経済環境
Ⅱ経済環境
中国の経済
経済動向
中国はかつて、BRICS(Brazil、Russia、India、China、South Africa)の一国という位置付けでしたが、今では世界経済の中心の一翼を担うまでに成長しました。
1970年代後半より、経済の改革開放と日米欧などとの国交回復が始まり、90年代にはその豊富で安価な労働力を武器に「世界の工場」と呼ばれるほどの輸出大国となりました。21世紀に入り、2001年にWTOに加盟、その後北京オリンピック(2008年)や上海万博(2010年)等の国際規模のイベントを開催しました。その間、年率10%前後の経済成長を続け、世界経済を牽引する国の1つとなりました。
2018年には中国は高い成長率を求めるよりも「質の高い発展」を志向し、成長率が多少低下したとしても、中国経済が抱える諸問題の緩和・改善に本格的に取り組む姿勢を示しました。今後、中国政府は「安定」をより重視する可能性が高いとされています。
■ GDPと経済成長率の推移
リーマンショックに端を発した国際金融危機による経済成長率の鈍化時期もありましたが、中国はこの10年間、大型経済刺激策を講じながら高い経済成長を維持しております。2010年には、日本を抜いてGDP世界第2位となり、1人当たりのGDPも大幅に伸びています。
しかし、欧米先進諸国や日本と比較すると個人レベルの豊かさには大きな格差があります。近年の中国は、欧州の財政危機などの国際的なマイナス要因に対する取組や貧富や地域の格差等の国内事情への対応などの課題も抱えており、今後は高度成長から安定成長へと変化していくことが予想されます。
【出典:IMF「World Economic Outlook database, April 2025」】
【出典:IMF「World Economic Outlook database, April 2025」】
2023年通年の実質GDP成長率は速報値で前年比5.2%増(中国国家統計局、2024年1月発表)、その後の年次改訂を経て確定値は5.4%増となり、同年の目標値である前年比5.0%前後増は達成されました。
2022年の実質GDP成長率は、新型コロナウイルス感染症の全国的な感染再拡大と、経済の中心地である上海市をはじめとする、各地で行われた厳格な防疫政策に伴う行動制限により、第2四半期に大幅に減速(前年比0.4%増)し、中国政府は経済の下支えのため、下半期からインフラ投資の加速などの措置を行ったものの、行動制限による消費マインドの低迷と需要の縮小、雇用情勢の悪化、サプライチェーンの混乱、不動産市場の低迷、米国・欧州などの景気減速による外需の縮小など、多くの成長の下押し圧力に直面しました。
2024年3月に行われた第14期全国人民代表大会(全人代)では、2024年実質GDP成長率の目標を2023年と同じ5.0%前後と設定し、実際に年間の経済成長率は5.0%となって政府目標を達成しました(中国国家統計局、2025年1月発表)。中国経済を支えるために、緩和的な金融政策と拡張的な財政政策が採用されました。中国人民銀行は2024年から2025年にかけて段階的に預金準備率(RRR)の引き下げを実施し、市場に長期流動性を供給しました。住宅ローン金利の参照レートであるLPR5年物については、2024年2月に0.25%ポイント、同年7月と10月に追加で引き下げられ、さらに2025年5月にも1年物・5年物ともに10ベーシスポイント(0.1%ポイント)引き下げられた結果、2025年5月以降のLPR5年物は3.5%、1年物は3.0%で推移しています(11カ月以上据え置きが続き、2026年5月時点でも同水準)。これらは不動産需要や民間投資を刺激するための措置です。
2025年についても中国国家統計局の速報値で実質GDP成長率が5.0%と発表され、政府が設定した成長目標「5%前後」は達成しました(中国国家統計局、2026年1月発表)。四半期ごとの成長率は、第1四半期5.4%、第2四半期5.2%、第3四半期4.8%、第4四半期4.5%とやや減速傾向が見られましたが、通年としては目標を満たしました。
中国経済の成長は、不動産市場の低迷からの脱却にかかっています。2024年以降、不動産金融について具体的な政策対応が見られています。住宅・都市農村建設部と国家金融監督管理総局は、正常な事業計画や担保条件を満たす不動産プロジェクトを対象とした金融支援リスト(ホワイトリスト)を作成し、優先的な融資供給を促しています(出典①③)。 中国政府によると、ホワイトリスト対象プロジェクトへの金融支援規模は2024年末までに約4兆元に拡大しています(出典①)。 緩和的な金融政策や財政支援が継続される中で、市場安定化が進めば、2025年以降の実質成長に下支え効果を与えると見られています(出典②③)
■ 米中通商環境と中国経済への影響(2025〜2026年)
2025年1月発足の米国第2次トランプ政権との通商対立は、中国経済の最大の外部リスクとなっています。米国は通商法301条およびIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づき対中追加関税を引き上げ、一時期は米国側で最大145%、中国側で最大125%の関税水準に達しました。2025年5月のジュネーブ協議、7月のストックホルム協議、10〜11月の通商合意で双方が関税の一部停止や撤廃に合意したものの、2025年10月時点の対米輸出における中国の関税負担率は約40%と主要国の中で最も高い水準にあります。中国は対抗措置としてレアアース・関連技術の輸出管理強化を実施し、サプライチェーンを武器化する戦略を採っています。米中通商環境の流動性は、中国の輸出動向のみならず、中国国内の製造業投資・サプライチェーン再編・直接投資の方向性にも影響を与えており、駐在員は出版直前に最新動向の確認をお願いします。
■ 第15次5カ年規画(2026〜2030年)と経済政策の方向性
2025年10月の中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)で、第15次5カ年規画(2026〜2030年)の策定方針が示されました。主要目標として、「質の高い発展」「科学技術の自立自強」「新質生産力(new productive forces)」「内需拡大と消費主導」「国家安全保障の防壁強化」が掲げられています。2026年の政府成長目標は「4.5〜5%」と、1991年以来の最低水準に引き下げられました。これは、長引く不動産不況、デフレ圧力、人口減少といった構造的課題に加え、米中通商環境の不確実性を反映したものです。なお、第14次5カ年規画(2021〜2025年)は2025年末に完了し、両年とも実質GDP成長率は5.0%で目標を達成しました。
■ 国家財政の推移
中国の財政は、2007年に単年度の収支で一度は黒字に転じましたが、世界金融危機の影響に対する大規模経済刺激策のために多額の財政支出を行い、再び赤字に転じ、現在まで至っています。
また、赤字を補塡する国債残高のGDP比は、ここ10年で右肩上がりの傾向にあり、2025年時点で約96%に至っています。
【出典:IMF「World Economic Outlook database, April 2025」】
また今後、高齢化で社会保障の財政負担も高まります。2022年以降、中国版「団塊世代」の退職が本格化し、特にベビーブーム世代の男性が60歳の定年退職を迎えます。2025年末時点で60歳以上人口は3億2,338万人(総人口の23.0%)、65歳以上人口は2億2,365万人に達しており、高齢化が一段と進行しています。それに伴い、2022年の全国一般公共予算の歳出のうち、社会保障・雇用関連の経費は14%を占め、これは2021年から0.3ポイント高まる形となります。
このような社会保障費の伸びを抑制するため、中国政府は法定退職年齢の引き上げを長年の重要課題として検討してきました。2024年9月13日、第14期全国人民代表大会常務委員会第11回会議は「国務院による法定退職年齢の段階的延長に関する弁法」を可決し、2025年1月1日から全国一律で施行されました。1950年代に定められて以来、約70年ぶりの見直しとなります。具体的には、2025年1月以降、15年間かけて、男性は60歳から63歳へ、女性管理職は55歳から58歳へ、女性非管理職は50歳から55歳へと段階的に引き上げられます。男性および従来の定年が55歳の女性については4カ月ごとに1カ月ずつ、従来の定年が50歳の女性については2カ月ごとに1カ月ずつ、退職年齢が延長されます。また、年金受給に必要な保険料納付期間も、2030年から2039年にかけて15年から20年へ段階的に引き上げられます。本改革は、駐在員人事や現地従業員の退職金・社会保険コストに直接影響するため、企業の人事制度・就業規則の見直しが必要となります。
■ インフレの抑制
中国は1980年代、1990年代に20%を超えるインフレを経験してきましたが、2000年代に入ってからは概ね落ち着いた状態です。他のBRICS諸国に比べてもインフレ率は低めに推移しています。
【出典:IMF「World Economic Outlook database, April 2025」】
中国経済は、厳格な新型コロナウイルス対策と世界的な需要低迷の影響を受け、政府当局は2022年12月、ゼロコロナ政策を事実上打ち切りました。その結果、今後インフレ加速が続くと予測がされていましたが、2023年の実際の上昇率は微々たるものとなりました。むしろ2024年のCPI上昇率は前年比+0.2%(政府目標の3%前後を大きく下回る水準)、2025年のCPI上昇率はほぼ0%と16年ぶりの低水準にとどまり、生産者物価指数(PPI)も2022年後半以降マイナス圏での推移が続いています。GDPデフレーターは8四半期以上連続でマイナスとなり、中国経済はインフレ抑制よりもむしろデフレからの脱却が当面の課題となっています。
政府当局は、消費を後押しするための政策を検討及び実施し、コロナの感染拡大抑制と予防対策を最適化することで消費需要が徐々に回復するとの見解を出していますが、本件については今後も注視していく必要があります。
貿易
対外経済開放をして以降、中国の貿易額は拡大し続けており、2000年代に入ってさらなる伸長を続け、2014年には輸出入額合計26兆4,335億元にまで拡大しました。2024年の貿易総額は前年比3.8%増の6兆1,623億ドル(うち輸出3兆5,772億ドル、輸入2兆5,850億ドル)、2025年の貿易総額は前年比3.2%増の6兆3,548億ドル(うち輸出3兆7,719億ドル、輸入2兆5,829億ドル)と、ドルベース・人民元ベースともに過去最高を更新しました。中国は世界最大の物品貿易国としての地位を維持しています。
従来から、原材料を輸入して加工し輸出するという加工貿易によって拡大してきた傾向が強く、貿易収支は常に大幅な黒字が続いています。特にWTO加盟後の2002年から2007年までの輸出額は、年率にして20%以上伸び続け、世界最大の輸出国となりました。
しかし、世界金融危機の影響から2009年には輸出入額ともに減少しました。
翌2010年から2014年までは、輸出入額ともに増加し貿易額は回復基調に転じましたが、欧州財政危機や、尖閣諸島・靖国神社参拝問題をめぐる日中関係の悪化などを背景として、以前よりも不安要因の多い状況下での貿易となっています。
貿易黒字は2009年、2010年、2011年と連続して減少しましたが、2012年に3年ぶりに持ち直しました。2015年には5,930億ドルとなり、過去最高を記録しました。
しかし、2016年に5,107億ドル、2017年には882憶ドルと減少し続けています。その後、米中摩擦への駆け込み輸出や中国製造業の競争力向上を背景に、貿易黒字は再び拡大基調に転じました。中国海関総署によると、2024年の貿易黒字は約9,920億ドル、2025年の貿易黒字は1兆1,890億ドル(前年比約20%増)と、いずれも過去最高を更新しています。
2011年の全人代で発表された第12次五カ年計画には、内需拡大と消費・投資・輸出のバランスのとれた成長方針がはっきりと打ち出されており、その後の習近平・李克強体制に引き継がれています。今後、中国の貿易は、量的な拡大だけでなく質的な向上をより求められます。
2022年は新型コロナウイルス感染急拡大と不動産部門低迷による内需圧迫で輸出入とも一時的に低迷しましたが、2023年以降は新興国・一帯一路沿線国を中心に貿易パートナーを多様化することで回復基調に転じました。2024年・2025年には対米輸出の減少を、ASEAN・EU・香港・中南米・アフリカ向け輸出の拡大で補い、輸出全体は伸びを維持しています。2025年には「一帯一路」共同建設国が中国の輸出入に占める割合が初めて50%を超え、特定の先進国市場への依存を緩和する構造変化が進みました。
米国の対中追加関税(2025年第2次トランプ政権下で最大145%水準)にもかかわらず、中国の輸出は新興国・第三国向け振替や駆け込み輸出に支えられ、2024年・2025年ともプラス成長を維持しました。一方、内需の弱さやデフレ圧力から、輸入は伸び悩んでおり、貿易黒字が一段と拡大する歪な構造となっています。米中通商環境の流動性と中国製造業の過剰生産能力を背景に、2026年以降も貿易摩擦が貿易動向の最大の変動要因となる見通しです。
【出典:IMF「World Economic Outlook database, April 2025」】
■ 国別・地域別の輸出
国・地域別輸出額は、2024年の中国の最大の輸出先はASEANで構成比16.4%(前年比12.0%増)となっています。次いでアメリカが構成比14.7%(同4.9%増)で2位、EU27が構成比14.4%(同3.0%増)で3位、香港が構成比8.1%(同6.2%増)で4位、そして日本は構成比4.2%(同3.5%減)で5位です。
地域別輸出率は、香港、日本、韓国を含むアジア全体が輸出総額の約48%と最も多くなっています。従来から中国貿易は、近隣アジア諸国から原材料や部品を輸入し、欧米や日本などの先進国向けに製品を輸出するという加工貿易が多いのが特徴です。近年はその傾向を残しつつも、その輸出先はより多様化しています。2024年・2025年は、米国の対中追加関税の影響により対米輸出が減少(2025年は対前年比約2割減)した一方、これを上回るASEAN・EU・香港・中南米・アフリカ向け輸出の伸びで補い、貿易パートナーの多様化が一段と進んでいます。「一帯一路」共同建設国が中国の輸出入に占める割合は2025年に初めて50%を超えました。
輸出内容は、スマートフォンなどを含む 電話機器及びその他の機器、コンピュータなどの自動処理機械等が多く、ASEANへもその輸出を行っています。
【国・地域別輸出シェア 2024年】
【品目別輸出シェア 2024年】
【出典:中華人民共和国 税関総署, 2024】
■ 国別・地域別の輸入
国・地域別に見ると、2024年の中国の輸入額が最も多いのはASEANで構成比15.3%(前年比2.0%増)、続いてEU27が構成比10.4%(同4.4%減)で2位、台湾が構成比8.4%(同9.3%増)で3位、韓国が構成比7.0%(同12.4%増)で4位、アメリカが構成比6.3%(同0.1%減)で5位、そして日本は構成比6.0%(同2.6%減)で6位です。
地域別の輸入率を見ると、2024年時点で、近隣のアジアからの輸入が過半%と多く、欧州が約2割、北米が約8%です。なお、その他地域として、中南米、オセアニア、アフリカからの輸入もそれぞれ一定の比率を占め、合計で15%超となっています。中国国内産業の資源需要に応えるべく、輸入先の多様化が進んでいます。
輸入内容は、ほとんどが集積回路です。国により比率差はありますが、ASEAN地域に限って比率を見た場合、機械類(集積回路、電話機器等)が最も比率が高くなっています。
【国・地域別輸入シェア 2024年】
【品目別輸入シェア 2024年】
【出典:中華人民共和国 税関総署, 2024】
【AIレビュー:図表追加・更新の提案】
原稿の図表は2024年シェアまで対応していますが、2025年データへの更新を提案します。駐在員によるご検討をお願いいたします。
図表A:中国の実質GDP成長率の推移と政府目標(2019〜2026年)
2019年6.0%、2020年2.2%、2021年8.4%、2022年3.0%、2023年5.4%(確定値)、2024年5.0%、2025年5.0%(速報)、2026年目標4.5〜5%。出典:国家統計局。
図表B:中国のCPI・PPI推移(2021〜2025年)でデフレ深刻化を可視化
CPIは2024年+0.2%、2025年ほぼ0%(16年ぶり低水準)。PPIは2022年後半以降マイナス継続。GDPデフレーターも8期連続マイナス。出典:国家統計局。
図表C:LPR金利の推移と預金準備率(RRR)の変化(2022〜2026年)
2024年中に複数回引き下げ→2025年5月以降LPR1年物3.0%、5年物3.5%で据え置き継続(2026年5月時点で11カ月超)。出典:中国人民銀行。
図表D:法定退職年齢段階的引き上げ早見表(2025〜2039年)
男性60→63歳、女性管理職55→58歳、女性非管理職50→55歳。男性および従来定年55歳の女性は4カ月ごとに1カ月延長、従来定年50歳の女性は2カ月ごとに1カ月延長。年金加入期間は2030〜2039年で15→20年へ。出典:国務院による法定退職年齢の段階的延長に関する弁法。
図表E:中国の貿易黒字推移と主要輸出先構成比の変化(2015〜2025年)
貿易黒字は2015年5,930億ドル→2017年882億ドルまで縮小後、2024年約9,920億ドル・2025年1兆1,890億ドルへ急回復。対米構成比は2024年14.7%→2025年約11%へ縮小し、ASEAN・第三国向け振替が進展。出典:中国海関総署。
参考文献
・ 『中国の投資・M&A・会社法・会計税務・労務』
(久野康成・TCG国際弁護士法人監修 TCG出版)
・ 外務省 中華人民共和国(People's Republic of China)基礎データ
中国基礎データ|外務省 (mofa.go.jp)
・ INTERNATIONAL MONETARY FUND
Report for Selected Countries and Subjects (imf.org)
・ 中華人民共和国 税関総署
中华人民共和国海关总署 (customs.gov.cn)
・ JETRO
世界貿易投資動向シリーズ | 中国 - アジア - 国・地域別に見る - ジェトロ (jetro.go.jp)
・ JETRO「中国、2025年の実質GDP成長率は5.0%、政府目標は達成も投資が前年比減少」ビジネス短信(2026年1月20日)
・ JETRO「2024年の中国の貿易、輸出入ともにプラス成長」ビジネス短信(2025年2月4日)
・ JETRO「中国、2025年の対米貿易は前年比約2割減も、貿易総額は過去最高」ビジネス短信(2026年1月)
・ JETRO「中国、法定退職年齢を15年間で段階的に引き上げ」ビジネス短信(2024年9月)
・ 労働政策研究・研修機構(JILPT)「中国政府、法定退職年齢の引き上げを決定」(2024年9月)
・ 経済産業省「通商白書2025年版」第3節 中国経済(2025年)
・ 内閣府「世界経済の潮流 2025年Ⅰ」第1章第2節 中国の景気動向(2025年)
・ 中国人民銀行「2025年第四季度中国货币政策执行报告」(2026年2月10日)
・ 人民網日本語版「貿易額45.47兆元、過去最高を更新 中国2025年貿易データ発表」(2026年1月14日)
・ アジア経済研究所「第2次トランプ政権における関税負担率:2025年10月まで」ポリシー・ブリーフ250(2026年2月)
