国際税務
タックス・ヘイブン対策税制
■タックス・ヘイブン(低税率国)
タックス・ヘイブン(Tax Haven)とは、特定の税金が極めて低い率で課税されるか、もしくは、全く課税されない国または地域のことをいいます。ケイマン諸島、バミューダ、ルクセンブルク、キプロス、ベリーズ、シンガポール、香港などは、タックス・ヘイブン(低税率国)と呼ばれ、これらの国に利益を集約させることにより、税制面でのメリットを大きく享受することが可能です。
一般的に、タックス・ヘイブンは次のように分類されています。
[タックス・パラダイス(Tax Paradise)]
所得にかかる税金が全く存在しないか、それに近い国または地域。バハマ、バミューダ、ケイマン諸島など
[タックス・シェルター(Tax Shelter)]
国内所得については通常の課税を行うが、国外源泉所得については 免税もしくは極めて低い税率で課税する国または地域。パナマ、リベリアなど
[タックス・リゾート(Tax Resort)]
特定の事業活動に限って租税上の恩恵を与えている国または地域。 オランダ、スイス、ルクセンブルクなど
海外に投資する場合、日本からの直接投資ではなく、統括本部(HQ:Headquarters)を通じて海外に設立した会社を孫会社化して管理を行うケースも十分に考えられます。タックス・ヘイブンに統括拠点を設置することにより、最大限税制メリットを活かして各子会社から集約した利益を留保することが可能となります。
しかし、HQについて、日本側において「実態のないペーパーカンパニー」として税務当局より認定された場合には、HQで留保されている利益について、日本側の所得に合算して日本の法人税が課税されることになります。これを、「タックス・ヘイブン対策税制」と呼び、 タックス・ヘイブンに所在する子会社や関連会社を通じた租税回避を防止することを目的としている制度です。低税率国に設立した地域統括会社に集約した所得が、タックス・ヘイブン対策税制の対象となら ないように十分検討する必要があります。
■ タックス・ヘイブンの判断基準
経済協力開発機構(OECD)によれば、当該管轄区域がタックス・ヘイブンに該当するかどうかを判断するための要素を次のように挙げています。
[無税もしくは極めて低税率 ]
タックス・ヘイブンでは、通常または特殊な状況下において極めて低い税率で課税されます。居住国の高い税金から逃れようとする非居住者に対して租税回避に利用する場所を実際に提供、または提供しているとみなされています。
[ 個人の金融情報の保護 ]
タックス・ヘイブンでは通常、個人や企業を他国の税務当局による詳細な調査から守るための法律や行政を敷いています。これにより、低税率の恩恵を受けている納税者の情報が洩れることを防いでいます。
[ 透明性の欠如 ]
立法化、法律、そして行政規定の運営における透明性の欠如が、タックス・ヘイブンを示す1つの要素となっています。
OECDは、「法律は公開され、その適用は一貫しているべきであり、 また、海外の税務当局は納税者の状況を判断するのに必要な情報を得られるべきである」としています。ある国における法の透明性の欠如は、他国の税務当局が法律を効率的に適用するのを難しくしています。機密規定、意図的な低税率、一貫した法適用を持たない慣習が透明性の欠如の例となります。
よって、タックス・へイブン対策税制は、日本の企業が租税を回避する目的で、低税率国における海外ホールディング・カンパニーを設立することを規制するものでもあります。
■タックス・ヘイブン対策税制の概要
日本の法人税法に規定されているタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、内国法人等が特定外国子会社等(低税率国に所在する外国関係会社)を有する場合に、その特定外国子会社等が留保した利益のうち、内国法人等が保有する当該子会社株式の所有割合に対応する部分の金額を、内国法人等の収益とみなして、日本で合算課税しようとする制度です。
つまり、日本では会計上「収益」として認識されていないにもかかわらず、税務上「益金」として認識することにより、海外の留保所得 について日本で合算課税されます。
なお、シンガポール、香港には、日本のタックス・ヘイブン対策税制に該当する税制はありません。
この税制の適用対象となる会社は、日本の居住者または内国法人によって直接または間接にその株式の50%超(議決権、配当請求権のない株式を除外して計算する方法も併用する)を保有される外国子会社等で法人の所得に対する税が存在しない、または税率20%以下の 国・地域に存在する会社が対象となります。
そのうち、特定外国会社等の株式を直接および間接に10%以上保有する内国法人または居住者である場合は、当該外国子会社等の留保所得金額につき、同税制の適用を受けることとなります。つまり、タックス・へイブンに所在しており、同族で株式を10%以上所有する会社で、その資本の50%超が日本資本である会社が該当することになります。
しかし、上記の要件に該当する会社がすべて税制の適用を受ける訳ではなく、合算課税を行うことにより、企業の正常な海外投資事業活 動が阻害されることを回避するため、適用除外基準が設けられています。
■タックス・ヘイブン対策税制の適用除外
特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつその所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められるなど一定の場合には、租税回避が目的ではないとみなされ、同税制は適用されません。
[適用除外基準 ]
・事業基準:主たる事業が下記のものではないこと
–株式・債権の保有(純粋持ち株会社)
–工業所有権、その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式もしくはこれに準ずるもの、または著作権の提供
–船舶・航空機の貸付(リース業)
・実体基準:本店所在地国に、主たる事業に必要な事務所、店舗、工場、その他の固定施設を有すること
・管理支配基準:本店所在地国において、その事業の管理、支配および運営を自ら行っていること(所在地国において株主総会や取締役会が開催され、役員の職務が執行され、会計帳簿の作成・ 保管等が行われていなければならない)
・ 非関連者基準:卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業、航空運送業を営む場合、取引の50%超が関連者以外の者と行われていること
・ 所在地国基準:非関連者基準に該当するもの以外の業種(製造業など)の場合、主として本店または主たる事務所の所在する国または地域において事業を行っていること
[ 統括会社であること]
次の要件を満たす特定外国子会社等が該当します(措令 3 9 条 1 7 項3・5・6号)。
・内国法人等に係る特定外国子会社等で、その内国法人等により発行済株式等の全部を直接または間接に保有されていること
・2つ以上の被統括会社を有し、その被統括会社の事業を統括するための一定の業務を行っていること
・所在地国において統括業務※に係る固定施設および統括業務を行うために必要な従業者(専ら統括業務に従事する者で、その特定外国子会社等の役員を除く)を有すること
※統括業務とは、統括会社が被統括会社の事業活動の総合的な管理または調整を通じて その収益性の向上に資する業務をいう(措令66条6項3号)
[被統括会社であること]
次の要件を満たす外国法人が該当します(措令 3 9 条 1 7 項 1・2・5・6号)。
・発行済株式等の 25%以上を直接保有し、かつ、議決権の25%以上を直接保有する統括会社の関連者(非関連者基準における関連者で、外国法人に限るものとし、内国法人等の同族関係者に係る関連者を除く)であること
・所在地国に事業を行うために必要と認められる従事者を有すること
・統括会社の子会社、孫会社、ひ孫会社に該当する外国法人で、統括会社および統括会社に係る内国法人に「支配」されていること
税制改正により、実体のある海外ホールディング・カンパニーは合算課税の対象外となり、地域統括会社である海外ホールディング・カンパニーを利用したグローバル展開がより容易になりました。また、 グループ全体の節税効果が高くなったと考えられます。
1.0.5租税負担割合の計算
租税負担割合は次のように計算を行います。
シンガポールや香港は法人税率が20%以下であるため、地域統括会社である海外ホールディング・カンパニーを設立して所得を留保したとしても、日本の法人税率(実効税率約35.64%)による合算課税が行われ、低税率のメリットが受けられないことになります。タイの法人 税率は 20%(2013 年度から適用)ですが、地域統括会社の優遇税制 を受けた場合は10%に軽減されるため、同様に合算課税が行われる可能性があります。
ただし、租税負担割合が 20%以下であっても、独立企業としての 実体を備え、その国で事業を行うことにつき十分な合理性があると認められる等、適用除外基準を満たす場合には、適用されません。
■特定外国子会社等の定義
タックス・ヘイブン対策税制の納税義務者は、「特定外国子会社等」 の発行済株式または出資(自己株式等は除く)の総数または総額の10%以上の株式等を、直接および間接に保有する同族株主グループに属する内国法人です(措令 66 条 6 項 1 号)。
[ 特定外国子会社等 ]
特定外国子会社等の定義は、次のとおりです。
・日本の居住者および内国法人並びに特殊関係非居住者によって、発行済株式総数または出資総額の50%を超える株式数または出資を直接および間接に保有されている外国法人(外国関係会社)
・ 外国関係会社のうち、租税負担割合が 20%以下であるもの
タックス・ヘイブン対策税制の対象となる「特定外国子会社等」に該当するか否かの判定基準である租税負担割合の20%は、租税法で定められている表面税率ではなく、各事業年度の法人税の負担割合(実効税率)で判定されます。
よって、同一の外国関係会社であっても、ある事業年度は特定外国子会社等に該当し、別の事業年度では特定外国子会社等に該当しないということもあり得ます。
■資産性所得に対する課税
タックス・ヘイブン対策税制の適用除外要件を満たした場合であっても、特定外国子会社等が一定の資産運用等の所得(以下、資産性所得)を有する場合には、その資産性所得のうち、内国法人が保有する特定外国子会社等の株式の割合に対応する部分は、タックス・ヘイブ ン対策税制の課税対象となります。
資産性所得の課税制度は本来、本国において運用されます。本国において課税されるはずの資産性所得が、税負担の軽減を図るために低 税率国において運用・課税されることにより、本国における課税対象の流出を防止するために設けられています。
資産性所得課税の対象となる所得は次のとおりです。
・ 保有割合 10% 未満の株式の配当等に係る所得またはその譲渡による所得
・債券の利子に係る所得またはその譲渡による所得
・工業所有権および著作権(出版権および著作隣接権を含む)の提供による所得
・船舶または航空機の貸付けによる所得
資産性所得の計算上、その収入の稼得に直接要したと認められる費用は控除することができます。株式の配当・債券の利子については、支払利息のうち、その稼得期間に対応する金額を控除することができます。
なお、特定外国子会社等の資産性所得の合計額がその会社等の税引 前所得の 5%相当額以下である場合、もしくは資産性所得に関する収 入金額の合計額が 1,000万円以下である場合には規定は適用されません。
また特定外国子会社等が行う事業の性質上、基本的かつ重要で欠くことのできない業務から生ずる株式、債券に係る所得は計算から除くことができます。
外国子会社 配当益金不算入制度
■外国子会社配当益金不算入制度の導入
従来は、海外ホールディング・カンパニー等を利用することにより、低い税率で課税された所得を日本に還流させることなく、留保して他国の海外子会社に出資あるいは貸付の形態により再投資が行われていました。
外国子会社配当益金不算入制度の導入により、一定条件を満たす地域統括会社である海外ホールディング・カンパニーから日本の親会社が配当を受取る場合は、配当額の 95% が非課税(日本の所得税は免除)となり、配当額の 5%に対して日本側の法人税(約 3 5.6 4%)が課されます。
これによって、シンガポールや香港など法人税率が低い国からの資金還流において、トータルでの税負担が大きく引き下げられることになります。
外国子会社配当益金不算入制度は、日本へ資金還流する際の障害を緩和し、国際税務戦略構築の自由度を高めるメリットがあります。
ただし、益金不算入の配当に課された源泉所得税以外の利子やロイヤルティの源泉所得税、外国法人の支店に係る現地法人税等に関する直接外国税額控除は、従来どおり継続して適用されます。
子会社所在地国の源泉税率が高い場合や、そもそも法人税率が高い場合には、配当することで税負担が増える可能性もあります。 日本へ還流(配当)する場合、配当の 5%部分に対しての法人税課税と、配当源泉税の負担というコストが生じるので、日本に還流(配当)せず、地域統括会社に所得を留保して再投資する方が有利な結果となる場合も多いと考えられます。
移転価格税制
■概要
地域統括会社から、日本の親会社に利益を還流する代表的な方法として、配当があります。また日本の親会社に対してロイヤルティなど取引対価が支払われることがあります。
企業が海外の関連会社と取引する場合、その取引価格(移転価格)の設定を上げたり下げたりすることにより、一方の国の会社の利益を他方の国の会社へ移転することが可能になります。
利益を低税率国に移転することを目的として、関連会社間の取引価格を恣意的に決定している場合、国外関連会社間の取引価格(移転価格)を、非関連会社との間で成立するであろう「独立企業間価格」で行ったものとして課税所得を計算するよう要求する制度が、移転価格税制です。
■取引価格(移転価格)の調整による利益の移転
取引上の価格設定については、企業の自由意志に委ねられることが自由取引市場下の大原則ですが、企業グループ内での取引価格を調整することにより、結果としてグループ全体の租税負担を軽減することが可能となります。
【取引価格(移転価格)の調整による利益の移転】
上図 1-1 において、高税率国にある販売会社(親会社)が、低税率国にある製造会社(関連会社)から製品(原価 100円)を 150円 で仕入れ、顧客に300円で販売した場合、販売会社(親会社)と製 造会社(関連会社)の利益はそれぞれ150円と50円であり、高税率国で多くの利益が課税されることになります。
図 1-2 のケースでは、高税率国にある販売会社(親会社)が、低税率国にある製造会社(関連会社)から製品(原価 100円)を 250円で仕入れ、顧客に300円で販売した場合、販売会社(親会社)と製造会社(関連会社)の利益はそれぞれ50円と150 円であり、低税率国で多くの利益が課税されることになります。
■移転価格税制の適用対象
ロイヤルティの支払については移転価格税制の適用対象となり、これらは無形資産の取引となるため、独立企業間でのロイヤルティ価格の算定は実務上困難です。税務当局からの更正処分の多くはこの無形資産取引ともいわれ、非常にリスクの高い取引とされています。
日本における移転価格税制の適用対象取引は、法人がその国外関連者との間で行う資産の売買、役務の提供、その他の取引(国外関連取引)であり、資本取引(出資、配当等)を除くすべての取引が対象となります。
国外関連者とは、法人と「特殊の関係」にある外国法人であり、「特殊の関係」の判定は、次の 2つが基本となります。
[ 資本関係 ]
一方の法人が他方の法人の発行済株式等の 50%以上の株式等を直接または間接に保有する関係をいい、また法人が同一の者によってそれぞれの発行済株式等の 50%以上の株式等を直接または間接に保有される関係をいいます。
[ 実質的関係 ]
特定事実が存在することにより、一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部または一部につき実質的に決定できる関係です。 特定事実の例として次の事項が挙げられます(措令 3 9 条 1 項 3 号、12 項と措置法通達 66 の 4(1)-3)。
・ 他方の法人の役員の2分の1以上または代表権を有する役員が、 一方の法人の役員もしくは使用人を兼務しているか、かつて一方の法人の役員もしくは使用人であった場合
・ 他方の法人がその事業活動の相当部分を当該一方の法人との取引に依存して行っていること
・ 他方の法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を一方の法人からの借入れ、または一方の法人の保障を受けて調達していること
・ 一方の法人が他方の法人から提供される事業活動の基本となる 著作権(出版権および著作隣接権その他これに準ずるものを含む)、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権および商標権をいう)、ノウハウ等に依存してその事業活動を行っていること
・ 一方の法人の役員の2分の1以上または代表権を有する役員が他方の法人によって実質的に決定されると認められる事実がある こと
3.1.3独立企業間価格の算定
独立企業間価格の算定の方法は、いくつかの方法から取引内容・形態を考慮した上で決定されます。一般的には下記の算定方法が用いられています。
[ 独立価格比準法 ]
独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price Method)とは、その国外関連取引とほぼ同様の条件の下で、非関連者間(第三者取引)で行われた取引の対価の額を、その独立企業間価格とする方法です。 比較対象となる取引が物品などの販売の場合、取引条件が事業戦略や市況の影響などにより変わるので比較することが困難になる場合があります。そのため、この方法は、取引条件の変動が少ない金利取引や相場のある商品取引に多く利用され、通常の物品取引にはあまり採用されていません。
[ 再販売価格基準法 ]
再販売価格基準法(RP法:Resale Price Method)とは、第三者への再販売価格から、その取引から通常得られるであろう利益の額を控除した金額を独立企業間価格とする方法です。この方法は、国外関連取引が輸入取引である場合に多く使用されています(特に輸入取引の場合、比較対象となるデータが公開されている場合が多いため)。
[ 原価基準法 ]
原価基準法(CP法:Cost Plus Method)とは、対象となる国外関連取引により発生した原価の額に、もう一方の法人がその取引から通常得られるであろう利益の額を加算して算出した金額を、独立企業間価格とする方法です。この場合の通常の利潤は、その製品の原価に通常の利益率(売上総利益率/原価)を乗じて計算されます。
原価に製造に係る部分が含まれている場合は、第三者間の取引の場合の価格をベースとして製造に係る部分の原価を算定することになります。たとえば、原材料を関連者から購入している場合には、その原材料の購入価格は、第三者から購入した場合の価格に置き換えて製造原価を算定することになります。
この方法は、原材料の加工・輸出や役務提供取引などに採用されて います。
[ 利益分割法 ]
利益分割法(PS法:Profit Split Method)とは、国外関連取引によって実現した営業利益の合計額を、その実現に寄与した程度により配分する方法であり、次のような方法があります。
寄与度利益分割法
営業利益の合計額を、支出した費用の額、使用した固定資産の価額、その他営業利益への寄与度に応じて配分する方法
比較利益分割法
国外関連取引と類似の状況下で行われた非関連者間取引における利 益分割割合を用いる方法
[残余利益分割法 ]
残余利益分割法(RPS法:Residual Profit Split Method)とは、取引に係る法人および国外関連者が重要な無形資産を有している場合に用いられます。合算した利益のうち重要な無形資産を考慮しない場合の取引で、通常得られるであろう利益に相当する金額をそれぞれに 配分し、残りの金額をそれぞれが有する重要な無形資産の価値(無形 資産の開発などにかかった費用など)に応じて配分する方法です。
[ 取引単位営業利益法 ]
取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)とは、第三者との間での取引で実現した売上総利益率、営業利益率、マークアップ率などをもとに、比較対象取引のそれらと比較して取引額を算定する方法です。
■独立企業間価格の算定方法の選定
独立企業間価格の算定には、取引様態に応じて企業側が計算方法を選定することになりますが、一般的には次の取引区分に応じた計算方法が用いられます。
[棚卸資産(商品等)の販売 ]
独立価格比準法や再販売価格基準法、原価基準法、その他これらに準ずる方法(利益分割法など)が用いられます。これらの方法を適用する場合、基準とする取引を選定する際には、棚卸資産の種類、取引数量、取引時期、その他諸条件が類似しているかを検討する必要があります。
[金銭の貸借 ]
独立価格比準法、原価基準法、その他これらと同等の方法が主に用いられます。この場合、比較対象となる取引の選定につき、取引に係る通貨が同一であることや、金銭の貸借期間、金利の設定方法、支払方法、信用力、その他利率に影響を与える諸要因を考慮した上での価格算定が求められます。
[役務提供取引 ]
金銭の貸借と同様に、独立価格比準法や原価基準法、その他これらと同等の方法が主に用いられます。比較対象取引の選定に際しては、役務の類似性、役務提供期間や役務提供の諸条件が同様である必要があります。
なお、役務提供取引が資産の使用や譲渡と合わせて行われている場合には、役務提供部分の対価と資産の使用などの対価のそれぞれを適正に算定しなければならないため、注意が必要です。
[無形資産の使用または譲渡(ロイヤルティ取引など)]
無形資産とは、特許や商標などの法的な権利のほか、企業秘密、その他ノウハウなどをいい、国によりその範囲に若干の差があります。 計算方法には独立価格比準法、原価基準法、その他これらと同等の方法が用いられますが、比較対象を選定する場合には、比較対象取引に係る資産が同種であり、使用または譲渡の時期や期間、その他取引上の条件が同様であることを要するため、注意が必要です。無形資産のうち、法的権利以外のものについてはその価値が把握しづらく、これを使用または譲渡するとなるとさらに価格設定が困難になり、実務上の更生事例も多く存在します。これらの存在が取引にかかわってくる場合には明確な価格設定根拠を示す必要があります。
いずれの計算方法を用いる場合においても、比較対象となる取引の選定が重要となってきます。取引に係る取引価格や利益率をベースとする選定の方法は、法人と非関連者間で行われる方法と、非関連者同士で行われる方法の、2通りがあります。
実務上は企業内部で対象となる取引が存在しないケースが多いた め、非関連者間での外部取引を基準とすることが多々あります。
【独立企業間価格の算定方法の選定】
独立企業間価格は、移転価格税制の基本コンセプトとして多くの国で取り入れられ、その算定方法の基本的な考え方に大きな差はありません。しかし、国により解釈の相違があり、ある国では調査により追加課税額を徴収されたとしても、別の国では必ずしも更正の請求により追加課税額が全額返還されるわけではありません。
よって、どの国の移転価格税制上も妥当と認められる統一的な移転価格の算定方法を設定できるかが重要となります。
日本では、納税者と課税当局があらかじめ移転価格の算定方法等を 合意する事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)があり、移転価格課税リスクを減少する方法として有効であると考えられています。
また、租税条約締結国との間での移転価格税制につき二重課税を排除ないし回避される方法として相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)があります。
■シンガポールにおける移転価格税制
移転価格文書の法的要求の開始
従来、シンガポール所得税法(ITA: Income Tax Act)には、移転価格税制に関する規定はありませんでした。
シンガポール所得税法33条および 53条 2A・3と、シンガポールと各国間で締結された租税条約の租税回避防止規定を根拠に、OECDガイドラインに沿って運用することで対処していました。
この移転価格ガイドラインには、独立企業間価格の原則(The Arm’s Length Principle)と文書保存義務(Documentation Requirement)、事前確認制度(APA)、相互協議(MAP)について 規定されています。
2009年に、独立企業間価格への準拠を要求する所得税法 34条Dを追加しています。
そこから2018年、当該財務年度(Year of Assessment 2019)より、所得税法ITAが改正され、同法第34条Fで、特定の企業には移転価格文書の作成が義務付けられるようになりました。
適用対象企業
移転価格文書作成が義務付けられるのは以下いずれかの条件に該当する企業です:
a.当該年度の交易等営業行為による収益(Gross revenue)がSGD10,000,000を超える
b.移転価格文書の作成が当該年度の前年度に求められた
なお、上記に該当しない企業についても、グループ間取引で営業利益を出し、シンガポールで納税する企業については、できる限り移転価格文書を作成することが推奨されています。
例外的に移転価格文書の作成が免除されるのは、下記サービス・カンパニーの場合に加え、シンガポール国内で行われ同一の税率で課税対象となる取引のみを行う場合や、親子ローンまたは純粋な仕入/売上のみの取引で金額がSGD15,000,000を超えない場合などです。
サービス・カンパニーの場合
同じ関係者間取引でも、グループ内の別の会社のために事務的な作業を提供するサービス・カンパニーについては、以下の2つの条件を満たしている場合は、移転価格文書の作成を免除されます:
・グループ内の会社のみを対象として、定期的にサービスを提供する
・サービス提供の費用の5%を利益として加え、提供先の会社から収益を得る
移転価格文書の内容
シンガポール税務当局IRASは移転価格について「Income Tax (Transfer Pricing Documentation) Rules 2018」というガイドラインを設けています:
https://sso.agc.gov.sg/SL/ITA1947-S93-2018?DocDate=20180222
そこで作成が義務付けられているのは、以下の書類です:
・納税者である企業に関し、シンガポールで行われる営業活動に関係するグループ間取引の全体像の説明
・納税者である企業が関係会社間で実行する営業活動、取引の説明(機能的分析、移転価格分析を含む)
移転価格文書の提出および保管
移転価格文書は、提出が求められる該当年度の法人所得税税務申告(Tax Return)までに作成することとされています。
実際には、税務申告の際に移転価格文書の提出が求められることはありません。
その後、税務当局IRASが提出を求めてきた場合、要求通知から30日以内に移転価格文書を提出する必要があります。
また、移転価格文書は提出が求められた該当年度から最低5年間保管される必要があります。
■独立企業間価格の算定
独立企業間価格の算定について内国歳入庁は、以下の3ステップの手順を推奨しています。
ステップ 1:比較可能性分析
ステップ 2:適正な独立企業間価格の算定方法と検証対象企業の選定
ステップ 3:独立企業間価格の決定
独立企業間価格の算定方法については、以下の 2つのグループに分けて、ベストな方法を選定することを推奨しているため、算定方法の選択に優先順位をつけていません。
[基本三法(Traditional Transaction Methods)]
・ 独立価格比準法(CUP法)
・ 再販売価格基準法(RP法)
・ 原価基準法(CP法)
[ 取引単位利益法(Transactional Profit Methods)]
・ 利益分割法(PS法)
・ 取引単位営業利益法(TNMM)
■独立企業間価格の運用
税務当局の調査の際に、必要に応じて適切な独立企業間価格の算定根拠について説明した文書をコストパフォーマンスも考慮した上で作成し、保存しておくことを推奨しています。前述のガイドラインにおいて、文書化の対象となる情報について例示しています。
移転価格税制について特に問題となりやすいグループローンおよび グループ間サービスに関する独立企業間価格の運用について、2009年 2月に補足ガイドラインが発表されています。
[ グループローンの利率に関する取扱 ]
シンガポールの会社が他の関連会社に無利子あるいは市場金利より低い利子で貸付を行うことについては、これまでは貸付会社に発生した支払利息について損金算入を認めないことにより容認されていまし た。
しかし、2011年1月よりシンガポール国外の関連会社への貸付に関しては、すべて独立企業間価格による利子の徴収が要求されるようになりました。ただし、シンガポール国内の関連会社への貸付については、これまでと同様の取扱が引き続き認められています。
[グループ間サービスに関する対価の取扱 ]
ガイドラインにおいては、現行の実務を考慮し、ルーチンサービ スについてはグループ会社にのみ提供されていることを前提として、 5%のマークアップ率を使用することを容認するとしています。ルーチンサービスは、会計および監査・税務業務、総務・法務・給与計算や採用関連業務、債権および債権管理・予算関連業務、コンピュー タ・サポート・データーベース管理等が挙げられています。
グループ間ローンに対する課税
■グループ間ローンの原則
シンガポールに財務上の統括会社を設ける場合、他国にあるグループ内会社とローンを組むことが考えられます。
多くの日系企業は、日本からシンガポールに融資を行う形で資金を投入し、そこからまた他国のグループ会社対して資金調達する形でローンを組みます。
いずれも、ローン契約書を締結して期間を定め、適当な利率で設定して組むことが求められます。
融資先の会社の資金繰りを考え、利息も考慮した形で返済のタイミング、金額などを決めていくことになりますが、利息の支払いに際しては各国で源泉徴収税が発生することが一般的であるため、この点にも留意が必要です。
ただし、こうした税務上の取扱は、専ら各国で独立した法人としての取扱を受けるため、グループ企業であることや、出資比率などによる影響は考慮する必要はありません。
また、グループ間ではあっても、ローンは契約書通りに返金される必要があります。
期限内に返金ができない場合には、新たなローン契約を締結して、返済できなかった金額を新たに借り受けたことにする必要があります。
■シンガポールへの資金調達
日本など親会社からシンガポールに資金調達する場合、シンガポールから日本へ利息の支払いが発生します。
この利息は、日本法人がシンガポール国内で上げた収益と考えられるため、シンガポール法人が日本法人の代わりに納税を行う、源泉徴収税(Withholding Tax)が発生します。
シンガポールのローン利息に対する源泉徴収税率は15%ですが、日星租税条約が適用される場合、10%の軽減税率が適用されます。
租税条約適用のためには、日本の国税庁が押印した該当期間の居住者証明(Certificate of Residence:COR)をシンガポール税務当局IRASに提出する必要があります。
■シンガポールからの資金調達
シンガポールから他国への資金調達をグループ間ローンで行う場合、その利息には当該他国で源泉徴収税が課せられます。
シンガポールは多くの国との間で租税条約を締結しているため、ローン利息に対する源泉徴収税には概ね10%の軽減税率が適用されます。
一方、シンガポール法人は、このローン利息を受け取った場合、シンガポール国内でも法人所得税として課税されることになります。
しかし、外国税額控除(Foreign Tax Credit)として、すでに当該他国で支払われた10%の源泉徴収税額を控除することができるため、このローン利息に対して課されるのは17%の法人所得税のうち7%分だけということになります。
■資金還流を行うまでは非課税
ローン利息に関して、シンガポールの税法上、特別に非課税となるのが、資金還流を行わない場合です。
実際には、源泉徴収税自体も送金を行う場合にのみ課税される場合が多いのですが、同様に、シンガポール法人がローンを行っている融資先の法人から利息分の還流を受けなかった場合、この金額は受取利息として損益計算書に算入することになる一方で、税務上は非課税の対応となります。
最終的にローンの返済が行われ、利息も還流されることになった際、初めて全額が益金として認識され、課税されることになります。
タイミングがずれるだけで、基本的には課税所得となることに注意が必要です。
PE認定課税
■概要
海外において事業を行っても、現地に恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を有していない場合は、得られた所得は現地で課税されることはないという考え方があります。
PEとは、海外において事業を行う一定の場所をいいます。通常は、支店や代理人等が該当します。PEを有する場合、PEに帰属する部分の所得について課税され、現地国で申告納税する必要があります。
PEの範囲は、各国の国内法によって異なりますが、OECDモデル租税条約では、以下のように定義されています。
なお、現地国における活動が、市場調査や情報の提供などの、いわゆる準備的・補助的活動のみを行う場合はPEに該当しません。
[支店 PE ]
事業の管理場所、支店、事務所、作業所、工場等の事業を行う一定の場所。
[建設 PE ]
建設工事現場または建設もしくは据付けの工事で一定期間を超える期間存続するもの(OECDモデル租税条約 5 条 3 項)。建設、据付け、組立て、その他の作業またはその作業の指揮監督の役務の提供(法人税法 141 条1項2号)。
[代理人 PE ]
一定の要件に合致する従属代理人を擁している(法人税法 141 条1項3号、OECDモデル租税条約 5 条 5 項)。ただし、仲立人、問屋等といった独立した地位を有する「独立代理人」を除く。
■PE認定課税の検討
海外子会社の機能やリスクを低税率国のアジア統括会社に集約することにより、連結ベースの実効税率を軽減することが可能になりますが、サプライチェーンによる物流形態の変更や機能の集約については、PE認定課税の検討が必要になります。
PE認定課税を検討しなければいけないケースとして、外国法人の現地子会社が代理人となって現地国の顧客に対して販売を行い、外国法人は現地子会社へ販売手数料の支払をする場合、PE認定課税がされる可能性があります。
現地子会社が、外国法人の代理人PEに該当した場合、課税の対象 となる所得がどのように決定されるかは、現地法令および委託者と現地国の租税条約により判定されます。また、販売手数料については、移転価格税制の検討も必要になります。
居住地国課税と源泉国課税による二重課税
国際取引における税務を考えるに当たって、各国において多くの種類の租税が存在していますが、法人税と所得税がその中心となります。そして所得に対して租税を課す場合、以下の 2つの課税原則があります。
[居住地国課税 ]
自国の個人や法人を中心に考え、個人や法人の居住地国に課税権が ある
[源泉地国課税 ]
所得の発生事由を中心に考え、所得が発生した国に課税権がある。
たとえば、外国の子会社が配当、利子やロイヤルティ対価を親会社に支払う場合、子会社の所在地国で支払う金額に対して源泉地国課税が行われ、親会社でも居住地国課税が行われますので、同一の所得に対して二重課税が発生します。
また、所得の源泉地の判断や居住地の判断が各国によって異なることにより、国際取引を行う場合には課税権が衝突することによる二重課税が発生します。
■国外免税
二重課税を回避するための制度として、外国で支払った外国税額を居住地国での支払税額から控除する外国税額控除や国外源泉所得を課税しない国外免税制度等が設けられています。
日本およびシンガポール、香港における課税原則は次のとおりです。
日本は居住地国課税であるため、全世界所得に対して課税されますが、シンガポールと香港は源泉地国課税であるため、原則として国内の源泉所得のみを課税対象としています。シンガポールや香港のよう な低税率国は源泉地国課税の方針をとっていることが多いです。
各国の課税権の衝突を可能な限り防止することを目的に、二国間の合意により課税権限の調整を行う租税条約(正式には「所得に対する租税に関する二重課税の回避および脱税の防止のための条約」)を多くの国が締結しています。
アジア地域統括会社を活用するに当たり、このような二重課税を回避する国際税務戦略は重要になります。また、より多くの国、特にア ジア地域の国と租税条約を締結しているか検討する必要があります。
2 0 1 2 年 1 1 月 5 日時点でシンガポールはアジア地域のほとんどの 国を含む 73カ国と租税条約を締結しており、二重課税の回避の観点から優位性があります。
過小資本税制
過少資本税制とは、日本の子会社の資本を過少資本の状態にして、日本の所得を海外に移転する租税回避行為を防止する制度です。
シンガポールや香港には、過少資本税制はありませんが、仮に日本の本社機能を海外の低税率国に移転して、日本の会社を子会社として資金調達する場合は、過少資本税制を検討する必要があります。
低税率国に地域統括会社を設立し、ファイナンス・カンパニーとし て、アジア地域の事業会社の資金管理を集中させる場合、統括する各国に基づき、過少資本税制の有無やその内容を検討する必要があります。
たとえば、法人が資金調達をする場合、出資する直接金融か借入金等の間接金融が考えられます。税務の観点から考えると、借入金等の支払利息は損金算入されますが、配当は損金算入が認められないため、間接金融による調達の方が課税所得を減少させる場合があります。
また、日本の親会社が日本に子会社を設立した場合、この親子間法人で利息の取引があっても、あまり議論にはなりません。なぜなら、 子会社の資金調達を親会社からの借入金で行い支払利息を損金算入しても、親会社は受取利息が計上され課税されてしまうからです。
しかし、低税率国の外国法人の親会社と日本の子会社間での利息の取引においては、所得が低税率国に移転することになります。つまり、日本の子会社の資金調達の方法として借入金を多くすることにより、日本の所得を減少させ、受取利息を計上する低税率国の外国法人に対しては、日本での源泉税を除いては、課税できないようにするのです。
このため、関係会社である外国法人に負債利子等を支払う場合、そ の外国法人等に対する負債に係る平均負債残高が、外国法人等の資本の持分の 3 倍を超えるときは、支払う負債利子等の額のうち、その超える部分に対応する金額は、損金の額に算入できないものとしていま す(措法 66 条 5 項 1 号)。
参考文献
・新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『アジア各国の法人税法ハンドブ ック』大蔵財務協会、2008 年
・新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『クロスボーダー M&A の税務戦 略』中央経済社、2009 年
・PWC 編『国際税務ハンドブック〈第 2 版〉』中央経済社、2013 年
