)・退職給付・収益認識等の費用・収益に関する基準を定めています。NIF E系列は特殊取引として、インフレ会計(NIF B-10)やサステナビリティ情報基準(NIS)等が含まれます。
■ 会計期間
メキシコにおける会計期間は、1月1日から12月31日までの暦年とされています。会計期間について暦年以外は認められていないため、外国企業にとっては、本国との会計期間のズレについて考慮する必要があります。
特にIFRSにおいては、関係会社の会計期間を統一する必要があるとされていますので、日本においてIFRSが適用された場合には、日本の会計期間を1月1日から12月31日に変更しなければならなくなる可能性があり、注意が必要です。日本では3月決算が一般的ですが、メキシコ現地法人の会計期間(暦年)との差異が生じると、連結決算時に調整が必要となります。IFRSを採用している日本の親会社では、関係会社との会計期間の差異が3か月超の場合には追加的な開示や手続きが求められることがあります。
また、会計期間終了後3か月以内(3月31日まで)に法人所得税(ISR)の確定申告、4か月以内(4月30日まで)に年次の通常株主総会が必要です。
⚠ 日本の親会社が3月決算の場合、メキシコ子会社との決算期ズレにより、親会社の連結決算では子会社の「暦年10〜12月」のデータを翌期に算入する処理が必要となる場合があります。進出時に連結担当部門・監査法人と事前に調整してください。
■ 財務諸表の構成
メキシコにおける財務諸表(Estados Financieros)は、以下の書類で構成されます。NIF A-3(財務諸表の目的と要素)に基づき、財務諸表は財務情報の利用者が経済的意思決定を行うための基礎となるものと定義されています。
【メキシコ財務諸表の構成】
財務諸表名 | スペイン語名称 | 主な内容 |
貸借対照表 | Estado de Situación Financiera | 資産・負債・純資産の期末残高 |
損益計算書 | Estado de Resultado Integral | 収益・費用・当期純利益・包括利益 |
純資産変動計算書 | Estado de Cambios en el Capital Contable | 資本金・利益剰余金・その他包括利益の変動 |
キャッシュ・フロー計算書 | Estado de Flujos de Efectivo | 営業・投資・財務活動のキャッシュフロー |
財務諸表注記 | Notas a los Estados Financieros | 会計方針・重要な判断・偶発債務等の開示 |
(出所:NIF A-3(CINIF)をもとにTCG作成(2026年6月))
メキシコの財務諸表では、IFRSの「その他の包括利益(OCI)」に相当する概念が損益計算書に含まれる「結果総合(Resultado Integral)」として表示されます。また、PTU(労働者利益分配金)は損益計算書上の費用として計上されるとともに、繰延PTUが貸借対照表に計上される点がIFRSと大きく異なります(詳細は第3節参照)。
■ 会計帳簿
メキシコ企業は、作成した会計帳簿を原則5年間保存する義務があります。場合によっては10年間の保存を要求される場合もあります(CFF 30条)。会計帳簿は、仕訳帳(Diario)、総勘定元帳(Mayor)などで構成され、記帳言語はスペイン語、通貨はメキシコペソ(MXN)となります。
日系企業の場合、MXN以外の通貨(米ドル・日本円等)での取引も多く発生しますが、その場合はすべてMXNに換算して記帳しなければいけません。外貨換算レートについては、後述の「外貨換算会計」を参照してください。
【帳簿・書類の保存期間一覧】
書類・帳簿の種類 | 保存期間 | 根拠 |
仕訳帳・総勘定元帳(電子会計含む) | 5年(電子会計はSATサーバーに蓄積) | CFF 30条 |
CFDI(電子インボイス)XML | 5年 | CFF 30条・RMF 2026 規則2.7.1.1 |
源泉徴収証明書・給与関連 | 5年 | CFF 30条 |
税務申告書(ISR・IVA等) | 5年 | CFF 30条 |
Dictamen Fiscal報告書 | 5年(税務調査対応上は10年推奨) | CFF 30条・実務慣行 |
移転価格文書(TP文書) | 5年(+争訟期間中は継続) | LISR 76-A条 |
社会保険(IMSS)関連書類 | 5年 | IMSS法 15条 |
(出所:CFF・LISR・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
■ 内部監査制度
株式会社(S.A.:Sociedad Anónima)については、監査役(Comisario)を設置する義務があります(LGSM 164条)。監査役の主な業務は以下の通りです。
・期末財務諸表の内容を確認し、株主総会において意見を表明する
・財務諸表の定期確認(4半期に1度)を実施する
・取締役会の業務執行が法令・定款に適合しているかを監視する
・不正行為・法令違反の兆候を発見した場合は取締役会・株主総会に報告する
また、当該監査役については業務上独立した存在であることが求められますので、取締役や従業員の血縁者については監査役となることができません(LGSM 165条)。日系企業では、メキシコ在住の日本人駐在員が監査役を兼任するケースもありますが、取締役も兼任している場合は法律上問題が生じるため注意が必要です(詳細はⅤ章「会社法」を参照)。
なお、有限会社(S. de R.L.:Sociedad de Responsabilidad Limitada)については、監査役の設置は義務ではありませんが、定款で任意に設置することは可能です。日系企業では管理コストを抑えるためにS. de R.L.を選択するケースも増えています。
2 外部監査制度
■ 会計監査
◆ 監査義務の対象
メキシコでは、以下の法人が外部監査人による会計監査の対象となります。
【会計監査義務の対象企業一覧】
区分 | 対象要件 | 根拠 |
公開会社 | メキシコ証券取引委員会(CNBV)登録企業 | LMV・CNBV規則 |
大会社 (Gran Empresa) | ①前年度収益1億ペソ以上、②純資産7,900万ペソ以上、③従業員300名以上のいずれか | CFF・LGSM |
大会社の関係会社 | 上記大会社の関係会社(子会社・兄弟会社等) | CFF・LGSM |
銀行融資要件 | 銀行から融資を受ける際に監査済財務諸表の提出を求められる場合 | 民間銀行の融資条件 |
SAT要求時 | SATが税務調査等で監査済財務諸表を要求した場合 | CFF |
(出所:CFF・LGSM・LMVをもとにTCG作成(2026年6月))
法律の条文上は「大会社および大会社の関係会社は外部監査人による監査を受けることができる」という任意規定となっていますが、実務上は上記に該当する会社の多くが引き続き外部監査を受けています。また、大会社に該当しない場合でも、銀行融資の条件やSATからの要求によって監査済財務諸表の提出が求められることがあります。
◆ 監査の内容・スケジュール
外部監査人による監査は、基本的に年1回の監査報告書の作成をもって完了とされますが、上場企業や大会社は中間監査と期末監査の2回の監査を受ける必要があります。メキシコ会計制度は従来アメリカ会計制度に依拠する部分があったために、現在においても中間監査・期末監査という二段階構造が維持されています。
【中間監査・期末監査の比較】
項目 | 中間監査 | 期末監査 |
実施時期 | 6〜9月(中間決算時) | 翌年1〜4月(期末決算後) |
主な監査対象 | 収益・費用の確認、内部統制の評価、比較的リスクの低い項目 | 棚卸資産・売掛金・買掛金・現金預金・借入金等の残高確認、裁判案件の有無まで網羅的に確認 |
残高確認 | 棚卸資産・売掛金・買掛金の残高確認は含まれない | 棚卸資産の実地確認(立会い)、売掛金・買掛金の残高確認書送付等を実施 |
法的確認 | なし | 弁護士・法律事務所を通じた係争案件・偶発債務の確認 |
成果物 | 中間監査レポート(内部向け) | 外部監査報告書(Dictamen de Estados Financieros) |
(出所:CINIF・国際監査基準(ISA)をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ 監査報告書の意見の種類
外部監査人による意見には以下の4種類があります。監査報告書はCINIFにより雛型が規定されており、その内容は国際的な監査基準(ISA)とほぼ同等のものとなっています。
【外部監査意見の種類】
意見の種類 | 内容 | 実務上の影響 |
①無限定適正意見 (Opinión Limpia) | 財務諸表がNIF/IFRSに準拠して適正に表示されているという意見 | 最も望ましい。銀行融資・Dictamen Fiscal提出の前提となる |
②限定付適正意見 (Opinión con Salvedad) | 特定の事項を除いて適正という意見。範囲の制限または会計基準への不準拠がある場合 | 銀行・SATへの説明が必要。重要性に応じた対応が求められる |
③不適正意見 (Opinión Negativa) | 財務諸表が重要な点で適正に表示されていないという意見 | 極めて深刻。事業継続・融資・取引に重大な影響が生じる |
④意見差控 (Abstención de Opinión) | 監査範囲の重大な制限があり意見を表明できない場合 | ③と同様に深刻。監査範囲の制限原因の解消が急務 |
(出所:国際監査基準(ISA705・706)・CINIF基準をもとにTCG作成(2026年6月))
継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)について疑義がある場合には、外部監査人は当該リスクについて監査報告書に言及することが義務付けられています。日系企業においては、累積損失が大きい場合や、グループからの資金支援に依存している場合に、継続企業の前提に関する注記が必要となることがあります。
■ CINIF名称変更(2024年)
従来「メキシコ会計士協会会計基準設定委員会(CINIF:Consejo Mexicano de Normas de Información Financiera)」として知られていた機関は、2024年にサステナビリティ情報基準(NIS)の所管を追加したことに伴い、正式名称を「Consejo Mexicano de Normas de Información Financiera y de Sostenibilidad(メキシコ財務・サステナビリティ情報基準協議会)」に改称しました。略称「CINIF」は引き続き使用されています。この名称変更は既存のNIF基準の内容には影響しませんが、今後はサステナビリティ情報基準(NIS)の制定・改訂も担う機関として位置付けられます。
■ 税務監査(Dictamen Fiscal)
メキシコの監査制度で特徴的な点は、会計のみならず、税務の立場からも監査が行われるという点です。このDictamen Fiscalという制度はメキシコ独自のものであり、日本・米国・欧州等には存在しない特殊な制度です。Dictamen Fiscalにより独立した税務専門家(Contador Público Inscrito:登録公認会計士)が企業の税務コンプライアンスを確認・証明することで、SATによる頻繁な税務調査が行われにくくなるという特徴があります。
◆ 義務提出対象(RMF 2026年版)
CFF 32-A条に基づき、前年度の税務上の収益が2,013,710,870ペソ以上の法人(Personas Morales、Título II LISR対象)および公開会社は、Dictamen Fiscalを5月15日までにSATへ提出することが義務付けられています。この閾値はCFF 17-A条に基づきインフレ率に応じて毎年改定されます(RMF Anexo 5参照)。
【Dictamen Fiscal・ISSIF 閾値比較(旧基準 vs RMF 2026)】
申告区分 | 旧基準(RMF 2022) | 新基準(RMF 2026) | 根拠条文 |
Dictamen Fiscal 義務(収益) | 1,650,490,600ペソ以上 | 2,013,710,870ペソ以上 | CFF 32-A条 |
ISSIF 義務(収益) | 974,653,950ペソ以上 | 1,103,204,520ペソ以上 | CFF 32-H条 |
Dictamen 任意提出(収益) | 140,315,940ペソ以上 | 157,785,270ペソ以上 | CFF 32-A条 |
Dictamen 任意提出(資産) | 110,849,600ペソ以上 | 124,650,380ペソ以上 | CFF 32-A条 |
Dictamen 任意提出(従業員) | 月平均300名以上 | 月平均300名以上(変更なし) | CFF 32-A条 |
Dictamen 提出期限 | 5月15日 | 5月15日(変更なし) | CFF 32-A条 |
(出所:RMF 2026 Anexo 5(DOF 2025年12月28日)・SAT(sat.gob.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
【Dictamen Fiscal・ISSIF 閾値の旧基準 vs 新基準比較グラフ】
(出所:RMF 2022・RMF 2026 Anexo 5をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ Dictamen Fiscalの構成と流れ
Dictamen Fiscalは以下の内容で構成されています。CFF 32-A条の義務対象でない場合でも、Dictamen Fiscalを提出することで税務調査のリスクを軽減できるため、一定規模以上の日系企業では任意提出を選択しているケースが多くあります。
・会計監査済財務諸表(貸借対照表・損益計算書・純資産変動計算書・CF計算書)
・独立した登録公認会計士(CPI:Contador Público Inscrito)からの税法準拠意見書
・税務付属明細書(附表):収益明細・資産明細・税務控除明細等の詳細資料
・SATのシステム(SIPRED:Sistema de Presentación del Dictamen Fiscal)への電子入力
Dictamen Fiscalの内容によっては、SATから指摘を受ける場合があります。その場合には収入・原価・経費などの納税に係る項目を詳細に調査されることになります。異議申立をしない場合には、延滞金(recargos)と加算税(actualización)と併せて追加納税をすることになります。ほとんどの場合、SATからの質問はDictamen Fiscalを作成した会計士に直接行くため、優秀な会計士・税理士の選定が非常に重要です。
◆ 大口納税者(AGGC管轄)
SATは企業の売上規模により、管轄が分かれます。前年度の収益が20億ペソ(2,000百万ペソ)を超える大口の納税者については、AGGC(Administración General de Grandes Contribuyentes:大口納税者総局)の管轄となり、より厳格な監視・調査の対象となります。それ以外の中小の納税者については、本店所在地のSATの管轄となります。AGGC管轄になると、SATからの問い合わせが増加するだけでなく、電子監視の頻度・精度も上がるため、会計・税務部門の体制強化が必要となります。
■ ISSIF・DIM
◆ ISSIFとは(CFF 32-H条)
ISSIFとは、Información sobre la Situación Fiscal(財務状況情報)の略称で、CFF 32-H条に基づき、一定要件を満たす会社が毎年3月31日までにSATへ提出する義務があります。Dictamen Fiscalの義務対象に該当しない場合でも、収益が一定以上あればISSIFの提出が義務付けられており、両制度の閾値が異なるため注意が必要です。
ISSIFの提出義務要件(いずれか一つに該当する場合)は以下のとおりです。
・前年度の税務上の収益が1,103,204,520ペソ以上(RMF 2026 Anexo 5)
・前年度末日時点において上場している
・連結納税制度(régimen de integración fiscal)を採用している
・連邦行政の準公的機関(entidades paraestatales de la administración pública federal)
・国外に居住し、国内に恒久的施設(establecimiento permanente)を有する
・海外居住者と取引のある法人
◆ DIM(CFF 32-B条8項)
DIM(Declaración Informativa Múltiple:複数情報申告)は、毎年2月15日が期限です。ただし国外関連者間取引に関するAnexo 9のみ5月15日が期限となっています。
【DIM 申告附表一覧】
附表 | 内容(スペイン語) | 内容(日本語) | 期限 |
Anexo 2 | Información sobre pagos y retenciones del ISR, IVA e IEPS | ISR・IVA・IEPSの支払・源泉情報 | 2月15日 |
Anexo 4 | Información sobre residentes en el extranjero | 国外居住者との取引情報 | 2月15日 |
Anexo 9 | Información de operaciones con partes relacionadas residentes en el extranjero | 国外関連者間取引情報(移転価格関連) | 5月15日 |
Anexo 10 | Operaciones efectuadas a través de fideicomisos | 信託取引情報 | 2月15日 |
(出所:CFF 32-B条8項・SAT(sat.gob.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
■ メキシコ税務・会計 年間申告カレンダー
【メキシコ税務・会計 年間スケジュール(法人)】
(出所:CFF・RMF 2026・SAT(sat.gob.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
【法人の主要申告・納税期限一覧】
時期 | 申告・手続き名称 | 期限 | 根拠 |
毎月17日 | IVA(付加価値税)月次申告・納付 | 翌月17日(祝日の場合翌営業日) | LIVA 5-D条 |
毎月17日 | ISR(法人所得税)月次仮払い申告 | 翌月17日 | LISR 14条 |
翌々月3日 | 電子会計(Balanza de Comprobación)提出 | 毎月(前月分)翌々月3日まで | CFF 28条・RMF |
2月15日 | DIM(Anexo 2/4/10)提出 | 2月15日 | CFF 32-B条8項 |
3月31日 | 法人所得税(ISR)確定申告・納付 | 3月31日 | LISR 76条 |
3月31日 | ISSIF提出(対象法人) | 3月31日 | CFF 32-H条 |
4月20日 | 電子会計・年次調整後残高(Balanza 13)提出 | 4月20日 | RMF |
4月30日 | 年次株主総会(通常総会) | 会計期間終了後4か月以内 | LGSM 181条 |
5月15日 | Dictamen Fiscal提出(義務対象法人) | 5月15日 | CFF 32-A条 |
5月15日 | DIM Anexo 9(関連者間取引)提出 | 5月15日 | CFF 32-B条8項 |
随時 | CFDI(電子インボイス)発行 | 取引の都度(リアルタイム) | CFF 29条 |
(出所:CFF・LISR・LIVA・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
3 月次会計業務フロー
■ 月次業務の全体像
メキシコでの会計業務は、月次のサイクルで繰り返される作業と、四半期・年次の作業が組み合わさっています。特にメキシコ特有の制度(CFDI 4.0・電子会計・IVA月次申告等)への対応が必要であり、日本の会計実務とは大きく異なる点があります。以下に月次会計業務の標準フローを示します。
【月次会計業務フロー(翌月作業スケジュール)】
(出所:TCG現地実務経験をもとに作成(2026年6月))
■ 月次業務の詳細
◆ ①CFDI収集・照合(月初1〜5日)
前月に取引先から受領したCFDI(Comprobante Fiscal Digital por Internet:電子インボイス)をXML形式で収集し、SAT ポータルの照合ツールまたは会計システムを使って有効性を確認します。無効なCFDIに基づく費用は税務上の控除が認められないため、受領時の即時確認が重要です。
・取引先から受領したCFDIのXMLファイルを会計システムにアップロード
・SATポータル(sat.gob.mx)またはPACシステムでCFDIの有効性を確認(UUID・RFCの一致を確認)
・無効・キャンセルされたCFDIは取引先に再発行を依頼
・自社発行のCFDIについても未収対応・キャンセル処理を実施
◆ ②仕訳入力・勘定照合(5〜10日)
収集したCFDIをもとに仕訳を会計システムへ入力します。メキシコの会計システム(COI・ContaWeb・SAP等)では、CFDIのXMLを自動取込できるものも多いため、活用することで入力ミスを削減できます。仕訳入力後は、以下の照合作業を実施します。
・銀行残高照合:銀行明細とシステム上の現金・預金勘定の照合
・売掛金照合:販売記録とCFDI発行記録の照合
・買掛金照合:購買記録と受領CFDI・支払記録の照合
・給与照合:給与台帳とCFDI de nómina(給与電子インボイス)の照合
・IVA照合:課税取引・免税取引・輸出取引を区分し、IVAの申告額を確認
◆ ③月次試算表作成(10〜17日)
仕訳入力・照合が完了したら、月次試算表(Balanza de Comprobación)を作成します。試算表は電子会計として翌々月3日までにSATへ提出する義務があるため、月次での作成が必須です。試算表の確定後は、月次損益計算書(Estado de Resultados)と月次貸借対照表(Estado de Situación Financiera)を作成し、経営陣への報告資料を準備します。
日系企業では、日本親会社への月次報告(管理会計ベース)もこの時期に行われます。メキシコNIFベースの財務諸表と、日本の管理会計基準との差異調整が必要な場合があります(特にPTU・インフレ会計・CFDI未受領費用の扱い等)。
◆ ④IVA・ISR月次申告・納付(17日)
翌月17日(祝日の場合は翌営業日)が、IVA(付加価値税)およびISR(法人所得税)月次仮払いの申告・納付期限です。特にIVA申告は、課税売上に係るIVA(収入IVA)から課税仕入に係るIVA(仕入IVA・IVAのacreditamiento)を控除した差額を申告・納付します。IVA申告のミスはSATのクロスチェックシステムにより即時検出されるため、正確な申告が求められます。
◆ ⑤電子会計(Balanza)提出(翌々月3日まで)
各月の試算表・勘定科目表(Catálogo de Cuentas)を、SATが指定するXMLフォーマットで翌々月3日までに提出します。SATはこの電子会計データを、企業のCFDIデータ・ISR/IVA申告データとリアルタイムでクロスチェックします。不一致が検出された場合、SATから「招待状(carta invitación)」と呼ばれる確認書が送付され、回答が必要となります。
■ 日系企業が陥りやすい月次業務の失敗例
【日系企業によくある月次会計の失敗例】
失敗パターン | 原因 | 対策 |
CFDIの未収集・未照合 | 取引先からのXML送付が遅れる。メールで送付されたCFDIを見落とす | 月初に全取引先にCFDI送付を要請。SATポータルで受領CFDI一覧を自社でも確認 |
IVA申告の誤り(過少申告) | 課税仕入の分類ミス(免税・ゼロ税率との混同) | IVA照合専用のチェックリストを作成。会計士と月次でレビュー |
給与CFDI(nómina)の未発行 | メキシコでは毎月の給与支払時にCFDI de nóminaを従業員に交付する義務がある | 給与システムにCFDI発行機能を組み込む。または外部サービスを利用 |
電子会計の提出遅延 | 会計事務所との連携が取れず、試算表の確定が遅れる | 月次決算完了のスケジュールを事前合意し、SLAを設定する |
外貨取引のペソ換算ミス | 適用レートの選択誤り(Banco de México公示レートを使用すべき) | 外貨換算は必ずBanxico公示の「tipo de cambio FIX」を使用 |
(出所:TCG現地実務経験をもとに作成(2026年6月))
4 IFRS(国際財務報告基準)とNIF(メキシコ会計基準)
■ IFRSへの対応方針
従来メキシコのIFRSへの対応は、全面適用(Adoption)とするのではなく、日本と同様に独自のNIF(Normas de Información Financiera:メキシコ会計基準)をIFRSに順次適応させていく方針(Convergence)を選択していましたが、2012年の証券市場法改正により、上場企業については全面適用が求められることとなりました。
上場企業はIFRSの導入を求められていますが、メキシコ会計基準(NIF)は、IFRSの考え方に似ているところも多いため、NIFを理解していればIFRSの基本理解は特段難しくありません。ただし、繰延PTU(労働者利益分配金)に関する基準や工事契約に関する入札コストの取扱等、IFRSには規定されていないメキシコ固有の基準も一部存在しています。
■ IFRSとNIF(メキシコ会計基準)の主な違い
【IFRSとNIF(メキシコ会計基準)の違い一覧】
項目 | IFRS | NIF(メキシコ会計基準) | 実務上のポイント |
金融資産 | IFRS 9:償却原価・FVOCI・FVTPLの3分類。実効金利法(EIR)による評価。 | 保有目的ごとに分類(①トレーディング・②満期保有・③売却可能)。貸付金・債権は金融商品カテゴリー外。「適切な利率」と幅をもたせた評価。 | 親会社グループ融資がある場合、IFRS 9とNIFで評価額が異なる可能性あり。 |
棚卸資産 | IAS 2:全部原価計算(固定間接費含む)。LCM(取得原価と正味実現可能価額の低い方)。後入先出法(LIFO)不可。 | 直接原価計算も許容(固定間接費不算入可)。2014年税制改正でLIFOは廃止。加重平均法・先入先出法・個別法が認められている。 | 製造業では固定間接費の扱いが損益に大きく影響。NIF/IFRSの差異を把握した上で原価計算方法を選択すること。 |
有形固定資産 | IAS 16:原価モデルまたは再評価モデル。残存価額・耐用年数・償却方法は年度末に見直し必須。 | 実務上は原価モデルのみ採用。残存価額・耐用年数は当初設定のまま継続適用(見直し規定なし)。 | IFRSでは毎年の見直しが必須。NIFでは一度設定した残存価額・耐用年数が継続適用されるため、資産ライフサイクルで差異が累積する。 |
資産の減損 | IAS 36:減損の兆候がある場合に減損テスト実施。回収可能価額は使用価値(将来CF割引)と公正価値の高い方。税引前割引率使用。のれん減損の戻入不可。 | IFRSと概ね同様だが、税引前割引率の明記なし(幅あり)。のれんの戻入は一定条件下で認められる。 | のれんの戻入可否がM&A後の財務諸表に影響。IFRSを採用する親会社との連結調整に注意。 |
繰延PTU | 規定なし(IFRSにPTUという概念がない)。 | 会計利益とPTU算定利益の差額を繰延PTU(Pasivo/Activo por PTU diferido)として貸借対照表に計上。 | IFRSベースの連結財務諸表作成時には、繰延PTUの扱いを明確にする必要あり。繰延税金資産・負債との関係も整理が必要。 |
インフレ会計 | IAS 29:超インフレ国(3年累積100%超が目安)に適用。適用トリガーは定性的判断。 | NIF B-10:3年累積26%超でハイパーインフレとして適用必須。INEGIのINPC参照。 | メキシコの閾値(26%)はIFRS(100%)より大幅に低い。インフレ率上昇時にNIF基準が先に適用トリガーに達する。 |
無形資産 | IAS 38:耐用年数確定できない場合は年1回減損テスト必須。耐用年数・償却方法は毎年見直し。 | 耐用年数等の指標の見直しは必ずしも毎年1回でなくてよい。 | 特許権・商標等の無形資産管理では、IFRS基準の方が保守的。IFRSを採用する親会社との差異管理が必要。 |
解雇手当 | IAS 19:解雇が確約されている場合のみ認識。 | NIF D-3:解雇が未確定でも引当金(Provisión)を計上する必要あり。 | メキシコの労働法は解雇保護が強い。未確定の解雇リスクに対しても引当が必要なため、人件費が財務諸表に先行計上される。 |
(出所:CINIF(cinif.org.mx)・IAS Plus・IFRS FoundationをもとにTCG作成(2026年6月))
【IFRSとNIFの柔軟性・独自性スコア比較】
(出所:CINIF公表NIF・IFRSをもとにTCG作成(2026年6月))
■ PTU(労働者利益分配金)の会計処理
PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de la Empresa:労働者利益分配金)は、メキシコ固有の制度であり、企業は毎年、税務上の課税所得の10%を全従業員に分配する義務があります(LISR 9条)。PTUの支払期限は毎年5月31日(法人)です。
PTUの会計上の特徴は、会計上の利益とPTU算定のために用いる税務上の利益(課税所得)が異なる場合に、その差額を「繰延PTU(PTU diferido)」として貸借対照表に計上しなければならない点です。これはIFRSには存在しないメキシコ固有の基準(NIF D-3)です。
【PTU(労働者利益分配金)計算フロー】
(出所:LISR 9条・NIF D-3(CINIF)をもとにTCG作成(2026年6月))
【PTU 計算・支払の概要】
項目 | 内容 |
計算基礎 | 税務上の課税所得(会計上の当期純利益とは異なる) |
PTU税率 | 課税所得の10% |
支払期限 | 毎年5月31日(法人)/ 6月29日(個人事業主) |
分配方法 | 在籍日数に基づく分(50%)と賃金額に基づく分(50%)に分けて按分 |
支払除外者 | 取締役・役員・出資者等(具体的に定款等で規定が必要) |
繰延PTU | 会計利益とPTU課税基礎額の差額が生じる場合、繰延PTU(資産or負債)を計上 |
当期費用計上 | 損益計算書上の販売費・一般管理費に計上(税務上は損金算入可) |
キャッシュフロー影響 | 5月に一括で現金流出が発生するため、資金繰り計画への組み込みが必須 |
(出所:LISR 9条・LFT 117〜131条・NIF D-3をもとにTCG作成(2026年6月))
■ 外貨換算会計
メキシコ現地法人は、帳簿をMXN(メキシコペソ)で記帳することが義務付けられています(CFF 28条)。外貨(米ドル・日本円等)建ての取引が発生した場合は、取引発生日時点のBanco de México(バンコ・デ・メヒコ:メキシコ中央銀行)が公示するTipo de Cambio FIX(フィックス換算レート)を使用してMXNに換算することが必要です。
【外貨換算レートの種類(Banco de México)】
(出所:Banco de México(banxico.org.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
税務上も、外貨換算にはBanco de MéxicoのTipo de Cambio FIXを使用することが義務付けられています(CFF 20条)。銀行の売レート・買レートや他の換算レートを使用した場合、税務上の否認リスクがあります。Tipo de Cambio FIXはBanco de Méxicoの公式サイト(banxico.org.mx)で毎営業日公示されており、会計システムへの自動取込が推奨されます。
【外貨換算会計の主要処理ルール】
取引種類 | 換算レート | 換算差損益の処理 |
外貨建て売上・仕入 | 取引発生日のFIXレート | 換算差損益は発生せず(取引時点で確定) |
外貨建て売掛金・買掛金 (期末残高) | 期末日のFIXレート | 換算差損益を損益計算書に計上(為替差益/差損) |
外貨建て銀行預金 (期末残高) | 期末日のFIXレート | 換算差損益を損益計算書に計上 |
外貨建てローン (長期借入金) | 期末日のFIXレート | 換算差損益を損益計算書に計上(重要な場合は注記) |
外貨建て固定資産 (取得時) | 取得日のFIXレート | 以後は取得原価で評価(期末再換算不要) |
(出所:NIF B-15(外貨換算)・CFF 20条をもとにTCG作成(2026年6月))
5 NIS(サステナビリティ情報基準)の施行
■ NIS施行の背景
2024年5月13日、CINIFはメキシコ初のサステナビリティ情報基準である「NIS A-1(サステナビリティ情報の概念フレームワーク)」および「NIS B-1(基本サステナビリティ指標)」を公布しました。これらのNIS(Normas de Información de Sostenibilidad:サステナビリティ情報基準)は2025年1月1日に施行されており、NIFに準拠して財務諸表を作成するすべての企業が対象となります。
NIS施行の背景には、国際的なサステナビリティ開示基準(IFRS S1・S2:ISSBが制定)の普及があります。メキシコでも企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)情報開示への要請が高まっており、CINIFがこれに対応するかたちでNISを制定しました。NIS施行に伴い、CINIFは正式名称を「Consejo Mexicano de Normas de Información Financiera y de Sostenibilidad(メキシコ財務・サステナビリティ情報基準協議会)」に改称しています。
■ NIS A-1・NIS B-1の概要
【NIS A-1・NIS B-1の主要内容】
基準名 | 概要 | 主な要件 | 対象企業 |
NIS A-1 (概念フレームワーク) | サステナビリティ情報の準備・開示の概念的根拠を規定。情報の質的特性・認識・測定原則を定める。 | ①関連性(Relevancia)②忠実な表現(Representación fiel)③比較可能性④検証可能性⑤適時性⑥理解可能性 | NIF準拠企業全般 |
NIS B-1 (基本サステナビリティ指標) | IBSO(Indicadores Básicos de Sostenibilidad)として30項目のサステナビリティ指標を規定。 | 定量指標21項目(GHG排出量・エネルギー・水・廃棄物等)+定性指標9項目(ガバナンス・戦略等) | NIF準拠企業全般。Scope 3は初年度(2026年)免除可 |
(出所:CINIF(cinif.org.mx)・Greenberg Traurig NIS解説(2025年6月)をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ NIS B-1 IBSO 30項目の概要
NIS B-1が規定するIBSO(Indicadores Básicos de Sostenibilidad:基本サステナビリティ指標)は、以下の5テーマに分類されます。
【NIS B-1 IBSO 主要指標一覧】
テーマ | 主な指標(例) | 指標数 |
気候・環境 (Clima y Medioambiente) | Scope 1・2 GHG排出量(CO2換算トン)、エネルギー消費量・再生可能エネルギー比率、水使用量・水ストレス地域での使用量、廃棄物発生量・リサイクル率 | 12項目 |
社会・人的資本 (Social y Capital Humano) | 全従業員数・性別・雇用形態別内訳、新規採用・離職率、労働災害率・休業日数、研修時間・研修費用 | 9項目 |
ガバナンス (Gobernanza) | 取締役会構成(性別・独立性)、腐敗防止・コンプライアンス方針の有無、リスク管理体制 | 5項目 |
サプライチェーン (Cadena de Suministro) | サプライヤーのESG評価実施状況、Scope 3排出量(初年度免除可) | 2項目 |
経済・財務 (Económico-Financiero) | 税負担額・地域別税務情報、地域社会への貢献(寄付・CSR支出額) | 2項目 |
(出所:NIS B-1(CINIF 2024年5月公布)をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ 適用タイムラインと日系企業への対応
・2024年5月13日:NIS A-1・NIS B-1 公布(早期適用可)
・2025年1月1日:NIS 施行(2025年事業年度分から適用)
・2026年(初回開示):2025年事業年度のサステナビリティ情報を財務諸表と併せて開示
・2026年以降:CINIFが第2フェーズとして戦略・ガバナンス・リスク等の詳細基準を順次制定予定
NIF準拠の財務諸表を作成するすべての企業が対象となるため、上場企業にとどまらず、NIFを採用する非上場の日系子会社も対象となります。特に2026年は初回開示年度であり、Scope 1・2のGHG排出量データ(CO2換算トン)の測定・集計体制の整備が急務となっています。
【日系企業のNIS対応 チェックリスト】
対応項目 | 内容 | 優先度 |
NIS適用対象の確認 | 自社がNIF準拠かIFRS準拠かを確認。NIF準拠であればNIS B-1対象。 | 高 |
GHG排出量(Scope 1・2)測定 | 燃料・電力等のエネルギーデータを収集。CO2換算ツールで試算。 | 高 |
エネルギー・水・廃棄物データ収集 | 月次データを収集する仕組みを整備。工場・オフィス別に管理。 | 高 |
人的資本データ整備 | 従業員数・性別・雇用形態・離職率・労働災害データを人事部門と連携して整備。 | 中 |
ガバナンス情報整備 | 取締役会構成・腐敗防止方針・リスク管理体制を文書化。 | 中 |
日本親会社との連携 | 親会社の統合報告書・有価証券報告書との整合性を確認。Scope 3(サプライチェーン)の方針を共有。 | 中 |
第三者検証の検討 | 初年度はCINIF強制ではないが、信頼性向上のため外部検証(ISAE 3000等)を検討。 | 低(初年度) |
(出所:NIS A-1・NIS B-1・TCG現地調査をもとに作成(2026年6月))
6 インフレ会計
■ インフレ会計とは
インフレ会計とは、インフレーションのときに生じる購買力の変化(価格変動)に対して行われる企業会計のことです。インフレが著しい経済環境下では、歴史的原価主義に基づく財務諸表が実態を反映しない場合があり、物価変動を考慮した再表示が求められます。
メキシコ会計基準(NIF B-10:Efectos de la inflación)におけるインフレ会計の目的は、単一な数値基準(3年累積インフレ率26%超)を設け、すべての企業が公平にインフレの影響を財務諸表に取り込むことにあります。一方、IFRSにおけるインフレ会計(IAS 29)の目的は、提供される財務諸表が利害関係者の意思決定に資する情報となることにあり、適用トリガーはより定性的な判断に委ねられています。
■ NIF B-10の閾値と現状(2026年)
NIF B-10では、直近3年間の累積インフレ率(INEGIが公表するINPC:Índice Nacional de Precios al Consumidor に基づく)が26%を超過した場合を「ハイパーインフレーション(entorno inflacionario)」と定義し、インフレ会計の適用が必須となります。
【メキシコ年間インフレ率の推移(INEGI・INPC)】
(出所:INEGI(inegi.org.mx)INPCデータをもとにTCG作成(2026年6月))
【メキシコ年間インフレ率・3年累積率一覧(2018-2025)】
年 | 年間インフレ率 | 直近3年累積 | NIF B-10閾値判定 |
2018年 | 4.83% | — | — |
2019年 | 2.83% | — | — |
2020年 | 3.15% | 2018-2020:約11.0% | 未到達(26%閾値以下) |
2021年 | 7.36% | 2019-2021:約13.6% | 未到達 |
2022年 | 7.82% | 2020-2022:約19.2% | 未到達(ただし上昇中) |
2023年 | 5.35% | 2021-2023:约21.4% | 未到達(要注意水準) |
2024年 | 4.21% | 2022-2024:約18.4% | 未到達(低下傾向) |
2025年(推計) | 約3.70% | 2023-2025:約12.6% | 未到達(安定圏) |
(出所:INEGI(inegi.org.mx)、Banco de México(banxico.org.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
INEGIの公表データによると、2023〜2025年の3年累積は約12.6%程度であり、NIF B-10が定める26%閾値には現時点で大きく未到達です。ただし、2022年のピーク(7.82%)を含む2020-2022の3年累積は約19.2%まで上昇しており、閾値への接近が一時的に懸念されました。引き続きINEGIが公表するINPCを定期確認することが重要です。
■ インフレ会計の適用方法
インフレ会計を適用する場合には、財務諸表の表示にあたり、INEGIが公表するINPC(消費者物価指数)を使用して資産・負債・純資産・収益・費用を期末物価水準に再換算(再表示)します。
【インフレ会計(NIF B-10)の主な処理内容】
対象項目 | 処理方法 | 備考 |
非貨幣性資産 (棚卸資産・固定資産等) | INPC指数を用いて取得時の原価を期末物価水準に再換算 | 再換算後の値が減損テスト等の基礎となる |
貨幣性資産・負債 (現金・売掛金・借入金等) | 物価変動に伴う購買力変動を「インフレ損益」として損益計算書に計上 | 貨幣性資産は保有するほどインフレ損が発生 |
純資産 | 資本金・利益剰余金・その他包括利益をINPC指数で再換算 | 再換算差額は純資産の「インフレ調整額(RETANM)」に計上 |
損益計算書 | 収益・費用もINPC指数で再換算し、実質値ベースで表示 | インフレ影響を除いた実質的な経営成績を開示 |
(出所:NIF B-10(CINIF)をもとにTCG作成(2026年6月))
インフレ会計適用時に発生した評価差額については、会計上の利益または損失として損益計算書に計上します。なお、当該評価差額については税務上の所得計算には影響しません(非課税・損金不算入)。インフレ会計の適用が必要と判断された場合は、過去の財務諸表の比較情報も再換算が必要となるため、早期の判断と準備が重要です。
7 電子化対応
■ CFDI 4.0(電子インボイス)
CFDI(Comprobante Fiscal Digital por Internet:インターネット電子財政証明書)は、メキシコのすべての商取引に係る電子証憑として義務付けられているシステムです。2023年4月1日よりCFDI 4.0のみが唯一有効なバージョンとなり、旧バージョン(3.3)は完全に廃止されました。
【CFDI 4.0 発行・受領フロー】
(出所:SAT(sat.gob.mx)・CFF 29条をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ CFDI 4.0の主な変更点(3.3からの変更)
【CFDI 3.3 vs CFDI 4.0 主な変更点】
項目 | CFDI 3.3(廃止) | CFDI 4.0(現行・2023年4月〜) |
受領者情報の バリデーション | 受領者のRFCのみ確認 | 受領者のRFC・氏名・住所コード(código postal)・税制レジームの4項目を完全一致で自動検証 |
uso CFDI (CFDI用途) | 任意記入 | 必須記入。用途と購入者の税制レジームの組み合わせが正しいか自動検証 |
情報報告 (Informativa) | なし | 特定の取引(輸送・外国人支払等)で補完書類(Complemento)の追加が必要 |
エクスポート フラグ | なし | 輸出取引にはexportaciónフラグを必須記入 |
XMLフォーマット | バージョン3.3 | バージョン4.0(XSD・カタログが更新) |
(出所:SAT(sat.gob.mx)・RMF 2026 規則2.7.1.9をもとにTCG作成(2026年6月))
◆ CFDIの種類
CFDIは取引の内容に応じて以下の種類があります。日系企業が特に注意すべき種類を以下に示します。
【CFDIの主要種類一覧】
CFDI種類 | 用途 | 注意点 |
CFDI de Ingreso (収入CFDI) | 売上・サービス提供時に発行(最も一般的なCFDI) | 商品・サービス分類(ClaveSATコード)の正確な記載が必要 |
CFDI de Egreso (支出CFDI・クレジットノート) | 値引き・割引・返品時に発行。Ingreso CFDIとひも付けて発行 | ひも付けが正しくないと控除が認められない |
CFDI de Traslado (移動CFDI) | 自社車両で自社貨物を輸送する際(Carta Porteと組み合わせ) | Carta Porte 3.0の附属が必要。未添付は罰則対象 |
CFDI de Nómina (給与CFDI) | 毎月の給与支払時に全従業員に交付義務 | 給与額・ISR源泉・IMSS控除額等をXMLで記録。従業員のRFCが必要 |
CFDI de Pago (支払CFDI・PPD) | 分割払い・後払い取引の支払確認時に発行 | PPD(Pago en Parcialidades o Diferido)方式の取引で必要。未発行は税務リスク |
(出所:SAT(sat.gob.mx)・CFF 29条・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
■ Carta Porte(輸送補完書類)
国内輸送(道路・鉄道・海上・空路)を伴う場合は、Complemento Carta Porte(輸送補完書類)をCFDIに付加することが義務付けられています。製造業・物流業・小売業等、商品の物理的な移動を伴う企業には特に重要な制度です。
【Carta Porteが必要な場面】
場面 | CFDI種類 | 対応 |
第三者の運送業者に輸送を委託 | CFDI de Ingreso(運送業者が発行) | 運送業者側がCarta Porte付CFDIを発行する義務あり。受領側は運送業者のCFDI有効性を確認 |
自社車両で自社貨物を輸送 | CFDI de Traslado(自社が発行) | 自社でCarta Porte付CFDIを作成・携行。SAT・交通警察による路上確認が実施される場合あり |
輸入品の国内輸送 | CFDI de Traslado or Ingreso | Pedimento(通関書類)番号をCarta Porteに記載する必要あり |
(出所:SAT(sat.gob.mx)・CFF・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
■ 電子会計(Contabilidad Electrónica)
CFF 28条・30条に基づき、一定規模以上の法人はSATが指定するXMLフォーマットで会計データを月次・年次で電子提出することが義務付けられています。SATはこの電子会計データを、CFDIデータおよびISR・IVA申告データとリアルタイムでクロスチェックし、不一致が検出された場合は「招待状(carta invitación)」を発行して確認を求めます。
【電子会計の提出物・スケジュール一覧(法人)】
提出物 | 内容 | 提出期限 | XMLスキーマ |
勘定科目表 (Catálogo de Cuentas) | 使用する勘定科目の体系(コード・名称・種類等)。初回と変更時のみ提出。 | 初回:翌々月3日まで 変更時:翌々月3日まで | CatalogoCuentas_1_3.xsd |
月次試算表 (Balanza de Comprobación) | 各勘定科目の当月残高・借方・貸方合計。毎月提出。 | 翌々月3日まで (例:1月分→3月3日) | BalanzaComprobacion_1_3.xsd |
補助簿・仕訳帳 (Auxiliares・Pólizas) | SATから要求された場合のみ提出。Dictamen調査・税務調査時に求められる。 | SAT要求から3営業日以内 | AuxiliarFolios_1_3.xsd他 |
年次調整後残高 (Balanza 13・Cierre) | 決算調整後の確定残高。年1回。 | 翌年4月20日まで | BalanzaComprobacion_1_3.xsd (tipo=CT) |
(出所:SAT(sat.gob.mx)・CFF 28条・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
SATの勘定科目分類(ClaveSAT)は、SATが公表する標準コード体系に準拠する必要があります。自社の勘定科目をSATコードにマッピングする作業(勘定科目表の初期設定)は、会計システム導入時の最重要タスクの一つです。マッピングが誤っていると電子会計のバリデーションエラーが発生し、提出できない場合があります。
■ 移転価格税制(Precios de Transferencia)
日本親会社とメキシコ子会社の間で行われる関連者間取引(役務提供・商品売買・知的財産ライセンス・グループ融資等)については、移転価格税制の適用があります。メキシコの移転価格税制はOECDのガイドラインに準拠しており、LISR 76条・76-A条・179〜180条に規定されています。
【移転価格(TP)文書化の主要要件】
文書種類 | 内容 | 対象 | 期限 |
マスターファイル (Archivo Maestro) | グループ全体の事業・組織・知的財産・資金調達の概要。BEPS行動計画13対応。 | グループ連結収益750百万EUR相当以上(CbCR基準) | ISR申告期限まで(通常3月31日) |
ローカルファイル (Archivo Local) | メキシコ法人の関連者間取引の詳細分析。独立企業間価格の算定根拠。 | DIM Anexo 9提出義務がある法人 | ISR申告期限まで(3月31日) |
国別報告書 (CbCR:Country-by-Country Report) | グループ各国の収益・税負担・従業員数等の国別開示。 | グループ連結収益12,000百万ペソ以上(RMF 2026 Anexo 5) | 12月31日まで(前年度分) |
DIM Anexo 9 | 関連者間取引の明細をSATへ電子申告。 | 国外関連者と取引がある法人全般 | 5月15日 |
(出所:LISR 76条・76-A条・179-180条・CFF・RMF 2026をもとにTCG作成(2026年6月))
移転価格の独立企業間価格の算定方法(CUP法・再販売価格法・原価積み上げ法・TNMM・利益分割法等)については、OECDガイドラインとLISR 180条に規定されています。最も一般的に使用されるのはTNMM(Transactional Net Margin Method:取引単位営業利益法)です。移転価格文書は税務調査において最初に要求される資料の一つであり、進出当初から整備しておくことが重要です。
8 メキシコ会計制度の課題と実務上の注意点
■ 制度と実務のギャップ
メキシコは①LGSM等の関連法令をすべての事業体に適用、②すべての企業にIFRSまたはNIFへの準拠を要求、③すべてのCFDI・証憑を電子データで国のシステムと連動、④月次納税申告で会計データを確定、⑤会計監査に加え税務監査(Dictamen Fiscal)も実施、という厳格な制度設計をしています。しかし実際には、中小企業には基準どおりの処理が困難、インフォーマル経済が発達、SATや関連機関の対応が遅く不統一、など制度に実務が全く追いついていないのが現実です。
■ 専門家による見解の相違
メキシコは制度に実務が追いついておらず、特に新設されたばかりの制度は内容が曖昧なことが多く、専門家によって意見が異なることがしばしばあります。日本企業の中には重要事項についてセカンドオピニオンを取得して検証を行っているケースも多くあります。ただし、専門家の意見はオピニオンベースとされることが多く、最終判断は自社で行わなければなりません。専門知識のない担当者が意思決定をすると、後に思わぬ問題が発生する場合がありますので注意が必要です。
■ 会計事務所の選定
メキシコでは多くの企業が会計業務を外部の会計事務所に委託していますが、決算が期限までに締まらない、数字を曖昧に作って翌期に調整する、請求書の発行が3か月遅れる、スケジュールを作成せずに資料を突然要求するなど、問題を抱えている会計事務所が非常に多くあります。特に時間の感覚は日本人とはかなり違いますので、会計事務所選びでは時間管理能力を必ず確認してください。
【会計事務所 タイプ別評価比較(イメージ)】
(出所:TCG現地調査・実務経験をもとに作成(2026年6月) ※数値はイメージです)
【会計事務所選定チェックリスト(2026年版)】
チェック項目 | 確認のポイント | 重要度 |
CPI登録確認 | Dictamen Fiscal作成にはCPI(Contador Público Inscrito:登録公認会計士)資格が必要。SAT登録番号を確認。 | 必須 |
Dictamen Fiscal実績 | 過去のDictamen Fiscal作成経験・SATとの折衝実績を確認。 | 高 |
CFDI 4.0・電子会計対応 | 最新の電子インボイス・電子会計システムへの対応状況を確認。 | 高 |
スケジュール管理 | 月次決算・申告のスケジュールを書面でコミットできるか。SLAを設定できるか。 | 高 |
日本語・英語対応 | 日本語または英語でのコミュニケーションが可能か。日系企業担当実績があるか。 | 高 |
NIF/IFRS対応 | NIFとIFRSの両方に精通しているか。連結決算対応経験があるか。 | 中〜高 |
NIS対応 | サステナビリティ情報基準(NIS)への知識・対応経験があるか。 | 中(初年度以降重要) |
移転価格対応 | 移転価格文書(ローカルファイル・DIM Anexo 9)の作成実績があるか。 | 中〜高 |
料金体系の透明性 | 料金体系が明確で、追加費用の発生条件が事前に説明されているか。 | 中 |
バックアップ体制 | 担当者が不在の場合や退職した場合のバックアップ体制があるか。 | 中 |
自計化支援 | 将来的な自計化(内製化)移行を支援できるか。 | 低〜中 |
(出所:TCG現地調査・実務経験をもとに作成(2026年6月))
■ SATの対応と政権交代リスク
メキシコではSATの担当者によって法的な判断が異なります。担当者の配置換えにより、前の担当者には認められていたことが新担当者に認められないことも往々としてあります。担当者によって求められる書類が違い、一般的な経験則が通用しません。SATとのやり取りでは、都度求められる書類を確認する必要があります。
また、2024年10月にシェインバウム大統領(Claudia Sheinbaum)が就任し、政権交代が行われました。政権交代に伴いSAT内部の人事異動や方針変更が発生する可能性があり、前政権下で合意した事項の引き継ぎが不十分なケースもあります。従前の担当者との合意事項については書面化を徹底し、新担当者への引き継ぎ状況を確認することを推奨します。
■ 自計化(内製化)の検討
メキシコでは多くの日系企業が進出当初から会計業務を外部の会計事務所に委託しますが、一定の規模に達した段階で自計化(会計業務の内製化)を検討するケースが増えています。自計化により、会計事務所への依存リスクを軽減し、リアルタイムな経営情報の取得が可能になります。
【自計化のメリット・デメリット・実施ステップ】
観点 | メリット | デメリット・課題 |
コスト | 規模拡大後は外部委託より低コストになることが多い | 初期投資(システム・人材採用)が必要 |
スピード | 月次決算の早期化・リアルタイム経営情報の取得 | スタッフ育成・定着まで時間がかかる |
リスク管理 | SAT申告内容を自社で把握・管理できる | スタッフ退職時のナレッジ喪失リスク |
コンプライアンス | 最新の法令改正に自社で即時対応可能 | CFDI・電子会計等の技術的要件への継続対応が必要 |
(出所:TCG現地調査・実務経験をもとに作成(2026年6月))
自計化を進める際には、①会計システムの選定(SAP・Oracle・COI・Contpaqi等)、②SATの電子会計・CFDI対応の確認、③経理スタッフの採用・育成、④移転期間中の外部会計事務所との並行運用、という順序での段階的移行が推奨されます。特に電子会計・CFDI 4.0の対応が自計化の最大のハードルとなります。
9 個人情報保護(LFPDPPP 2025年新法)
■ INAI廃止と新体制
2024年12月20日の憲法改正によりINAI(Instituto Nacional de Transparencia, Acceso a la Información y Protección de Datos Personales:国家透明性・情報アクセス・個人情報保護研究所)の廃止が決定されました。これに伴い、2025年3月21日より新たな「個人情報保護法(LFPDPPP 2025)」が施行され、監督官庁は「Secretaría Anticorrupción y Buen Gobierno(反腐敗・善政府省、SABG)」に移管されました。旧INAI(2010年法)は廃止されており、2026年現在の個人情報保護は新LFPDPPP 2025が準拠法となります。
■ 会計・財務実務への影響
会計・財務部門が取り扱う従業員・取引先の個人情報は同法の規制対象となります。特に以下の場面で適切な対応が必要です。
【会計・財務部門が取り扱う主な個人情報と対応要件】
データ種類 | 主な用途 | 対応要件 |
従業員の給与・銀行口座・RFC | CFDI de Nómina発行・給与振込・ISR源泉申告 | プライバシーポリシーの明示・同意取得・アクセス制御 |
取引先(法人担当者)の連絡先・RFC | CFDI発行・DIM申告・取引記録 | データ取得目的の明示・保存期間の設定 |
株主・役員の個人情報 | 法人登記・株主名簿・SAT申告 | 機密管理の徹底・第三者提供の制限 |
クラウド会計システムのデータ | 電子会計・CFDI・月次申告データの保管 | サービス契約でのデータ保管場所・アクセス制御の確認 |
(出所:LFPDPPP 2025・SABG(anticorrupcion.gob.mx)をもとにTCG作成(2026年6月))
10 よくある質問(Q&A)
◆ Q1:メキシコに進出した場合、会計期間を日本の3月決算のまま維持できますか?
A:いいえ、維持できません。メキシコでは会計期間は暦年(1月1日〜12月31日)のみと法定されており(CFF・LGSM)、3月決算等の暦年以外の期間は認められていません。日本の親会社がIFRSを採用している場合は関係会社の会計期間の統一が求められるため、日本側でも会計期間変更の検討が必要になる可能性があります。IFRSでは関係会社の会計期間差異が3か月以内であれば調整処理で対応可能ですが、それを超える場合は追加的な対応が必要です。
◆ Q2:CFDI 4.0に対応しないとどうなりますか?
A:CFDI 4.0の要件を満たさないCFDIはPACによって自動拒否されます。無効なCFDIに基づく取引は税務上の費用(ISR損金)・仕入税額控除(IVA acreditamiento)が認められない可能性があります。また、SATのクロス検証AIにより不一致が検出された場合は招待状(carta invitación)が発行され、回答義務が生じます。特に取引先のRFC・住所コード・税制レジームの事前確認が重要です。
◆ Q3:PTU(労働者利益分配金)は毎年必ず発生しますか?
A:税務上の課税所得がゼロまたはマイナスの場合はPTUの支払義務は生じません。ただし、進出初年度から2〜3年間は赤字でもその後に利益が出始めた年から急に支払義務が生じるため、事業計画にPTUコストを織り込んでおくことが重要です。また、繰延PTUが貸借対照表に計上される場合は、IFRSを採用する親会社との連結調整が必要となります。
◆ Q4:Dictamen Fiscalの義務閾値を下回る法人でも提出した方がよいですか?
A:任意提出は多くの場合有効です。Dictamen Fiscalを提出することで、SATによる直接的な税務調査のリスクが実務上低下する傾向があります(提出義務がない場合でも、任意提出の閾値:収益157,785,270ペソ以上等を満たす場合は特に有効)。ただし、Dictamen Fiscal作成には追加的な費用(会計監査費用に上乗せ)が発生します。規模・リスク感応度・コストを勘案して顧問税理士と相談することをお勧めします。
◆ Q5:NIS(サステナビリティ情報基準)の開示を怠った場合のペナルティはありますか?
A:2026年6月時点では、NIS B-1の不開示に対する具体的なペナルティ規定はCINIFの基準に明記されていません。ただし、NIF準拠の財務諸表に不備があるとして外部監査意見に影響する可能性があります。また、今後CINIFが罰則規定を追加する可能性もあるため、動向を注視してください。上場企業(CNBV規制対象)については別途CNBV規則によるペナルティが適用される場合があります。
◆ Q6:移転価格文書(ローカルファイル)は毎年作成する必要がありますか?
A:はい、毎年更新が必要です。LISR 76-A条に基づき、国外関連者との取引がある法人は毎年ローカルファイルを作成・保管する義務があります。また、DIM Anexo 9は毎年5月15日に申告が必要です。前年度と取引内容に変更がない場合でも、当年度の財務データ・比較対象企業のデータを更新した上で文書を再作成する必要があります。
◆ Q7:電子会計の勘定科目表(Catálogo de Cuentas)のSATコードへのマッピングは複雑ですか?
A:ある程度の複雑さがあります。SATが定める標準コード体系(SAT Catálogo)は大分類・中分類・小分類の階層構造を持ち、自社の勘定科目をこの体系にマッピングする必要があります。特に製造業では原価計算関連の勘定科目が多く、マッピングに工数がかかります。会計システム(COI・Contpaqi・SAP等)にはSATコードのマッピング支援機能があるものが多いですが、初期設定は会計事務所または実装パートナーと協力して行うことを推奨します。
◆ Q8:会計事務所を途中で変更することはできますか?
A:可能ですが、タイミングと引き継ぎ手続きに注意が必要です。特にDictamen Fiscal・電子会計・移転価格文書を継続中の場合、途中変更は新しい会計事務所に多大な引き継ぎコストが発生します。変更は会計年度の期首(1月)に行うことが最もスムーズです。また、前の会計事務所からすべての電子会計データ・CFDIデータ・申告データのバックアップを入手しておくことが重要です。
【参考文献・一次情報源】
・SAT(Servicio de Administración Tributaria)公式サイト https://www.sat.gob.mx
・DOF(Diario Oficial de la Federación):RMF 2026・Anexo 5(DOF 2025年12月28日) https://www.dof.gob.mx
・CINIF(Consejo Mexicano de Normas de Información Financiera y de Sostenibilidad) https://www.cinif.org.mx
・INEGI(Instituto Nacional de Estadística y Geografía)INPC(消費者物価指数) https://www.inegi.org.mx/temas/inpc/
・Banco de México(バンコ・デ・メヒコ:中央銀行)Tipo de Cambio FIX https://www.banxico.org.mx
・LGSM(Ley General de Sociedades Mercantiles)
・LISR(Ley del Impuesto sobre la Renta)2024年12月最終改正版
・LIVA(Ley del Impuesto al Valor Agregado)
・CFF(Código Fiscal de la Federación)
・LMV(Ley del Mercado de Valores)
・LFT(Ley Federal del Trabajo)
・IAS Plus "IAS 2 Inventories" "IAS 16 Property, Plant and Equipment" "IAS 19 Employee Benefits" "IAS 29 Financial Reporting in Hyperinflationary Economies" "IFRS 9 Financial Instruments"
・IFRS Foundation "IFRS S1 General Requirements" "IFRS S2 Climate-related Disclosures"
・Greenberg Traurig LLP「Mexico Publishes Sustainability Reporting Standards(NIS A-1 and NIS B-1)」(2025年6月)
・Hogan Lovells「New Mexican Personal Data Protection Law(LFPDPPP 2025)」(2025年3月)
・Deloitte México「Resolución Miscelánea Fiscal para 2026(RMF 2026 Analysis)」(2025年12月)
・PwC México「Tax Flash:RMF 2026 Principales Cambios」(2025年12月)
・KPMG México「Reforma al Sistema de Pensiones(IMSS)2020」
・Basham, Ringe y Correa「Principales Modificaciones a la RMF para 2026」(2026年1月)
・企業会計基準委員会 公益財団法人 財務会計基準機構「2007年 世界会計基準設定主体(WSS)会議報告」
