設立
Ⅰ.進出時の特殊な留意事項一覧
1.最低資本金要件がなく、1シンガポールドルから出資可能
シンガポールでは、会社設立の際に最低資本金の法定要件は設けられておらず、設立時に資本金額及び割当株式数を自由に設定することが可能です。そのため、理論上は、資本金1シンガポールドルから会社を設立することができるのです。[1]また、払込資本通貨、及び基軸通貨の設定も自由に行うことができ、シンガポールドル以外にも、日本円、米ドル等を会社の基軸通貨として設定することも可能です。資本金は設立後でも増資が可能です。ただし、就労ビザ(Employment Pass等)の申請時や銀行口座開設時の信用審査を考慮すると、実際の事業運営に十分な資本金を設定することが実務上一般的となっています。
2.外資規制が少なく、多くの場合ライセンスの取得も不要
シンガポールは外国資本の誘致に古くより力を入れており、様々な国籍、業種の企業が少ない制約のもとビジネスを始めやすい環境にあります。一部のメディアやインフラなどの業種を除き外資規制はなく、ほとんどの場合外国資本100%で進出が可能です。また、開業にライセンスが必要な業種も限られており、飲食業、金融、不動産、旅行業などを除いては、会計企業規制庁(ACRA[2])への登記、及び法人口座の開設完了後すぐに事業を開始することができます。近年は、形式的な規制は少ない一方で、実質的な事業内容・資金源・実体性(Substance)に対する審査が強化されており、銀行口座開設や各種許認可の場面で、事業計画やグループ構成の合理性が厳しく確認される点には留意が必要です。
3.会社秘書役が必要
シンガポールでは、法令上、全ての会社が会社秘書役(Company Secretary)を一名任命する必要があります。イギリス法の影響を受けている、シンガポールやマレーシアなどにみられる制度で、秘書役は会社のコンプライアンス(法令順守)の担保や、議事録や決議書の作成、ACRAへの登記、年次申告・年次総会対応の管理などの役割を担います。シンガポールで秘書役の資格を持つ者のみ任命されることができ、殆どの場合会社内から秘書役を任命することは困難なため、弁護士事務所や会計事務所と提携した秘書役法人等より、名義貸しを依頼することになります。通常設立のタイミングで任命することが多いですが、遅くとも設立後6か月以内までには任命する必要があり、設立と同時に選任されるケースが一般的です。
4.会計監査人の選任
法人の登記完了後、原則6か月以内に会計監査人の選任を行うことが必要となります。但し、監査報酬額や具体的な条件を定めた監査契約書(Engagement Letter)の締結は、多くの場合は設立6か月以内に行うことが難しいため、この時点では任命書(Appointment Letter)の作成のみで問題ありません。まずは利用予定の監査法人の選択のみを行い、期末が近くなった時点で監査契約書を締結することが一般的です。
5.法人口座開設事情
会社登記完了後、多くの企業はシンガポール地場銀行の口座開設を行います。プロセスは透明かつ効率性が高く銀行によっては、署名権者(サイナー)のシンガポールへの渡航なしにオンラインでの面接のみで開設を完了することができます。一方で、資金洗浄や不正資金供与などのリスクを最小限にすべく、シンガポールの銀行では審査が厳格に行われます。コンプライアンス(法令順守)の担保、ビジネスプラン等様々な観点から、審査を受け、最終的に口座の開設可否が判断されます。これらの検証材料としての十分な資料が提供できない場合や、銀行が要求する水準に満たない場合には、開設を拒否されることがあります。一度開設を拒否された場合、同様の銀行での再申請は暫く難しくなってしまいます。事前に専門家に相談するなど、審査対策は徹底的に行うべきと言えるでしょう。
【2026年版 追記:口座開設の実務動向】2023年に発生した大規模なマネーロンダリング事件以降、シンガポールの銀行ではKYC(顧客確認)が一段と厳格化しています。事業の実体性(Substance)の証明や資金源の確認が重視され、審査期間が長期化する傾向にあります。設立スケジュールには口座開設に十分な余裕を見込むことが実務上重要です。
Ⅱ.各進出形態まとめ
シンガポールの進出形態は、次のように大きく分けて8形態あります。
・ 現地法人(Company)
・ 支店(Branch)
・ 駐在員事務所(Representative Office)
・ 個人事業(Sole Proprietorship)
・ パートナーシップ(Partnership)
・ 有限パートナーシップ(Limited Partnership)
・ 有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership)
・ 事業信託法(Business Trust)に基づく形態
一般的に、外国企業がシンガポールに事業拠点を設立する場合、進出の目的、事業内容等を考慮して、現地法人、支店、駐在員事務所のいずれかの事業形態を選択することになります。進出形態の選択にあたっては、① 事業の独立性、② 法的責任の範囲、③ 税務上の取り扱い、④ 許認可・銀行実務、⑤ 将来的な拡張性といった観点から総合的に検討する必要があるとも言えます。
1.1 シンガポールにおける現地法人の特徴
外国法人や外国人がシンガポールに現地法人を設立する場合、会社法(Company Act)に基づくシンガポールにおける内国法人として扱われます。メリットとしては、許認可関係において内国法人にのみ許可される業務について、同様の待遇を享受することが可能な点があります。
また、シンガポールにおける設立の手続は、日本に比べ簡易かつ迅速に完了することが可能です。現地法人の特徴として以下の点が挙げられます。
・ 外国資本100%での設立が可能
・ 業種により参入規制あり
・ 繰越欠損金を永久的に繰越可能(株主が実質的に50%以上変動しない場合)
・ 支店および駐在員事務所に比べて自由な活動が可能
・ 迅速な意思決定が可能
・ 会社秘書役(Company Secretary)を置く必要がある
・ 設立時シンガポール居住の取締役(Resident Director)の在籍が最低1名必要
設立手続自体はオンライン化が進んでおり、必要書類が整っていれば数営業日で設立が完了する点も、シンガポールの大きな特徴です。
1.2.現地法人の種類
シンガポールにおける現地法人は、会社法(Companies Act)に基づく会社形態に当たります。
現地法人の中にもいくつか種類がありますが、下記のように大別されます。
【現地法人(会社法に基づく形態)】
[無限責任会社と有限責任会社]
会社は、会社清算時の株主の出資責任の範囲によって、無限責任会社(Unlimited Company)と 有限責任会社(Limited Liability Company)に分けられます
無限責任会社は、債権者に対する株主の法的責任範囲の制限がありません。そのため、会社清算の際においても、株主(現在および過去の株主)は債権者に対して会社が有している資産を超えて、自ら無制限の責任を負担しなければなりません。実務上、無限責任会社の形態をとるのは稀なケースです。
一方、有限責任会社では、債権者に対する株主の法的責任範囲はその出資額に限定されます。
なお、有限責任会社は一定の例外を除いて、Limited(Ltd.)または、Berhad(Bhd.)がその商号の一部に使用されます。また無限責任会社、有限責任会社間の形態の変更は可能です。
[有限責任保証会社と有限責任株式会社]
有限責任会社は、有限責任保証会社と有限責任株式会社に分類されます。
有限責任保証会社とは、保証者が自ら責任を負う範囲を決定する形態であり、保証する金額の範囲は、あらかじめ会社の定款(Constitution)によって決定されます。この形態で設立を行う企業は、公共性の高い慈善事業や布教活動等、非営利活動を行う企業が一般的です。
有限責任株式会社とは、日本の株式会社 とほぼ同様の形態で、法的責任は保有株式の未払額に限定されます。有限責任株式会社は株主に株式を発行し、その払込額を運転資本として調達することができるため、シンガポールでは最も一般的な進出形態です。シンガポールに進出する日系企業も、そのほとんどがこの形態をとっています。
[公開会社と非公開会社]
有限責任株式会社は、定款(Constitution)の内容によって公開会社か非公開会社に分類されます。以下に記載する、株式譲渡制限および株主数の制限の両者が会社の定款に含まれていた場合は非公開会社とされ(会社法18条1項)、そうでない場合は公開会社とされます。
a) 株式譲渡制限
形式は規定されていませんが一般的に下記のいずれかをとります。
・ 取締役会の承認がなければ譲渡を行うことが不可能
・ 株式を譲渡する場合に先買権(Pre-emptive Rights;優先して株式を購入する権利)を他の株主に
与えなければならない
b) 株主数(50名以下の制限)
共同株主保有者は1名として数えられますが、会社またはその子会社の従業員と元従業員であり、当該会社に雇用されている間に株主となったものは除きます。
以前は、公開会社のみ株式および社債を公募して資金調達を行うことが認められていましたが、2004年4月1日会社法改正により、非公開会社においても株式および社債を公募できることとなりました。なお、会社の株式または社債を公募する際には、証券先物法(Securities and Futures Act)の関連規定に従い、目論見書を発行する必要があります。
また、 非公開会社から公開会社、もしくはその逆への変更は可能です。この場合、株主総会による特別決議が必要となります(31条1~2項)。
[免除非公開会社と非免除非公開会社]
非公開会社は、免除非公開会社と非免除非公開会社に分類されます。
免除非公開会社とは、非公開会社のうち、株主に法人がいないことに加え、株主数が20名以下となっている会社を指します(4条1項)。
1.3.現地法人の活動範囲とその制限
現地法人は、定款で事業目的を制限しない限り、活動内容に制約を課されることはありません。そのため、支店や駐在員事務所など他の進出形態と比べて、最も自由に活動するができます。
ただし、金融・保険業・不動産仲介業・旅行業・飲食業・人材紹介業・教育業といったような特定の業種については別途ライセンスの取得が必要です。
2.1.外国法人の支店の特徴
現地法人ではなく、外国法人のシンガポール支店として進出する形態です。支店の場合、シンガポール国内での法人格は持たず、あくまで外国の法人として扱われることとなります。このため、支店で行われるすべての事業活動に関する法的責任は、直接本店が負うことになります。
2.2.現地法人と比べた際のメリット
シンガポール支店は、あくまで外国法人の一部であるため、本店・支店間での資金のやりとりが非常に簡単です。現地法人の場合は、親会社、子会社というあくまで別の法人格間での資金のやり取りになるため、増資・もしくは親子ローンという形をとらなければならず、手続き的にやや煩雑になります。
また、税務上のメリットとしては、支店で利益が出ていない場合、シンガポールで発生した欠損金を本店側で適用することができます。例えば、シンガポール支店が赤字となっており、日本の本店が黒字となっていれば、シンガポールで発生している欠損金を日本に適用することができ、日本での節税につなげることができます。
2.3.現地法人と比べた際のデメリット
シンガポールの優遇税制やその他インセンティブ等は、その多くがシンガポール現地法人のみを対象としており、シンガポールでの法人格を持たない支店はそれらの恩恵を受けることができないことがあります。
また、現地法人は会計年度を自由に設定できることに対し、支店は本店と同じ決算期を使わなければいけません。それに加え、支店のみならず、本店の決算書(日本語であれば、英訳も必要)もACRAに毎年提出する必要がある等の、コンプライアンス業務の負担があります。これらの点から、近年の実務では、長期的な事業展開を前提とする場合、支店よりも現地法人が選択される傾向が強まっています。
3.1.駐在員事務所の特徴
短期的な市場調査等の目的であれば、駐在員事務所が適している場合もあります。基本的には長期間この形態を維持することはできず、最大でも3年とされています。また、活動に対しての制約は厳しく、営業や収益に関わる活動は一切行うことはできません。いずれ事業を行うことが確実なのであれば、初めから現地法人や支店で進出した方がコストも手間もかかりませんが、先ずは市場調査等のみの為に、駐在員を派遣するということであれば、駐在員事務所での進出も検討しうる手段になります。
Ⅲ.各種設立スケジュール及び必要資料
1.1. 現地法人の設立スケジュール
シンガポールに現地法人を設立する場合、下記の手順に従い手続を行います。
■商号
商号とは、企業もしくは個人事業主がその営業上、表示する名称のことをいいます。
そのため、会社は当然に商号を持つ必要があります。会社設立に当たっては、まず、使用を希望する商号を 会計企業規制庁(ACRA:Accounting and Corporate Regulatory Authority)に予約申請し、承認を得たうえで、決定することが必要です(27条10項)。
また、既存の商号と同一の商号を使用しようとしている場合や、同一ではなくとも商号としてふさわしくないと判断された場合および関係省庁により規制されている商号は使用することはできません(27条1項)。
他方で、類似商号についても一定の規制が設けられています。具体的には、ACRAが当該類似商号について一般消費者が混同する恐れがあると判断した場合、または会社設立後12ヶ月以内に他者から類似商号だと異議申立があった場合、ACRAは当該類似商号を使用した会社に対して商号変更を命ずることができます。これは一般消費者の混乱を防ぎ、市場の安定を確保することを目的としています。
このように、商号については事後的に変更を命じられる危険性があるため、商号の予約をする前に当該商号の使用状況について調査する必要があります。さらにいえば、変更を余儀なくされる事態に備えて、あらかじめ複数の商号を用意しておくことも実務的には必要になります。
情報自体はACRAのホームページ、BizFile上で確認することができますが、商号決定の具体的な作業は設立を依頼する会社秘書役により行われます。複数の商号を用意して使用可能か否か、問い合わせることになります。
なお、予約された商号は予約完了から120日間有効であり、この期間内に登記を完了する必要があります。
■定款の作成
過去には定款には基本定款と附属定款の2種類(Memorandum & Articles of Association)がありましたが、現在はこれが1つのConstitutionとして統合されています。内容は以前のものと同様であり、Constitutionは基本定款に記載のあった法律により記載することを定められている事項と、附属定款に記載のあった会社の運営規則を記載した事項により構成されています。
Constitutionへの記載事項には、以下のようなものがあります。
・ 会社名
・ 登記上の所在地
・ 授権資本および発行済み株式総数
・ 発起人(Promoter)の住所、名前、職業、各引き受け株式数
・ 株主の責任が有限である事項
・ 株式・配当・取締役・会計監査人・株主総会にかかる事項 等
近年は、ACRAが提供するモデルConstitutionをベースに作成するケースが大半であり、特別な設計が不要な場合には、カスタマイズを最小限に抑えることが可能となっています。
[株主、取締役]
株主と取締役は、個人か法人か、また国籍を問わず、必ず1名以上選定する必要があります(取締役が個人の場合には18歳以上であることが条件)。
株主と取締役が同一とすれば1名での会社設立も可能です。
ただし、取締役のうち1名はシンガポールの居住者でなければなりません。
実務上、設立時点でシンガポール居住の取締役を社内から選任することが不可能なことが多いため、一時的に会計事務所、法律事務所、コンサルティングファーム等から名義取締役のサービスであるノミニー(名義)取締役サービスを利用して法人登記を行い、実際の取締役を現地に置く日まで継続します。
なお、シンガポールでは、「代表取締役」、「CEO」、「Managing Director」といった役職の設定は、会社法上要求されていませんが、「取締役(Directors)」として登記された複数人の中から、対外的に代表者を明示する目的でのみ、設定することが可能となります。
[資本金]
シンガポールでは他の国にあるような最低資本金制度が存在しません。そのため、基本的にシンガポール法人は資本金1Sドルから設立することが可能です。(実務上は、初めから必要資金を踏まえた資本金額で設定することが多いです。)
また、資本金の払い込みの期限の定めは特にありませんが、会計監査での質問を避けるため、初回の会計年度末までには払いこみをすませておくことが好ましいでしょう。
日本と大きく異なる点として、設立登記前に出資払込金証明等の提出が不要であるため、登記自体はほぼ負担なく完了することができます。
[事業目的]
シンガポールでは基本定款へ事業目的の詳細を記載することは任意になっています。
但し、ACRAに対して主要な事業(Principal Activity)を最低1つ、多くても2つ選択して届け出る必要があります。主要な事業については、Singapore Standard Industrial Classification(SSIC)という事業目的一覧表の中から、会社の業務として最も類似するものを選択することになるため、表記を自由にすることはできませんが、将来的な事業拡張を見据えて、やや広めの区分を選択することも実務上行われています。
1.2.現地法人設立の必要書類
現地法人の設立にあたって、必要となる書類は以下の通りとなります。
【本社の情報にかかわる書類】
①本社登記簿謄本(原本1部とその英語翻訳版、発行から3カ月以内のもの)
【子会社現地法人の情報にかかわる書類】
①公証認証済みの取締役全員の国民登録管理カード(NRIC:National Registration Identity Card)の裏表のコピーあるいはパスポートのコピー
※シンガポール法人取締役の最低1名はシンガポール居住者でなければなりません
※取締役が日本滞在中の場合は、日本公証役場にてパスポートの認証書類に署名する必要があります
※代行業者に委任する場合は、公証委任状、在職証明書、登記簿謄本(発行から3カ月 以内のもの)、印鑑証明書(発行から3カ月 以内のもの)が必要です
②シンガポール法人登記住所の証明書(賃貸契約書や見込みInvoiceのコピー等)
③会社秘書役法人もしくは個人の秘書役エージェント情報(名 前、住所、連絡先)
※個人の場合、NRICの裏表のコピーあるいはパスポートのコピー
④監査人の法人情報
※Small Companyの定義に当てはまる場合は、監査は免除となる(詳しくは会計の章にて解説)
⑤決議書類・取締役就任同意書等
※多くの場合ドラフトは秘書役にて作成します。
※原本は必要なく、PDFでのやりとりで済みます。また電子署名の利用も可能です。
(秘書役法人によっては、ポリシーで原本の発送も要求することもあります。)
※法定の決議書類の他、秘書役法人で保管する目的のカスタマーデューデリジェンスFormの記入や、株主が法人の場合、株主法人の組織図、株主名簿、取締役名簿の提出等も要求されることがあります。
以上の情報の準備が設立に必要となります。登記手続き自体は会社秘書役が中心となり進めてもらえることが多く、会社側での対応事項はそう多くありません。必要情報の決定や書類の準備がスムーズに進めば、かなり保守的に見ても3-4週間以内には登記完了まで進めることができます。
2.支店設立のポイント
流れ自体は現地法人の設立とそう大きくは変わりませんが、いくつか異なる点を中心に抑えておく必要があります。
【Authorised Representativeの選任】
支店の場合、現地在住の取締役を任命する必要はありませんが、その代わりにAR(Authorised Representative)という責任者を1名選任する必要があります。ARは取締役である必要はありませんが、支店の法令順守の責任者としての権限を持っている必要があります。支店の法令違反等があった場合、AR個人が法的な責任を負うこともあります。支店は法人格を持たないため、AR は支店の立場で義務・責任を負う法的主体として扱われる点に留意が必要です。
【支店名称の設定】
支店の名称の選択は、現地法人と異なり自由に設定することはできません。具体的には、本店の英語表記の後ろにSingapore Branch等とつける形でなければ許可されないため、ACRA では、名称が本店名と十分に一致しない支店名については、許可されないか修正を求められることがあります。
【本店関連資料の提出】
支店の場合、本店の登記簿謄本だけでなく、定款(英訳)、本店の取締役全員の公証認証済みのパスポートコピーも必要になります。(支店の場合、「支店の取締役」というものが設定されることはありません。)また、秘書役法人により呼称が若干異なることはありますが、AR選任の同意書も必要となり、こちらは公証役場での認証も必要になります。さらには本店取締役会による支店設置承認決議書の手配も行うこととなります。
3.駐在員事務所設立のポイント
駐在員事務所の設立の場合、金融等一部の業態を除いては、Enterprise Singaporeに申請を行います。駐在員事務所として設立するためには、以下の条件を満たす必要があります。
・企業の年間売上高 USD 250,000を超えている
・駐在員数が5人未満であること
・企業が設立から最低でも3年以上経過していること
年間の申請費用は、SGD200となっており、申請許可が降りなかった場合も返金を受けることはできません。申請を行う前に、政府の法人向けオンライン認証システムであるCorppassのアカウントを作成し、居住者かシンガポール国民(永住権者を含む)をAdminに設定する必要がありますが、通常、駐在員事務所設立前に現地の人材を社内で確保するのは難しいことが多いので、代わりに外部の業者に依頼することが一般的です。
申請書類として、以下が必要となります。
・登記簿謄本 (英訳)
・直近の監査済み決算書(英訳)
・駐在員のリスト・役職・任命証明書
・事業計画書・活動計画書
・駐在員の滞在予定期間・連絡先情報
これ以外にも、場合によってはEnterprise Singapore からの追加の質問や資料の提出を求められることがあります。
Ⅳ.投資規制
シンガポールは開放的な経済体制をとっており、外資企業にとっては非常にビジネスを行いやすい環境が整っています。外資規制を管轄する官庁もなく、一部の規制業種を除いては特段の制限なくビジネスを行うことができます。
1.業種による規制
■金融(銀行)
国外からの資金の流れが多いシンガポールでは、国家安全、資金洗浄防止のため、金融の分野での規制は厳しくなっています。シンガポールで金融業を行う場合、金融庁(MAS)よりライセンスの取得を必ず行う必要があります。
【金融庁(MAS)】
MASは、金融機関の規制を管轄しています。銀行、証券会社、投資ファンド、保険会社などがMASが監督下に置かれており、それらの事業体へのライセンスの発行・管理や業界の安全確保を担います。
【出資規制】
銀行業を行う場合、地場の銀行に対して議決権付き株式の5%以上を取得、保有する必要があります。(Banking Act15A条 (3)) また、最低資本金としてSGD15億を満たしたうえで、MASが規定する自己資本比率を満たしている必要があります。
■メディア
放送や新聞等では、外資による出資制限や外国人の取締役就任が制限されています。また、国内外にかかわらず、一定の出資割合を超えた株式・議決権の取得または保有、処分を行う場合、事前承認が必要となります。
【情報通信メディア開発庁(IMDA 、Info-communications Media Development Authority)】
メディア業界の監督及び規制はIMDAが管轄します。ライセンスの管理の他、コンテンツ制作やセキュリティ対策など、直接的に業界の促進を支援します。
■インフラ
以前は、政府系の1社(SP Service)のみが市場を独占していましたが、段階的に自由化が進み、2019年には完全に自由化されました。
【エネルギー市場監督庁(EMA 、Energy Market Authority)】
インフラ・エネルギー市場の監督を担当する政府機関です。ライセンスの管理に加え、エネルギー供給や市場競争の調整などの役割も担います。電気業・ガス業を営む業者に対してライセンスの取得を義務付ける他、出資者の取得割合に、EMAへの届け出、もしくは事前の承認の取得が義務付けられています。
2.外国人(外国企業)の不動産保有
外国人(外国企業)の不動産保有については、国土庁(SLA)より一定の制限が設けられています。
法務省から許認可を得ない限り、外国人や外国企業が住居用の不動産(コンドミニアムやリゾート等を除く)を保持することはできません。但し、外国人であってもシンガポールの永住権(PR)の保持者であれば、規制の対象外となります。
一方、居住用以外の不動産に関しては、一律で規制の適用対象外となっており、外国人であっても不動産を広く保持することができます。
Ⅴ.投資インセンティブ
1.シンガポール地域統括拠点総論
シンガポールは外国企業を国内に誘致し、経済活動の生産性を引き上げることを産業政策の重点に置いています。その一環として、経済開発庁(EDB:Economic Development Board)管轄の下、地域統括会社の誘致に力を入れており、一定以上の規模の会社に対して国際統括会社(IHQ:International Headquarters)と称する優遇税制を適用しています。
また、国際統括会社制度のほか、貿易会社向けのグローバル・トレーダー・プログラム(GTP:Global Trader Programme)、金融サービス企業向けの金融・財務センター(FTC:Finance and Treasury Center)などの優遇措置も整備されています。
2.国際統括拠点(IHQ)
国際統括拠点(IHQ)は、シンガポールへグローバルもしくは地域の統括拠点の設立しビジネス管理活動を行うことを奨励する制度です。経済開発庁(EDB:Economic Development Board)から承認が降りると、軽減税率の適用が認められます。なお、実際にはこの制度の適用の有無にかかわらず、他国子会社の管理・統括業務等を行う拠点が統括拠点と呼ばれることも一般的です。(広義の地域統括拠点)
国際統括会社として認められるためには、下記の活動(本社活動)を行うことが求められます。
・ グループの事業活動の管理、調整、統制
・ 調達及び購買
・ マーケティングの統括及び計画
・ 人事管理
・ リーガルサービスの提供
・ 財務サービスの提供
・ ブランド管理サービスの提供
■IHQの優遇内容
IHQとして認定されると5年間、所得の増加分(本社活動からの所得)に対して5%、10%もしくは15%の軽減税率が適用されます。
【IHQ 企業例】
~P 株式会社~
2 0 0 5 年、P・アジア・パシフィックが「国際統括会社」として認定されています。同グループはシンガポールに1 1 の子会社があり、長期間シンガポー ルに投資してきたことが認められ、国際統括会社に認定されました。現在は地理的な優位性、優秀なロジスティクス能力、先進的な情報通信インフラや優秀な人材などシンガポールの拠点としての強みを活かして、サプライチェーン、金融、IT、人事、人材開発、エンジニアリングなど、本社機能を持った重要拠点として活動しています。
3.グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)
■GTPの適用要件
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)とは、オフショア貿易活動の拠点として、シンガポールに卸売の統括会社を置く企業に対する優遇制度です。当該制度は、エネルギー商品および製品、農産物および食料品、工業製品等に係る国際貿易取引を行い、シンガポールを周辺地域の貿易センターとして活用する企業に適用されます。
■GTP の優遇内容
シンガポール企業庁(Enterprise Singapore)からGTPを付与された企業は、所定の商品や製品の貿易業務から生じた利益に対して5年間5%、10%または15%の軽減税率が適用されます。
4.金融・財務センター (FTC)
金融・財務センター(FTC/Finance & Treasury Centre)とは、アジア地域内の関連会社に金融・財務サービスを提供する多国籍企業に対して適用される優遇税制です。
■ FTCの活動
FTCとして認められるためには、以下のような事業を行う必要があります。
・ シンガポールの金融機関もしくは、グループ会社の剰余金からの資金によるクレジット・ファシリティ(与信枠)の手配
・ ファイナンス・アドバイザリー
・ 保証・証券・予備信用状の供与や送金に関するサービス
・ デリバティブ取引の手配
・ シンガポール国外の関連会社の資金管理
・ 経済や投資に関する調査や分析
・ 信用情報の管理や制御
・ 管理業務全般
・ 事業計画の策定
■FTCの優遇内容
経済開発庁(EDB:Economic Development Board)から承認が降りた場合、適格なFTC活動による所得に対して、5年間、8%もしくは10%の軽減税制が適用されます。
また、国外の銀行やノンバンク、もしくは承認されたネットワークから融資に対しての利息に関して、源泉所得税の免除を受けることができます。
【2026年版 追記:BEPS2.0との関係】2025年1月(賦課年度YA2026)に導入されたグローバル・ミニマム課税(連結売上高7.5億ユーロ以上のMNEを対象に実効税率15%を確保)により、IHQ・GTP・FTC等の軽減税率(5〜10%等)の適用を受ける大規模多国籍企業では、実効税率が15%を下回る部分に国内補完税(DTT)が課され、優遇の正味メリットが縮小する場合があります。優遇申請時はトップアップ課税の影響を併せて検討する必要があります。
参考文献
・外資に関する規制 | シンガポール - アジア - 国・地域別に見る - ジェトロ (jetro.go.jp)
・NAC国際会計グループ・中央経済社『アジア統括会社の税務入門』
・SCS Global・中央経済社 『シンガポール進出企業の実務ガイド』
・シンガポール入国管理局:https://www.ica.gov.sg/
・江藤祐一郎、菊井隆正、石田仁司「アジア地域統括会社(4)――シンガポールにおける地域統括持株会社設立に伴う税制」国際税務、2006年5月号
・山岡耕志郎、石田仁司「アジア地域統括会社(5)――タイにおける地域統括持株会社設立に伴う税制」国際税務、2006年6月号
・新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『アジア各国の法人税法ハンドブック』大蔵財務協会、2008年
・税理士法人トーマツ編『アジア諸国の税法〈第8 版〉』中央経済社、2013年
・EDB Economic Development Board: Business, Innovation & Talent | Singapore EDB
