経済環境
Ⅱ 経済環境
経済政策 ― 高成長からマクロ経済の安定へ
GDPと経済成長率
ベトナムは、長期にわたる戦争による国土の荒廃、その後の社会主義経済下での経済の硬直化、最大の援助国であったソ連の崩壊に伴う援助の打ち切りといった厳しい状況の中で、世界的にも最貧国レベルにありました。
しかし、1990年代にドイモイ政策へと舵を切ってからは著しく経済が成長し、90年代の後半には経済成長率9%台の高成長を遂げるようになりました。アジア通貨危機の影響で1999年には4.8%に低下しましたが、その後は持ち直し、2002~2007年まで7%台を超える成長率を維持してきました。この背景としては、21世紀初頭に始まった民営化の推進・外資導入のための規制緩和といった開放政策が、外資によるベトナム投資を後押ししたことが大きいといえます。また、世界金融危機の影響で2009年には5.3%まで落ち込みましたが、再び持ち直し、翌2010年には6.7%に回復しています。
このように、アップダウンを繰り返しながらも、ベトナム経済は約20年間にわたり力強く高成長を続けてきました。10カ年国家戦略(2001~2010年)においては、経済成長を優先し、10年間でGDPを倍増する計画を立て、それを実現しました。1人当たりのGDPも着実に伸び、2008年には1,000USドルを超えました。
2011年になり、高成長路線からマクロ経済の健全化と安定化といった方針への転換が見られます。2011年2月に公布された政府決議11号によって、インフレの抑制と為替の安定などマクロ経済の安定が最優先事項として決まり、経済政策は引き締めに向かいました。その結果、2011年は5.9%、2012年は5.0%の成長率にとどまり、経済成長はやや鈍化しましたが、インフレは抑制され為替は安定し、貿易収支は20年ぶりに黒字に転じました。その後のベトナムは、このマクロ安定重視の路線を維持することにおおむね成功しています。インフレ率は2015年以降おおむね3〜4%台で安定的に推移し(2024年は3.63%、2025年は3.31%)、貿易収支も2016年以降は連続して黒字を確保しています。経済成長率も2018〜2019年に7%台を回復し、新型コロナ禍による一時的な減速を経て、2022年・2025年にはいずれも8%を超える高成長へと回帰しました。政府は2026〜2030年に二桁成長を目標として掲げており、マクロ安定を保ちながら高成長を持続できるかが、引き続き経済運営の焦点となっています。
【図】名目GDPと実質GDP成長率の推移(2011〜2020年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
【図】1人当たりの名目GDPの推移(2011〜2020年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
インフレ率の推移
高成長を続けてきたベトナム経済ですが、懸念材料の1つはインフレです。ベトナムはアジアの中でも突出してインフレ傾向が強く、2004年以降は7%を超える年がほとんどで、2008年には世界的な資源価格の高騰もあり23.1%、2011年には18.6%もの高いインフレ率となっています。常にインフレが過熱しかねない状況の中でも経済成長を優先してきましたが、2011年からインフレ抑制に本格的に取り組むこととなりました。
2011年に政策金利は段階的に15%まで引き上げられ、公共投資も抑制されたため、景気は減速しましたが、インフレ率は前年の18.6%から、2012年には9.1%と1桁台に収まりました。2012年以降は景気の減速を背景に政策金利を再び引き下げられました。その後も2023年3.25%、2024年3.63%、2025年3.31%と、国会が定める管理目標(おおむね4〜4.5%)の範囲内で推移してきました。ただし2026年に入ってからは、中東情勢に伴う原油価格の上昇などを背景にインフレ率が再び上向き、5月には前年同月比5.6%と、2020年初頭以来の高水準に達しています。今後も、ベトナムの経済運営は、景気浮揚とインフレ抑制の微妙なバランスが求められることとなるでしょう。
【図】消費者物価指数(年平均)とインフレ率の推移(2011〜2021年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
財政収支
21世紀に入ってからのベトナムの財政状況を見ると、経済成長に伴い、歳入・歳出がともに7~8倍に拡大しています。財政収支は恒常的に赤字となっていますが、対GDP比で見てみると、2008年までは、おおむね2%台に収まっていました。しかし、2009年には世界金融危機の影響を受け、内需刺激策としての財政出動により、赤字額が増加し、対GDP比で7.1%にまで膨らみました。その後はやや落ち着いたものの、2012年からAFTA(ASEAN自由貿易地域)の協定に基づき、1,600品目の輸入関税が撤廃されたことや、原油価格の低迷により原油収入が減少したことから再び赤字が拡大して5.2%、その後も同様の状況が続きました。2016年には、財政赤字が拡大することを懸念して、国会決議にて、GDP比の債務残高上限を再度設定し、債務抑制政策を一層強化することが決定されました。しかしながら、ベトナム政府は海外からの援助資金をもとに外資誘致のためのインフラ整備を進め、海外からの直接投資を取り込んできた背景から、財政赤字から脱却できない日々が続いています。
【図】財政収支の推移(2011〜2020年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
輸出入の推移と展望
ベトナムの貿易
ドイモイ政策がとられるようになってから、市場経済化と国際経済への積極的な参加に取り組んでいるベトナムは、貿易においても一貫して拡大路線を歩んでいます。アジア通貨危機の影響で1990年代後半にやや停滞した時期がありましたが、21世紀に入ると輸出入ともに大幅に拡大しています。世界金融危機の影響により、2009年には輸出入ともに前年比で減少したものの、2010年には回復しています。また、2012年には20年ぶりに輸出が輸入を超過し、わずかながらも貿易黒字となりました。
ベトナムは2007年1月、世界貿易機関(WTO)に加入し、また、ASEAN(東南アジア諸国連合)のFTA(自由貿易協定)であるAFTA(ASEAN自由貿易地域)の加盟国としてさらに貿易の自由化を進めており、2010年に原加盟国、2015年に新加盟国にAFTA域内の輸入関税が撤廃されています。なお、ASEANの後進国であるベトナムには3年の猶予が設けられており、正式な適用は2018年となっています。
ベトナムの貿易の特徴として、国内の製造業の裾野が育っていないことなどから、工業製品の多くの部品や原材料を輸入に頼り、比較的付加価値の少ない品目を多く輸出するという輸出入バランスがあります。そのため、貿易収支は常に赤字となっていました。しかし、近年は自動車や携帯電話などの国内生産が拡大して輸出増に貢献するようになりました。
また、2016年にTPP(環太平洋パートナーシップ)に署名し、2017年の米国の離脱宣言を経て2019年にTPP11(CPTPP)として発効したことなどを背景に、ベトナムはFTA網の拡大とともに輸出を着実に伸ばしてきました。貿易は実際に拡大を続けており、2024年には輸出が4,059億3,500万ドル、輸入が3,809億9,100万ドルでともに過去最高を更新し、貿易収支は249億4,500万ドルの黒字となりました。さらに2025年には貿易総額が初めて9,300億ドルを突破し、輸出は約4,750億ドル、貿易収支も約200億ドルの黒字を確保しています。こうした貿易の拡大を背景に、ベトナムの国際社会での存在感は一段と高まっています。
【図】貿易収支の推移(2011〜2020年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
国別・品目別に見た輸出
ベトナムの輸出について具体的に見ると、国別ではアメリカがトップで、続いて中国、その次に日本となっています。また、米中貿易摩擦の影響を受け、ベトナムから米国向けの輸出が大幅に伸びました。かつて主力輸出品は、縫製品、履物、コーヒーなどの軽工業、農産加工品が多いことが特徴でした。また労働集約型の軽工業品や一次産品といった付加価値の低い産業による製品が中心の輸出形態でしたが、近年ではタイやマレーシアなどのように、輸出の中心が自動車やエレクトロニクスなどの工業製品に移行しつつあります。今では、電話機・部品、コンピューター電子製品・部品が輸出品目の大きな比率を占めるようになっています。また、機械設備・同部品は、受信機などのインド向け生産財輸出が拡大したことが輸出額の増加に寄与しています。
【主要輸出国別の金額】(単位:100万USドル)
輸出先 | 2018年 | 2019年 |
|---|---|---|
アメリカ | 47,530 | 61,347 |
日本 | 18,834 |
|
中国 | 41,366 |
|
韓国 | 18,241 | 19,720 |
香港 | 7,958 | 7,156 |
オランダ | 7,085 | 6,881 |
ドイツ | 6,873 | 6,674 |
インド | 6,544 | 6,555 |
イギリス | 5,779 | 5,757 |
タイ | 5,487 | 5,272 |
その他 | 78,001 | 83,001 |
合計 | 243,697 | 264,189 |
出所:JETRO
【品目別の輸出金額及び比率】
輸出品目 | 2018年 金額 | 2019年 金額 | 構成比% | 伸び率% |
|---|---|---|---|---|
電話機・部品 | 49,219 | 51,379 | 19.4 | 4.4 |
コンピューター電子製品・部品 | 29,562 | 35,926 | 13.6 | 21.5 |
縫製品 | 30,477 | 32,850 | 12.4 | 7.8 |
履物 | 16,236 | 18,321 | 6.9 | 12.8 |
機械設備・部品 | 16,359 | 18,304 | 6.9 | 11.9 |
木材・木製品 | 8,907 | 10,648 | 4.0 | 19.5 |
水産物 | 8,787 | 8,544 | 3.2 | −2.8 |
輸送機器・部品 | 8,018 | 8,505 | 3.2 | 6.1 |
鉄鋼 | 4,547 | 4,211 | 1.6 | −7.4 |
糸 | 4,025 | 4,177 | 1.6 | 3.8 |
合計(その他含む) | 243,697 | 264,189 | 100.0 | 8.4 |
出所:JETRO
※ 輸出先・品目の表は2018/2019年のデータです。最新(2024年・ベトナム税関)では輸出先1位米国1,195億ドル(前年比23.2%増)、2位中国612億ドル、3位韓国256億ドル。品目別1位コンピュータ電子製品・同部品725億9,500万ドル、2位電話機・同部品538億9,100万ドル、3位機械設備・同部品521億7,200万ドル。最新データへの差し替えを推奨。
→最新の表に変更する必要あり
電話機・部品の輸出の急増は、韓国のサムスン電子のベトナム現地法人であるサムスン電子ベトナム(SEV)によるもので、SEVはベトナムを携帯電話の世界的な製造拠点と位置付けているため、今後もベトナムの主力輸出品としてさらに拡大が期待されています。2020年新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅での勤務やリモートワークが増え、パソコンなどのデジタル関連製品の需要が拡大しており、同品目の輸出額が急増しています。一方、縫製品や履物などは、主要市場である欧米での消費低迷により注文のキャンセルや延期が相次ぎ、輸出金額は減少傾向にあります。
国別・品目別に見た輸入
輸入について国別に見ると、中国がトップ、次いで韓国となっており、中国と韓国が全体の約半数を占めています。その次に日本、そしてそれより以下は台湾、アメリカ、タイ、マレーシア、インドネシア、インド(2018年はシンガポール)、オーストラリアとなっており、APEC参加地域からの輸入が8割を超えています。最も輸入額の多いコンピューター電子部品・同部品は、サムスン電子がベトナムで生産するためのスマートフォンのプロセッサーやメモリー等の輸入が増加したことによる影響が大きいです。ついで機械設備・同部品、電話機・同部品などが続いています。
また、従来輸出の主力製品であった縫製品や履物などの原材料となる織布・生地だけでなく近年輸出の主力製品である、コンピューター電子製品や電話機の部品を多く輸入していることが特徴といえます。2020年新型コロナウイルスの感染拡大により輸出と同様、輸入も低迷しました。品目別にみると、輸出が好調だったコンピューター電子製品・同部品以外、機械設備・同部品、電話機・同部品、織布・生地、鉄鋼の品目において、輸入額が減少傾向にあります。
【主要輸入国・地域別の金額】(単位:100万USドル)
2018年 輸入先 | 金額 | 2019年 輸入先 | 金額 |
|---|---|---|---|
中国 | 65,573 | 中国 | 75,488 |
韓国 | 47,629 | 韓国 | 46,972 |
日本 | 19,108 | 日本 | 19,606 |
台湾 | 13,243 | 台湾 | 15,183 |
アメリカ | 12,748 | アメリカ | 14,366 |
タイ | 12,046 | タイ | 11,662 |
マレーシア | 7,454 | マレーシア | 7,294 |
インドネシア | 4,938 | インドネシア | 5,706 |
シンガポール | 4,577 | インド | 4,538 |
インド | 4,150 | オーストラリア | 4,480 |
その他 | 45,775 | その他 | 48,061 |
合計 | 237,242 | 合計 | 253,356 |
出所:General Statistics Office of Vietnam
【品目別の輸入金額および比率】
品目 | 2018年 金額 | 2019年 金額 | 構成比% | 前年比% |
|---|---|---|---|---|
コンピュータ電子製品・部品 | 43,135 | 51,353 | 20.3 | 19.1 |
機械設備・部品 | 32,878 | 36,749 | 14.5 | 11.8 |
電話機・部品 | 15,920 | 14,616 | 5.8 | −8.2 |
織布・生地 | 12,772 | 13,277 | 5.2 | 4.0 |
鉄鋼 | 9,900 | 9,508 | 3.8 | −4.0 |
プラスチック原料 | 9,083 | 8,992 | 3.6 | −1.0 |
プラスチック製品 | 5,924 | 6,539 | 2.6 | 10.4 |
金属類 | 7,257 | 6,386 | 2.5 | −12.0 |
石油製品 | 7,636 | 5,995 | 2.4 | −22.0 |
繊維・皮原材料 | 5,711 | 5,872 | 2.3 | 2.8 |
合計(その他を含む) | 236,869 | 253,071 | 100.0 | 6.8 |
出所:JETRO
→最新の表に変更する必要あり
※ 輸入の表は2018/2019年のデータです。最新(2024年)では輸入元1位中国1,440億ドル、2位韓国559億ドル、3位台湾227億ドル。最新データへの差し替えを推奨。
産業構造
日本の外務省によれば、ベトナムの産業別GDPの構成比率は、
・ 農林水産業:約11.9%
・ 鉱工業・建設業:約37.6%
・ サービス業:約42.4%
となっています(2024年時点)。
ところで、投資法の改正を通してICT業界の進出を推奨しているように、ベトナム政府は、現在、2030年までの第4次産業革命(インダストリー4.0)に関する国家戦略を公表しており、特にデジタル経済の比率を高めていくことを目標としています。
2000年のICT産業の貢献は、ベトナムのGDPの約0.5%に過ぎず、売上高は3億ドルで、ベトナムの総従業員数の約0.11%にすぎませんでした。ICT産業は、農業、石油・ガス、貿易、建設などの他の産業よりも劣る、小さな経済部門と見なされていました。
しかし、20年後、ベトナムのICT業界は大きな飛躍を遂げています。それを表す指標として、たとえば下記のようなものがあります。
・ 2019年の収益は1,200億USドルで、2000年の400倍であり、19年間の平均成長率は37%/年に相当
・ 従業員数は1,030,000人で、2000年の20倍であり、ベトナムの総従業員数の1.88%を占めている
・ 労働生産性は全国平均の労働生産性の7.6倍となっている
・ ベトナムのGDPに14.3%貢献し、2000年の28倍(GDPの0.5%)。輸出額は892億米ドルで、ベトナムの輸出の33.7%を占める
・ 年間1人の従業員の輸出額は全国平均の18倍
【図】産業別GDP構成比率の推移(1986〜2020年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
2000年において、ベトナムではICT業界は小さな産業でありましたが、20年後の現在、ベトナムで最大の経済部門になり、最高の成長率、最高の労働生産性、最大の輸出額を達成しています。
今後もベトナムは、2030年までに、AIをベトナムの主要テクノロジーとし、この分野でアセアン地域の上位4位以内、あるいは世界上位50位以内入りを目指しています。
産業別動向
[繊維産業]
繊維産業はベトナムにおいて最も重要な産業の1つで、全製造業に占める就労人口や出荷額も多く、輸出においては最大の13.2%(2012年)を占めるのが縫製品となっています。特に、ベトナム南部のホーチミンやメコンデルタ地域の主要産業でもあります。
2001年にアメリカと二国間通商協定を締結して繊維製品のアメリカへの輸出が本格化したことや、AFTA締結による関税の引き下げなど、ベトナムの繊維産業は、貿易の自由化を背景として成長してきました。また、労働集約型産業であるため、特に人件費の低さという強みを活かし国際競争力を高めています。近年の中国での人件費の高騰により、チャイナプラスワンといわれる東南アジアや南アジアへの生産拠点の移行は、ベトナムにとっても大きなチャンスとなりました。ユニクロ(ファーストリテイリング)が中国からベトナムに生産拠点の一部を移転するなど、日本企業もそういった動きを加速させています。しかし、2010年に発効された中国とASEANのFTA(AFTA)によって、中国製品に対する関税を段階的に引き下げ、2015年(ベトナムは2018年)には完全撤廃することが求められていましたが、現時点では全体の94.8%が撤廃となっています。中国製品との競争が再び激化する可能性があり、自由化によるメリットの享受だけでなく、国際競争力が改めて試されるフェーズに入ることになります。また、インフレ率の高いベトナムでの人件費の上昇により、ミャンマーやバングラデシュといった、より人件費の安い国との新たなコスト競争も生まれています。
従来から言われているベトナムの繊維業界の弱みは、原料である綿花や化学製品、染料といった原材料や、自動織機などの機械設備のほとんどを輸入してきたことです。中国では、原料生産、製糸などの川上から、デザインや縫製といった川下まで一貫して国内で調達・生産できますが、ベトナムでは主に川下の一部を担っている傾向があります。また、多くの縫製工場が小規模事業所であることも特徴です。
ベトナム政府は、繊維産業育成プランを立て、自国調達率の向上と、川上から川下までの一貫生産ができる基幹産業としての産業育成を目標に掲げています。特に川中といわれる紡織産業の強化が打ち出されており、台湾をはじめとした外国企業の投資が盛んに行われています。また、ハノイで大規模なファッションショーが開催されるなど、家内工業的な位置付けから、ファッション産業への進化を目指す試みも始まっています。
ベトナムを生産拠点と捉えて輸出産業として成長してきた繊維業界ですが、人口が1億人を超え、1人当たりGDPも5,000USDを突破したベトナムの国内マーケットの需要も新たな魅力となりつつあります。国際競争の激化とともに、変貌を遂げようとするベトナムの繊維業界に、今後より注目していく必要があるでしょう。
[電気・電子産業]
ベトナムの電気・電子産業は、主に輸出産業として成長してきました。2019年の携帯電話輸出額は335億USドルとなり、2009年と比べ約13倍にもなりましたが、その後も成長は続いています。2025年には「コンピュータ電子製品・同部品」の輸出額が前年比48.4%増の1,077億USドルに達し、単一品目として初めて1,000億ドルを超えました。携帯電話の輸出額も2025年に334.5億USドル(輸出台数1億2,839万台)となっており、電子製品とあわせて、電子製品・携帯電話は今やベトナムの主力輸出品となっています。
【図】電子製品の輸出額の推移(2005〜2019年)(グラフは「修正版_完全版」に原寸で収録)
→最新版に変更する必要あり
多くの外国企業と同様、日本からも、キヤノンや富士通などの多くのハイテク企業が輸出用の生産拠点として進出しています。進出した外国企業は、原材料を日本や韓国、中国といった近隣アジア諸国から輸入して、ベトナムで組み立てて輸出するという加工貿易の拠点としています。また、SEVがベトナムを携帯電話の世界的な製造拠点と位置付けて大型投資をして、今後もベトナムの電気・電子産業のけん引力となっていくといわれています。
ASEAN各国では、2010年にASEAN物品貿易協定(ATIGA)が発効され、先進ASEAN諸国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)で関税が撤廃され、後発ASEAN諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム:CLMV諸国)についても、原則2015年に(一部2018年まで猶予)撤廃されました。2018年1月1日に実施された追加的な関税撤廃措置は、CLMV諸国の除外品目以外の関税撤廃猶予品目が対象となり、この措置でASEAN域内の関税撤廃が完了しました。
[二輪車産業]
ベトナムの二輪車市場は依然として世界有数の規模を誇ります。2025年上半期の自動二輪車(ガソリン車)販売台数は前年同期比6.4%増の128万4,291台で、シェア1位のホンダベトナムが86.3%を占める110万8,793台を記録しました。二輪車マーケットは今なお外国企業が中心で、ホンダ、ヤマハ発動機といった日本企業が圧倒的なシェアを維持しています。
一方、近年は電動二輪車(E2W)市場が急拡大しており、ベトナムは中国に次ぐ世界第2位のE2W市場に成長しています。2025年上半期のE2W販売台数は前年比99.2%増となり、中国・インドに次ぐ世界第3位の消費国に躍進、2025年通年の市場規模は2016年比で約6倍にあたる300万台前半に達する見込みです。地場のVinFastが独自の充電インフラを背景にE2W市場シェアの5割超を獲得し、市場をリードしています。また、大気汚染対策として、ハノイ市では2026年7月以降、市内中心部でのガソリンバイク利用を段階的に制限する方針が示されており、ホーチミン市でも配車・配送ドライバーの新規登録時にガソリンバイク使用を禁止する案が検討されています。こうした政策動向を背景に、今後さらなる電動化の加速が見込まれます。
一般的に裾野産業が未発達といわれるベトナムにおいて、二輪車産業での現地調達率は高く、7割以上といわれています。自由貿易化における国際競争力が求められる中で、国内の需要が極めて高いことが、他分野に先んじて裾野産業の発展が実現した理由だといわれています。しかし、日本や台湾、タイ、マレーシア、インドネシアなどのより高い技術を持つ部品メーカーがベトナムのマーケットのさらなる拡大を期待して投資を増加しており、国内部品メーカーとの競争はより激しさを増しています。
また、二輪車の裾野産業がベトナム国内に定着していることは、今後の、自動車産業や電気・電子産業の裾野産業の発展のための礎となる可能性が高く、業種を超えて産業構造に与える影響が大きいと考えられています。
[自動車産業]
ベトナムの自動車産業は、外資系11社、内資系5社などにより生産されています。かつては年間数万台規模の小さな産業でしたが、国内市場の拡大とともに生産・販売が急速に拡大しています。2025年のベトナム新車販売台数は初めて60万台を突破したと推計され、2024年の49万台超から2割以上増加、2022年以来3年ぶりに最多記録を更新しました。地場EVメーカーのVinFastが前年比約2倍となる17万5,099台を納車し、ブランド別販売でも月次12か月連続首位を記録するなど、成長をけん引しています。2026年1〜3月のVAMA発表新車販売台数も前年同期比31.3%増と、好調な滑り出しを見せています。また、部品の自国調達率が低く、ほとんどの部品を輸入に頼っていることが特徴の1つです。
かつて、1人当たりのGDPが3,000USドルを超えるあたりから自動車販売台数が急激に伸びるとされ、政府の成長戦略(2011~2020年)では2020年までに1人当たりGDPを3,000〜3,200USドルとする目標が掲げられていましたが、現在の1人当たりGDPは5,000USドルを超え、目標を大きく上回る水準に達しています。自動車市場の急拡大は、ASEAN域内関税撤廃に加え、この所得水準の伸びが後押ししていると考えられます。
一方で、多くの課題があることも事実です。裾野産業が未発達なベトナムにとっては、AFTA発効による関税撤廃という大きな試練がありました。2018年には完成車の輸入関税(30%)の撤廃が完了しました。ベトナム国内の自動車マーケットの拡大やASEAN域内の自動車輸入関税の段階的な引き下げなどを引き金に、自動車産業に多大な影響を及ぼしているとも言えます。
また、ハノイとホーチミンの二大都市でのインフラ整備の遅れを背景として、交通渋滞や環境悪化が深刻になっています。そのため、新車登録の制限や、特別消費税の自動車への課税強化などが行われており、自動車販売へのマイナスの影響が大きいといわれています。また、規制の変更がたびたび行われていることによる、外国企業の投資控えもあります。ベトナムの自動車産業は、この数年間で、国内マーケットが急速に拡大する可能性がある反面、熾烈な国際競争にさらされることを覚悟しなければなりません。外国企業にとって国内シェアを早期にどれだけ獲得できるかが問われる局面で、インフラ整備、法整備がどの程度進むのかといった、ベトナム政府の姿勢に大きく左右される重要な時期を迎えているといえるでしょう。
【ASEAN各国の自動車生産・販売台数(2018年)】(単位:台)
(生産)順位・国 | 生産台数 | (販売)順位・国 | 販売台数 |
|---|---|---|---|
11位 タイ | 2,013,710 | 16位 インドネシア | 1,030,486 |
17位 インドネシア | 1,286,848 | 17位 タイ | 1,007,552 |
23位 マレーシア | 571,632 | 20位 マレーシア | 604,287 |
33位 ベトナム | 250,000 | 27位 フィリピン | 410,406 |
45位 フィリピン | 8,400 | 33位 ベトナム | 277,019 |
※ 生産・販売台数は2018年の数値です。2024年のベトナムの新車販売は約49万台(2022年に初の50万台超え、2023年は約40万台)。最新年次への更新を推奨。
→最新の表に変更する必要あり
