閉鎖・撤退
カンボジア 第4章 撤退
会社の清算および撤退
【会社清算の流れ】
現地法人の収益性の悪化や、本店による支店、駐在員事務所の閉鎖の決定などにより、カンボジアから事業を撤退する場合には、債権者への返済や残余財産の分配を適法に行い、会社を清算する必要があります。
会社法において、株式を発行していない会社は、全取締役の決議によっていつでも清算することができると定められています。また、資産および負債を有しない会社は、株主総会特別決議によって清算することができます。2種類以上の株式を発行している会社は、議決権の有無にかかわらず、すべての種類株主総会における特別決議によって、清算することができます。
各種清算手続完了後、会社は清算証明書に記載された日付において、消滅したものとみなされます。
カンボジアには、現地法人や支店、駐在員事務所の清算手続を詳細に規定する法律はなく、商業省は過去には国際的に実践されている手続の採用を認めています。清算の大まかな流れは、下記のとおりとなります。
【カンボジア現地法人清算スケジュール】
■ 税務当局より税務清算証明書の取得
商業省での商業登録の抹消に先立ち、税務当局から税務清算証明書(CTS:Certificate of Tax Situation)を取得する必要があります。税務当局での税務清算手続の流れは以下のとおりとなります。最後の手続のみ、税務清算証明書を取得し、商業省での商業登録抹消手続完了後に税務当局で手続を行う運びとなります。
【税務当局での税務清算フロー】
税務清算証明書はすべての税務負債を完済した後でなければ発行されないため、税務調査(通常包括的税務調査)が未完了のすべての事業年度について税務当局による税務調査を受け、すべての未清算の税金負債を完済しなければなりません。
税務清算証明書を取得するために、会社は税務当局による税務調査を受けるため、会社は税務当局に登録の抹消と、すべての調査未了年度についての包括的税務調査の実施を要請するレターとともに、税務登録抹消申請書を提出する必要があります。
この申請書とレターの提出時以降、税務申告書を提出しなくても問題とならないように、レターの提出時点で会社に課税対象となるような費用(給与や家賃など、給与税や源泉徴収税の対象となる費用)が発生しないように準備しておく必要があります。その上で、レターに最終の月次および年次税務申告書を税務当局に提出済みである旨も記載しておきます。
税務当局はすべての調査未了年度に対して税務調査を実施する必要があるため、税務清算証明書を入手するまでには、実務上、1年以上の期間がかかることがあります。税務調査では、税務当局の調査官が現在までのすべての会計記録を検証し、その中で解消すべき税務上の争点が発見された場合、その証拠となる特定の収益や経費項目などの取引、金額などの実在性や網羅性を裏付ける根拠となる資料の提出を要求されます。
上記の証拠となる資料が欠けている場合や、会社が税務調査に適切に対応できていない場合などについて、重点的に検証されます。その結果、根拠が不足している部分について、税務当局から巨額のみなしでの一方的な追徴課税を受けることが多々ありますが、その追徴課税は必ずしも正確で、実情を反映しているものとは限りません。ここで最終的な合意に至らない場合は、仲裁機関や司法機関に場所を移し、判断を仰ぐ可能性があります。
しかし、仲裁機関はあるものの、実務上、使用されるケースはほとんどありません。また、カンボジアには税務上の論争を扱う税務裁判所や独立した法廷が存在せず、このような論争に関する最終的な決定権は税務当局自身にあります。そのため、根拠の乏しい一方的な、あらゆる追徴課税項目の全額について支払わなければなりません。
以上の税務調査プロセスを考慮すると、会社は税務当局に税務調査開始の要請を行う前に、以下のような対応を行うことが有効となります。
[ 過去の税務申告についての見直し ]
過去の税務申告について、税金清算の手続において顕在化しうる潜在的な納税漏れの有無を確かめ、その金銭的な影響を検討します。
[ 修正申告および未払税金の支払 ]
過去の税務申告について見直しを行った結果、申告漏れや未払いの税金がある場合、税務調査後の追徴税額通知にて税務当局から指摘される前に、修正申告を行い、税務当局に納税します。税務調査にはかなりの時間がかかるため、先に修正や納税を行うことで延滞利息(月2%、単利)を最小化することができます。
[ 申告、納税は行っているが資料が不足している場合 ]
証憑などの証拠書類に不足があると、追徴課税に直結する可能性があるため、十分な証拠書類を適切に用意し、過去の月次、年次税務申告で申告した内容を完全に裏付けられるようにしておく必要があります。場合によっては、仕入先などにインボイスなどの証憑を再発行してもらうよう調整する必要があります。
また、税務当局からの税務清算証明書は、税務調査の完了後に自動的に発行されるわけではなく、一般的に税務清算証明書の取得には、税務清算証明書の発行を要請するレターの提出など、税務当局とかなりのコミュニケーションが必要となります。清算手続をできるだけ早く進めるためには、上記事項を認識し、定期的かつ密接に税務当局へ働きかけることが重要となります。
■ 商業省での登録の抹消
カンボジア有限責任会社は、株主総会特別決議による承認を受けることで解散することができます。所定の書式に従って、清算申請書(Articles of Dissolution)を取締役に送付し、清算申請書を商業省に提出後、清算証明書(Certificate of Dissolution)が発行されます。清算証明書に記載された日付をもって会社は解散することになります(カンボジア会社法251条、以下同法令に基づきます)。
会社の清算における大まかな流れと、各検討項目は以下のとおりです:①清算および解散の提案ならびに株主総会の招集および決議、②取締役への決議書の送付、③公告による債権者への通知、④負債の支払、⑤資産の分配、⑥清算申請書の発行、⑦商業省による承認、⑧商業省における清算手続の完了。
[ 清算・解散の提案および株主総会の招集 ]
取締役または株主総会における議決権を有する株主は、会社の任意清算および解散を提案することができます。任意清算および解散の提案が行われる株主総会の招集通知には、清算および解散の条件を記載しなければなりません。
財産または債務を有する会社で、以下の場合、すべての種類株主総会における特別決議によって解散することができます。会社が2種類以上の株式を発行している場合、種類株主が議決権を有しているか否かにかかわらず、すべての種類株主総会における特別決議が必要となります(252条)。
株主総会特別決議、または株主が取締役に対してすべての会社財産を分配し、すべての会社債務を弁済する権限を付与する株主総会普通決議が可決された場合、あるいは商業省担当者に対して清算申請書を提出する以前に、会社財産を分配し、会社債務を弁済した場合に該当します。
[ 取締役への清算主旨書の送付 ]
清算および解散についての株主総会の承認決議が行われた後、会社は規定のフォーマットにより清算主旨書(Statement of Intent to Dissolve)を発行し、取締役は商業省に提出します。商業省は清算主旨書を受理した後、清算主旨証明書(Certificate of Intent to Dissolve)を発行します。商業省が清算主旨証明書を発行してから、清算証明書が発行されるまでの間、会社の法人格は存続するものとされており、会社を清算するために必要な業務以外の活動は停止となります(253条)。
[ 債権者への通知 ]
清算主旨証明書が発行された後、取締役は、直ちに債権者に清算または解散の意思を通知しなければなりません。また、清算の意思は2週間以内に、会社の登記上の事務所の所在地において、発刊されている新聞または商業省の規定する他の刊行物などで公告する必要があります(254条)。
[ 負債の支払 ]
清算主旨証明書が発行された後、会社は以下の手続を踏まなければなりません(255条):資産の回収、株主に対する現物による分配が行われる予定のない資産の処分、すべての債務の履行、その他清算または解散に必要なすべての業務の遂行。
[ 資産の分配 ]
清算または解散の旨を通知し、すべての債務の弁済または免除が行われた後、会社は、金銭か物品かにかかわらず、株主の残余財産分配権に基づいて残存する資産を分配します(255条)。
[ 清算申請書の発行 ]
清算の手続が完了した後は、会社は清算申請書を作成し、取締役に送付しなければなりません。取締役は清算申請書を商業省に提出し、清算証明書が発行されることになります(257条)。
[ 商業省による承認 ]
税務当局からの税務清算証明書を取得後、会社は商業省に以下の書類を提出して、商業登記の抹消を行う必要があります(257条)。清算申請書および商業省のForm C、登記抹消に関する株主および本店の決議書の原本(要公証)、商業省で登録されている最新の定款のコピー(支店、駐在員事務所の場合は不要)、清算人指名の認可レターの原本、最新の商業省の認可レター(変更ある場合)、商業省が発行した会社設立証明書(Certificate of Incorporate)の原本、税務清算証明書の原本、商業省が発行した会社設立認可レターのコピー、最新の年次事業申告書(ADCE:Annual Declaration of Commercial Enterprise)のコピー、最新のパテント税証明書のコピー、商業省に申請書類を提出する代理人に対する委任状の原本、商業省に申請書類を提出する代理人のパスポートまたはカンボジアIDカードのコピーです。
会社はすべての必要書類をそろえて商業省に提出し、申請手続に対する手数料48万リエル(約120USドル)を支払います。商業省は申請書類一式の受領日から5営業日以内に申請された清算証明書を発行するとされていますが(257条)、実務上は数週間の日数を要する場合があります。
[ 商業省における清算手続の完了 ]
清算証明書に記載された日付をもって、会社の法人格が消滅したものとみなされます(257条)。なお、清算および解散に関する規定は、裁判所に破産を申し立てた会社には適用されません(258条)。
■ 税務当局への通知
現地法人や支店、駐在員事務所は商業省からの清算証明書を取得後、15日以内に以下の書類とともに通知レターを税務当局に提出する必要があります。商業省からの清算証明書の原本、当初取得した税務登録抹消申請書の原本、届出済みのレター、税務清算証明書の原本。
■ 労働省への通知
現地法人や支店、駐在員事務所は商業省からの清算証明書を取得後、30日以内に以下の書類とともに通知レターを労働省に提出する必要があります。商業省からの清算証明書のコピー、最新のパテント税証明書のコピー、商業省が発行した会社設立証明書のコピー、税務清算証明書のコピー。
労働省からは認可レターなどは発行されません。そのため、労働省の押印または職員の署名がある書類1セットを控えとして返却するように要請するため、通知書類3セットを準備する必要があります。提出済み通知レターの控えが、清算における義務を果たしたことを証明する唯一の書類となります。また、通知レターの提出に当たり手数料はかかりません。
■ その他関連機関への通知
[ 国家社会保険基金(NSSF)への通知 ]
社会保険調査官または国家社会保険基金長官は、会社の清算について必要な情報を、清算後30日以内に国家社会保険基金(NSSF:National Social Security Fund)に提供することを要請することができます。
特別な規制はありませんが、国家社会保険基金に登録している現地法人や支店、駐在員事務所はその閉鎖を決定した場合、閉鎖の理由と国家社会保険基金への拠出を停止する旨を記載した通知書を、国家社会保険基金に提出することが望ましいです。
労働省への通知手続時と同様、国家社会保険基金からは認可レターなどは発行されません。そのため、国家社会保険基金の押印または職員の署名がある書類1セットを控えとして返却するように要請するため、通知書類3セットを準備する必要があります。
[ 工業・手工芸省(MIH)への通知 ]
手芸工場を含む工場を有しており、事業を清算する場合には、工場の所有者は閉鎖日の1カ月前までに工業・手工芸省(MIH:Ministry of Industry and Handicraft)に書面で通知しなければなりません。会社は商業省の清算証明書を取得後、商業省が発行した会社設立認可レターのコピーおよび税務清算証明書のコピーとともに、通知レターを提出する必要があります。
[ 他のライセンス当局への通知 ]
他のライセンス当局に登録している現地法人や支店、駐在員事務所は、商業省からの清算証明書の取得後に、事業閉鎖について当該ライセンス当局への通知または認可申請が必要になります。
※本文中の条文番号(251条・252条・253条・254条・255条・257条・258条)は元原稿の記載で、2005年会社法ベースです。カンボジアでは2022年1月/3月に会社法改正法が公布され、清算規定(第252〜258条)が更新されています。また2023年4月20日の会計監査規制当局省令19号で清算人の資格要件が追加されています。本文の条文番号・手続きが現行法と整合しているかは駐在員チェックリストでの確認対象としています。
